反響が良ければ続きます(多分きっとメイビー)
二次創作の方を楽しみにしていた方々は......そのぉ......
すみませんm(_ _)m
「っは......っは......」
「逃すなっ!追え」
薄汚れた路地を動き回る複数の影。先頭を走るのは、塵溜めには不釣り合いな程綺麗な制服の様なものを纏った黒髪の男。名は至紀。彼は今、薄汚れた服装の集団に追われていた。
「どうしてっ......こんな事になるかなぁ......」
時折飛んでくる鉛を既の所(すんでのところ)で避けながら駆けていく。しかし運命とは厭なもので。
チンッ
一人が撃った銃弾が跳弾、至紀を目指して跳んでくる。
「嘘だろぉ......」
至紀は無理にでも弾を避けようと体を捻る、と同時に段差に足を取られ転倒する。
「くっ......ここまでかな」
ジリジリと間合いを詰めてくる暴徒達。至紀は尻餅をついた状態で後退りするも、両者の距離は少しずつ狭まっていく。彼らは街灯を背にしており、逆光で表情は読み取れない。先頭の細身な男が両手を広げて大仰に言う。
「ちょこまかと逃げ回っていたが此処までの様だね。無駄な足掻きはよしたまえよ。
さて、どう落とし前をつけて貰おうか」
男の後に方々に散っていた仲間が続々と集まっていく。これは絶体絶命ってやつかな。危機的な状況下にあるにも関わらず、未だに実感が湧いていないらしい。なんて肝が据わっているんだ、僕は。心の中で自嘲気味に呟く。
「どうしたんだ小僧。さっきまでの必死さは何処にいったんだ。なぁっ、答えろよ!」
目の前の男は、窮地に追い詰めた筈の相手が無反応なのが気に食わないのだろう、語気を一層強める。路地の隅にあった空き缶が宙を舞う。これは簡単には死ねないな。乾いた笑いが漏れる。
その時だった、一筋の光が目の前を過ぎ去たのは。光は男の顔に横一文字に赤い線を残して霧散する。直後、男は糸の切れた操り人形の様に崩れ落ちた。赤黒い果実は綺麗に分かれ、濃密な死の香りを漂わせていた。一瞬の出来事。誰も彼もが幻覚を見ている心地だった。
カランッ コロンッ
その場にいた者全ての注目を集めたのは、奴等の対面、即ち僕の後ろから聞こえる雅な音だった。音は次第に大きくなって行く。廃れた路地には似合わない凛とした音。建物の影から姿を現したのは、腰まで伸びる漆黒の絹糸に二つの翡翠を持ち、鮮烈な白のジャケットを纏う少女だった。否、女神とでもいい仰せようか。兎にも角にも異質なものが、そこにはいた。
「まずは、一人」
無表情で呟く少女。人一人を殺めた後とは思えない程穏やかな表情だった。僕の隣に立った少女は、両手の袖から鈍色の延べ棒を出し握る、と同時に周囲から光が溢れ出す。モノクロの路地に色とりどりの燐光が舞う。それは光が命を宿したかの様だった。やがて光は収束し、次第に棒の延長線上に刃を形成する。恐ろしく神々しい光景だった。やがて光は薄れ、路地は元の色を取り戻した。
次の瞬間、静止していた少女が前傾し跳躍。刹那、空間に無数の光の筋が迸る。光は立ち竦んでいた暴徒に容赦なく襲い掛かる。肉を裂き、骨を断ち、血を撒き散らす。不可避の蹂躙、一方的な虐殺。彼女が地を離れてから静止するまでのほんの一瞬で、路地一帯は真っ赤な花園へ変貌した。少女は中央に静かに佇んでいる。返り血を身に纏った彼女はまるで一輪の彼岸花の様で美しかった。
正直に言おう。僕は彼女に見惚れてしまったのだ。
彼女が迫って来る。顔に一切の表情を宿さずに。一歩、また一歩と近づいてくる。地面を擦った刃がキィイと鳴く。ゆらゆらと、幽玄の様に近づいてくる。命をもうすぐ刈り取られるかもしれないというのに、僕は彼女から目を離すことが出来なかった。彼女は怪訝な顔をしながら、音もなく刃を上げ僕の鼻先に突きつけ言う。
「お前は一体、何者だ?」
――
彼女――櫻坂桜はむすっとした顔で、ベッドに腰掛けた僕の鼻先にチョコバーを突きつける。
「チョコバーだ。食べるか?」
僕は突然の事に呆気に取られながらもチョコバーを受け取り、一口。
「うまいな、下にもここまでのものがあるんだな」
僕の感嘆を聞いて、彼女は顔を背ける。そしてぼそっと、
「それ、私の手作りなんだけどな......」
二人の間に流れる独特な緊張感。気まずい。
どうしてこうなったのか、僕にも分からない。あの後何があったのかと言うと――
「お前は、一体何者だ?」
冷や汗が一筋、滴り落ちる。濃密な殺気は僕を答えに窮させる。下手に答えればその瞬間、僕の頭は胴体とおさらばするだろう。本当に嫌になるなぁ。一向に答えようとしない僕に痺れを切らしたのか、最後通牒だと言わんばかりに、
「答えろ、さもなくば......首を落とす」
と刃を横にし、僕の首に添えた。そして首筋を伝い始める血。遅れてやって来た痛みが僕を再起動する。
「僕は......上から来たんだ。と言っても、突き落とされただけなんだけどね」
