数日後、アリッサはリリーと2人で公園に向かった。珍しく朝早く起きることが出来たリリーに、両親もペチュニアもとても驚いていたが──簡単だ、この日のためにアリッサが昨夜早くに寝るように何度も口煩くリリーに伝え、本当に眠っているのか何度もチェックしたのだった。
「ねぇ、アリッサ。本当に…私達、騙されて無いのよね?」
「不安ならセブルスに力を見せて貰えばいいわ」
「うん……怖い子じゃない?…スピナーズ・エンドの子でしょ?」
「大丈夫よ、何も盗られたこと無いもの」
アリッサは不安がるリリーの手を繋ぎ公園の門を潜る。
ぱっと見ただけでは誰もいないように見えるが、セブルスは実は低木の茂みや、古木の窪みなど、日が射さず暗いところにひっそりと隠れていることが多いのだ。
太陽の明かりに目が慣れていると、闇に紛れるセブルスを見つける事は難しい。ずっと見られていたらしいが、アリッサ達が気が付かなかかったのはきっとそのせいだろう。
陽の射す元で遊ぶアリッサ達と、闇に紛れるセブルス。生まれも育ちも対照的な彼らは、普通なら間違いなく視線を合わせ語り合うことはなかっただろう。
だが、アリッサとセブルス、そしてリリーを結びつける魔法という絶対的な力により、彼らは運命を交差させたのだ。
「おはようセブルス!またそんなところにいたの?」
「おはよう、アリッサ。……それに、君は…」
今日もセブルスは低木の茂みの中にいた。声をかけられると僅かに微笑み、その瞳は満足そうに細められる。
セブルスがいた場所は、木々の影が涼しい緑の木陰をつくるおかげで太陽の強い陽射しはさすことはなかった。
「リリー・エバンズよ…この前の話…アリッサに聞いたわ。…私達は本当に、魔女で…あなたは、魔法使いなの?」
「──ああ、そうだ」
リリーは硬い表情で黙っていたが、セブルスの前に座ると地面をキョロキョロと見渡し、萎れかけていた花を手折った後、ずいとセブルスに渡した。
「力を、見せて?」
セブルスは渡された花を受け取り、じっと見つめた。
アリッサはリリーの隣に座り、その元気がなさそうに萎れている花を期待の篭った眼差しで見る。
ふわ、と風にそよぐように花が揺れた。
途端にむくむくと茎が持ち上がり葉が空を向く。首を垂れていた花は持ち上がり、黄色く可愛らしい花がアリッサとリリーの前で揺れた。
「ね?リリー。嘘じゃなかったでしょ?」
「…本当に…本当なのね?」
アリッサはセブルスの手から黄色い花を取ると、リリーの髪に可愛らしく刺した。真っ赤な髪に黄色の花は美しく映え、アリッサは満足げに微笑みながら頷く。
「嘘じゃないわよ、ねぇセブルス?」
「ああ、僕は魔法使いで、君たちは魔女だ」
「…この力は、魔法なのね…」
リリーは自分の掌をじっと見つめた。
物心ついた頃から、身の回りで不思議なことが起こっていた。両親はそれを喜び受け入れてくれたが、外では──家族以外にこの力を見せてはならないと強く言われていた。
怖がる人がきっと居るから、と両親に言われたとき、リリーはこんな素晴らしい力を誰にも言えないなんて…と、不満に思っていた。誰にも迷惑をかけることの無い、素晴らしい力なのに。
「セブルス、また魔法学校の話を聞かせて?」
「魔法…学校?そんなのがあるの?」
「そうなの!11歳になったら、その学校から入学許可証が届くんですって!」
「ああ、そうだ。ホグワーツ魔法学校という、魔法使いと魔女の学校だ」
セブルスはアリッサとリリーを見て、自分が知っているホグワーツの事を語って聞かせた。アリッサはすでに知っている話だったが、それでも目を輝かせ興味深そうに楽しげに聞く。リリーはセブルスが話す事が本当なのか──魔法学校だなんて、聞いた事がない!──少し不安そうにしながらも、興味がない訳ではなく真剣な顔で時々驚きながら聞いた。
