「……で。
この中にアウラが居るんだな?」
岩盤を刳り貫いて掘り抜かれた見事な造作の回廊において、自身の身の丈の三倍ほどはあろうかという巨大な岩の扉を前にアインズは尋ねる。
「は、はい、そうです、アインズ様。」
と申し訳なさそうなマーレ。
その隣では、やはりエントマが視線のやり場なさ
アウラ、マーレ、エントマからなる非知的動植物相調査組の探索は遂にトブの大森林を突破し、その北方に聳えるアゼルリシア山脈にまで達した。
必ずしも原生林全域の
その過程でわかったことだが、鉱脈の一部には随分と昔に何者かによって鉱山として採掘されていた形跡が見られた。遺棄されてからかなりの時間を経てはいるようだが、
そして今朝の話になるが、さらに山脈の奥へと探索を進めていた三人は、山肌に長く使われた形跡はないが明らかに意図的に隠蔽された、古い隠し通路の入り口を発見した。
慎重論を説く弟マーレに対し、冒険好きの姉アウラは「誰にも会わなければ問題ない」と探索を主張。こうなると押しの弱いマーレにアウラを翻意させるのは不可能で、万全の<
通路は、始めのうちは小柄な三人でもやっと一人ずつ通れる程度の幅しかなかったが、いくつかの枝道が合流する都度に幅も高さも増していって、ついには
これは地下都市の類だ。
三人は、互いに言葉を交わしたわけではないが、誰彼となくそのように理解した。
この時点で、アウラもマーレも、この回廊の大きさに見合う竜の気配を複数感じ取ってはいたが、それらは百レベルNPCである二人からすればさしたる脅威を感じるほどのものでもなかったため、見咎められるまでは探索しても差し支えなかろうと突き進むうちに、開かれた巨大な岩の扉で区切られた部屋を発見した。
驚いたことには、二十メートル四方はあろうかと見えるその部屋にはうず高く金銀財宝の類が積み上げられており、無防備なことこの上なかった。アウラは、やはりマーレが止めるのも聞かず、いくつかアインズに持ち帰るのだ、と中に入っていった。
マーレとエントマは、やきもきしながら外で待っていたのだが、ややあって突然巨大な岩の扉が音も立てずに動き始め、あっと言う間に閉じてしまった。慌ててエントマが<
ここに至ってマーレとエントマは、
「まぁ、何だ。
三人揃って閉じ込められなかっただけでも御の字じゃないか?」
少なくとも三人の行動は、件のチェックリストの戒めを何一つ破っていない。中に居るアウラにしても力づくで出て来れないはずでもなかろうに、敢えて大人しくしているのは、
<万が一行動不能に陥った場合は、たちまちに生命の危険がある場合を除き、無理をせず救援を待つこと。>
と定めたものに従ってのことに違いない、とアインズは判断している。
「マーレとエントマが好奇心に釣られず、こうして外に踏み
とフォローするも、二人はしょげたままである。
もし、この扉が
アインズは、この扉は侵入者の動きとは無関係に時限性で開閉を繰り返すものではないか、と推察している。似たような仕掛けが、アウラのように罠を見破る能力に長けたプレイヤーの裏を欠くべくユグドラシルの
元はこの扉は開いていたというのだから、その時間さえ経過すれば再び開きはするのだろう。
(さて、どうしたものか?)
アインズにしても、力づくでこの扉を破壊するのは容易い。
しかし、中に財宝があったというマーレたちの話を鑑みるに、これを打ち破ればやっていることは押し込み強盗の類だ。ユグドラシルの地下迷宮なればそれは至極当然の行為、ということにもなろうが、こちらの世界でそれを平然とおこなうのは流石に気が引けたし、そもそもはこちら側の軽率な行為から始まったものだ。
空飛ぶよろい、変な竜、ツアー。
マーレたち同様に、アインズも<
「ツアーは妙な奴だったが話は通じた。
こちらのドラゴンがああいう感じなのであれば、まずは
と意を決したアインズは、マーレ、エントマともども<
*
「お話、確かに承りました。準備は整えておきます。」
ふぅ、と守護者統括アルベドは溜息をつく。
「あのお転婆娘にも困ったものね。」
無論、彼女の言うお転婆娘とは、地下都市の
今しがた、エントマからの緊急報を受け急遽救援に向かったアインズから、経過と事後の対応の指示を<
「もう一人のお転婆娘にも差配しておかないと。」
と、彼女はナザリック第一階層で待機するシャルティアへ使いを送る。
ちなみに、アインズがシャルティアに直接<
この場合、銘々がシャルティアに
やはりこれもギルド、アインズ・ウール・ゴウン時代からのギルメンたちの緊急事態対処の習慣に由来するもので、たとえば、戦闘中の
え、それはトリアージュじゃないだろって?
