デスゲーム開始から早二週間日、俺は《始まりの街》と《ホルンカの村》を行き来しながらクエスト消化やレベル上げに勤しむ日々を送っている。今や俺もレベル9の両手剣使いだ。俺がここまで進めたのは二つの理由がある。
一つ目は、デスゲーム開始後、街のNPCに片っ端から攻略に関する情報を聞いて回ったのだが答えてくれるのは『SAO』の武器強化のシステムやスキルなどの基礎的なことばかりだった。しかし、クエストをこなすと次の街の方角などを教えてくれることを三日目に気付き、街周辺でクリア可能なクエストをやりまくって、情報を聞き出したのだ。
二つ目は一週間ちょいくらいに、マップ情報やモンスターの種類と出現場所、効果的な倒し方、始まりの街のおすすめ観光場所まで詳細に書かれた『SAO攻略本』が道具屋で無料配布されたことだ。そしてこの情報は驚くほど正確で何度も助けられた。この著者である『アルゴ』という人には感謝しかない。
(こっちで戦うのも慣れてきたな。ソードスキルの型も覚えたし。)
ソードスキル発動時は体が勝手に動くが、その動きに合わせて意識的にも動かすことでスピードや威力を上乗せ出来る。体が勝手に動く感覚に慣れなかったので対策としてこれを発見した時はかなりテンションが上がってて思い出すと恥ずかしい。
(久々に始まりの街に戻るか。)
俺はレベル上げを一旦切り上げ、始まりの街へ戻った。
「〜〜!」「〜〜〜!」
「………ごめんなさい。」
(ん?)
始まりの街に戻るのは、情報収集しやすいからだ。特に酒場のような場所は情報が飛び交う。俺はいつものように酒場に向かおうと《黒鉄宮》の前を通ると、紫色の長髪をした少女が2人の男プレイヤーに問い詰められている。男達は何やら、βテスターのせいで死者が増えただの、罪の意識だの言っているようだ。
「おい。いい加減にしたらどうだ。」
俺が会話の中に入っていくと、三人の視線が俺の顔にむく。
「な、何だよいきなり」
「勝手に話に入って来んなよ!」
二人が反論してくる。
「さっき、βテスターのせいで強くなれず死んだっと言ってたけど、βテスターを咎める前にやらないといけないことがあるんじゃないか?」
「な、何!」
「このゲームは用心して着実に行動しても充分レベルは上がるし強くなれる。それでも死者が多いのは判断をミスって慎重さを欠いたからじゃないのか?それとも、お前らは実際にβテスターから妨害を受けて死んだ奴を見たことがあるのか?」
「そ、それは…」
「おい、話の通じねえ奴なんてほっといてもう行こうぜ。」
二人はその場を去っていった。
〈sideミト〉
「大丈夫か?とんだ災難だったな。」
プレイヤーたちを追い払った彼は優しい声で話かけてくる。
「ありがとう。」
私が感謝を伝えると不思議そうにする。
「………一つ聞いていいか?なんでさっき言い返さなかったんだ。」
「………………」
「……なにか………あったのか?」
「………………」
私の黙り込む様子に彼は心配そうに聞いてくる。
「いや、答えたくないならいい。悪かったな突っ込んだ質問して初対面の奴に教えることじゃないよな。じゃあな。」
彼は今度は申し訳なさそうに謝り、その場を去ろうとする。
「……待って」
彼らから庇ってくれたとき、彼の優しい性格が見て取れた。彼なら私の悩みに対しても向き合ってくれるじゃないかと思った。
「…?」
彼は足を止め振り返る。
「あの人たちの言うことは間違ってない。私はβテスターで先行者を目指してた。正式サービスでも、同じように上を目指して動いたわ。その振る舞いが、周りを危険に晒していたのにも気づかず………………」
涙が溢れた。止めたくても止まらなかった。そして、彼に今まであったことの全てを話した。アスナを見殺しにしたことも全て……
「そうか……俺は…βテスターが悪いとは思えない。こんな状況になって周りの事を気にする余裕なんて普通誰にもない。自分を優先するのは当然だ。でも、この本、読んだか?」
彼は私の顔を見つめながら切り出す。
彼は少し前に始まりの街で無料配布されていた『SAO攻略本』を取り出す。
「ええ。」
「この短時間で、ここまで詳細な情報を得るのは、ニュービープレイヤーには無理だ。となると、わざわざ危険なフィールドに足を運んで情報収集に協力してるのはここらを知り尽くしたβテスターってことになる。俺もこの攻略本に何度も助けられた。」
「だから、もし彼らが利己的に動いたとしても責める気はない。」
彼はまっすぐ私の目を見てはっきりと言った。
「……その人はすごいわね。私とは大違い。」
「……俺は所詮君から話を聞いただけだ。だから、当人の君がそう言うのなら罪なのかもな。」
「…!!!」
「確かに君は取り返しのつかないことをしてしまったのかもしれない。けど、もしそれを悔いているのなら償い、前に進むことは出来る。」
「償い……………どうやって?」
「例えば、このゲームをクリアして現実に皆んなを帰らせるとかな。」
彼は少し頬を緩ませながら言う。
「…………………」
「おーい。ハルキじゃねえか」
その時、そんな声が聞こえる。すると彼は声の主の方に振り返る。
「四日ぶりだな。どうしたんだ?残りの仲間は見つかったのか?」
「いや、あるダンジョンに入ったていう情報が入ってな。今から行くとこだ。」
名前を呼びながら走ってきた男の人と彼は顔見知りのようで話を始める。
彼はハルキというようだ。
「じゃあ、俺も行くよ。人は多い方がいいだろ。」
「……いいのか?」
「気にしなくて良い」
「正直、助かるぜ。」
「よし、行くか。じゃあ、君も元気で!」
「待って!」
ハルキがそう言い、足を進めようとしたところで再び待ったをかける。
「…………私も行く。」
「え、………いや、でも」
「多い方が良いって言ったのはあなたでしょ。」
彼が戸惑っている間に押し切る。何故ここまで自分が強気なのか私にもわからなかった。
「…………………わかった。一緒に行こう。」
「ん?………………ハッ!!!
