因子継承!?あの娘とあの娘をレッツ・ラ・まぜまぜ! 作:アマノジャック
トレセン学園の夏休みが終わり…ついにジャングルポケットは退院出来ることとなった。しかし足はギプスで固定されており、松葉杖無しで歩くことは出来ない状態である。
「お世話になりました…」
「まだ完治ではありませんので…十分に気をつけてください。」
「ジャンポケ…慌てる必要はない、ゆっくりと歩け。無理だと思ったらすぐに言え。」
「ありがとうエアグルーヴ。」
エアグルーヴに見守られる中、ジャングルポケットはニヘイの待つ車までゆっくりと歩いて…
「わ、わわわ…!」ガクッ
「ジャンポケ!?」
「危な……は?」
カランッ
「え?消えた?は?はぁ!?ど、どどど…どういうことだーー!?」
ジャングルポケットのバランスが崩れ、エアグルーヴは支えに駆け寄ると…ジャングルポケットがその場から松葉杖だけを残して姿を消したのだ。困惑するエアグルーヴとニヘイの慌てる声だけがその場に広がった。
ーーー
「痛…!?」ガタッ
ジャングルポケットがバランスを崩し、頭から床へと突っ込んだ。慌てて起き上がると見覚えのない場所にいたのだ。
「え?ええ?どういうこと?」
辺りをキョロキョロと見渡すジャングルポケット…すぐそばに白髪にサングラスの男性とフジキセキ、さらに鹿毛に白い流星の入ったウマ娘の姿が目に入る。突然の出来事に互いが固まっていた。まずは口を開いたのはジャングルポケットだった。
「えーと、ここは?フジ先輩の実家ですか?もしかして私の退院祝いのマジック的な?」
「その前に君は誰かな?」
「え?」
フジキセキの疑問にジャングルポケットは再び固まった。白髪の男性…タナベトレーナーが質問を投げる。
「とりあえず、お前さんの名前とか色々と教えくれ。」
「はい…私はジャングルポケットと言います。」
「はぁ!?」
鹿毛のウマ娘が大声と共にジャングルポケットを睨むも、タナベトレーナーをそれを無言で制する。
「…所属チームと寮は?」
「ニヘイトレーナーのチーム『アントニオ』に所属していまして...寮はフジ先輩が寮長をしている栗東寮です。」
「…ニヘイ?知らないトレーナーだな。フジ、この娘について何か知っているか?」
「…すみません。私は見た覚えが無いです…君、同室は誰かな?」
「ナリタトップロードさんですけど?」
「「ー!?」」
鹿毛のウマ娘とフジキセキの目が大きく見開く。次の質問を投げてきたのは鹿毛のウマ娘だった。
「なぁ、お前…タキオンって分かるか?」
「アグネスタキオンのこと?…あぁ、分かるよ。というかこの前、アメリカのホイットニーHを勝利して学園内が盛り上がったばかりだろ?」
「ホ…ホイット…?何だって?」
「8月に行われるアメリカのG1レースだ…ダートのな。」
「はぁ!?アメリカ?ダート?てか今はまだ5月だぞ!?」
「えーと、君はフジ先輩の妹?」
「違えよ!俺は『ジャングルポケット』だよ!」
「…え?」
「お前…何なんだよ!?俺と同名…ってだけじゃねぇだろ?あぁ?」
「ちょっとポッケ!?荒事は…」
「やめんかポッケ!」
「…チッ。」
ジャングルポケット(以下ジャンポケ)の胸ぐらを掴む鹿毛のウマ娘(以下ポッケ)。フジキセキとタナベトレーナーに止められ手を離す。
「よし!お前、俺なんだろ?なら走りで白黒…」
「ごめん。それは出来そうにないかな…」
「あぁ!?」
「今さっきまでケガで入院していて…病院から出てる途中で転んだと思ったらここにいて…」
「…」
「ふむ…にわかには信じられない話だな。だが、そのギプスを見れば歩むことすら危ういとこは分かる。」
「警察に保護してもらいますか?」
「それがいいだろう。」
「あの…松葉杖とかありませんか?」
「上の部屋に私が使ってたのあるから取ってくるよ。」
「…あ、ナベさん!警察はちょっと待ってくれ!面白ぇことを思い付いたわ!」
「やめろポッケ。絶対にろくなことじゃないだろ。」
