《sideミト》
「今日はお疲れ様」
「ああ、お疲れ」
私たちは明日の動きを迷宮区で確認した後、街に戻り、各々解散になった。しかし、私はハルキを町外れの静かな場所に呼び出していた。
「この世界って星、見えないんだよな」
ハルキは突然、空を見上げながらそう言った。
「………ええ、この世界では天井しか見えないわ。星のように見えるのは次の階層の建物の光が透けてるからよ」
「じゃあ、あそこが第二層の街か」
ハルキが光が集まっている場所を指を刺す。
「……ええ、かもしれないわね」
「俺、現実世界では星を観るの結構好きだったんだ。だから、星が無いのは寂しいけど………
これも悪くない。第二層から見上げる天井も楽しみだ。まあでも…何にせよ出来るだけ早く本物を見れるようにしないとな」
ハルキはそう言った後、私の方を向き尋ねた
「それで、聞きたい事ってなんだ?」
「…今日の会議の事なんだけど…………何であんなに無茶したの?もしかしたら、キバオウみたいな反βテスター派の人にハルキがβテスターだって疑われて危ない目に遭うかもしれなかったのに…」
「………そうだな、浅はかだった。でも少なくとも、俺が今まで出会ったβテスター達はとても良心的な人達だった。ミトもそうだし、キリトとアルゴもな。」
ハルキはそう言いながら笑う。
私が言葉を出そうとすると、手で制される。
「俺は言いたいことを言っただけだ。だから、何か特別理由あった訳じゃない。
……俺は…俺の友達や仲間が、たかだがβテスターってだけでその存在まで否定されるのが嫌だったんだ。その発言で俺が不利になるよりもな。」
「…………」
その言葉に何も言えなくなる。
私は誰かの為に自分を犠牲にできるだろうか。………いや、それが出来ていたらアスナは死なずに済んだのだ。
「……凄いわね。あなたは」
私がそう言うと、彼はしばらく黙って、
「……俺はミトが思う程、凄くない。もし、そうだったらあの時……」
「あの時?」
すると彼は何かを思い出したような表情になった後、急に焦っているような様子になる。
「いや、やめよう。この話。とにかく今は明日に備えよう。明日は広場に十時だったな。」
「ええ」
私が頷くと、
「よし、それじゃあ……また明日!」
そう言って彼は、走り去り、私はそれを呆然と見ることしか出来なかった。
《sideハルキ》
午後七時頃、俺は《トールバーナの街》の隅にある狭い路地の階段で、たったの一コルで買える黒パンにかぶりついていた。
(結構いけるな。………硬いけど…)
SAOは空腹感が現実と同じように襲ってくるので食べずにはやってられない。もちろん、現実の体に何か還元される訳ではないので空腹感を紛らわすだけだが…
黒パンは俺が今までSAOの中で食べた物では、限りなく現実的な味という評価だった。この先の事はわからないがSAOの食事は良くも悪くも特殊な味が多かった。店での食事も美味しいが毎日食べるのは結構きついだろう。そういう意味では黒パンは優れている、値段も最安値だ。
……食感は硬いが。
「ん?あれって、」
路地の前を見覚えのあるシルエットが通ったので追いかけようとするが、
(何処行ったんだ?)
すぐ追いかけたのだが、見失ってしまった。
まだ近くにいると思い、探していると、
声が聞こえてくる。
「俺が泊まってるのは………
声の方へ走り、角を曲がると、
「………どうゆう状況だ?」
キリトはフードを被ったプレイヤーに胸ぐらを掴まれていた。
「へ〜、これで八十コルか、安いな。」
「だろ?」
キリトはニヤッと笑いながら言う。
俺はフードの人とキリトが宿泊している優良物件の農家に来ていた。
そこは《トールバーナの街》の東に広がる牧草地沿いにあり小さな水車が付いている家だった。
部屋はとても広々としており、大きく柔らかいベッドや整えられた家具、そして、素朴ながら落ち着ける雰囲気を出している。
「えーっと、その、見ればわかると思うけど、風呂場そこだから……ご自由にどうぞ」
「あ……う、うん」
そうキリトがフードのプレイヤーに言い、フードの人は軽く返事をしてから風呂場に向かって行った。
(あの声、女性か?)
俺はフードの人に対してそう考えた。根拠は声だが、なにぶん顔が見えないので言い切れないが
「それで、ハルキはどうしたんだ?」
キリトがベッドに腰をかけ聞く、
俺は、椅子に座ってキリトの方に向く。
「今日は、悪かったな。仲間に入れてやれなくて本当はキリトを入れるつもりだったんだが…」
「別にいいさ。俺がタイミングを逃したんだから。……まあ、ボスにアタック出来るのはちょっと羨ましいけどな」
そう言いながらキリトはミルクを俺の前に出す。
「ありがとう。ミルクまで飲み放題とは本当に良いとこだな。」
「ま、こういうのを素早く見つけるのも重要なシステム外スキルなんだよ。」
キリトは誇らしげに言う。
その後、キリトは視線が風呂場の方に向き、直ぐに逸らす。そして、その行動を何度か繰り返す。
「へ〜」
「な、何だよ?!」
するとキリトは焦った様に俺の方を向き聞き返す。
「別に、何も言ってないだろ。それより、そんなに風呂が気になるのか?」
「べ、別に気にしてないよ。」
「へ〜」
「笑うなよ…」
分かりやすいなっと思いながら、内心で笑っていたつもりだったが、多少顔に出ていたらしい。
「それより、あの剣、調子はどうだ?」
キリトは急いで話題を逸らし、俺の剣について聞く。
「ああ、良い剣だ。」
俺が今使っているのは、ドロップ品だ。しかもただのドロップではなくフィールドボスからのドロップだ。さらに
俺はウィンドウから剣を取り出す。剣のガードの部分が猪の毛で覆われている。
「ほんと、運が良かったよな、俺。知らずに取ったLAボーナスが丁度俺の使ってた両手剣だったことも」
「そうだな、ちゃんと強化してるのか?」
キリトは俺の剣を観ながら言う。
「ああ、+5だ。」
「へー結構頑張ったな。」
「ああ、3A2Dだ。」
SAOの武器強化のシステムは、強化パラメータとして
「お、おい内訳までバラしても良いのか?鍛冶屋は仕方ないにしても、俺に」
「ああ、そうだったな。……まあ、キリトなら大丈夫だろ」
「その信頼は何なんだよ」
そう話していると、扉がコン、コココンと鳴る。俺は扉を一瞬見てからキリトを見る。
「大丈夫だ。ハルキも知ってる」
キリトが扉を開け、こう言う
「珍しいな、あんたがわざわざ部屋まで来るなんて」
「まあナ。クライアントがどうしても今日中に返事を聞いてこいって言うもんだからサ」
ノックをしたのはアルゴだったようだ。
しかし、キリトは扉を開ける前から気づいていた。あの独特なノックはアルゴの証明のようなものだったのかもしれない。
「ん?ハー坊もいたのか。」
「ああ、久しぶりってほどでもないな」
俺がそう言うと、アルゴは少し申し訳なさそうに、
「ハー坊、いきなりで悪いけどちょっと席を外してくれないカ?キー坊に話があるんでネ」
「ん?あ、ああ。じゃあ、俺はもう帰る。またな。」
そう言い俺は部屋から出ると、外の小屋に馬がいる事に気づき、撫でていると、キャアーという叫び声が夜に響いた。
(キリトが何かやらかしたのか?巻き込まれる前に戻るか)
そう判断し、俺は《トールバーナの街》の中心部に戻っていった。