《sideキリト》
「キリト!スイッチ!」
ハルキが沼コボルトの武器を弾き返し、叫んだ瞬間、俺は即座にソードスキルを打ち込み、コボルトを倒す。俺たちはボスのいる渓谷に行くために沼コボルトの沸く湿地を進んでいた。
そんな時、俺はハルキの闘い方を見て違和感ではないが不思議な感覚を覚えていた。強い。それは今組んでいるパーティーメンバー全員がそうだ。向こうではミトがコボルトを瞬殺しているし、ゴルスタさんとシルマーさんも連携で即座に敵を倒している。
ハルキも強いのだが、皆んなと違うのはきっと動き方だ。ハルキは、効率を突き詰めたかの様な闘いをする。隙がなくそれでかつ速い、そして適応力が高いのだ。ハルキはさっきの会議までスイッチやpotローテも知らなかった。なのにまるでずっとコンビを組んできたかの様に連携をとることができる。
正直言って、戦闘が安定し、とても戦いやすい。
(俺も負けてられないな。)
俺は相棒であるアニールブレードの柄を強く握り、気合いを入れ直した。
《sideハルキ》
俺たちは簡単に湿原を抜けると大きな川が流れていた。
「この先にフィールドボスがいる。見つかったら、初手で《突進》してくるから作戦通り行こう。」
キリトの言葉に頷き、俺たちは川の上流に向かっていく。
「……いたわ。」
十分ほど移動するとミトが小さく言う。途端に俺たちは大きな岩の裏に隠れる。俺は岩の影から猪を覗くと、その猪は体高5メートルに及ぶ巨体に、始まりの街周辺でpopする《フレイジーボア》の何倍もある角、そんな巨大モンスターにキリトが意を決したように石を投げつける。
「グオオオオオオオオオ!!!」
途端俺たちに気づき雄叫びをあげ、俺たちに向かって突進をしてくる。俺たちは岩の裏から飛び出し、四方八方に散り、突進を回避して一斉に下流に向けて走り出す。猪は俺たちを追いかけてくるが俺はキリトの言葉を思い出していた。
(回想) …作戦会議にて
「フィールドボスの生息する場所は渓谷でも最も狭い場所だ。岩に囲まれて逃げ場が少ない。だから、戦いやすい場所まで誘導する。」
「誘い出した後は?」
俺がそう聞くとキリトは、
「そこからはもう総力戦だ。敵の予備モーションが来たら回避。弱点の頭を攻撃するか、ゴルスタさんの盾で攻撃を弾くかしてディレイをとって総攻撃。これを繰り返す。」
(回想終了)
俺たち何とか誘き出しポイントまで、引きつけると戦闘体勢に入る。
「オラあああ!!」
「グゴオオ?!」
ミトが男勝りの雄叫びをあげ、走り込みながら猪の頭を攻撃し、ディレイをとる。
「スイッチ!!」
ミトの叫びに俺たちは待ってました言わんばかりにソードスキルを発動させ、剣の刃を光が包み、
色とりどりのエフェクトが舞う。俺も何度も練習した《バーストスラッシュ》を発動させ猪に攻撃する。
「グガアアアア!!」
ボスモンスターの巨体がダメージラインで溢れ、一気に体力ゲージの二割ほどを削る。
ボスは俺に向かって突進をしようとしてくるが、
「俺に任せろ!」
低い声で俺に言いながら前に出て盾を構えるゴルスタさん。
「グオオオオオオ!!」
ゴルスタさんは見事、盾で跳ね返し、ディレイを取って見せた。
「今だ!!」
ゴルスタさんの声が響き全員の武器に光が灯る。
そうやって、ディレイをとって攻撃、を繰り返すうちにいつの間にかボスのHPは残り一割程度になっていた。時間もまだ三十分くらいで全員のHPも八割をきる者はいなかった。正直、余裕を感じていたその時、
「ゴオオオオオオオオオ」
ボスが遠くまで響き渡るかの様に叫ぶ。そしてそのあとに続いて、
ピーーーーーーーー
甲高い笛の音が響く。異常事態の合図だ。この笛が鳴った場合、対処するか、撤退するかは現場の俺たちに判断が任されている。
「皆んな!落ち着いて!」
シルマーさんが叫ぶ。
「撤退するにも、何が起こるか分からないと下手に動くのは危険よ。」
全員がその意見に賛成だった。それに撤退するならせめて次同じことが起きた時に対処できる為の情報を得ておきたい。何が起きてもいいように剣を構えていると、
ドドドドッ
「なっ?!何で此処に!」
そこに現れたのは、ここには生息しないはずの《フレイジーボア》の大群だった。
一匹や二匹ではなく五十匹近い数だ。レベルが10ある今となっては通常攻撃でも一撃で片付けることが出来るモンスターだがそれにしても数が多すぎる。
「はあ!!」
剣でなぎ払い近づいてくるモンスターを片っ端から倒していく。他の皆んなもその対処に追われているようだ。
(ミト!!)