「よし!いくぞ俺!」
「ちょっと!?」
「ポッケ!どこに行く気だ?」
「学園!」
ジャンポケはポッケに背負われて、そのままタナベトレーナーの家を後にした。
………
連れてこられたのはアグネスタキオンの研究室…ポッケはジャンポケを中に入れて適当な椅子に座らせると無言で早々に去っていった。混乱するもののジャンポケはアグネスタキオンへと事情を話す。
「それで私の元に連れてこられたと…ふむ。確かに見た目も性格も違うが…同名の存在。実に興味深いサンプルだが…流石の私も持て余すよ。元の場所に戻りたまえ。」
「私は捨て犬か何かか…ってタキオン。ケガしたの!?BCクラシックがあるのに…」
「BCクラシック?私は無期限の出走停止中だが?」
「…え?あのさ…去年の有マって誰が勝った?」
「テイエムオペラオー君だよ。」
「…」
ジャンポケは頭を抑え、そして…口を開く。
「オペラオーの翌年…5月…タキオン。私、未来から来てるみたい。」
「ほほぉ。」
「今の君は皐月賞の後で…ケガをして引退している?」
「正確には異なるが…概ねその通りだとも。」
アグネスタキオンが口角を上げる。そして、パソコンへと目を向けてカタカタと高速でタイピングを行った。
「しかし、BCクラシックとは…未来の私はアメリカのダートコースを走っているのかい!足へとかかる負担が芝とは異なるとはいえ…実に興味深い。完全に引退をしなかった結果がまさか、こうなるとは……む?しかし、現在のデータからは私の適正は芝だけになっている…まさか足の復活と同時にダートへの適性が生まれると。否、アメリカでのダートコースのデータはまだ無かったねぇ。あぁ、どんな過程で…」
1人の世界に入るアグネスタキオン。ブツブツと喋り、タイピングの手が止まると、その顔をジャンポケへと向けた。
「タキオン?」
「ジャングルポケットくぅん~!」
「気持ち悪いな…ジャンポケで頼むよ。」
「じゃあ、ジャンポケ君。君が私に皐月賞で負けた時…どう感じたのかな?」
「…君への完敗によって絶望と希望が生まれたよ。」
「ふむ?絶望は理解出来るが…希望とは?」
「憧れのフジ先輩みたいだ。また一緒にレースで走りたい…そう思ったよ。」
「それでそれで?」
「これ以上は未来のことを語ることになる。だから黙っておくよ。」
「知ったところでその未来になるとは限らないのだが…まぁ、いいだろう。折角だ、何か特技を見せてくれるかい?」
「特技?特技なぁ…折り紙ある?」
「折り紙かい?あー、そこの要らない書類を切って使いたまえ。」
「無いんだね…まぁ、いいけど。」
ジャンポケは紙を折っていき…その場で作品を1つ作り上げた。白いハイヒールだ。
「ほい、過去にも作って君にあげた作品だよ。本物のハイヒールもあげたけど。」
「それはレース用かい?つま先への負担が…」
「ライブ用。後、たまにトレーナーを踏んで楽しんでるらしいけど。」
「…そちらの私に何があったんだい?」
続いてジャンポケはもう1つ作品を作り始める。興味深そうにアグネスタキオンは近くでその様子を観察する。
「これは…私のぱかプチかな?いやー、器用だね…」
「あ!忘れてた!」
ファサッ
「ジャジャ…ジャンポケ君!?何で今、私のスカートを捲ったんだい!?」
「黒か…ん?ぱかプチ作るのに必要だからだけど…ほい!完成!」
完成したぱかプチをアグネスタキオンへと渡した。
「お、おぉ!制服だけじゃなくこの白衣まで再現するとは…こちらのジャングルポケット君には出来ない物だろう。サンプルとしてもらっておこう。」
「タキオン、やっと表情が柔らかくなったね。」
「ん?何の話だい?」
アグネスタキオンのハイライトの無い瞳がジャンポケへと向けられる。
「君は今の今までずっと何かピリピリしてただろ?まぁ、皐月賞でのケガが原因だとは思うけど…身体に悪いぞ?」
「…」
「さらに今の君は1人で何でも出来るからこれからもずっとそうしよう、とか思っているでしょ?」
