リリーの双子の姉   作:八重歯

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03 私達は

 

 

 

セブルスから魔法界や、魔法学校の事を聞いていたアリッサは昼前に家へ戻った。

 

 

「ただいまー」

「アリッサ!遅いじゃない!あの子と話してたの?」

「スピナーズ・エンドの子なんかと話しちゃだめよ!」

 

 

扉を開けた途端激しい口調でリリーとペチュニアから責められたアリッサは少し驚いたように目を見開き、困ったように笑う。

 

 

「うーん。まぁちょっと話しただけよ。それに、スピナーズ・エンドだからって、あの子は私のものを盗もうとはしてないわ」

「でも!」

 

 

それでも危険だとペチュニアは何度もアリッサに伝えたが、アリッサは「はいはい」と軽く流しながらその言葉をかわし自室へ向かった。

 

 

「私は、あなたの事を思って忠告してるのよ!」

「わかってるわよチュニー。けど、私は自分の友達は自分で決めるわ」

「…っ!もう、知らないわ!」

 

 

静かに、だが反論を許さない強い口調で言われたペチュニアはショックを受けたような顔をしたが、直ぐに怒りから顔を歪めると足音を響かせ隣の自室へ向かい、荒々しく扉を閉めた。

 

バタンッ!と扉が悲鳴を上げた音にアリッサは肩をすくめ隣にいるリリーをチラリと見る。リリーもペチュニアのように、まだセブルスに対して不信感を持ってはいたが、彼の言った魔女や魔法使いの言葉が気になり、2人が残って何を話したのか──とても知りたかった。

 

 

「リリー、話があるの」

 

 

アリッサは扉を開け、その先を顎で指す。リリーはこくこくと頷き、さっと部屋の中に入った。

扉を後ろ手に閉め、鍵をかけたアリッサはベッドに座ると隣りをぽんぽんと叩き、リリーに座るよう促した。

 

 

「なぁに?話って…」

 

 

リリーは素直に隣に座り、期待のこもった声でアリッサを見つめる。

アリッサは声を顰め、「あのね…」と話しだした。

 

 

「私とリリーには、不思議な力があるでしょう?これは、魔法で…私たちは魔女なんですって」

「…本当に?あの、スネイプって子の話を信じるの?」

「うーん。妄想だったら、…セブルスは小説家になれるわね」

 

 

くすくすと楽しげに笑うアリッサをリリーは意外そうな目でじっと見た。

確かにこの力は特別だと思う。だが、魔法だなんて、ファンタジックでお伽噺のようなものだ。それをすぐに信じ微塵も疑う素振りを見せないアリッサに、そこまであの男の子の話は具体的であり、信頼出来る何かがあったのだろうかと首を傾げる。

 

 

「あの子も、同じ力を持ってたの?…本当に?」

「ええ、リリーも今度見せてもらったらいいわ」

「うん!…でも…チュニーがあの子に会う事を…何て言うかしら…」

「うーん…チュニーは、嫌がるかもしれないわね。この力がないから…」

「どうして、姉妹なのに…チュニーは…その、魔女じゃ無いのかしら?」

「さあ?…でも、ママもパパも魔法は使えないでしょう?…私たちが特別なのよ」

「特別…」

 

 

リリーはアリッサの言葉を鸚鵡返しに呟き、目をキラキラと輝かせ嬉しそうに笑った。

 

 

「だから、あんまりセブルスに悪い印象は持たないであげて?…きっと、セブルスは同じ力を持つ私達と仲良くなりたいのよ」

「…ええ、そうね…」

「セブルスの魔法界?の話、すっごく面白いわよ?私、明日も会おうって約束してるの!リリーも行くわよね?」

 

 

セブルスが話して聞かせてくれた魔法界の話は、それこそお伽噺のようなものだった。空を箒で飛び、杖を振り魔法をかける。ぐらぐら煮える大鍋で不思議な薬を作り、数多の魔法生物が居る──アリッサは思い出しながらくすくすと笑い、早くその世界を見てみたいと顔中に期待を広げた。

 

しかし、リリーは残念そうに肩を下げると、首を振る。

 

 

「明日は、ダメだわ…。私、アリッサが帰ってくる前に…チュニーに裁縫を教えてもらう約束しちゃったもの…」

「あらそう、残念ね…私がセブルスに色々聞いてくるわ、後でまた教えるわね?」

 

 

リリーは、アリッサの「じゃあ私も明日はやめておくわ」という言葉を期待したが、アリッサはあっさりと1人で行く決断をすると頷いた。リリーはまだ1人で過ごす事より、双子の片割れのアリッサか、姉のペチュニアと過ごしたいと思っていたが、アリッサは1人で過ごす事をなんとも思っていない。

 

