アリッサとリリー、ペチュニアは共にいつもの公園に向かった。
遊び場所がこの公園しかなく、あまり家から離れた遠くは危険だからと両親に遠くの外出を禁じられているアリッサ達の遊び場はもっぱらここの公園だった。
アリッサは公園を訪れ、昨日会ったセブルスが居ないかと見回したがその場所には自分達以外に、誰も居ない。
──今日は来ないのかしら、また魔法界の話を聞きたかったのに。
残念そうな顔で公園を見回していたアリッサは、にこにこと楽しげに笑うリリーに手を引かれ、すぐに意識を切り替えリリーに向かって笑った。
「どうしたのリリー?」
「アリッサ!ブランコしましょう?どっちが高くまで漕げるか、勝負よ!」
「良いわよ!チュニーはどっちが高いか見ててね?」
「き、気をつけてね2人とも!」
ブランコの上に立ったアリッサとリリーは、ペチュニアの「よーい…どん!」の号令に合わせて足を曲げ勢いよくブランコを漕いだ。頬を風がうち、どんどんブランコは大きく揺れる。はじめはどちらが高いか近くで見ていたペチュニアだったが、あまりにも2人が空高く漕ぐのを見て顔を引き攣らせその場から慌てて離れた。
「リリー!アリッサ!あ、危ないわ!そんな事しちゃダメ!」
「きゃー!あははは!」
しかしリリーはペチュニアの忠告など聞く気もなくブランコが弧を描く1番高い所で手を離して飛び出すと、大きな笑い声を上げながら上空に向かって空を飛んだ。
アリッサはリリーを見て驚いたように目を見開いたが、挑戦的に笑うと同じように1番高いところで手を離す。
アリッサもリリーと同じように長く空を飛び、ふわりと軽やかに着地した。
妖精のように着地したアリッサとリリーの元にペチュニアは血相を変え駆け寄ると怒ったように2人を睨んだ。
アリッサは少し肩をすくめたが、リリーはくすくすと楽しそうに笑う。
「ママが、そんな事しちゃいけないって言ったわ!あなた達がそんな事、しちゃダメだって…!」
「大丈夫よ!」
「まぁまぁチュニー、誰もいないし少しくらい…いいじゃない」
「──もうっ!」
アリッサは、ペチュニアが怒りながらも、自分にはない力を持つ妹たちの事を羨ましく──妬ましく思っている事に気付いていた。花を自在に咲かせるアリッサとリリーを見て、隠れて同じように花の蕾を持ち強く祈るように握りしめてはそっと開き、中の花に変化がないことに酷く落ち込んでいるのを、何度かアリッサは見ていた。
「チュニー、ほら見て。こんなのも出来るのよ?」
ペチュニアはアリッサからリリーへと視線を移し、むっつりとした表情でリリーの元に駆け寄る。
リリーは悪戯っ子のように無邪気に笑い、自分の力を自慢するように手に持っていた花の花弁を生き物のように開いたり閉じたりして動かす。その花弁の奇妙な動きに、ペチュニアは一瞬強い憧れを抱いた目でリリーを見たが、すぐに表情を険しくさせて一歩後ろに下がった。
「やめて!」
「何も悪さはしてないわ」
リリーはそう言ったが、ペチュニアの激しい声に気分を害したようにつんと口を尖らせ花を足元に捨てる。──喜ぶと思ったのに。
「ほらほらリリー、チュニー。次は何をして遊ぶ?」
やや刺々しい雰囲気になってしまった2人の間に入ったアリッサは、落ち着かせるために朗らかに言うと落ちていた花を手に取り小さな花を大きく咲かせるとペチュニアの耳に優しくかけた。
「…ねえ、どうやってやるの?」
目の前で繰り広げられる不思議な力に、ペチュニアははっきりと羨ましさが滲む声でアリッサに聞く。
「わかりきったことじゃないか?」
「きゃあぁっ!?」
「な、だ、誰!?」
「あ、セブルス」
アリッサ達の会話を隠れて聞いていたセブルスは、我慢できずに飛び出してしまった。
突然現れたセブルスに、ペチュニアは悲鳴を上げブランコの方に駆け戻る。リリーはさっとアリッサの背後に隠れ恐る恐るセブルスを見つめ。アリッサはまた茂みに隠れていたのかと頭に葉をつけたセブルスを見て思う。
「…アリッサ…この子と、知り合いなの?」
「昨日ここで会ったの」
昨日、暫く待ってもリリーとペチュニアは公園にやってこなかった。昼前に家に戻ったアリッサは、朝食よりも昼食と言えるだろう食事を眠そうに目をとろんとしながら食べているリリーと、「ほら、アリッサ帰ってきちゃったわ!」とぷりぷりと怒るペチュニアを見て呆れたようなため息をついていた。
「…わかりきったことって、何なの?」
「僕はきみが…きみ達が何だか知っている」
「どういうこと?」
「きみ達は…魔女だ」
セブルスは囁くようにリリーに伝えたが、リリーは顔を顰め侮辱されたかのような顔をすると一歩後ろに下がりセブルスを強く睨んだ。
「そんな事、他人に言うのは失礼よ!」
「あ、リリー!ま、待って──」
「違うんだ!」
リリーはアリッサの手を強く引きペチュニアの元へ鼻息も荒く歩いていく。アリッサは困り顔でセブルスとリリーを見たが、リリーの手を振り払う事も出来ずされるがままについて行った。
セブルスは昨日、アリッサがこの言葉でも受け入れてくれたから、きっとリリーもそうだと思ったのだが、リリーはアリッサとは違いそれを侮辱だと受け取り目に見えて怒ってしまった。
慌ててセブルスはブランコへ向かう2人を追いかけた。