「さて、どうだろうね…」
「これから君の周りには色んな人が集まることになる。もちろん、こっちの
「…」
ジャンポケから溢れる極彩色のオーラによりアグネスタキオンに確信が走る。あぁ、やっぱりはこのウマ娘は間違いなくジャングルポケットだ。
「君は…」
「おーい、ジャンポケ!お前のこれからが決まったぞ!」
大声と共にポッケが部屋へと入ってくる。
「「…」」
ポッケとアグネスタキオンは無言で互いを見つめあい…
「んじゃ…いくぞ!」
「え?何も言わなくていいの?」
「いいんだよ、これで…よっと!」
「うおっ!またね、タキオン!」
「…」
ポッケがジャンポケを背負い、その場を後にした。そしてジャンポケは、しばらくはフジキセキの部屋で過ごすことが決まった。
ーーー
就寝時間となり…部屋へと戻るフジキセキ。そこには無言で折り紙を折っているジャンポケの姿があった。
「ねぇ、ジャンポケ…そっちの私ってどんな感じかな?」
「今のあなたと変わらないですよ。面倒みがよくてイタズラ好きでみんなの憧れで…私の大好きな先輩です。」
「…そっか。タナベトレーナーは…」
「すみません。私の知る限りでは見たことありません。」
「うんうん、別世界だからしょうがないね。それじゃあ、電気を消すよ~」
「はい、お休みなさい。あ、フジ先輩…1つ教えていただいてもいいですか?」
「何かな?」
「ポッケの次走って…日本ダービーですか?」
「うん、そうだよ。出走ウマ娘全員と…タナベトレーナーや私にとってもに夢の舞台だ。」
「やっぱりそうですか…では、今度こそお休みなさい。」
ーーー
「うおぉぉぉ!!」
ポッケによる日本ダービーに向けた最後の追いきりをジャンポケは見学していた。そこにタナベトレーナーは声をかける。
「うちのジャンポケの走りを…お前さんはどう思う?」
「負けん気があり、力強い走り…ですけど、どこかポッケ自身の心に不安があるように感じます。」
「不安、か…」
ジャンポケは失言を感じ、慌ててフォローを入れる。
「ポッケ本人は今のところは気づいてはないので次走のダービー影響はないかと…」
「それはお前さんの経験かい?」
「…ノーコメントで。私はトレーナーと多くのチームメイトに支えられていたので…ここでの
「チームメイトなぁ…差し支えがなければ名前だけでも教えてくれんか?」
ジャンポケの口角が上がる。
「聞いてビックリしますよ…女帝『エアグルーヴ』を筆頭にマイルの女王『ノースフライト』、ダービーウマ娘の『ウイニングチケット』、『アドマイヤベガ』…他には今より未来で活躍したウマ娘たちがまだまだ…」
タナベトレーナーのサングラスがずれ、やや愛らしい瞳が表れる。タナベトレーナーはサングラスを直しつつ…ため息をついた。
「…お前さん、とんでもないチームに所属していたんだな。」
「1名募集の枠を突破しましたからね!これでもケガする前は年度代表ウマ娘でしたので……あ!」
「…」
「しゃっ!ゴールだ!ナベさん、タイムは?」
再び失言をし、慌てて口を塞ぐジャンポケ…タナベトレーナーは固まるもののそれはポッケの大声により有耶無耶になる。
「ベストタイムを更新したぞ!いい調子だポッケ!」
「これ…当時の私より速いんですけど…」
「…ほぉ。」
………
夜になり…ポッケに呼ばれ、ジャンポケは近くのベンチまで移動した。すると、突然に頬に温かい感触が走る…缶に入ったココアをポッケが当ててきたのだ。
「俺の奢りだ…夜はまだ冷えるからな。」
「ありがとう。」
貰ったココアをその場で飲むジャンポケ。空になった缶をポッケが受け取り、ゴミ箱へと捨てた。
「…」
「…」
互いに無言の時間が流れる…そんな中、ついにポッケが口を開いた。
「…なぁジャンポケ、1つ聞いていいか?」
「答えれるなら答えるよ。」
「アイツは…アグネスタキオンはレースに戻ってくるのか?」
「…え?」