その通り、これは困ったちゃんの扱い方の話だ。
少しして、息を切らしつつ……
アルベドは、強いてシャルティアの
「するとあちきは、アインズ様とドラゴンの交渉が不備に終わって状況が悪化した場合、突入してチビ助を回収すればよろしいのでありんすか?」
「その通りよ。」
「その場合は、その魔法が込められた扉は突き破ってしまって構わないのでありんしょうか?」
「アインズ様からは特にご指示はなかったけれども、そういうことになるわね。」
「しかし、チビ助にも困ったものでありんすね。このようなことでアインズ様のお手を煩わせるなんて、あり得ないことでありんしょう!」
「とは言え、
あなただって……アウラを心配したからこそ、こうして大急ぎで駆けつけたのでしょうし。」
ズバリを言い当てられてシャルティアの瞳がまん丸に開き、頬が赤く染まる。
「……そんなわけ、ありんせん!」
とまれ、こうなった以上は事態が解決するまでシャルティアはここに待機してもらった方がよさそうだ、と判断したアルベドは彼女に席を勧め、今日の執務室当番だったインクリメントに、シャルティアを欠く第一階層の警戒レベル強化の伝令と二人分の紅茶の用意を頼んだ。
「……おんしも気苦労が耐えやせんのぉ。」
ぽそりとシャルティア。
シャルティア叛逆……その実は自室への立て籠り事件に際しては一触即発の雰囲気も醸した二人だが、不思議とその後の関係は良好だ。アルベドは、アインズが<
「そんなことはないわ、シャルティア。
これこそ大事なお役目ですもの。」
と微笑んで返す。
対するシャルティアは、表立ってはアルベドに対して不満はないが、不安はある。
シャルティアは、自身のポンコツ具合に自覚がないほどポンコツではない。が、アルベドも、自分ほどではないが大概ポンコツだ……だったはずだ、と思っていた。が、ここ最近のアルベドは、こうして思わず自分が気遣いの言葉をかけたくなるほどに、何というか、見違えるほど腰が落ち着いているように見える。
それが何を意味するのか?
「……おんし……おんしはひょっとして」
と言いかけたところで扉がノックされたので、シャルティアは思わず口を噤む。
「インクリメント……にしては早過ぎるわね。」
「シクススです。司書長ティトゥス・アンナエウス・セクンドゥスがお目通りを願っておりますが。」
と執務室の扉の外から、インクリメントから秘書業務を一時引き継いだシクススが告げる。
「構わないわ、お通しして差し上げて。」
すぐに扉が開き、ナザリックの知識の保管庫、
「お久しぶり、アルベド。おや、シャルティアもご一緒とは珍しい。」
二本
「ご機嫌よう、ティトゥス。あなたが図書館を出て来るなんて珍しいこともあるものね。」
アルベドも満面の笑顔で応える。
シャルティアは何が気に食わないのか礼を返さず、ただソファーに座ったまま片手を挙げて応じたのみだ。
「あぁ、たまにはいいものだね。お陰でこうしてナザリックの
「アインズ様が作戦中で、私たちは支援待機で連絡待ちよ。」
ティトゥスは軽く腕を組んで首を傾げる。
「そうか……できれば最古図書館にご同道願いたかったのだよ。出直した方が良さそうだね。」
アルベドは、彼の口調から火急の用件ではなかろうと判断するが、自分を最古図書館に誘う動機がたちまちに思い浮かばず、好奇心からその理由を尋ねた。
「本当はアインズ様にお伝えしたかったのだが、今日のアインズ様当番に聞けば急にお出かけになったとか。それで取り急ぎ
「……何を、かしら?」
