「…参ったな。ここ何処だ?」
俺は現在、湿地帯エリアを攻略していた。湿地帯ではコボルトという亜人型のモンスターが出る。コボルトはこれまでのモンスターと比べれば硬いし、拙いとはいえ群れで連携してくることから、そこそこの強敵として攻略本でも挙げられていた。湿地に近づく際は充分注意と。しかし、俺的にはコボルトには首という明確な弱点があることから逆に倒し易いと感じている。そんな湿地エリアで探索兼レベル上げをしていたのだが、変わらない景色にプレイヤーを見かけないことから完全に進んでいた方向を見失ってしまった。マップを見ても3Dなのが逆に見にくい。
「………はぁ」
幸い街の方角は流石にマップでわかるので帰れるのだが、こんなところで道に迷うと思っておらず自分で自分に呆れていると、
ガサガサ
近くの草むらから音がした。背負っている剣の柄を握り、いつでも引き抜いて切れるように構える。
ガサガサ、ガサガサ
音が近くなっている結構なスピードで近づいているようだ。
ガサッ
「はあ!!」
「なっ!!ちょっとストップ、ストーーーップ」
草むらから現れた瞬間に斬り込んでやろうと待ち構え、草むらから出てきたものを斬ろうとした瞬間、そいつは攻撃されそうになっていることに気づき俺に叫ぶ。俺もモンスターじゃないことに声と頭の上にあるカーソルで気づき、攻撃をギリギリで止める。
「おい、いきなり攻撃するなんてどうゆう了見ダ!?」
「わ、悪い、まさかプレイヤーが出てくるなんて思って無くて。」
フードを深く被っておりよく目元が見えないので男か女かも判断できないが結構小柄だ。それと頬に三本髭がペイントしてある。その人は俺が攻撃をしかけたことに対して問い詰め、俺が素直に謝ると素早く向きを変える。
「まあ良い、話は後だ。……こいつらをなんとかするゾ。」
「こいつら?」
その時、さっきの草むらから六体のコボルトが現れる。
「………なるほどな。あんたはそこに隠れてな。今度こそ斬る!」
コボルトに剣を向け俺は一気に距離を詰め、コボルトの持つ、石の斧のような武器を弾き三体に素早く斬り込みを入れる。二体をそのまま力で吹き飛ばし、一体は首に重い強撃を入れクリティカルを出す。そいつはそのまま青い結晶に変わる。背後から吹き飛ばした奴とは別の三体のコボルトが攻撃を仕掛けてくるが、全て躱して反撃に首を突き、なぎ払って倒す。再び吹き飛ばした奴が向かって来るが一瞬で片付ける。
「………もう出てきて大丈夫だぞ。」
背中に剣を戻しながら、茂みに隠れてるフードの人に話しかける。
「………………十七秒。」
「ん?なんの話だ?」
「あんたが、六体のコボルトを倒すまでの時間だヨ。」
「………それで?」
いまいち理解出来ず聞き返す。
「(いくら低級のコボルトとはいえ早すぎる)………噂は本当だったらしいナ。」
「噂?」
「…………あんたこの後空いてるカ?」
「ああ。」
「じゃあ、ちょっと話したいことがある。一緒に来てくれないカ?」
俺はそのフードの人と近くの村まで戻った。
ーーーーーーー村の酒場ーーー
「オイラの名前はアルゴ。あんたハ?」
質問しながら顔を上げたことによりようやく顔が見えた。
「俺はハルキ。」
(女の人だったのか。アルゴ?…………何処かで)
記憶を遡っていると、
「あ!アルゴってあの攻略本のアルゴか?」
俺がそう言うと、彼女はニヤッと笑う。
「ほーこのアルゴ様を知っているカ。まぁ当然だよナ」
「……当然って、まぁ良いそれで話ってなんだ?」
「その前に、アンタ街でそこそこ噂になってるの知ってるカ?」
「あ〜なんかさっきも言ってたな。噂ってなんだ?」
「二十コルって言いたいトコだけどサービスしてやるヨ。今、街ではソロで凄腕の両手剣使いがいるって噂が出回ってるんだヨ。オイラはそいつを訳あって探してたんダ。」
「…その両手剣使いが俺だって言いたいのか?」
「オイラはそう思ってるヨ。正直アンタ程、素で腕が立つプレイヤーをオイラはアンタ以外だと一人しか知らない。」
「じゃあ、そいつなんじゃないか?」
「そいつは片手直剣使いだ。両手剣じゃなイ」
「俺以外にも両手剣使いはそこそこいるだろ。」
「両手剣使いはそこそこいても、今の状況でソロは珍しいよナ。」
「……じゃあ、もし仮に俺がその両手剣使いだとしてあんたは何を求めてるんだ?」
