ポケモンレゾナンス 作:ポケモントレーナー
ガラル地方ジムチャレンジが始まって一週間、トウヤは開会式があったエンジンシティから離れて最初のジムがあるターフタウンに到着していた。
道中では他地方では見ないポケモンを見たり、ゲットしたり、のんびりとガラル地方を散策するなど他のチャレンジャー達と違いかなりゆっくりのペースで進んでいた為、SNSを見れば、既に数人のチャレンジャーがターフタウンのジムを突破したという。
しかしトウヤとしてはゆっくりで全然構わなかった。
先着順ではなく、開催期間内に全てのジムバッチを集めればいいのだからゆっくりで構わないという判断だ。
という事で急ぐ必要はない為、始めてくる土地をゆっくり観光しながら他のチャレンジャー達よりも遅い歩みでガラル鉱山を超えてターフタウンに到着したのであった。
トウヤとしてはポケモンセンターで回復を済ませ次第、すぐにジムチャレンジを、と思ったがそう簡単ではないようだ。
まずはターフスタジアムで受付を済ませてすぐにチャレンジができるという訳ではなく、受付順に一人ずつ行われて、ジムから課せられるミッションをこなさなければジムリーダーとは戦えないシステムの為である。
勿論、別地方でもジムにあるギミックや立ちはだかるジムトレーナー達を倒してジムリーダーの所に辿り着く必要はあるのだが、挑戦したいと言えばすぐに挑ませてくれる別地方とはかなり勝手が違うようだ。
興行としての面が強く出ているせいなのかミッションをはじめジムリーダー戦も、全てテレビ放送などされる所だろう。
「んー、本番は明日か」
結局、受付を済ませたものの他のチャレンジャー達の事もあり明日の最後の方に回される事になったトウヤ。
別に問題はないのだが、それでも時間が空くとなればもったいないと思うのが人情。
しかも時間帯はまだ昼過ぎなのでこれからどう時間を潰すか考えなければならないのだ。
さすがにずっとここにいるわけにもいかないし……と考えながら街に出るとエンジンシティ程ではないが、人の通りは多い。
元々、ターフタウンはガラル地方一の農業地区である為、住んでいる農業者に加えてジムチャレンジを見に来た人々でごった返しになっているという事なのだろう。
それに加えて、古来から存在する石碑の数々が観光名所となっておりそちらを見に来る観光客もそれなりに多いようだ。
「石碑に地上絵か」
今から三千年も昔の事だ。
ブラックナイトと呼ばれる大災害が発生。
黒い渦が発生し、その中から巨大化したポケモンが現れガラル地方に襲い掛かった。
その大災害はガラル地方が滅びる寸前までいったとされるが、一人の英雄がそれを鎮めたとされている。
エンジンシティで泊まったスボミーインの玄関にあった銅像が英雄だとされているそうだ。
(英雄、か)
トウヤもまた英雄と呼ばれた事がある。
勿論、自分自身はそんな大層なものではないと思っているが何も知らない人からすればイッシュ地方を救った英雄なのだろう。
「あんたはどう思ったのかな」
古い時代に自分と同じ英雄と呼ばれた人に向けて、小さく呟くのであった。
そんな事を考えながら、見学しているとふと嫌な気配がした。
思わずそれから隠れるように身を隠す。
少し気持ちを落ち着けると、見を隠したまま顔のみこっそりと向けるとそこには大人が数人集まっていた。
距離が離れている為、何を話しているかまでは聞こえてこないがどうにも普通の人には見えない。
いや、姿形だけで言えば普通の人々だろう。
作業服を着た人もいれば、医者のような男もいるし、白衣を着た研究員みたいな女もいる。
統一性がない事は勿論、こんな場末に集まっている事もおかしい。
トウヤの記憶が正しければここは石碑が一つあるだけの行き止まり区域であるし、彼等の視線は石碑には一切向かっていない。
だが完全に怪しいとは断言できる程でもない。
しかしトウヤ自身の直感は彼等が怪しいと判断を下していた。
(分からないけど、今やれる事はなさそうだな……)
これ以上、近づけば悟られるのは間違いない。
ここからは見えていないだけで、見張りをしているポケモンがいる可能性は十分に高い。
単純なバトルならあの人数相手でも問題なく勝てるが、バトルに勝つだけで解決できる問題でない場合、ガラル地方では力を貸してくれる者は誰もいない孤立無援状態だ。
そんな状態で行動を移すのは馬鹿のやる事だろう。
トウヤはゆっくりと、しかし手早くその場から離れる事にした。