リリーはペチュニアと共にブランコの支柱にぴたりと体を寄せ、疑い深い目でセブルスを睨む。
アリッサはどうしたものかとブランコの支柱と、セブルスとの中間地点で対立するような双方を見た。
「きみは、本当にそうなんだ。君は魔女なんだ。でも、何も悪い事じゃない。僕の母さんも魔女で、僕は魔法使いだ」
「魔法使い!」
セブルスの必死な言葉を聞いたペチュニアは、冷たく嘲るように笑う。はじめはいきなり現れた少年に驚いたが、よく見れば滑稽な出立ちをしているし、自分より幼いだろう。そんな子どもに何を怯えることがあったのだろうか。──それに、私は2人の姉だ、こんな不審な男の子と妹達を近付けてはいけない。
「私は、あなたが誰だか知ってるわ。スネイプって子でしょう!この人、川の近くのスピナーズ・エンドに住んでるのよ!」
スピナーズ・エンドとは、貧しく衰退し、そして何より治安が悪い場所で避けられない用事がない限り誰も近付かない場所だった。
アリッサも親から川を超えてその地域に行ってはならないと強く言い聞かされているため、その地域がどのような場所か理解していた。
セブルスはまさかペチュニアが自分の住んでいる貧しい場所を知っていると思わず、羞恥でかっと顔を赤らめる。
「どうして私たちをスパイしたの?」
「スパイなんかしてない。…どっちにしろ、お前なんてスパイしない。お前はマグルだ」
スピナーズ・エンドの事を言われたセブルスは、意地悪くその言葉を続ける。ペチュニアはマグルという言葉の意味がわからなかったが、セブルスの声の調子から間違いなく良くない言葉だと感じ、フン!と鼻息を荒くするとリリーの手を取り駆け出した。
「リリー、行きましょう!帰るのよ!…アリッサも!」
リリーはすぐにペチュニアの言葉に従いセブルスに「べーっ」と舌を出し、ツンとそっぽを向いて遊び場の門からさっさと2人揃って出て行ってしまった。
セブルスはすぐに角を曲がり見えなくなった2人をじっと悔しそうに見つめた後、失望が混じるため息を重々しく吐き出した。
「セブルス、リリーは魔女って言葉にあまり良い印象がないのよ」
この前、特に怖くて残酷な魔女が出てくる物語を読んだところだから、とアリッサは続け俯くセブルスを慰めたが、まぁいきなり現れた見知らぬ少年に突如そんな事を言われても普通はなかなか受け入れられないだろう。
自分も、セブルスの力を見なければすぐに帰っていたかもしれない。
「…アリッサは違う、そうだろう?」
セブルスの切望するような言葉に、アリッサはすぐに頷いた。
「まぁね。…でも…チュニー──ペチュニアに知られて良かったの?マグル?…だっけ?私たちのことを言っちゃダメだったんじゃない?だから私昨日リリーに何の説明も出来なかったのに…ずっとペチュニアかパパとママが一緒に居たから…」
「……多分、大丈夫だ。…だって、アリッサの姉は力のことを知っていただろう?」
「あ、そうなの?なーんだ、じゃあ昨日言えば良かったわ!」
そうすればリリーとペチュニアはセブルスが当然現れ魔法や魔女の事を伝えても受け入れる事が出来ただろう。
アリッサはタイミングが悪かったわね。と肩をすくめた。
「まぁ良いわ。後で2人には説明しておくわね。…ねえセブルス、もっと魔法界について教えて?」
「…帰らなくて、いいのか?」
勿論、アリッサがここに残ってくれるのはとても嬉しい事だが、セブルスは少し心配そうに公園の門を見た。
「別にいいわ。まだ帰る時間じゃないもの」
セブルスは時刻のことを言っているのではなく、怒って帰ってしまったアリッサの姉妹達のことを考えていたのだが、アリッサは特に気にする様子もなく自分より背が高いセブルスを見上げた。
「木陰に行く?それとも…川の近く?」
「…今日は暑いから、木陰にしよう」
「ええ、そうね。…セブルス、暑いなら上着を脱げばいいのに」
「……いいんだ」
セブルスは木陰に向かいながらしっかりと上着がずれないように前を手で強く掴んだ。
この下には薄汚れ灰色になってしまった
大きな木の幹にセブルスは座りちらりとアリッサを見上げる。
アリッサはその隣にちょこんと座ったが、ふとセブルスの頭に葉がついているままな事に気がつき手を伸ばした。
「あ、セブルス──」
「何──何だ?」
セブルスは頭に近づいてくるアリッサの手に反射的に身体を硬らせ、目に怯えの色を滲ませる。その、身をすくめる行動は、暴力を何度も受けた事のある子供がする反応であり、アリッサは目を見開き少し戸惑いつつ頭についていた葉っぱをさっと取った。
「葉っぱがついてたわ」
「そ…うか。…ありがとう」
アリッサの指に摘まれた葉を見て、セブルスは硬らせていた肩の力を抜くと、気まずそうに足をもぞもぞと動かした。
──咄嗟に身構えてしまった。アリッサは、この反応の意味に気付いただろうか。
膝を抱え俯いてしまったセブルスを見たアリッサは、何も無かったかのように──何も気が付かなかったふりをしてその葉を投げ捨てる。
「…それで?セブルス、ホグワーツの事をもっと知りたいの」
「…ああ、…ホグワーツは──」
セブルスはどうやらアリッサは何も気が付かなかったようだ、と胸を撫で下ろし気持ちを切り替えると、自分達が必ず行くだろう魔法学校の事を目を輝かせ得意げに話した。