司書長であるティトゥスは、最古図書館の所蔵物に対して完璧な知識を有しており、求められれば即座に資料の所在を特定し提供することが出来るが、それはユグドラシル時代に最古図書館が作られた時点で設計段階から組み込まれていたものに限られている。その後、ギルメン、彼らNPCが呼ぶところの至高の方々が銘々好き勝手に持ち込んで置いていったものはその範疇ではない。
アインズが最古図書館にギルメンの作戦チェックリスト原本を探しに訪れたことがきっかけとなり、ティトゥスは自身の知識の範囲を越えて図書館に存在している文物の完全な目録を整備したい、と考えるようになった。そして、他にやることもないので、その作業は現在も配下の司書
「妙なものを見つけたのだよ。やたらと大きくてね。運べなくはないが、来てもらった方が早いんだ。」
「大きい……ということは、それは書物ではないの?」
不思議そうにアルベドはそう尋ねる。
「いや、それが書物ではあるのだよ。巨大な、鍵のかかった書物だ。」
「鍵のかかった巨大な書物?」
「あぁ、しかも『アインズ・ウール・ゴウンの
*
「……といった次第で、オレの仲間におまえたちに対して失礼があったことは詫びたい。
その上でだ。」
とアインズは言う。
地下都市の
濃厚な
回廊は幾度となく分岐した後、俄に地下とは思えない巨大な空間へ辿り着いた。
そこはおそらくはかつて評議場か何かであったと見え千人規模の集会が開催可能な広さがあったが、そこに据えられた石造りの座席は人間向けのサイズにしては少し小さく、その施設を建造した何者かが少なくとも今目前にいる白い竜たちではないであろうことは、容易に想像できた。
「
もちろん、おまえたちの宝物に手は出さないし、必要だと言うのなら詫びに何かくれてやっても構わない。」
不意に背後から不満の
後ろに控えたマーレはあからさまに「こ、こんな連中、潰せばいいと思います」という顔をしているし、エントマに至っては
(……喰うのか、
とアインズは眩暈を覚える。
そういえば、ナザリックの食堂にドラゴンステーキとかいう何やら物騒な名前のメニューがあったような気がするが、美味いのだろうか。食事の摂れないアインズには関係ない話ではあるが……いや、香りだけなら楽しめなくも……
いかんいかん!
今は目前の竜に集中すべきときだ。
そして、穏便に済むならそれに越したことはない。
アインズがそんなことを考えているとは
それが合図であったか、彼を取り巻く計十数匹の
「ではまず、その装束を脱げ。」
「はぁ?」
オレの裸……になるよな?……そんなもん見たいか、フツー?
「ひ弱な
対価は払うのだろ?
まずはそれを置いていけ。」
アインズとしては、彼らがマーレに撲殺されるのを防ぐべく気を
「……オレなりに気を
取り返しのつかないことになる前に、手打ちにした方がいいと思うぞ。」
だが、アインズの気遣いはオラサーダルクにはまったく通じなかった。
ガッハッハ、と大笑いするや全力で辛うじて彼の生命を支えていた
「強い者が弱い者から奪うのは自然の
そんなこともわからんのか、脳味噌を欠く
脳味噌が探しても見つからないのは事実なので、そのことに対して今さら立腹したりはしないアインズではあったが、ここまで裏付けのない自信を披露されるといささか苛立ちを感じないでもない。
「……あー、こちらとしては穏便に済ませてやりたいんだが。
これが最後の
やはりオラサーダルクはよほどアインズの言葉がおかしいらしく再び、ガッハッハ、と笑う。周囲の
「
「……そうかい、気が合うな。」
オラサーダルクの胸が大きく膨らみ始める。
「おまえたち、手出しは無用だ。」
とアインズは背後の二人に告げる。
「
「は、はい!」
いつものように、この場においても彼らは真名を部外者の前では漏らさぬようにしている。マーレはすぐに
刹那!
