レズはヤダ!レズはヤダ!レズとドSは嫌だぁぁぁぁぁ   作:空色

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第10話

ブレインは目の前に立つ少年こそが最も警戒すべき魔導士だと知っていた。彼こそがニルヴァーナ発動における最大の懸案事項だと。

 

大地に巨大な都市が現れ、歩み始めてから数分後。ブレインの元に現れたケネシーは近くにいたコブラの対処をナツとハッピーに投げてブレインの首を取らんと戦闘を行っていた。

 

「『常闇奇想曲(ダークカプリチオ)ォ』」

 

「『天魔の風林』」

 

貫通性のレイザーは風によって逸らされて、明後日の方向に飛んでいく。

 

「流石は冥府の住人とでも言っておこうか」

 

「………」

 

「しかし驚いたぞ………冥府の住人が正規ギルドに協力しているとはな」

 

ブレインは杖を向けたまま、なおも話続ける。その目には怯えはなく炎のような野心が燻っていた。

 

ブレインはケネシーの様子には気が付かず、興奮状態でこれからの野望について語る。

 

「この魔法があれば我を止められるものはなし。他のバラム同盟の奴らも恐れるに足らず。我は光と闇の番人となったのだ!フハハハハハ」

 

「………」

 

「光栄に思え、冥府の住人!新たな六魔に貴様を加えてやろう!手始めに天空の巫女を殺させてやるぞ」

 

ブレインはケネシーを勧誘しようとようやく彼の顔を見た。そして、息を呑んだ。

 

ケネシーの顔には何の感情も浮かんでいなかった。否、感情が湧きすぎて能面のように固まっているのだ。

ケネシーにとってブレインを殺すのは決定事項だった。それは何故かケネシーの正体を知っているからである。自分が闇ギルドに関りがあると知られれば、ウェンディにどんな顔をされるかわからない。今の関係を壊す危険性がある。それは許容されない。

 

よってケネシーは邪魔者がいない状態でブレインを殺すために、一人でこの場所に来たのだ。

 

それだけならよかった。ケネシーは使命感だけでブレインを殺していただろう。しかし、ブレインの言葉の中に二つほど気に食わないものがあった。

 

一つはウェンディを自分に殺させるなどという馬鹿げたセリフ。そしてもう一つは冥府の門に対する侮辱だった。前者に抱いたのは殺意と怒り。後者に抱いたのは、嫌悪と憐みだった。

 

「あまりにも不愉快だな…お前という存在が」

 

「何?ッ!?」

 

瞬間、ブレインの背後に移動したケネシーがローキックを叩き込み、彼の体勢を崩した。

 

「『天魔の鉄拳』」

 

ブレインはその拳を躱すことができずに王の間から転げ落ちる勢いで吹き飛ばされる。

 

「何処で俺のことを知ったのか答えろ。でなければ筆舌に尽くしがたい状態で殺す」

 

ケネシーの声に熱はない。色もない。ただ平坦に、決定事項を述べる少年の姿がそこにあった。

 

「だ、ダークロッ!?」

 

ブレインが杖を構えた瞬間、彼の身体は宙を舞っていた。風に巻き上げられたのだ。王の間の真上に位置する空中で、ブレインは初めて少年の脅威を体感する。

 

「『天魔の激昂』」

 

無慈悲の咆哮がブレインを王の間に叩き落した。床に亀裂が走り、砂埃が宙を舞う。ブレインに魔法を放つような隙をなるべく与えない立ち回りをケネシーはしていた。

 

「『天魔の撃槌』、『天魔の撃鉄』、『天魔の激昂』」

 

猛攻がブレインを襲う。無数の打撃と風の砲撃がブレインを吹き飛ばした。恐ろしきはケネシーの容赦のなさである。すでに意識を飛ばしかけているブレインに対して、ケネシーは攻撃の手を緩めなかった。そこにウェンディやシャルルに向ける優しさはなく、有象無象に向ける無関心もなかった。

 

「よ、よせ………」

 

フラフラと立ち上がり、顔をひきつらせたブレインにケネシーは拳を振るった。

 

「『風魔の撃槌』」

 

「ガァァァァァァァァァ!!!!!!!」

 