その質問はジャンポケにとっては予想外だった。てっきり、日本ダービーのことや、ジャンポケ自身についてのことを聞かれると予想していたため、ジャンポケの思考が少し止まる。そして、答えていいのか少し悩み…
「戻ってくるよ…さらに力を付けてね。」
「ー!そっか…そっかそっか!そっか!そっか!そっか…!」
ポッケの顔から暗い笑みと冷や汗が溢れる。予想通りの反応にジャンポケは…追い打ちをかけた。
「
「贈り物…?」
「1つは日本ダービーが終わった後に…フジ先輩から貰ってね。物理的な物だから。」
「あ、あぁ…楽しみにしてるよ。で、もう1つの方は?」
「呪いだよ。
アグネスタキオンに勝つことは無いよ。
ーーー
5月27日の日曜日。数日間、警察や学園から事情聴取を受け続けていたジャンポケだったが…その日は東京レース場へと来ていていた。ついにポッケが日本ダービーへと出走するのだ。
「どうしたのジャンポケ?」
「『スチームペリー』か…『クロフネ』じゃないんだ。いや、成績的にはクロフネだけど…『ルベル』も『リベリ』…うーん、何と言いますか…全体的に出走ウマ娘の名前が私の知っている名前じゃないんですよ。
「やはり、君の知らない未来が来るかもしれないってことだね。」
「ほれ、2人とも…始まるぞ!」
ファンファーレが響き…観客が盛り上がる。しかし、アグネスタキオンのいた皐月賞と比べるとやや小さいように感じるのは気のせいだろうか?
「ポッケさーん!」
「やっちゃってくださいよ!」
「ファイトー!」
「スチームペリー頑張れー!」
「ダンツフレーム、ここでG1を勝ち獲れよー!」
「フジ先輩、私、今…すごくドキドキしています。」
「一生に1度の夢の舞台だからね…私とトレーナーの夢でもあるんだ。ドキドキしないわけがない。」
「あぁ、この時間がずっと続けばいいのにな…」
たくさんの歓声の中で出走ウマ娘たちによりゲートインが始まった。全員が収まり、ゲートが開かれると同時に…ジャンポケの視界が暗転した。
ーーー
「ーー!」
カランッ
「大丈夫かジャンポケ!」
「エ…エアグルーヴ?」
突然にジャンポケの視界が固いコンクリートの目の前で止まり、エアグルーヴにより身体が支えられていた。そして視界は地面から自身に駆け寄る担当トレーナーのニヘイへと変わる。
「え?私は…?」
「バランスを崩して転びそうになったんだよ。ベロちゃん、ナイスフォローだ。」
「ヒヤヒヤさせるな…無事で良かった。」
「あ、ありがとうエアグルーヴ。」
「このまま車まで私が運んでもいいが…どうするジャンポケ?自分の足で歩くか?」
「…うん、そうするよ。ところで…ポッケのレースはどうなった?」
「ポッケ?誰のことだ?」
「あ、あれ?誰だろう?」
「ジャンポケ、もう少し入院するか?」
「…大丈夫です。早く帰りましょう。あ!戻ったらタキオンに渡すものがあって…トレーナー、少しだけ行ってきてもいいですか?」
「俺はアヤドとチケゾーの指導に戻る。お前たちで決めてくれ。」
そう言うとジャンポケは何とか車へと乗り込んだ。
ーーー
「うおおおおぉぉぉ!!」
そこに広がるのは
「(フジさん、ナベさん、ルー、シマ、メイ…あれ?誰か足りねぇ…誰なんだ?)」
ポッケがその違和感に気づくことは無い…しかし、何かが頭に引っ掛かる。
『アグネスタキオンに勝つことはないよ。』
「(ー!)」
苛立つ筈が恐怖に包まれる感触に襲われるポッケ…
「うおおおおおぉーーー!!」
彼女はその場でただ叫んだ。これから来る自身への試練から今だけは…今だけは目を反らすように。
ーーー
「ふむ…これは何だろうか?紙製の私の姿をした…ぱかプチ?いや、不必要なのは分かっているが…何故か捨てる気が起きないねぇ。まぁ…このままでいいだろう。」
「フジさんの部屋にあったコレって…俺だよな?気づけば部屋にあったって…ファンの誰かからの贈り物か?とりあえず…しばらくは俺が持っておくか。」