(ただの武者修行のつもりだったけど、調べてみる必要があるのかな)
今の自分に何ができるのか。
それを考えながらトウヤはその場から去っていくのであった。
トウヤが去って暫くして、この場に新たに一人の少年が現れた。
彼の名前はマサル。
ガラル地方ハロンタウンに住み、チャンピオンダンデの弟であるホップの友人である。
彼もまたジムチャレンジに挑戦中の新鋭トレーナーであり、ダンデから譲り受けたヒバニーと共にチャンピオンを目指してる真っ最中である。
「こうしてターフタウンに来たのは久々だけど一人で回ってみるのだと全然違うなぁ……」
普段、マサルは一人ではなく二人で旅をしているのだがその相方である彼女は少し前にターフタウンで再会した研究者ソニアと共に別行動中の為、こうして一人でターフタウンを回っているのである。
ジムチャレンジも行いたいのだが、予約した時点で本日は埋まっており、彼の出番は明日の後ろから数えて二番目の位置である。
昼をだいぶ過ぎたとは言え、実際のチャレンジ時間からはだいぶ空いた状態だ。
(今日は観光。明日の午前中に軽くラビフット達の調整をする感じでいいかな)
先日、ヒバニーはラビフットに進化した為、進化後の能力はまだまだ未知数の部分も多い。
ターフタウンのジムリーダー、ヤローが草タイプの専門家の為、炎タイプであるラビフットが主力になるのは間違いない。
それを踏まえた戦術も考えておいた方がいいだろう。
ただ、気合が入り過ぎてもいけないのでそこはうまくバランスを取っておく必要もあるだろう。
「奥にある石碑を見たら戻ろうかな」
相方の用事も多分、その頃には終わっているだろうと思い足を踏み出してようやくマサルは誰かが奥にいる事に気が付いた。
(……観光客か、な?)
一番奥の石碑にいたのは作業服を着た男が一人。
こう自分自身で考えるがどうにもそうは見えないので即却下。
ではあれはいったい何者だろうか。
観光客ではない。
かと言ってここは作業すべき工事現場ではない。
そして何より。
(あの人の目……)
マサルの存在に気が付いて、石碑からこちらに視線を向けてきた男の目は尋常じゃない狂気を内包したような目であった。
加えてマサルを見た瞬間、そこに憎悪の色まで加わってくる。
はっきり言って、自分の何が気に食わないのか問い詰めたい衝動にすら駆られるが、そんな無謀な事はしない。
それぐらいに男はマサルにとって恐ろしい何かであった。
「あー……ガキ……ガキか……クソが……小僧を見ると苛立ちが、吐き気が湧いてくるぜ」
「……何を、言って」
「喋るなクソガキ。俺はテメェみたいな奴が大っ嫌いなんだよ!」
「……っ!?」
それは突然の奇襲であった。
男から繰り出されるのはモンスターボール。
そこから繰り出される戦闘態勢を取ったポケモン。
ポケモンバトルを仕掛けられている!
一瞬にして判断をすると、マサルもまたすぐさまモンスターボールに手を伸ばす。
(相手のポケモン、見た事がない、イワークやスナヘビみたいなポケモンだけど地面ポケモンには見えない!)
相手が繰り出してきたポケモンを見てすぐに判断。
自分が知っている似たポケモンに当てはめていくが、同じタイプではないと直感的に悟るとマサルが選んだのは一番頼りになる相棒であった。
「ラビフット!」
うさぎポケモン、ラビフットは炎タイプ。
相手のタイプは岩や地面ではないと判断を下して迷いなく相棒を出していく。
「ニトロチャージだ!」
炎を纏ったまま突進を行うラビフット。
相手のポケモンはその一撃を諸に受けて吹き飛ばされる。
それと同時にラビフットは先程以上に軽快な動きですぐにマサルの元へ戻っていく。
炎を纏った事により先程以上に素早さをましたラビフットであったが、マサルの思考は如何にしてこの場から離脱できるかであった。
町中でポケモンバトルを挑まれる、それはいい。
バトル自体はマサルもラビフットも嫌いではないし、挑まれればそれに応えるだろう。
だがあの男。
「……!」
あの黒く暗い目をした男とはこれ以上、関わりたくない。そう思ってしまったのだ。
「アーボォ!どくばりだぁ!」
「っ!ロトム!図鑑データ!ラビフット、ひのこだ!」
正体が分からない相手が名前を出してくれた瞬間、スマホの中にいるロトムとラビフットに同時に指示を出す。
(相手は毒ポケモン!こっちには有利に戦えるポケモンはいないからラビフットに頼るしかない!)