ホグワーツや魔法界の事、魔法生物の事──沢山の事を知ったリリーは、気が付けば夢中になりセブルスの言葉に耳を傾けた。
「後2年もあるのね…」
早く行きたい。アリッサが呟いたその言葉にはホグワーツへの憧れと期待が確かに現れており、セブルスはアリッサも同じように楽しみにしているのだとわかると嬉しそうに微笑む。
暴力ばかりの父親と、ほぼ毎日喧嘩をする母親。母親は同じ魔族であり勿論、嫌いではないが年々ヒステリックになる声には嫌気がさしていた。早く家を出て、素晴らしい世界に飛び込みたい。
アリッサとリリーは母親以外で初めて会えた同族であり──何より美しい2人とホグワーツで過ごせる。セブルスはアリッサの顔をチラリと見て、僅かに青白い頬を赤く染めた。
昼前にセブルスと別れ、自宅へ戻る中、リリーは今朝までの不安そうな表情はすっかりと消え、先程聞いたばかりのホグワーツに胸を高鳴らせ興奮したように呟く。
「ホグワーツ魔法学校…!行って色々な事を学びたいわ!」
「ええ、私もよ!…でも、家族と離れて過ごすのは、ちょっと寂しいわ…」
「そうね…でも私たちは双子よ!寮もきっと一緒──ずっと一緒に決まってるわ!」
リリーはアリッサの手を取り、にっこりと笑う。彼女もアリッサと同じで家族と離れて暮らす事に不安があったが、それでも一人きりでは無い──その事が何よりも嬉しく、心強かった。
リリーの手を握り返したアリッサは同じように微笑み頷く。
「そうかもしれないわね」
「きっとそうよ!」
リリーはアリッサの手を繋いだまま駆け出し、楽しく素晴らしい未来を想像して目を輝かせる。アリッサは手を引かれながら、自分とリリーは性格が違う。きっと双子であっても必ず同じ寮に組み分けされるわけではないのだ──とわかっていたが、その事を言えばリリーが悲しみ泣いてしまうだろうと思い、その事は胸の奥にしまいこんだ。
家に戻った2人は自室に戻り、それぞれのベッドの上に座りながらホグワーツの事を話した。組み分けされるのなら何処の寮だろうか?もし、何処にも組み分けされなかったらどうなるのだろうか──くすくすと楽しげに笑うが、何処か秘め事を話すかのような悪戯っぽい声は部屋から漏れ出ていて、2人の帰宅に気付いたペチュニアが怪訝な顔で扉を開けた。
「何の話をしているの?」
「ホグワーツ魔法学校の事よ!」
リリーは当然の事だと笑いながら答えたが、その言葉を聞いた途端ペチュニアは表情を険しくし、押し黙る。
「…あなた達、こっそりあの子に会いに行ったのね!?ホグワーツ魔法学校って、何?そんな──そんな変な学校あるわけないわ!聞いたことないもの!」
「あー……」
魔法学校、という響きが許せず怒ってしまったペチュニアを見て、アリッサは困ったように眉を下げる。だがリリーは少しも気にせず「あるって、あの子が言ったもの!」と言い返した。
「そんな変なところ、あるわけない!騙されてるのよ!あのスネイプって子、きっと友達がいないんだわ!あなた達に興味を持ってもらうために嘘をついてるのよ!」
「騙されてなんか──無いわ!…そうよね?アリッサ!」
「…ええ、私も嘘じゃないと思うわ」
「アリッサ、あなたまで…!」
ペチュニアは傷付いたような目でアリッサを見たが、きっと表情を険しくさせると顔を真っ赤にして踵を返し扉を怒りに任せて荒々しく閉めた。どすどすと大きな足音が響き、続いて「ママ!あの子達変な話ばっかりしているの!」と、母親に告げ口をするペチュニアの声が聞こえた。
アリッサとリリーは顔を見合わせ、同時に立ち上がりすぐに母親の元へ向かった。──変な話ではないと説明するために。