皆んなの様子を確認した時に目に移ったのは、《仲間を呼ぶ》のモーションから解放され、ミトに向かって《突き飛ばし》の予備モーションを密かに行っている大猪の姿だった。ミトは《フレイジーボア》への対処でその事に気づいていない。
「ミト!危ない!」
俺はミトの所まで走り、ダメージを与えない程度で軽く押し飛ばした。
「ハルキ!!」
「(ボスとの距離的に回避は不可能。なら!)…うおおお!」
俺の胴体に突き刺さそうとする大猪の角に剣をぶつけて角の攻撃を防ぐ。
しかし、武器ガードはダメージは軽減できるが0には出来ない。なので俺のHPがガンガン削れていく。
ギシギシ
それと同時に俺の剣の耐久値も順調に削れていってるのが音でわかる。
(頼む。もう少し耐えてくれ。)
「グガアアアア!!」
「ッく!」
「「「「ハルキ!!」」」」
次の瞬間、俺は空中に投げ出された。皆んなが俺の名前を叫ぶ。特に、ミトの悲痛な叫びが。俺の今のHPは残り六割弱。このまま着地して落下ダメージをくらうと間違いなく半分をきる。さらに着地と同時に大量の《フレイジーボア》や、ボスに襲われたら最悪………
(いや、これはチャンスだ。ここであいつを倒しきる!)
空中で体勢を整え、剣を大きく振りかぶる。剣が青く発光し、真下にいるボスの頭を大剣が斬りつける。
俺が現在習得している二つのソードスキルのうちの一つ、《ブレイバー》。空中で二回転し、真下に剣を振り下ろす基本技だ。俺が知ってるソードスキルのなかでは一撃が最も重い。
「はあああああああ!!」
ズドオオン バキイイイン
猪の頭を俺の剣が押し通し両断した途端、俺の剣が折れる。
(ありがとう。)
キリトの勧めで買った村で売ってる普通の剣だったが、俺は守ってくれた剣にとても感謝していた。
「グガアアアア!!!」
その時、俺の斬った場所が光を放ち、大猪は大量のガラス片に変わっていった。
「倒した…のか?」
「ハルキ!!」
キリトが俺の名前を呼びながら、他の皆んなも急いで俺のところまで走ってくる。
「大丈夫か?…………すまない」
キリトは俺の無事を確認した後、謝ってくる。
「何で謝るんだ?お前も誰も何も悪くないだろ。」
「俺がちゃんと情報をとってたら、お前が危なくなる事はなかった。」
「あれは仕方ないだろ。多分体力ゲージが赤になったら起こる攻撃パターンなんだと思う。それに、お前一人の時にあれが起きてたら本当に危なかった。むしろよかったよ。」
「しかし、あの状況からボスを倒すとは実に見事だったぞ。」
「ええ、とても勇敢だったわ。大したものよ。」
ゴルスタさんとシルマーさんが俺を褒めちぎる。それは、顔に照れが出てしまうほど嬉しいが、今は一つ気がかりなことがある。
「………………」
俺の横で泣きそうになっているミトだ。俺がミトに話しかけようと思ったその時、
「大丈夫カ、ハー坊?!」
アルゴが走ってやってくる。
「ああ、とにかく一旦ここから離脱しよう。いつまたモンスターが来るか分からない。」
俺の提案に全員賛成して、俺たちは近くの村に帰って行った。
「それじゃ、フィールドボス討伐成功を祝して乾杯〜」
「「「「「乾杯」」」」」