「ケケッ!データなし!データなし!」
「ガラルにはいないポケモンか!」
ロトムからの返事を聞いて舌打ちをしたくなる。
分かるのは推定毒タイプという点のみ。そしてラビフットに相性が有利な技はない。
地面技かエスパー技があればよかったのだが今のラビフットは覚えていない。
(でも、やるしか……ない!)
必要なのは勝つ事はではなくこの場から離脱する事。
大きい通りに出ればあっちは追ってこない、来れない筈、だ。
それならば。
「すなかけだ!」
「なっ!?」
ラビフットもマサルの考えを理解したのか、すぐさま行動を移す。
相手のポケモンにではなく、大きくこの場全体を砂で満たすように砂を盛大にばら撒いたのだ。
「くそっ!ようかいえき!」
当然、目の前にいる相手を逃がさない為に攻撃の指示は飛んでくる。
が。
「……逃げれたか、クソが!」
まき散らされた砂が全て地に落ちた時、残されたのはピッピ人形が一つ。
マサルはこうしてこの場から離脱に成功したのであった。
「おい、何をやってるんだお前」
「生意気なクソガキがいたんだよ」
「ガキ?」
「ああ、十一年前に出会ったあの赤と緑のクソガキどもに似た奴だ」
「無事に逃げれた、か」
大通りに戻ってきたマサルが息を吐きだす。
一緒に走ってきたラビフットも同じように一息つく。
ラビフットが撒いた砂の中にピッピ人形をおいて、相手のポケモンの注意を引いた後、全力で走ってきたのだ。
ここまでくれば他の人達もいるので問題ないだろうと判断し、ベンチに座りこむ。
頑張ってくれたラビフットには好みのきのみを渡すと、美味しそうに食べ始める。
それをのんびりとした様子で眺めていると。
「マサル……?」
「ああ、ユウリ。用事は終わったんだ」
「はい。ソニアさんから色々と話を聞いてきました」
ベンチに座っていたマサルの元にやってきたのは一人の少女。
ユウリ。
マサルと同じハロンタウンに住むトレーナーだ。
同じ日にホップと共にポケモンを譲ってもらった仲であり、一番付き合いの長い女の子である。
ダークブラウンの髪をストレートに流しており、帽子はかぶっていない為、歩くたびにその髪が静かに揺れている。
彼女はマサルやホップとは違い、ジムチャレンジには参加せずマサルと共に旅をしながらガラルのポケモンについて勉強しており、将来の夢はポケモン博士だとか。
「それでどうしたんですか、こんな所で?」
「うーん、ちょっと変な人に絡まれてね」
「変な人ですか。この時期になると人が増えるので、変な人も増えるという事でしょうね」
「一応、警察には話しておこうかなぁ」
「それがいいと思います。ジムチャレンジに支障が出ると大変ですからね」
ユウリの言葉に頷くとマサルはベンチから立ち上がる。
きのみをちょうど食べ終えたラビフットに礼を言ってボールに戻すと、近くの交番にいる警察官に話をつけるべく歩き出すのであった。
そして次の日。
ジムミッションを突破し、無事にヤロージムリーダーとの対決を終えたマサルはふぅ、と息を吐きだした。
作戦通りラビフットを中心とした戦術はなんとかうまく行き、タイプ相性にも助けられだいぶ有利に試合展開を進める事ができた。
インタビューも終えて、スタジアムの隅にあるベンチで一息ついていた所である。
「お疲れ様です、マサル」
「お疲れ様だぞマサル!」
そんなマサルに声をかけたのは一緒に来ていたユウリは勿論、ホップも来ていたようだ。
ホップはマサルよりも一足先にバッチをゲットしていたから、もう次のバッチを求めて旅立ったのかと思ったが違ったらしい。
「へへ、さすがオレのライバルだぞ」
「ありがとうホップ。ユウリも応援してくれてありがとう」
「い、いえ。わ、私が好きでやっているので……」
笑顔のホップと、顔を赤らめるユウリ。
こうして共に喜びを分かち合える事が本当に嬉しいものだ。
「それでこの後はどうする?どっかで飯でも食べるか?」
「そうですね。二人のターフタウン突破のおめでとうの会でもやりましょうか」
旅立つには少し遅い時間帯だ。
マサルの次のトレーナーが今日、最後の挑戦者なので時間帯も夕方に入ろうとしている。