ハルキ!お前、彼女作りやgっべふ」
「違う。」
ハルキは走ってきたお兄さんの質問の途中でお兄さんの脇腹を軽く殴り、短く否定する。
「さ、行こう。」
ハルキのその言葉で私たち三人は走り出す。
ーーーダンジョンーーーーー
凄い。それがハルキの闘い方を見た私の素直な感想だった。重たい両手剣を軽々と振り回し、隙がなく、多数を相手にしても背後を取らせない。しかも、ソードスキルをほとんど使わないのだ。では攻撃力不足かと言われればそうじゃない。クリティカルを連発させ、通常攻撃でも充分な威力になっている。それはおそらく急所を的確に攻撃しているからだろう。
「次来るぞ。」
「……ええ。」
このダンジョンは敵がそこそこpopするのだが、正直言って私やお兄さんがいなくても、彼一人で簡単に突破してしまうだろう。戦闘ではβテスターの私がしっかりしないとっと思っていたので少し想定外だが。
それにしても、ハルキは不思議な存在だ。妙に闘い慣れている割に装備が初期装備なのだ。攻撃を急所に的確に当てまくるなんて相当プレイヤースキルが必要だ。プレイヤースキルが極まっているのに初期装備という事はゲーム初心者でゲームの常識的なことがわかっていないのかもしれない。
そのように考察を広げながら私はハルキの後ろを走り続けた。
〈sideハルキ〉
俺は少し前に、クラインというプレイヤーと出会った。彼は仲間探しのためにダンジョンに潜っていて、その時たまたま俺もクエストで同じダンジョンに潜っていた。俺はクエスト終了後、モンスターに襲われているプレイヤーを見かけたので救援に行くと、それがクラインだった。クラインは仲間探しにダンジョンに入ったは良いもののモンスターとの戦闘に苦戦していたらしい。そのあと、一緒に仲間を探したが、残念ながら見つからず、ダンジョンから脱出し、フレンド登録をして別れた。
そして今、再び彼の仲間の捜索に向かっているわけだが、一つ違う点があるとすればさっき出会った少女がついてきていることだ。彼女は珍しい鎌使いで、雑魚モンスターなんて一瞬で切り裂いてしまうかなりの使い手だ。鎌は一撃が重いが、振り回し方が他とは比べものにならないくらい扱いにくい。そんな扱いにくい鎌をあそこまで扱えるとは、おそらくこのアインクラッドで一番の鎌使いだろうっと俺は感心していた。
彼女はβテスターとしての行動と友達を見捨ててしまったことに深い罪意識を覚えていた。そんな彼女に俺は償えば良いと言った。少しでも前を向いて進む理由になれば良いと思って。それが正しかったのかは正直わからない。しかし、少なくとも俺はそうだったから………
そう考えているとクラインが呟く。
「いねえな。」
「もっと奥にいるのかもな。」
捜索開始から二十分、一向に見つかる気配もない。その時、明らかに様子のおかしな一人のプレイヤーがいた。顔が真っ青で、ふらついている。
「ねえ、そこの人何かあったの?」
紫髪の少女がプレイヤーに尋ねる。
「………見捨てたんだ。」
「え…」
「トラップに引っかかって、友達が地下に落ちたんだ。でも、地下のモンスターにはレベルが及ばなくて……………………あいつを見捨てて逃げた。」
「………」
彼女はこれまでにないくらい苦し顔になる。
「あいつは何度も俺の名を呼んだ。なのにどうすることもできなくて。」
「そいつを救い出そう。案内してくれ。」
クラインはそのプレイヤーにそう提案する。
「無理だ。あいつに合わす顔がない。」
「でも、まだ生きてるなら助けられる可能性があるだろ。」
俺はそう言う。
「その通りだぜ。それに大丈夫だ。友達なんだろ。」
クラインは明るく言う。
「その友達を裏切ったんだぞ!?許されない過ちだ!」
そのプレイヤーは怒鳴り声で反論してくる。
「許されない過ち……」
彼女がさらに苦しそうになる。
「…彼を行かせてあげて」
彼女は消えそうな声でそう呟く。
「場所ならマップデータを貰うだけで十分でしょ。」
「そうだ、このまま行かせてくれ。頼む。」
そのプレイヤーは今度は弱々しい声で言った。
「バカやろう!簡単に友情を諦めるんじゃねえ!!!」
