第一話 デスゲーム
ザシュッ! バリィィン!!!
その音と共に、猪方モンスターがガラスの片のようになり崩れていく。
(すごいな、本当に剣を振ってるみたいだ!)
『SAO』へのダイブから40分、俺は深い感動に見舞われていた。
剣を握る感触、剣の重さ、それらがとても精密に再現されていたからだ。
俺はダイブしてから10分間程、体の動きに問題がないか確認して、そのあとすぐ武器を買ってフィールドに出た。今回、『SAO』を始めるにあたって、ゲームのことを最低限勉強し、その時は、まず街の探索を、と考えていたのだが、いざ入ってみると、そのあらゆる感覚のリアルさに驚かされ、剣の感触への興味が耐えきれず、両手剣を店で購入し、今に至るというわけだ。
(本物と比べてもあまり遜色がない。)
そんなことを考えていると、隣では片手剣使いの男が、曲刀使いの男に闘い方を教えているようで、曲刀使いの男が剣にライトエフェクトを纏いすごいスピードでモンスターに突っ込んで行く。片手剣使いの男は、闘いに慣れているようでアドバイスしている。
(なるほど、あれが噂のソードスキルか。)
『SAO』には『ソードスキル』というものがあり、剣技の型、必殺技のようなものを特定の動作をすることで発動できるらしい。発動中はシステムが勝手に体を動かしカッコいい動きが出来るらしい。勝手に体を動かす、というところが心配なのだが、
(物は試しだな。………どうやるんだ?)
試そうとしたものの、うまくいかず、思案したり、試すこと15分。
キュィィィィン
頭身が赤いライトエフェクトを放ち、
「お、いい感じか?」
ディシュン!!!
まっすぐ突っ込んでいき、猪を粉にする。
そのあと身体を動かそうとするが、動けず、1秒程の硬直に襲われる。
(なるほど、クールタイムがあるわけだ。威力の代償に硬直か………)
身体が勝手に動くというのも、そこそこ抵抗があるが、動きを覚えれば抵抗は無くせるだろう。だが問題はやはり硬直時間だ。硬直時間に攻撃されれば防ぐ術が無い。
(まぁ、ゲームだからな。仕方ないか。)
そう考え、他のソードスキルなどを色々試していると気づけば夕方になっていた。
(一回戻るか。)
夕日を眺めながら、右手の人差し指を上にスライドし、メニュー画面を開く。そこから一番下のログアウトボタンを押そうとするが何故か押せないようになっている。
(ん、なんかのバグか?)
「うおおお!?」
そう思った瞬間、身体が光に包まれ、気づけば、始まりの街の中心の広場、ゲームスタート地点にいた。
(どうなってるんだ?)
一切状況がわからず、顔を顰めてしまう。
周りを見回すと、次々と同じように光に包まれながらプレイヤーが集まっていく。
(初日だから、何かの…イベントってやつか?)
勉強したゲーム単語を頭から引きずり出していると。
光が止み、広場が人だらけになっていた。
(人多いな、強制ってことは全員いるのか?)
そう考えていると、空に六角形の赤いパネルのようなものが点滅しており、それが空一面に、ズラーーっと並び、不審感を漂わせている。そして、パネルとパネルの隙間から液体が漏れ出し、空中で巨大な顔の無い赤いローブの男を形作る。
「プレイヤーの諸君。私の世界へようこそ。」
赤ローブの男は、語り始めた。
「私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロール出来る唯一の人間だ。」
周りでは、「茅場?!、あの?」という声が上がっている。
確か、フルダイブ技術を開発し、ナーヴギアと『SAO』の製作者だったはずだ。
「プレイヤー諸君は、すでに、メインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気付いていると思う。しかし、これはゲームの不具合ではない。繰り返す、不具合ではなく『ソード・アート・オンライン』本来の仕様である。」
茅場を名乗る男は続ける。
「諸君は自発的にログアウトする事はできない。また、外部からのナーヴギアの停止、解除も有り得ない。もし、それが試みられた場合。ナーヴギアの信号阻止が発する高出力マイクロウェーブが諸君らの脳を破壊し、生命活動を停止させる。」
(ん…それって、つまり…死ぬってこと?)
あまりに淡々と変わらない口調で、サラリと発せられた言葉に、理解が追いつかなかった。
周りはその言葉にザワつき始める。
(そんなこと可能なのか?)