風を纏ったケネシーの拳は内臓と骨を揺るがす感触を突き放すように、ブレインの身体を王の間から放り飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュラとグレイ、そしてルーシーは都市の中を探索していた。それは仲間を探すためでもあり、この都市を止めるためでもあった。

 

戦闘音のする方へと足を向けるとそこには倒れ伏すナツとハッピー、そしてコブラがいた。

 

「ちょっと!?大丈夫なの?」

 

「また派手にやりやがって」

 

ナツに駆け寄るグレイとルーシー、後からそれを追うジュラ。最後尾にいたジュラだけが天を飛来するそれに気が付いた。

 

「ッ!岩鉄壁!」

 

グレイたちを庇うように岩で屋根を作り上げる。そしてそこに一人の人間が落ちてきた。

 

凄まじい轟音と共に飛来したその人間は、敵の首領だった。

 

「この男は!」

 

驚愕を露にするジュラと状況の理解が追い付かないグレイたちの前に、一人の少年が降り立った。風を纏い音もなく着地したケネシーは、微かに意識のあるブレインに近づく。

 

「これが…冥府の力か………怪物め」

 

落下したブレインと距離が近いジュラだけがそのささやきを拾った。

 

「………終わりだ」

 

止めを刺そうと拳を振り上げたケネシーの腕をジュラが掴んで止めた。

 

「何の真似だ?」

 

「それ以上はいかん。その男はもうすでに戦闘不能だ。加えて、この魔法について情報を聞き出す必要がある」

 

「………」

 

にらみ合う両者を見てようやく理解が及んだグレイたちが叫ぶ。

 

「そいつ六魔のボスじゃねえか!?」

 

「ええ!一人で倒しちゃったってこと!??」

 

ジュラはケネシーの掌が開かれたのを確認して、ケネシーの腕を放した。

 

「『天魔の団扇』」

 

ケネシーはその隙を逃さず腕を振るい突風を発生させる。ルーシーたちはその風に吹き飛ばされ、ジュラは姿勢を低くして何とか耐えた。

 

「何を!?」

 

ジュラの困惑は無言の攻撃によって無に帰す。咄嗟に発動させた岩鉄壁が無ければ、ジュラの身体は宙を舞っていただろう。

 

「まさか!ニルヴァーナの影響をッ!?」

 

「『天魔の撃鉄』」

 

「ッ!岩鉄壁!」

 

8つの岩の壁が展開される。そのすべてをケネシーの拳が砕いて見せた。それと同時に、ジュラはグレイたちを岩の壁に乗せて遠くへ放り投げた。

 

「グレイ殿達はニルヴァーナを!ここはワシがなんとかしよう」

 

ケネシーはジュラに接近し、攻撃を仕掛けた。それに応戦するジュラにケネシーは残念そうにつぶやいた。

 

「聖天の魔導士と言えど、所詮は人間か」

 

ジュラの岩を用いた攻撃が風の刃と拳によって砕かれる。彼の攻撃はジュラの岩鉄壁で防がれる。しばらくその繰り返しだった。

 

「終わりにしようか」

 

ケネシーは弓を引くように左腕を前に出し、右腕を引く。そして

 

「『天魔の魔弓』」

 

収束する風は矢のような形状を取り、放たれた瞬間大地を削りながら進む風のレーザーに変質した。

 

ジュラは魔力を限界まで熾し魔法を展開する。それは自身が最も信頼する魔法。

 

「ぬおおおおおおお!!!!!岩鉄壁!」

 

元はただの土にも関わらず、その硬度は鉄を遥かに凌駕していると言われるその魔法を紙屑のように吹き飛ばした魔弓はジュラの身体を掠めるように軌道をそらし当たりのものを破壊していった。

 

「防御のためではなく、回避のために魔法を使ったのか」

 

ケネシーは熱の籠っていない声で、薄く笑った。

 

「悲しいな、聖天の魔導士。お前がもう少し強ければ完全に防げていただろうに」

 

咄嗟に防御は不可能だと断じて、攻撃をズラす判断は並大抵の胆力ではできないだろう。かつ、その判断を実現できることは流石と言える。だが、それは人間としては優秀程度なのだ。

 

「もうお前は立てないだろ?」

 