「やっと、ここまで来たカ。アンタもゲームクリアを目指してるんだよナ?」
「ああ。」
「ゲームをクリアするためには迷宮区を突破しないといけないよナ。けど攻略本にも書いた通り現状その迷宮区にすら行けない何故だかわかるカ?」
「フィールドボスってやつか。」
「ああ、猪のナ。」
そう元々俺はフィールドボスを見に行こうとしてあの湿地を攻略していたのだ。それは叶わなかったが。
「オイラはそのフィールドボス討伐のために協力してくれる強いプレイヤーを探してるんダ。こっからが本題だ。アンタ、フィールドボス討伐に加わる気はないカ?」
「……ちなみに、勝算はどれくらいあるんだ?」
「それはまだわからいナ。けど、フロアボスは大人数が必要だけど、フィールドボスは適性レベルさえあれば基本ワンパーティーで倒せる強さデ、攻撃パターンも調査済みダヨ。」
「…………………わかった協力しよう。」
「頼んどいて言うのもあれだガ、本当にいいのカ?」
「これも攻略のためだ。それに、あの攻略本には正直かなり助けられた。恩人の頼みだ聞くしかないだろ」
「オイラがアルゴを装った偽物かもしれないゾ」
アルゴが不安を煽る言い方で言ってくる。
「もしそうだったとしても、俺にそれを今判断する方法は思いつかない。それにその時は、全力で切り抜けるさ。」
「…………悪くない答えだナ。」
「……試したな?」
「悪かっナ、でも大切な事だゾ。ボス戦は普段よりさらに命の危険があるからナ」
「…かもな。」
「…じゃあ、二日後、昼の十二時にここに来てくれ。感謝するヨ。」
ーー二日後ーーーー
俺が集合の五分前に酒場に入ると、そこにはアルゴと片手剣を背負った男がいた。
「こっちダゾ〜」
アルゴが俺を呼ぶ。
「紹介するヨ。こいつが俺っちが前に言った片手剣使いダ」
「キリトだ。よろしく」
「…………ハルキだ。よろしく」
目の間にいるのは、幼い顔をした少年だった。そのため見た瞬間少し固まってしまった。だがすぐに考えを改めるこの世界ではレベルが絶対だ。自分より小柄でもレベルが高ければパワーもスピードも向こうが上の可能性がある。
「まだ俺たちしか来てないのか?」
俺がアルゴに尋ねると、
「そりゃそうダ。他の皆んなには集合は二時って伝えてあるからナ。」
「「……は?」」
俺とキリトはまったく同じ反応をして顔を見合わせる。俺たちの意味がわからない様子を見てアルゴが、
「キー坊。ハー坊の装備を見てどう思ウ?」
(キー坊?キリトのことか?って事はハー坊は俺?)
独特のあだ名に俺が混乱していると、キリトが俺を爪先から頭まで見て言った。
「…………思いっきり初期装備だな。」
「だロ?今からフィールドボスとはいえボス戦なのに初期装備でいいもんかネ。」
「……つまり?」
「キー坊、ハー坊の装備を一新してやりナ」
「はあ?!何で俺なんだよ!」
「キー坊はアインクラッド一番のフロントランナーだからナ。せめて、身近な仲間の装備をアドバイスするくらいしてやってもいいじゃないカ。」
「う、それは……そ、そうだ。ハルキはどうなんだ?俺でいいのか?」
キリトが俺に尋ねてくる。正直な話し装備のアドバイスをしてくれるなら、結構ありがたい。装備にはそれぞれ特徴があり、自分の戦闘スタイルによって変わるのだが俺は何せゲーム初心者なので、どの装備が自分に最適なのかわからないし、このゲームのシステムにも慣れていないのだ。
「キリトが嫌なら俺は別に遠慮するけど。色々教えてくれたらありがたいな。」
「…………キー坊」
アルゴがジーーっとキリトを見つめる。
「わかったよ!やるよ!…………ハルキ、行こうぜ」
「ああ…………アルゴは?」
「オイラは今から来る奴らを此処で待たないとナ」
俺は酒場を出ると、キリトについて行く。
「装備を揃えるって言っても当然、モンスタードロップやダンジョンの宝箱にあるレア物を取りに行く時間はないから道具屋で揃える訳だけど…それでハルキ、予算はいくらくらいあるんだ?」
「予算か。………そうだな五万くらいかな。」
「五万?!そんなにあればこの村一番のを上下揃えてもお釣りがくるな。」
「そうか?」
「ああ。まぁ、そんなに余裕があるならもうちょっとため込んでからって手もあるけど…ボス戦があるし仕方ないか。」
「どうゆう意味だ?」