アルゴの掛け声に俺たちも乗り乾杯っと唱える。
俺たちは今、集合場所の酒場まで戻り、討伐成功の軽いパーティーを行なっていた。
皆んな集合した時より顔が明るい。やはり緊張していたのだろう。
「こうゆうパーティーを主催するとカ、あんまり柄じゃないだけどナ」
キリトと飲み物を飲みながら話していた時、アルゴが話しかけに来る。
「そうか?意外としっくりきてるが。」
俺が尋ねると、
「そもそも、情報屋のオイラがボス戦のメンバーを募集するってのがおかしいダロ。オイラはそもそもボス戦に参加しないシ。」
「まぁ、確かに。」
その意見に、キリトが賛成する
「でも…まぁ、こういうのも悪くないな。」
俺がそう答えると、
「まっ、小規模でかつオイラ主催ってのは今回が最初で最後だと思うけどナ。」
「…そうだな。フロアボス戦は流石にもっと規模が大きくなるし、ボス部屋を見つけたやつが、
レイドリーダーだろうからな。」
アルゴの意見にキリトが捕捉を入れる。
「フロアボスか。どんなやつなのかな。」
「……βの時は、でっかいコボルトだったらしいけどナ」
アルゴがそう呟き、俺は目を見開く、
「!…………いいのか?」
「ん?」
「情報料取らなくて?」
「言ったロ、βの時の情報だっテ。本サービスで変わってる可能性あるシ、裏も取れてない不確かな情報に金なんて取らないってノ。それに、もともとつぎの攻略本には一応載せるつもりだったしナ。」
「……そうか。」
俺がアルゴの情報屋としてのプライドに感心していると、
「ねえ、ちょっと……いい?」
ミトが俺たちのところまで来て、俺に話しかけてくる。
「……ああ、もちろん。じゃあ、二人とも後でな。」
俺はそう二人に言うと、その場を離れて酒場の外に出る。その様子を見てアルゴは謎にニヤニヤしていたが
「あのね、…………昼間は、本当にありがとう。そして、ごめんなさい。」
そう言った時の彼女の目は涙で満ちていた。零れていないのが不思議なくらいに。そしてこの時俺は、何日か前、始まり街で起こったことを思い出していた。
「……えーっと何が?後…大丈夫か?」
「あの時、ボスは私に《突き飛ばし》をしようとしてたわ。それで…あなたは私を庇ったせいで死にかけた!本当にごめんなさい。」
「……なら、ありがとうだけでいい。」
「え?」
ミトはポカンとしている。
「別に死んでないしな。それに目の前の人を助けられるのに助けなかったら罪悪感で俺が生き辛くなる。あくまで、俺のためだ。その結果ミトも助かった、だから…謝罪も感謝も必要ない。でも、どうしても伝えたいなら、ありがとうだけでいい。」
「………やっぱり、優しいわね。」
「…………」
「……私って駄目ね。あなたに迷惑かけてばっかり。この前も励ましてもらったのに。」
「助けてもらう事は悪い事じゃない。病気以外は貰える物は貰っとけって誰かが言ってた。」
「……わかったわ。でも、貰いっぱなしじゃ悪いから必ず返すわ。いつか必ず。」
「…ああ、楽しみにしてる。」
その言葉に俺は笑みを零してしまった。
その後もパーティーは夜中まで続き、俺はアルゴ、キリト、ゴルスタさん、シルマーさんとフレンド登録をしてその日は幕を閉じた。