ポケモンレゾナンス 作:ポケモントレーナー
「ここがガラル地方か」
ポケモンに乗って飛んできたトウヤが着いたのはバウタウン。海に面した港町である。
人気のない時間帯に乗ってきたポケモンに礼を言って降りるとなみのりを使ってこっそり上陸したトウヤは日が出るのを待った後、観光案内を読みながら町中を探索していた。
やはり初めてついた町中を回るのは見た事がない物ばかりでいつになってもワクワクするものである。
「ん、あれって……」
そんな探索をしていると海沿いにある巨大な灯台が見えてきた。
よく見ればその周りには人だかりが出来ていた。しかも大きな歓声も上がったいるのか遠く離れていても内容はともかくよく聞こえてくる。
どうやら何かでかなり何か盛り上がっているのが一目でわかった。
(行ってみるか)
好奇心を抑えきれず、そちらに向かっていく。
近づくにつれて、歓声だけではなく何かが戦っている音も聞こえてくる。
(ポケモンバトルか)
すぐに理解すると音だけで水タイプ同士の対決かな、と判断を下す。
人だかりを避けてチラっと覗いてみればそこには二体のポケモンがバトルを行っていた。
「おー!」
トウヤの見た事がないポケモンが二体。
水を使った攻撃を繰り出している事からやはりさっきの判断通り水タイプで間違いないだろう。
(しかもかなり鍛えられてる)
特に水着のようなユニフォームを着た褐色肌の女性のポケモンはかなり育て上げられたとすぐに判断できるレベルだ。
対戦相手も悪くはないが、彼女に比べるとまだまだである。
数度のぶつかり合いを得て女性のポケモンが勝利を収めると観客達から歓声と拍手が起こる。
それに応えるように手を振ると、大きな声を上げた。
「三日後からジムチャレンジが始まるからよろしくね」
なるほど。
今のバトルはジムチャレンジの宣伝のようなものか。
ならば二人はトウヤの目的であるジムチェレンジの関係者とみていいだろう。
しかもあの実力からすると女性の方はジムリーダーレベルだろうか。
気になったので近くにいた人に聞いてみるとすぐに答えを教えてくれた。
バウタウンのジムリーダー、ルリナ。
水タイプの専門家で間違いないようだ。
そしてこれから始まるジムチャレンジで挑む事になるジムリーダーの一人で間違いないようだ。
「今年はどんなチャレンジャーが来るのか楽しみだわ」
そう言い残すとその場から去っていった。
観客達も先ほどのバトル内容を話ながらワイワイと散っていく。
トウヤはその場から動く事なくルリナの後ろ姿を見つめながらトウヤは考える。
「……うん、楽しめそうだ」
水タイプの専門家とは戦った事がある。
イッシュ地方のコーン。
カントー地方のカスミ。
ホウエン地方のアダン。
シンオウ地方のマキシ。
誰もが実力者であった。彼等と比べても彼女は遜色ない実力者で間違いないだろう。
「楽しみだな……」
そんな実力者達と戦える。
それを思えば気分が高揚してくるではないか。
ガラル地方への遠征が観光だけで終わるという事はなさそうだ。
ジムチャレンジの開催は三日後。その前日には受付を済ませないといけないが、それまでは観光を兼ねてガラル地方の事を知っておくのがいいだろう。
行動方針と予定を簡単に決めると、トウヤはタウンマップを開くのであった。
「……」
一方、灯台下でバトルを終えたルリナは歩きながらある人物を思い返していた。
先程まで行っていたバトルの事や三日後の開会式の事ではない。
バトルの終盤にやってきた観光客らしき青年。
気のせいでなければ、彼からは普通ではない気配を感じたような気がした。
自分のポケモン達も何かに気づいたらしく、落ち着きのない様子を見せていたのだ。
加えてみればガラル地方にいる有力なトレーナーは知っているつもりだが、彼は見た事がない。
そうなると彼はジムトレーナーではなく凄腕の一般トレーナー、もしかしたら別地方の凄腕トレーナーの可能性がある。
仮に別地方のトレーナーであった場合、この時期にガラル地方にやってきたという事は観光、いやジムチャレンジに挑みに来た可能性は高い。
「ちょっと調べてみましょうか」
ガラル在住のトレーナーならば探しようがある。
もしいなければ別地方のトレーナーで間違いない筈だ。
そしてルリナの考えが正しければ、ジムチャレンジの挑戦者に違いない。
彼が本当にジムチャレンジに挑みに来たのなら、明日か明後日には受付を済ませるだろう。
開会式に出ればスタジアムに集まった挑戦者達の眺めれば見つけられる可能性は非常に高い。
そして本当にジムチャレンジャーならば。
「普段使ってる子じゃ厳しいわね」
間違いなく強者。
ジムチャレンジ用のポケモン達では歯が立たない可能性が高い。
少し考えてみるとしよう。
まぁ、本当に彼がチャレンジャーであったらの話ではあるが。
だが。