「いや正直、此処で装備を揃えてもまた一新しなくちゃいけないタイミングってのは意外とすぐに来るんだ。此処で買う装備は長く使っても次の層には絶対変えなくちゃいけない。RPGってそういうゲームだからさ」
「次の層?!早いな!どんな装備でもか?」
「まぁ、モンスタードロップの超レア品とかだったら強化して長く使えるけど…それでも永遠って事はないよ。本来、普通のゲームだったらそんなに気にしなくても進められるけど、『SAO』は……」
「…命がかかってるからってことか。」
「ああ、どれだけ安全マージンを取ってても十分すぎるって事はないからな。」
道具屋に到着して、俺たちはそのまま道具屋に入っていく。
「ハルキは……メイン武器は何だ?」
一瞬、キリトは渋りながら俺に聞く。
「両手剣だ。」
「両手剣か…ならSTR重視がいいか。」
SAOのステータスはSTR(筋力)、AGI(俊敏)があり、自由に割り振ることが出来る。プレイヤーは武器や戦闘スタイルによって配分を決めるのだ。
「俺はSTRとAGIをバランス良く上げてるが。……どちらかと言うとSTRかな。あと相談なんだが、もし出来るなら最低限今のスピードを保ちたい。鎧みたいな重装備はちょっと……」
「なるほどな………それならまず、ほとんどをレザー系にして…胸に金属のプロテクターを…」
キリトと相談しながら考えること二十分。
「よし。これでいいと思う。」
「そうか、ありがとな。」
今の俺の装備は、前の軽装にレザー系のグローブ、ブーツが追加され、胸には金属性のプロテクターをつけている。さらに、剣もキリトの薦めるものに新調した。
「これでも、かなり軽装なんだよな。もちろん、前と比べたら絶対こっちの方がいいけどな。」
「わかった、気をつけるよ。キリトに装備の選び方も教えてもらったし次からは自分でも出来るはずだ。」
「ああ、それがいい。本当はあんまり自分の装備のこと人に漏らさない方が良いしな。」
俺たちはその後も喋りながら、酒場に戻って行った。
ガラガラ
酒屋の扉が開かれ、俺たちは扉の方向を見る。扉から入って来たのは、強面に少し長い赤髪の大男としなやかな黒髪にモデルのような体型の女性だった。
「俺はゴルスタだ。よろしく頼む。」
「私はシルマーよ。よろしくね。」
俺とキリトも先ほどのように最低限の挨拶を交わす。そこでアルゴが、
「ちなみにあと一人来たら全員揃うゾ」
と言った。その時最後の一人が入って来たのだが、見覚えのある人物に目を見開く。
「ミトよ。よろしk………ハルキ!?」
ミトも俺に気づいたらしく驚いている。
「ミト、久しぶりってほどでもないな。」
「なんで…いや…あなたの実力ならおかしくないわね。」
「ミトもな。」
ミトが納得したように呟き、俺も返す。
「ん〜知り合いだったのカ?」
アルゴが俺に尋ねてくる。
「まぁな」
「ふーん。まぁとにかく全員揃ったナ。じゃあ、フィールドボス討伐の作戦会議始めるゾ。キー坊頼ム。」
全員がキリトの方を向く。
「ボスの名前は、《Giant horned boar》だ。攻撃パターンは三パターン、《突進》、《突き飛ばし》、《猛突進》。どの攻撃もレベルが10くらいあれば一撃でやられる事はない。ただ、《突き飛ばし》はいきなり空中に投げ飛ばされて落下ダメージも受ける危険な技だから、絶対回避してくれ。」
「…なるほど。質問いいか?」
ゴルスタさんがキリトに尋ね、キリトはゴルスタさんの迫力に少し引いた感じで頷く。
「この情報は本当に正確なのか?」
「…それは俺が直に偵察したから問題ないと思う。」
直にって事は戦ったってことか?やっぱりアルゴの言う通り相当の実力者なんだろう。
その後も俺達は議論し合って、役回りを決めた。俺、キリト、シルマーさんがダメージ担当、ゴルスタさん、ミトがディレイ担当だ。理由はメイン武器だ。俺は言わずもがな両手剣、キリトは片手剣、シルマーさんは両手槍らしく、この三つは猪相手にはディレイしにくい。それに比べてミトの鎌や、ゴルスタさんの大盾持ち長剣は猪のディレイに有効らしい。アルゴはそもそも戦闘向きではないので《隠密スキル》を発動させ俺たちの様子を少し離れた場所で異常がないか観察する役だ。何かあったら笛というアイテムを吹いて知らせてくれる。
所要時間時間は一時間。一時間たっても倒せる気配がない場合、一旦引き体勢を整える。できれば、そうなりたくないが。俺たちは作戦を練り終わり、ボスのいる渓谷に足を進めた。