今日の夕食の店を決める為にスタジアムに出ようと、立ちあがると。
「あ……」
マサルの視線はモニターに釘付けになった。
そこにはあの日、開幕式でその姿を見た一人の青年の姿があったからだ。
マサルの後にジムチャレンジに挑むトレーナーこそが彼のようだ。
「マサル?」
「どうしたんだ?」
「ホップ、あの人だ」
マサルの言葉に反応してホップの視線もモニターへと移る。
「スタジアムで見れるか?」
「さすがに席で見るのは無理でしょうね……」
スタジアム席のチケットは既に完売済みだ。
今からスタジアム内で見るのは不可能だろう。
「仕方ないからこのモニターで見よう」
「それがいいな」
「……二人とも?」
ユウリは首を傾げる。
どうして二人がそんなにもこのチャレンジャーを気にするのかが分からなかったからだ。
だがユウリもまたモニターを見上げる。
二人がそれ程に気にする相手をこの目で確かめる為に。
翌日になり、その日最後の挑戦者となったトウヤであったが情報収集は行っていなかった。
ガラル地方のジムチャレンジは他地方以上にジムリーダーの手持ちについて調べやすい。
だがそれはトウヤの望むものではない。何もかも調べてしまうのも正直、面白みがなくなってしまうという判断である。
ユニフォームに着替え、手持ちのポケモン達に声をかけ係員に案内され入場した場所は巨大なエリアであった。
草地に花が咲き誇る草原のようなフィールドだ。
奥行が大きく、遠目で見れば柵があり幾つかのフィールドにわけられているようだ。
「それでは挑戦者トウヤ。ここターフタウンのジムミッションを説明します!」
案内してくれた係員からそのまま説明を受ける。
とは言え話としては簡単。
制限時間内にフィールド内にいるウールーと呼ばれるポケモン達を全員奥のフィールドへと導いていくのだという。
それを聞きながら、トウヤは目線を動かすとかなりの数のウールー達がフィールド内で思い思いに過ごしているのが見えてとれる。
方法は自由らしい。
「それではジムミッションを開始します!」
方法を幾つか考えていると、ジムミッションが開始される。
頭の中で考えていても仕方ないとトウヤはすぐに足を動かし始めた。
するとウールー達はトウヤの動きにあわせてしっかりと奥へと進んでいく。こちらの動きにちゃんとあわせてくれるようだ。
最初の柵までは特に大きな問題もなく辿り着くが、二つ目からはこいぬポケモンであるワンパチがウールー達の動きをかき乱していく。
とは言え、動いては止まり動いては止まり、時折トウヤの方を見つめて吠えてくる。
どうやらこんな感じ、と教えてくれるようでもあった。
トウヤはウールー達を奥へと誘いながら、ワンパチに礼を言う。
どうやら次からが本番のようである。
そしてそれは当たりのようだ。
二つ目の柵を超えた先には先程とは違い全力で走ってくるワンパチの姿があり、その奥には指示を出しているトレーナーの姿が見てとれる。
さて、この状況をどうするかトウヤは一瞬だけ考えるとすぐにモンスターボールへと手を伸ばす。
「ウォーグル!」
ゆうもうポケモン、ウォーグル。
勢いよくモンスターボールから飛び出したひこうタイプのポケモンを見て、トウヤは迷わず。
「行くぞ!」
その手を伸ばした。
「えっ、マジで?」
「えぇ……」
「空を飛んだ……」
トウヤはウォーグルの足に片手で捕まるとそのまま飛翔した。
これにはウールー達やワンパチもびっくりした顔を見せ、その奥でワンパチに指示を出していたジムトレーナーも驚愕の表情を見せる。
トウヤは知らない事であったが、ガラル地方では直接ポケモンに乗って空を飛ぶ事をやる人、やれる人は少ない。
その中でトウヤが取った選択は周りの人々に衝撃を与えたのであった
そんな事に気づかずトウヤは飛翔して迷う事なくジムトレーナーへと飛んでいく。
あくまで直感であったがワンパチを指示しているトレーナーをバトルで倒せばワンパチからの妨害がなくなると踏んだからだ。もし違ったとしてもそれはそれでやり直せばいい。