オラサーダルクの凍てつく
だが、しかし。
アインズは凍りつくどころか、最初の立ち位置から微動だにしない。
それを認めたオラサーダルクは残る力を振り絞って更に吐息に力を込める。
「……ガハァ!」
遂に息が切れ、ひゅるるるる、と再び息を吸い込み始めるが、これが彼のこの世での最後の吸気となった。
「<
突如
ややあって、さきほど吸い込みかけた息が鼻の穴からぴゅるるる、と間抜けな音を立てて抜け始めたので、巨大な心臓を握りつぶした満足感も手伝って思わずアインズはフフと
見回せば、さきほどまでお
「さて、
誰からも返事がない。
「オレは、誰かが開けてくれるまで一匹ずつ屠っていくような野蛮な真似は嫌いなんだが、そうせねばならんのなら、遠慮する理由はないぞ。」
「お、お待ち下さい!」
居並ぶ
「
(やはりそうか。)
とアインズは得心する。
「この間抜けは言ったな。
強い者が弱い者から奪うのは自然の
アインズは既に物言わぬ骸と化した霜の竜の王を指差す。
「それがおまえたちのルールならば、オレもそれに従うまでだ。
扉が開くのを待ってなどいられないので、勝手にブチ破らせてもらうぞ。
中身は貰っていくが、構わないな。」
「ご、ご随意にどうぞ。どうかお納めください。」
小太りの竜……見れば何の
(……結局押し込み強盗になっちゃったじゃないか!)
とアインズは内心毒づく。
そして、今一度「空飛ぶよろい、変な竜、ツアー」と書いた件のメモを取り出し、
「やはりおまえは変わり者だったんだな、ツアー。」
と独り呟いた。
*
「さぁ、みなさぁん。気を付けて運んでくださいまし。」
地下都市
戦闘能力的にはいずれも遜色ないながらも性格にそれぞれかなり癖のある彼女たちの中にあって、存外器用で何でもこなしよく気の回るソリュシャンは、最近ではこんな具合にシャルティアの<
本人にはいろいろ思うところがなくもないようではあるが、
結局、件の魔法の岩の扉はシャルティアが力任せにブチ抜いた。
扉の破壊具合から誰が救出に来てくれたかを即座に悟ったアウラは、土下座状態で待ち受けていた。
「……心配させるもんじゃありんせん!」
思いのままに罵倒してやろうと思っていたのに、そのあまりにしおらしい様子に気勢を削がれ、シャルティアはただ頬を薄く赤く染めつつ言い捨てるのみだったという。
「申し訳ありませんでした、アインズ様。」
「まぁ、そう
ともかく無事でよかった。
こうして救助されたのは、マーレとエントマの冷静な判断、そしておまえのことを誰よりも心配して駆けつけたシャルティアのお陰だ。後でそれぞれに礼を言っておけよ。」
アインズは上機嫌だったので、アウラにはそう告げたのみだ。
と言うのも、
さりとて、これはあくまでも臨時収入。このような収益手段を常態としてはアインズ・ウール・ゴウンの名が
(いや、たまにはいいかも。)
「アインズ様!」
「うぉ!」
不届きなことを考えたまさにそのタイミングで声をかけられたため、誰かに己の
「……なんだ、シャルティアか。」
「お声がけすると、不味かったでありんすえ?」
「……いや、構わん。
で、何だ?」
「アルベドから
司書長ティトゥス・アンナエウス・セクンドゥスより火急に言上申し上げたき段ありにつき、こちらの収拾がついたらなるべく早くお戻りください、とのことでありんす。」
後始末をシャルティアたち……ソリュシャンもついていることだし大丈夫だろう……に任せたアインズは一足早くナザリックへ帰還し、そのまま第十階層の
出迎えた司書長は、足早にアインズを最奥の閲覧用個室へと案内する。
「こちらが問題の
閲覧机の上に、アインズが両手を真横に広げて丁度横幅ほどになる巨大な革張りの本が置かれている。
表紙表題には『アインズ・ウール・ゴウンの
「これはどこで見つけたんだ、ティトゥス?」
「とある書架の直下の床下に隠し扉が御座いまして、その中からで御座います。」
「発見や取り出しに際し、何か
そう問うアインズの念頭にあるのは、ギルド随一の問題児と誰からも
彼がナザリックの随所に他のギルメンに秘密のまま設置した
「いえ、特段そのようなことは御座いません。
ただ隠されていただけで御座います。」
とティトゥス。
であれば、ひとまずるし★ふぁーは無関係だろう、とアインズは思う。
あいつがコレに関わっていたのなら、現時点で何も被害がない、などというはずはない。
日誌の革張りの表紙には、丁度胴巻きのように金細工のベルトが施されており、鍵穴が施された装具が添えられている。
しかしアインズには、既にこの鍵を穏便に解錠する方法の目星がついていた。