(彼はきっと来る)
ポケモントレーナーとしての直感がそう告げていた。
そしてそれを彼女は信じた。それだけである。
それから二日後。
トウヤはバウタウンから離れエンジンシティにやってきていた。
ジムチャレンジの開会式はここで行われる為、受付を済ませる為である。
イッシュ地方では見た事がないポケモンに目を輝かせたり、観光を楽しんでいたが受付の締め切りが今日の為、こうしてやってきたという訳だ。
「はい。受付完了です」
「ありがとうございます」
チェレンから受け取った推薦状を渡すと、イッシュ地方からやってきた事に驚かれたりもしたが、無事に手続きを終える。
「開会式は明日の午前十時からになります。遅れないようにお願いします」
「わかりました」
「ホテル、スボミーインに無料で泊まれますので今日はそちらへどうぞ」
背番号とユニフォームのサイズを確認した後、近くにあるホテルに向かって歩きだす。
その途中で足早にやってきた一人の少年、そしてそれを追ってきた二人の少年少女とすれ違い。
「おーい、こっちだぞマサル!ユウリ!」
そんな声を聞きながら外へと出るのであった。
歩いて数分の所にあるホテルに到着すると、受付の時に受け取ったカードを提示してチェックインを行う。
エンジンシティをもう少し見て回る事は可能であったが、明日からは本格的にガラル地方を巡る旅に出るのだ。今日ぐらいは休憩してもいいだろう。
部屋の鍵を受け取ると、エレベーターに乗って目的の階へと向かう。
部屋の扉を開けると、中々の広さの部屋だった。
室内にはベッドの他にテーブルや椅子があり、テレビや冷蔵庫といった家電も完備されている。
トイレやお風呂も付いているようで、長期滞在にも向いているようだ。
荷物を置くとベッドに横になる。
慣れない土地への旅にやってきたばかりな上にすぐにはしゃいだ影響もあり少し疲労が溜まっているような気がした。
「明日から頑張らないとな」
そう呟くと眠りたくなるが、自分の食事にポケモン達の食事を摂るべく食堂に向かうのであった。
次の日、十分な休息を取った後、すっきりした体を動かしてエンジンスタジアムに向かう為、外に出るとそこに沢山の人が溢れかえっていた。
前に雑誌で読んだ通り、観光客は勿論だがガラル中の人々がこのエンジンシティに集まっているようであった。
「さすがにこれは初めてだなぁ……」
ここまで人が集まるのを見たのは中々ない。
ポケモンリーグを興行事業としている影響なのは間違いない。
「エンジンスタジアムに行くか」
人の間を通り抜けて、スタジアムに到着すると受付を済ませる。
すると昨日、決めたナンバーが刻まれた真新しいユニフォームを渡される。
控え室で新品のユニフォームに着替えると、その新しい感触や慣れないユニフォーム姿になんとなく居心地の悪さを感じる。
だが肝心の開会式が始まるまでもう少しだけ時間があるようだ。
(みんな緊張しているな……)
周りを見れば老若男女問わず緊張している様子が見てとれる。
トウヤ自身は今までの経験から緊張はしていない。どちらかというと早く始まらないかとワクワクしていた。
(始まったか)
暫くすると備えつきのモニターから大歓声が流れ始め、ガラルポケモンリーグの委員長であるローズがオープニングの挨拶を行っている。
同時にジムチャレンジ挑戦者達も移動が促される。
これからスタジアムに入る訳だ。
(面倒だなぁ……)
他地方ではこんな事をやる必要はないのになぁ、と思ってしまう。
だがこれがこの地方のルールならば破る訳にはいかない。
「……行きますか」
係員に先導されて辿り着いたスタジアムには無数の観客達。
そしてこれから挑むジムリーダーやチャンピオン達がいる。
人数が足りないように見えるが、チラっと彼等を見る。
トウヤが調べたガラル地方のメジャージムリーダーに間違いないようである。
(チャンピオンのダンデにジムリーダーのキバナ、マクワ、ポプラ、サイトウ、カブ、ルリナ、ヤロー……いないのはネズって人だけか)
昨日のルリナの野良試合を思い出す。
彼女と同等かそれ以上の実力者達であるならば、楽しめるのは間違いない。
勿論、チャレンジ中は専用のポケモン達だろうから、全力ではないのだろうが。
ジムチャレンジを突破し、セミファイナルトーナメントを突破すれば全力の彼等と戦える。それが楽しみでしょうがない。
(しかし、改めて見れば凄い人数だ)
この巨大なスタジアムに立つ人、全員がガラル地方ジムへの挑戦者達だ。
初めて旅をしたイッシュ地方や別地方でジム巡りをしていた時も人が同じ目的のトレーナーが集結する事はありえなかった。
だがこのガラル地方では今、同じこの場所に立っている。
あくまで自由意志でジムへの挑戦できる地方しか見た事がないトウヤにとって、それは不思議な感覚であった。
(ん……?)