驚愕しているトレーナーの近くまで到達すると、そのまま手を放してウォーグルから飛び降りる。
綺麗な着地をすると同時にウォーグルもまた下降して、そのままジムトレーナーへ顔を向ける。
「くっ、君を追い返すのが僕達の仕事なんです!」
そう言ってヒメンカを繰り出してくるが、ものともせずにウォーグルは一撃でポケモンを倒していく。
そしてトウヤの予想通り、トレーナーが敗北したのを確認したワンパチが足元へと戻ってくる。
後は妨害がなくなったフィールドでウールー達を奥へ奥へと誘導していく。
更に柵の先で妨害が再び行われるが、気にする事もなく同じように空を飛んでジムトレーナーの元に行き、バトルで倒す事を繰り返す。
そしてあっという間にゴールへと到着するのであった。
「うーん、やっぱりこのままじゃ駄目そうなんだな」
ゴールへ到着したトウヤはそのままターフスタジアムの中心部へと案内される。
先日のエンジンスタジアムと同じく巨大なフィールドだ。
既に観客は満員。その誰もが今から始まるバトルを心待ちにしているようだ。
トウヤは入口から入ると、反対側からやってくるのは一人の男。
屈強な肉体を持ち、農家を兼任しているジムリーダー、ヤロー。
それが今、トウヤの前に立ちはだかったのだ。
「はじめましてチャレンジャー。実は君の事はルリナさんから聞いてますよ」
「……?」
と言うヤローの言葉に首を傾げるしかない。
ルリナ、とは水タイプのジムリーダー。ガラル地方に来た初日にバトルを見ただけであり接点はない筈だが。
「はは、とても強そうなトレーナーがいる、とね。そしてルリナさんの言葉は正しかったと僕も思いますよ」
「へぇ……」
それだけ話して、フィールドのトレーナーの立ち位置につく。
後はバトルで語るのみだ。
「行くぞ、ウォーグル!」
「ワタシラガ出番じゃ!」
トウヤが繰り出したのは先程のミッションで活躍したウォーグル。
ヤローが繰り出してきたのはわたかざりポケモンであるワタシラガ。
トウヤとしては初見のポケモンではあるが、草タイプなのは間違いない。後は他にタイプがあるのかどうか。
と、トウヤが頭を回転させているとギャラリーがどうにも騒がしい。
盛り上がっている、ではなくどうにも困惑しているようにも感じられた。
情報を集めていないトウヤは知らぬ事だがヤローが出したワタシラガは先発として繰り出すポケモンではない。ジムチャレンジ戦において最後に出されるポケモンなのだ。
故の困惑。誰もが想像していなかったポケモンが出された事に対して。
だがトウヤとしては関係ない。
全力で戦うのみである。
「ウォーグル!つばめがえし!」
「ワタシラガ!わたほうしじゃ!」
ワタシラガから放たれる胞子の数々。
一つでも当たればウォーグルの翼や足に絡みその足の速さを奪うものだろう。
だが。
「突っ切れ!」
「っ!」
トウヤのウォーグルはフィールドに撒かれた胞子を翼を広げ速度で突っ切り、時に翼を閉じてその隙間を掻い潜る。
被弾なし。
全てのわたほうしを避け切ったウォーグルはワタシラガを射程内に収める。
勿論、ワタシラガも何の準備もしていなかった訳ではない。
ソーラービーム。光を吸収し、その必殺の一撃を放つ準備をしていたのだ。
「遅い!」
ソーラービームを放つ前にその翼を一閃。
一撃でワタシラガが地に伏す事になった。
「……さすが」
ヤローはワタシラガをボールに戻すと一撫ですると新たなボールを取り出す。
「やはり貴方にはチャレンジ用のポケモンでは相手にならないようですね」
「……」
「手ごわい相手!だからこそ本気で勝負!」
「っ!」
ウォーグルの前に出されたポケモン。
「行くぞ!タルップル!」
りんごじるポケモン、タルップル。
それを見た観客の一人叫んだ。
「タルップル!?ヤローさんの本気のポケモンじゃないか!」
「ジムチャレンジなのにどういう事だ……?」
ジムリーダー達はチャレンジ用のポケモンと本気で戦うポケモンの二つを用意しており、タルップルはヤローの本気のバトル用のポケモンとしてそれなりに知られた存在である。
少なくともジムチャレンジ中のチャレンジャー相手に使うポケモンではない。