表題の背景に、表紙全体を埋め尽くすようにギルド、アインズ・ウール・ゴウンの紋章が浮き彫りされていたからだ。ギルドの紋章と対を為すのはギルド武器、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンであると相場が決まっている。
スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンは、転移後は厳重保管のため第八階層桜花聖域にて戦闘メイドの一人、オーレオール・オメガに護らせているが、これをナザリック内とは言え持ち出すとなれば細心の注意を要する。
そこでアインズは、撤収中のアウラたちを含め、外に出ている全階層守護者に即時撤収と最大級の警戒態勢で待機する旨を命じる。いささか大袈裟な気がしないでもないが、万が一の破損がナザリック地下大墳墓の崩壊に繋がりかねない至宝を扱うに際し、この程度の手間を惜しむ理由はない。
準備が整って、改めてアインズはギルド武器を携えて閲覧室を再訪した。
念には念をいれて、
スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを恭しく
輪をかけて
この場合、ギルドの紋章旗を知るものであれば暗号化を解いて中身を読むことができる。そんな暗号化に何の意味があるかと言えば、この情報は間違いなくギルド、アインズ・ウール・ゴウンから発せられたものだ、ということを証明するためで、ゲーム時代はギルド間の虚実入り交じる情報戦に用いられた仕様になるが、この仕様を理解できるプレイヤーがあまりにも少なかったため機能としてはほとんど忘れ去られていた、とアインズは記憶している。
そして、そのような性格のものであるがゆえに、ギルド武器には自身の利用履歴が記録されており、その正統所有者であるアインズは漏れなくそれを辿ることが出来るが、アルベドのフレーバーテキスト改竄をその末尾に記す利用履歴の中にも、やはりこの
そんなことが出来るのは……
重厚な表紙を開くと、まず目次が目に入る。
目次は、
どうもこれは、同一の記録を視点を変えて参照可能なものと見え、
とりあえずは、と
「ここに、ギルド武器スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを定め、地下墳墓ナザリックは、本日只今よりギルド、アインズ・ウール・ゴウンの拠点、ナザリック地下大墳墓と呼称することを宣言する。」
これは、まさに自身がおこなった公式のギルド設立宣言だ。
つまり、この日誌はギルド設立から記録が始まっていることになる。
魔法的な力が作用していると見え、アインズが最終頁を読みたいと願うと、パラパラパラと紙面が走り望みの頁が開く。
そこには、アインズがアルベドのフレーバーテキストに対して適切な権限を行使して
「……なんてことだ!」
ゲームとしてのユグドラシルには、公式には
アインズは、おそらくはこの
その根拠は、この日誌の解錠と暗号化にスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを要したことだ。
もし、これが誰でも閲覧可能なものであれば、他のギルドの者が盗み出すことで対立ギルドの秘密を悉く詳らかにすることが可能となり、決して評判の芳しくなかったユグドラシル運営とは言え、そこまで全ユーザーを敵に回すような
一方で、ギルド武器を所有する者のみが閲覧を許可できるのであれば、これはまさに文字通りの
アインズは、これが
もっとも、最早真相を知る手立てはない。
「読み出すと……止まらなくなるよな、きっと。」
自分には疲労も眠気もなく、寿命すらない。
これを読み始めてしまったら、際限なく読み続けることは容易に想像がつく。
過去に捕われて、今共にある仲間を放置するのは……
しかし、やはりその欲には、三大欲求のないこの体とて抗することは叶わなかった。
「少しだけ……ならいいよな?」
と自分に言い聞かせ、
最初に止まった頁は、ナザリック
記録は、基本的には発言そのままの台詞と無味乾燥なト書きの体裁を採っている。場所別の章の目次立てからすると、玉座の間と円卓の間で交わされた会話、誰がそこに居たか、何が為されたか、がその対象のようだ。ギルドの各種設定作業は玉座の間でおこなわれるので、その全記録がここにあることになる。逆に、ナザリックの外や
「……というか、コレ、かなりの部分をタブラさんの
そう考えると不意に可笑しくなってきて、フフとアインズは笑いながら、つつつと目線を走らせる。
嗚呼、憶えているぞこの話!