そう言いながら僕は上を見上げる。空には複数の巨大な影が聳え立っていた。其れ等は四十年前、極度の人口集中を起因とした過度な住宅不足を解決するために『魔女』と呼ばれる超能力者を数多く擁する拡大派を名乗る集団を中心に作られた新たな形の都市。通称新東京2000シリーズ。それらは地上から反り立つ何本かの巨大な柱を軸にし、そこから四方八方にさながら針葉樹の枝の様にコンクリの支柱が生え、更にその支柱に垂直に長方形の箱を並べて居住区としたもの。
そこに住めるのは彼らの賛同者のみ。住む事が許されなかった人達は未だ破壊されずに残っている部分を利用しているそうだ。今僕が詰められているのもその一画の様だ。
「本当かよ、それ。どうしてそれで死んでないんだ」
「そんなこと言われても僕には分からないな。こっちに来てから多分だけど、数時間しか経ってないからな」
彼女は呆れながらも刃を散らし、壁にもたれ掛かかりながら言った。
「化け物染みてるな」
「君にだけは言われたくないけどね」
「ふっ、それもそうか。で、これからどうするつもりなんだ」
「これからって言われてもなぁ......」
本当に困った。一文なし且つ食糧もない。その上今晩寝る場所すら確保出来てない。これ詰んでるんじゃないか?もしかして家に来るかって誘われるんじゃぁ......そんな事を考えていたら、彼女がこんな提案をして来た。
「なら家に来るか?こんな所だから綺麗では無いけどな」
「もしかして顔に出てた?」
思いもよらぬ提案に内心喜びつつも、こんな事を尋ねると。
「ああ、お前が思っているよりもかなりな。それで家に来るのか?」
「是非とも行きたい所なんだけど、男女二人が一つ屋根の下ってのは少し不味く無いか?」
遠慮がちにそう言うと、不思議そうに聞き返して来る。
「お前、そんな度胸ないだろ。それにオレがお前に負けるとでも思ってるのか?」
それもそうだ。此処は大人しく従うべきだろう。そうだねと言い塵を払いながら立ち上がる。同じ目線、いや、少し上の目線に立って分かった。こんなに小さかったのか。160無いんじゃないのか。そんな事を思っていると。
「小さいな、とか思うなよ。此処では高い方だからな。お前が高すぎるんだ」
目を吊り上げながら言う彼女を見て、思わず吹き出してしまう。
「おい、何笑ってるんだ。そんなに可笑しかったか」
「いや、君みたいに強い子でも身長を気にするんだなって。......そう言えば名前を聞いてなかったね。僕は至紀。苗字は忘れたけどね。君は?」
「......そうか。私は櫻坂桜だ」
お互いに自己紹介をした後に僕が差し出した手を訝しげに見る桜。
「......おい、これはなんだ」
「握手だよ、握手。簡単に言うと、これからよろしくって事だよ」
「上には変な習慣があるんだな」
そう言って勝手に歩き出してしまった。せっかく慣れない説明までしたのに、彼女はこちらの手を握ってくれなかった。信頼までは、されてないんだな。そんな事を思いながら桜の後を着いていく。
小一時間程廃墟を彷徨い(至紀基準)、ある六階建ての建物の前で桜は立ち止まった。
「此処が桜の家......なのか?」
「不満か?」
「いや、そういう訳じゃなくて」
家っていうより、集合住宅の大きさなんだよなぁ。家なのは間違いないんだけど......。引き攣った笑みを浮かべていると、
「あぁ、そう言えばもう一人此処に住んでるからな。言い忘れてたけど」
「えっ、聞いてないんだが」
「そりゃ言ってないからな。安心しろ。少し変わったところがあるが、私の妹みたいなものだから」
僕の驚きをよそに桜は妹の話を続ける。曰く、天使の様に可愛いだの、料理がとても美味しいだの、笑顔がやばいだの。この殺伐とした箱庭に於いて、桜にとって唯一の癒しなんだろうな。そんな事を思っていると。
くぅ〜
僕のお腹の虫は我慢出来なかったらしく、情けない鳴き声をあげてしまった。それを聞いた桜は意地悪そうに笑うと、
「早く家に入ろう。きっと義妹が何かを作って待っている筈だから。......お前にも人間らしい所があるじゃないか」
そんな事を言われた。人間らしいってなんだよ。喉元まで出てきていた言葉を飲み込む。しかしどうせならかっこいいって言われたいんだけどね。とは思いつつも、彼女に従い建物の中に入っていく。すると突如頭痛と眩暈に襲われる。きっと疲れているんだろ。そう思いながらも桜について行く。いつもいる部屋は一番上らしい。中庭を突っきり、中庭に面したX字状の階段を登り始めた。中庭には綺麗な鈴蘭が咲いている。それに見惚れていると。
「花に見惚れてないで行くぞ。それと、所々綻びてるから気をつけろよ」
「忠告ありがとう。でも大丈夫だと......」
桜からの忠告を受けながら片手間に手摺に手をかけると、パキッと音を立てて折れた。目を白黒させてる僕に対して、桜は呆れ口調で言う。
「ほら見ろ」
まじかよ......