残念そうに、何か言いたげな目で眉を下げ見つめるリリーの髪をアリッサはそっと撫で慰めながら、アリッサは早く明日になれば良い、と心の中で思っていた。

 

 

 

翌日、アリッサは待ちきれないのか、いつもより早くに目覚め──勿論、リリーはまだ寝ていた──朝食をとりいつものように公園へ向かった。

まだ8時を過ぎたばかりである。いつもより1時間は早くついてしまったアリッサは誰も居ない公園を見渡し、セブルスがよく隠れていた灌木の茂みを探したが──まだ来ていないようだった。

 

ふう、と残念そうにため息をつき、青々とした芝生の上にごろんと寝転び、木々の騒めきや小鳥達の楽しげな声に耳を澄ませた。

 

温かい朝の日差しと、心地よく柔らかい風に目を閉じる。

魔法界のことや幼い子供たちの学舎であるホグワーツ魔法学校の事に想いを馳せ、ワクワクするような未来に胸を高鳴らせていると、がさり、と物音がし芝生を踏み締める足音が近づいて来た。

 

ぱちり、と目を開ければ勢いよく身体を起こす。

 

 

「──っ!?」

「いっ……たぁ…ご、ごめんなさい」

 

 

ごちん、と鈍い音がした瞬間アリッサは額を押さえ眉を寄せる。セブルスはよろめき鼻あたりを押さえ、よろりと一歩後ろに下がった。

 

セブルスはアリッサが寝ているのだろうかと覗き込み、丁度その瞬間アリッサが勢い良く身を起こしたものだから──アリッサの額と、セブルスの鼻が丁度ぶつかだてしまったのだった。

 

痛む鼻頭を撫でながらセブルスは非難めいた目でアリッサを睨み隣に座る。アリッサは申し訳なさそうに眉を下げながら赤くなった額をさすりくすくすと笑った。

 

 

「ふふっ!鼻、真っ赤になっちゃったわね」

「…誰のせいだと」

「ごめんなさい!鼻血は…出てないわね?大丈夫?…怒ったかしら?」

 

 

アリッサはセブルスの鼻をよく見ようと顔を近づけ覗き込み上目遣いに見上げる。セブルスは鼻ではなく頬がかっと赤くなるのを感じ、誤魔化すように首を振った。

 

 

「ああ、…大丈夫、怒ってない」

「そう?良かったわ!……ねぇ、セブルス。……その目の怪我は、私とぶつかったんじゃ無いわよね?」

「これは──」

 

 

セブルスは青く腫れた瞼を手で隠した。

昨夜もまた、深酒をした父が母と盛大な怪我をし、机が倒れ皿が割れた。苛々と母が杖を出し壊れた食器を元に戻した途端、父は叫び机の上にあったコップを思い切り払い落とした。

気配を消すように部屋の隅にいたセブルスのちょうど目にそのコップが当たってしまったのだ。──父は一瞬後悔したような顔をしたが、すぐに怒りを滲ませ母と、そして同じ力を持つセブルスを責めた。「こうなったのも、その不気味な力のせいだ!俺は普通の家族が欲しかった!」何度聞いたかわからないその父の叫びに、母は激しく怒り狂い、セブルスはそっと居間を抜け出し外へ飛び出した。

初夏だとは言え、夜は寒い。

セブルスは痛む目を抑えたまま、工場から流れる煙のせいで濁っている夜空を恨めしい目で睨む。

 

──僕だって、普通の魔族の家に生まれたかった。

 

 

そう、何度思っただろうか。

 

 

 

「セブルス?」

 

 

黙り込んでしまったセブルスに、アリッサは心配そうに眉を寄せる。

セブルスは長い前髪で目を隠すように撫でる。心配するアリッサの表情になんとも言えぬ──満たされたような気持ちになったが、それを知られまいとなんでも無い事のように呟いた。

 

 

「これは、何でもない。…親はいつも仲が悪くて喧嘩ばかりなんだ。たまたまコップが飛んできて当たっただけだ」

「…そうなの…それは…辛いわね」

「別に。いつものことだ」

 

 

セブルスは足元の草を毟りぽいと投げた。

それは風もないのにふわふわと浮かび、丸い円をつくる。アリッサは不思議な動きを見せる草に気を取られセブルスの顔から目を離した。──あまり、怪我には触れない方が良かったのかしら。

 

 

「──昨日、どこまで話したっけ?」

「えーと。…魔法学校の話よ」

 

 

話題を変えたセブルスに、アリッサは思い出すように少し上を見つめ答えた。

セブルスは得意げになってホグワーツ魔法学校の話を語って聞かせる。その目には間違いなく自分は11歳になればホグワーツへ行くんだ、と言う確かな期待と確信に満ちていてキラキラと輝いていた。

 

 

アリッサは少し、家族と離れて寮生活をする事は悲しく──ペチュニアは、とても嫌がるだろうとふと思った。

 

 

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