当たりの風景は災害が起きたのかと錯覚するほどの惨状に侵されていた。建物は倒壊し、地面は削れ、土埃が舞っている。

 

そんな光景を作り上げる魔法を人間が受ければ、どうなるかは考えるまでもなかった。

 

掠っただけとはいえ、人間にとっては過ぎた魔法だ。その脅威はジュラの身体が証明していた。

 

左の腕はズタズタに裂傷が刻まれており、脇腹は赤く染まっていた。命に係わるレベルの怪我ではない。しかし、戦闘は不可能であると断ずる負傷だった。

 

掠っただけでこの惨状である。直撃すればジュラはこの戦いから離脱していただろう。

 

「ケネシー殿………手荒になるが許せ」

 

「何を………ッ!」

 

「『覇王岩砕』!!!!!」

 

周囲の瓦礫が集まりケネシーを閉じ込める。そして、その瓦礫たちが爆ぜた。ケネシーを岩の中に閉じ込め中から爆砕させたのだと、理解するのにケネシーは数秒かかった。

 

思わぬダメージに踏鞴を踏むケネシーをジュラは追撃した。

 

「『岩垂』!」

 

地面から複数の柱が隆起して、ケネシーは体勢を大きく崩した。

 

「チッ!『天魔の—————」

 

「確かにその歳で恐るべき技量を持っていることはわかる。だが、儂も聖天の魔導士!慢心する子供に負けてやる道理はないわ」

 

ジュラの魔力が極限まで高まっていくのを感じ、ケネシーは自分の失策に気が付いた。辺りを破壊して瓦礫を作ったのは、ケネシーが魔法を使った結果ではない。ジュラが魔法を防ぐのではなく、逸らしたのはケネシーに瓦礫を作らせるためだったのだ。

 

「————逆鱗』!」

 

「岩鉄流!」

 

周囲を飲み込む暴風と岩の津波が衝突し、辺りを薙ぎ払う。轟音が響き両者の衝突の結果が表れた。

 

ほぼ無傷で立っているケネシーとボロボロで倒れているジュラ。勝者と敗者をわかりやすく分ける構図。それをひっくり返す一手をジュラは打っていた。

 

慢心するケネシーは視界の端に移った僅かな変化に気が付き、顔を引きつらせる。

 

「慢心がケネシー殿の弱点だ、岩鉄壁」

 

飛び出してきた岩の柱に殴打され、ケネシーは宙を舞った。

 

 

 

 

 

 

 

 

意識を失っているジュラを眺める少女の姿がそこにはあった。ジュラの身体には雷を纏った鎖が巻き付いていた。

 

「…悪いけど人よりタフなものでね。僕の勝ちだよ、ジュラさん」

 

少女の瞳には、正気の明かりが灯っていた。少女の身体に傷はほぼない。しかし、色の濃い疲労がありありとその表情から伺える。

 

魔力を使い過ぎたのである。ウェンディが行ったのは、簡単な怪我の治療と解毒のみであり、疲労と消費した魔力は回復していない状態だった。ブレインとの戦闘、ジュラとの戦闘、様々な要因が重なってケネシーは疲労困憊だった。

 

「女に切り替わって正解だった。滅悪魔法を使っていたら、僕が倒れてた」

 

再現魔法は消費魔力が少ない。継続戦闘を考えるのであれば、必要なTSだった。本来なら不用意なTSは控えるべきだったのだが、ケネシーはノータイムでTSした。ブレインが自分のことを知っていた時点でやけくそ気味になっていたのもある。

 

「セイラ達が仮に僕の生存に気が付いているとして、それでも回収に来ない理由は何だろう?いやこの場合は僕の生存に気が付いていないが、捜索のためにバラム同盟に情報を流したというのが正解かな………?それにしてはブレインの反応は微妙だった」

 

(僕の生存を前提にしないとあの悪魔は捜索なんてしないだろう)

 

ケネシーは考え込む。

 

「………一番あり得るのは、捜索とは関係なく僕の情報をバラム同盟が知っている場合か?」

 

ケネシーは仮説をいくつか挙げた時点で眩暈に襲われる。グラリと体が揺れ、世界が回る。

 

「…ちょっと………休んでから、考えよ」

 

尻餅をついて壁に寄り掛かったケネシーは、体の力を抜き意識を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 


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