そんな事もありながらも階段を登っていく。僕は先程桜が話して事で気になった事があったので言った。
「ねぇ桜。さっき義妹が居るって言ってたけど、そういう事は早く言って欲しかったな。どうして言ってくれなかったんだい?」
責めるような言い方になってしまった。少し反省していると、間を置いて返事が返ってきた。
「......義妹は末那って言うんだが、中々訳ありでな。うっかりでも漏らしたらまずいから外では忘れる様にしていたんだ。特に今日みたいな......」
桜は振り返り目を細め言う。
「不審者が現れた時はな」
「さいですか.......」
そんな風に言われてしまうと何も言い返せない。しかし訳ありときたか。何か思い出せそうな......そんな思考も桜の呼び掛けられる事で停止する。
「なぁ至紀。そういえば記憶が朧げだって言ってたよな。不便じゃないのか」
そう、僕は記憶の多くを喪失してしまっている。覚えているのは自分の名前と下に来てからの記憶だけ。少し考えた後、僕はこう答えることにした。
「確かに昔の事が分からないのは不安だ。でも今は今日明日をどう生きていくかでいっぱいいっぱいだからね。余計な事を考えなくて済むから良いかなって」
少し寂しげな顔をした桜を見て、しまったと思ったが覆水盆に返らず。桜は小さな声で
「そういう......もんか」
と。暗い空気が漂い二人は黙りを決め込んでしまった。最上階につく。ロの字の廊下を向かいまで時計回りに進む。頭痛がすごい。痛みに耐えながら、桜の後を追い部屋に入る。すると目の前にひとりの可憐な少女が。虹色に輝く銀の髪に翡翠と白のワンピースを身に纏っている。形だけの笑顔を貼り付けて、
「桜が連れて来たから信頼できるとは思うけど一応聞かせて貰うわ。貴方は味方?それとも.......おじゃま虫?」
彼女は僕の瞳を覗き込んで言う。何かを見透かされる様で寒気がした。敵では無い旨を伝えると、
「安心したわ。私は末那」
と言って手を差し出して来る。
「あぁ、どうも。僕は......」
僕の自己紹介を遮って末那は言う。
「至紀でしょ。私には分かるんだから。他にも色々とね。例えば......」
全身が強張る。肺に入る空気は凍え、頭は眩む。なんなんだこの子は。僕は無意識に無邪気な笑みを浮かべる末那を畏れていた。やめろ、それ以上は。
「おい、末那。それはやめろと言った筈だ」
部屋の奥にいた桜はいつの間にか末那の隣にいて肩を掴み戒めていた。前にも言っていた事なのか、厳しめの語気で話す桜。その眼光の鋭さは、先の襲撃者を鏖殺した時並みだった。
一方、叱られた側の末那は悪びれた様子もなく話を続ける。
「だって、あまりにも彼の記録が面白いんだもの。色々あったんでしょうね、特に上で。でも私は言うつもりはなかったわ。それは貴女が一番分かっているでしょうに」
意味身長な事を言う末那。僕は慎重に尋ねた。
「君は一体......何を、どれだけ知っているんだ」
末那ははみかみながら一言。
「さぁね。私はこれ以上は言わないわ。だって興醒めだもの」
そんな言葉を残して部屋の奥へと引っ込んでいく末那。彼女の存在の衝撃に圧倒され立ちすくんでいると桜が申し訳なさそうに、
「不快な思いをさせたならすまないな。末那は悪気なんてないから許してやって欲しい」
桜にそんな事を言われたら断れる訳無いじゃないか......
「別にいいよ。小さな子供は、大抵地雷を余裕で踏み抜いて来る事ぐらい知ってるしね」
「そうか。なら助かるよ」
そんなこんなで僕の不可解で奇妙な第二の暮らしが始まるのであった。
多分続くかも