そう半信半疑になっていると、「信号阻止のマイクロウェーブの原理は電子レンジと変わらない。ナーヴギアもリミッターを外せばできないことはない。」という声が何処かから聞こえてくる。
(なるほどな…じゃあ、電源を切れば…いや、電源を切ってもナーヴギアには内臓バッテリーがある。意味はないか。)
「残念ながら、現時点でプレイヤーの家族、友人などが警告を無視し、ナーヴギアを強制的に解除しようとした例が少なからずあり、その結果、213名のプレイヤーが、アインクラッドおよび現実世界からも、永久退場している。」
さっきまで、ザワついていた者たちもその言葉に何も言えず黙り、広場に沈黙が流れる。
(213人って………………………………………大規模テロレベルだろ…)
「ご覧の通り、多数の死者が出たことを含め、この状況をあらゆるメディアが報道している。」
先程の発言の証拠だと言わんばかりにニュース映像やネット記事が巨大なホログラムに映し出される。
「このことから、すでにナーヴギアが外部から強制的に解除される可能性は低くなっていると言っていいだろう。諸君らには安心してゲーム攻略に励んでほしい。」
(ゲームを攻略させるのが目的なのか?)
「しかし、充分に留意してもらいたい、今後、ゲームにおいてあらゆる蘇生手段は機能しない。HPが0になった瞬間、諸君らのアバターは永久に消滅し、諸君らの脳はナーヴギアによって破壊される。」
(!?!?!!)
その言葉にただ目を見開き、何も言えなくなる。確かに、現実世界で死ねば生き返ることなんて出来ない、だが、これはゲームで、それが可能な世界。そのはずだったのだ。
「諸君らが解放される条件はただ一つ、このゲームをクリアすれば良い。
現在、君達がいるのはアインクラッドの最下層、第一層である。各フロアの迷宮区を攻略し、フロアボスを倒せば上の階へと進める。第百層にいる最終ボスを倒せばクリアだ。」
その発言に、「ふざけんじゃねーぞ」や「出来るわけねーだろ」という言葉が飛んでいる。
「では最後に、諸君らのアイテムストレージに私からのプレゼントを用意してある確認してくれたまえ。」
その言葉に俺はアイテムストレージを開くと一つ見覚えのないアイテムが入っていた。
「手鏡?」
オブジェクト化してみても、何処からどう見てもただの手鏡だ。
「なっ?!」
その瞬間、身体が先程のように光で包まれる。
「っく、…今度は何が………って俺!?」
そう手鏡に写っていたのは、青い目に薄く白っぽい金髪の男だった。この世界では、俺は別に何処にでもいる中肉中背の男だったのだが、現実世界の姿に戻っている。周りを見渡すと皆の姿が大きく変わっていた。アバターが解除され現実世界の姿に戻ったということだろうか。
(でも、どうやって?)
そう考えていると、スキャンという言葉が聞こえる。その言葉に俺はハッとさせられた。ナーヴギアは頭を丸々覆うのでスキャンすれば顔の形を把握することは可能だろう、そして、体格や身長は、俺自身、今日経験したナーヴギアの初期設定として配置されていたキャリブレーションでデータを採取したのだろう。しかし、何故そのようなことをする必要があるのだろうか。そして、その思想を読んだようにローブの男は喋り始める。
「諸君らは今、何故?と思っているだろう。何故、ソードアートオンライン及びナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんなことをしたのかっと。」
「私の目的はすでに達せられている。この世界を生み出し、干渉するためにのみ、私はソードアートオンラインを作った。そして今、全ては達成せしめられた。以上で、ソードアートオンライン正式サービスのチュートリアルを終了する。最後に忠告しておこう、これはゲームであっても遊びではない。プレイヤー諸君の健闘を祈る…」
そう言い終わると、再びローブが液体に戻り、パネルの隙間に吸い込まれていく。全ての液体がなくなった所でパネルは消滅し、普通の空に戻る。
その後、一分近い沈黙が流れ、
「いやあああああああああああああああああああああああああ!!」
誰かの叫びによって、沈黙は弾け飛び大混乱に陥る。
怒る者、叫ぶ者、暴れ出す者、助けを乞う者、泣き続ける者。
(………………………どうする?)
こんな時だからこそ冷静に次の行動を考え、素早く実行しなければならない。それはわかっているのだが、どの行動が最善手なのか咄嗟に判断することができなかった。この世界では現実世界の俺の力は何の意味もなさない。力も情報もない、現時点で俺がこの世界で持っているものは背中に背負っている剣だけだ。
(情報整理だな。まず、この世界はHPが0になると現実でも死ぬデスゲーム。ゲームをクリアしなければこの世界から出ることはできない。死なずにゲームを攻略するには求められるのはやっぱりレベルと情報だな)
レベルは言わずもがな、そして情報はあればある程良い。
「まずは、街で情報取集だな。」
俺は方針を決めると広場を後にした。