今度はクラインの大きな怒鳴り声がダンジョン中に響く。
「これまでずっとつるんできたんだろ?お前とそいつには絆があるんだ。それは堅いもんだ。そして、重いものでもある。消える時だってあるが、それすら簡単じゃねえ。相手が友情を諦めてないかもしれないのに、あんたが諦めて………軽々しく手放して………そっちの方が裏切りじゃねか!!!」
クラインは熱く叫ぶ。
「そうだ。それに、助けられる可能性があるのに助けに行かなかったら。多分一生後悔する。大切なものがなくなりそうになってるなら、たとえ情けなくても、みっともなくても、足掻かないとな最後まで。」
俺はプレイヤーを見つめながら言う。
「……………………」
「そうだな。俺は友情を諦めた。まだ絆が残っているかもしれないのに、助けられるかもしれないのに…」
「案内する。こっちだ。」
プレイヤーはダンジョンの奥に走り出す。俺たちもそれに続く。
〈sideミト〉
私は泣きそうになっていた。彼らの言葉が私の心に暖かく染み渡る。特にハルキの最後の言葉は私へのエールだったもかもしれない。
「着いたぞ」
そんな声が聞こえると前には大きな穴が広がっていた。
「落とし穴か。」
「人気は無いな」
お兄さんがそう呟くと、ハルキが覗きながら確認する。
「移動したのかもしれないわね。」
「そうだな。地下に降りよう。」
私がそう言うとハルキはうなずき、地下に降りる道を探す。
「お、こんなとこに階段が…」
「奥に影があるわ。敵かも気をつけて。」
階段を降りて奥まで進んでいくと
「おい!あれ、人影があるぞ!!」
お兄さんが叫ぶ。
「あいつだ。おーい」
その人は友達の所まで走っていく。
「ああ、助けに来てくれるって信じてたよ!」
「…………そうだったのか、すまない」
「おいおい、何で謝るんだよ。」
「良かった。」
私はそう呟く。
「「そうだな。(ああ)」」
「ふふ」
ハルキとお兄さんが同時に言うので笑ってしまう。
「ゴホン……クラインの仲間も見つけないとな。」
ハルキは少し恥ずかしそうに咳をして、話を変える。
お兄さんはクラインというらしい。
「そうだった。脱線しちまったな。」
クラインさんはそう言う。
「マップデータにまだ進んでいないところがある。そっちに進もう。」
ハルキの提案にクラインさんと私はうなずく。
そこから捜索を続けることさらに二十分。
「………もういねえかもしれねえな。」
クラインさんがそう呟く。
「急にどうしたんだ?」
ハルキがクラインさんに尋ねる。
「脱線にあった、おまけに行ってないのはもうこの部屋だけだろ?
………見込みはねえかもってな」
「…………」
クラインさんの言葉にハルキは黙って少し考えているようだった。
「友情を諦めるな、最後まで足掻けって言ってたのは?」
私が少し揶揄うように言うと、彼らは一瞬ポカンとして、フッと笑う。
「ちげえねえ、柄にもなく弱気になってたな。」
「かもな。」
「ふふ…」
私達はそのまま、その部屋に進む。
「………モンスターがいねえ」
「ってことは……」
「安全地帯…ね」
私たちはそう判断する。その時
ザッザッザッザッ
「………!?人の足音………?」
「ダチだ!やっと見つけたぜ!」
現れた四人の方にクラインさんは走って行き、
「おおっ!生きてたか!」
「しぶてえやつだ!」
「はは、うっせーっ!」
仲間たちと無事を喜んでいる。
「無事合流出来たみたいね。」
「ああ、良かったな。クライン」
ハルキはそう漏らしながら私の隣で微笑みながらその様子を見ていた。
その後、私達は皆んなで、始まりの街に帰った。
「ここで別れましょう」
「ああ」
「そうだな」
彼らはうなずく。
「そういえば、最後に自己紹介しとくぜ俺はクライン。今日は本当にありがとな。仲間が呼んでる!じゃあな!」
クラインさんは私にそう言うと走り去っていった。
「俺はハルキ。よろしく」
「私はミト。よろしく」
「なあ、ミト思い詰めるなよ。」
ハルキは私に心配そうに言う。
「うん。大丈夫。あなたの言葉は心に刻んだ。最後まで足掻くわ。」
私がそう言うと安心したように
「ああ、それが良い。」
と彼は微笑みながらその場を後にした。