ヤローの行動に観客は勿論、ジムの関係者達も困惑する中、トウヤはそれを見て。
「……」
ただ笑った。
「……っ!」
やけくそになった訳ではない。
その瞳に映るのは強敵と戦えるという獰猛すぎる戦意。
逆にヤローの方が気圧されかねない程の力強さ。
だからこそこの選択は正しいと判断したヤローはタルップルをボールに戻す。
「さあ ダイマックスだ!根こそぎ刈りとってやる!」
巨大になったボールから再び現れるキョダイマックスの姿に変わったタルップル。
草とドラゴンを重ね合わせたキョダイなドラゴン。
それを見てもトウヤは勿論、ウォーグルも戦意を失う事はない。
「行くぞ!」
「これがゼンリョクの一撃じゃあ!」
「真っ向勝負だ!ウォーグル、ブレイブバード!」
「行くぞゼンリョクのダイドラグーン!」
加速し、キョダイな姿になったタルップルに突撃する準備をするウォーグルへ放たれるドラゴンの波動。
その一撃は全てを吹き飛ばしつつ、相手の力を削ぎ落す必殺の技。
だがウォーグルはその一撃すらも気にする事ない。
ただ己の一撃を相手に叩き込む為だけ。
加速して真っすぐに突っ込んでくるウォーグルに放たれるダイドラグーン。
直撃、と共にフィールドに響く爆音と爆風。
思わず目を背けてしまう観客達。
トウヤとヤローだけは目を逸らす事なく真っすぐにフィールドを見据えていた。
そして次の瞬間、爆風の中心部からウォーグルが飛び出してきた。
その身は傷ついていたが、飛翔には問題ないとばかり吠えるとダイドラグーンによって減衰した力がなんぞとばかりにキョダイマックスのタルップルへと飛び込んでいく。
「行け!」
「タルップル!」
閃光となって放たれた突撃技ブレイブバードがタルップルの中心に直撃する。
質量の差を物ともせんとウォーグルがキョダイなタルップルを押し込んでいく。
「そのまま押し込め!」
「耐えるんじゃタルップル!」
どちらのポケモンも己の力を信じて力を込める。
永遠か、一瞬か分からぬ均衡。
それが崩れる時が来た。
「ああ!?タルップル!」
タルップルが纏っていたガラル粒子が行き場を失い爆発していく。
その中から飛び出してきたのはウォーグル。
勝ったのはウォーグルであった。
観客達は呆然とする。
キョダイマックス化したポケモンを一撃で倒すとは。
しかもヤローが出したのは本気のポケモンだったというのに。
だが現実は変わらない。
戦いの決着はついた。
トウヤの勝利である。
「お疲れ様、ウォーグル」
相手の本気の一撃を真正面から受け止め、自分への反動ダメージもある技を使ったウォーグルに労りの声をかけてボールへと戻す。
「まさかタルップルを一撃とは!さすがイッシュ地方から来たトレーナーですね」
同じくタルップルをボールへと戻したヤローがトウヤに近づいてきた。
「ありがとうございます」
「ちょっと卑怯かと思いましたが、一体だけ本気のポケモンだったんですがまさか一撃とは」
「相性有利でしたから」
勿論、それだけではないとヤローは分かっていた。
自分のタルップルを遥かに上回る程に鍛えられたウォーグルでなければ成し遂げられない一撃だった。
「次は最初から全力で戦いをしたいですね」
握手を交わす二人。
そしてトウヤの手には真新しいくさバッジが手渡されていた。
「強すぎるぞ……」
「はい。まさかキョダイマックスのタルップルを相性有利とは言え一撃で倒すなんて……」
モニターで観戦していたホップとユウリが慄く。
ジムリーダーのポケモンを一撃で倒せるチャレンジャーなんて見た事がない。
だからこその驚愕と戦慄。
しかしただ一人だけ、違う感情を抱く者がいた。
「……マサル?」
ユウリの視線の先には未だにモニターを見上げるマサル。
だがその表情は驚きも恐れも抱いてはいなかった。
笑み。
あれ程の強さを見せつけられたのにも関わらずマサルは笑みを浮かべていた。
それを見てああ、とユウリは納得する。
やはり自分の間違いではなかった。
彼が、彼こそが世界の頂点に到達できるトレーナーなのだと。
ユウリは改めて納得するのであった。
次回、4月7日予定