タブラさんは、こういう神話の話が大好きで、皆はうんざりしていたけれどオレは結構好きだったんだよな……ん?
まさか、そんな!
いや、何かの偶然かも知れん。
アインズは人物別章のタブラの節を開き、やはりパラパラと適当な頁を開いてザッと目を通す。
……そんなことがあり得るのか?
何か……何かこの疑問を検証する手立てはあるか?
いっとき考えたアインズは、もっとも空恐ろしい方法を思いつき、それを自身に試み、そしてその結果に、泣けない体に心で泣いた。
いや、結論するには早い。
思いに囚われすぎて客観的に状況を把握出来ていない可能性もある。
たっち・みーは、しばしばそれで
検証する方法は……
アインズはやおら
そしてしばらく、そこに何やらたくさん書き綴り続けたのである。
*
「最近、シズちゃん見ないよね?」
とデクリメント。
「そうね、寂しいわね。」
とフォス。
ここはナザリックの大食堂。
「あら、知らないの?
アインズ様よ!」
とシクスス。
「え?
でもアインズ様はアルベドと!」
とフォアイル。
「……あなたね、アインズ様を何だと思っているの!」
とリュミエール。
「そうよ、フォアイル。
シズちゃんはね、アインズ様から特別任務を仰せつかって
と再びシクスス。
「シズ・デルタ。
思えばおまえには可哀想なことをしている。
ナザリックのすべての
「……アインズ様が詫びる必要、ない。
それこそが私のお役目であり、私の幸せ。」
「あぁ、おまえがそう言ってくれることは知っている。知っているからこそ詫びさせてくれ。」
「……アインズ様……うれしい、ありがと。」
シズはナザリック全NPCの中では異色の
今、アインズが検証したい、と考えている仮説の立証に、シズはまさにうってつけだった。
「そしてオレは、さらなる秘密をおまえに押し付けようとしている。しかし、これを確実にこなせるのはナザリックの
「……アインズ様。」
「やって欲しいことはさきほど説明した通りだ。わかるか?」
「……承知。」
アインズは、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを振り翳し、再び『アインズ・ウール・ゴウンの
「おまえに閲覧の許可を与える。
ただし、その内容については当然のことながら他言無用だ。
ここに書かれていることを漏らせば、それはナザリック崩壊の危機に繋がるものと心せよ。」
「……はい、心する。」
「この任務が完了するまで、おまえはここから出ることが出来ない。
ペストーニャをおまえの専属として付けるから、必要なものは彼女に頼むといい。
が、ペストーニャにも、おまえが何に取り組んでいるかは決して語ってはならない。」
「……はい、語らない。」
「そして、こちらが
とアインズは紙束をシズに手渡す。
「これもまた秘密中の秘密だ。
ナザリック最奥のここにいる限り危険はないものとは思うが、万が一の際は確実に破棄するように。」
「……はい、破棄する。」
「もう一度おまえに詫びよう。
おまえは封じられたものとなるだろう。」
「……シズは封じられたもの。」
「そうだ。
誰も知らない秘密は存在しないのと
秘密は誰かが知っているからこそ秘密であり、知っているものはその秘密ゆえに封じられる。」
「……シズはナザリックの秘密を封じるもの。
そして、封じることこそ私がナザリックの皆に捧げる愛、そして私の幸せ。」
「シズ……」
「……だから、アインズ様はそんな悲しい顔をしないで。」
「あぁ、そうだなシズ……おまえの言う通りだ。」
アインズはシズを強く抱擁し、後ろ髪を引かれぬよう素早く退出した。
打てる手は打った。
シズの愛の献身に応えるためにも、オレはオレの好きなようにやらせてもらうとしよう。