ふと周りを見渡した時、不思議な感覚をとらえた。
それは別地方で出会った自分と同じかそれ以上の実力を持った数少ないトレーナー達。そんな彼等と似た気配がしたのだ。
周りを改めて見渡すと、そこには二人の少年がいた。
何処かで見た事があるような気がしたが、それを気にする事なくトウヤは無意識に笑みを浮かべていた。
(きっとあの二人は俺の……俺達の前に現れる)
自分を倒しに来るチャレンジャーか、もしくは自分を迎え撃つチャンピオンか。
そんな未来を少しだけ想像した後、トウヤは前を向いた。
今の目的は彼等ではなくジム巡りの方だ。
もし自分のこの感覚が正しければきっと遠くない未来に違いない。
ならばそれをゆっくり待てばいいのだだから
「それではこれより、ジムチャレンジ開会式を行います!」
「いたわ」
「あいつか」
同時刻。
終結していたジムリーダー達の一人、ルリナが呟く。それと同時にその横で聞いていたキバナが答えた。
三日前に感じた強者の気配。
ガラル在住のトレーナーに彼らしき姿はなかった。
ならば、と。この開会式で探した結果。見事に大当たりを引いたという訳だ。
「彼、ですか」
左右に跳ねた茶髪のミディアムヘアをした青年、トウヤである。
このスタジアムに現れたチャレンジャーの中で唯一自然体でいる人物でもある。
ルリナから話を聞いていた一人であるマクワがサングラス越しにトウヤを見つめる。
ぱっと見では普通のトレーナーにしか見えないが、すぐに気が付く。
トウヤは自然体でのんびりとしている訳ではないのだと。
「まるで緊張してねぇな。むしろ俺様達を喰らってやるって気がぷんぷんするぜ」
彼の中から感じる他のチャレンジャー達からは感じない獰猛な気配。
もしここでバトル可能なら既にバトルを行ってもおかしくはないとさえ思ってしまう。
「あの人は何者でしょうか?」
「分からないけど、強い事は間違いないだろうね」
少なくともチャレンジ用のポケモンで戦っても勝ち目は見えない。
サイトウもカブもルリナの言っていた事を全面的に信じた様子であった。
「これはちょっと気を引き締めなければいかんなぁ」
一番最初に彼とぶつかるヤローが呟く。
既に彼の脳内からもチャレンジ用のポケモンでは勝てないと判断を下してしまっている。
だがまだ気配のみ。
真の実力は見た事がない以上、判断を完全に決める事は不可能だ。
故に。
「ぼくが彼の力を暴いてみましょうか」
ターフタウンのジムチャレンジにて彼の気配の正体を確かめる。
それならば安心だとそう判断したルリナとキバナは会話を続ける。
「楽しみだぜ。できれば俺様は本物だと信じたい」
「ええ、私もよ」
もし本物ならば、間違いなくガラル地方を巻き込む嵐になるだろう。
そして彼は間違いなく全てのジムを突破し、セミファイナルトーナメントも彼が突破するさえ思ってしまう。
だからこそ楽しみだ。
彼と戦えるその日が。
そしてもう二人。
トウヤという存在を感じ取っていた人物がいた。
ハロンタウンからやってきていた新米トレーナーであるマサルとホップである。
先程、トウヤが感じ取った相手こそがこの二人であり、また二人もトウヤという存在を感じ取っていたのだ。
「……なんかビリビリしたぞ」
「うん、ダンデさん……以上かもしれない」
「兄貴よりも……上?」
まさか、そんな筈はないとホップは思うもあの一瞬、トウヤに見られただけでも腕の産毛が逆立ちそうになる。
それだけのプレッシャーを感じたのだ。
「……いや、弱気になるな!兄貴は強い!最強だ!そしてそんな兄貴に挑むのはオレかマサル!お前のどっちかだぞ!」
「……そうだね。まだ始まってさえいないのに恐れる必要なんてないよね」
二人は頷きあうと憧れのチャンピオンを見上げる。
マサルとホップ、そしてトウヤのガラル地方ジムチャレンジはここから始まるのだ。
次回、4月5日予定