俺は階段を普段の数倍のスピードで駆けあがる。
「まつり、残り何分!?」
『今は23時20分、後40分だよ』
「りょーかい!!」
『大丈夫?』
「まつりが声かけてくれるから平気!!」
『…え、待って急にデレ期? もう一回言って、録音するから』
「あ、いや、ごめん、忘れて」
この状態だと一種の興奮状態、まあ、つまりテンションが上がるので普段は絶対に言わないようなことも言っちまう。
まあ、急に一人で先に進むことになり正直恐怖はあったのだが、まつりの声が聞こえるってだけでこんなにも安心するもんなんだなと正直自分でも驚いている。
階段を登り切ったその廊下にはやはり狐面を付けた人たちがいた。
「やっぱりいるか」
『大広間は割と近いよ、正面の襖』
「了解!! 直ぐに突破する!!」
俺は足を止めることなく、そのまま狐面の人たちに突っ込む。
俺のこの赤い魔力を纏っている状態は後30秒程度続く、この間に突破したい。
あやめさんの最終段階の修行のことを思い出す。
修行を開始して魔力操作も粗方身に付いた2ヶ月を過ぎた辺り、あやめさんからはこう言われた。
「うん、ある程度までは戦えるようになった」
「ある程度…ですか」
「そう、ある程度。これ以上のレベルになりたい場合それこそ今までの修行の3倍は時間かかっちゃうよ」
「それを言われた俺は一体どうすれば良いんですかね…」
「大丈夫、こっからはコタローにはある技を覚えてもらうよ」
そういうとあやめさんは俺の持つ木刀を指さした。
狐面の奴らが俺を認識するより先に急接近、三人纏めて木刀で叩き、倒す。
『その木刀は余が昔、それこそ鍛錬を始めたころに使っていたんだ』
大広間まではまだ半分以上。
そして狐面の奴らもまだまだいるが、俺は足を止めず通路を走る。
『物にはさ、使えば使うほど経験が蓄積されていくんだよ。勿論その木刀にも余が振るっていた経験が、記憶が眠っている』
此方に気付いた複数の狐面の人たちが今度はこちらに攻撃を仕掛けようとするが、今の俺の速度には付いてこれない。
すぐさま躱し、逆に木刀を振るって再起不能にする。
『そして、コタローはその木刀をこの修行期間、一度たりとも手放さなかった。つまりその木刀には余とコタローの記憶があるわけ。後はコタローの記憶を起点にして余の戦闘経験を手繰り寄せて戦う』
それを
「『憑依経験』」
大広間まで後半分、憑依経験の残り時間も後半分。
「問題無し!!」
走りながら木刀に魔力を乗せ。
敵との距離があるのにも関わらず俺は木刀を振り下ろす。
すると、木刀を振るった軌跡が魔力を帯び、斬撃が飛んだ。
飛びかかろうとしていた狐面の敵が数人吹き飛ぶ。
あやめさんの、鬼族の剣術というのは圧倒的だ。一刀で敵を斬る、まるで無双ゲーをやってる気分になる、だが。
『でも、注意して。今のコタローからして一回の使用で長くて1分が限界。そして10分以上のインターバルを開けて大体、多分1日3回が限界かな。それ以上はコタローの体が余の経験に耐え切れない』
これが最初から使わなかった理由。
因みにこのインターバル時間はまともに魔力を操作することも出来なくなる。
もしこれで相手を倒すことが出来なかった場合、今度はこっちが不利になる諸刃の剣だ。
『大広間まであと200m!!』
狐面をした敵が襲い掛かるのと同時にまつりから無線が飛ぶ。
「邪魔!!」
その攻撃を躱し、その背中から斬り飛ばす。
まだだ、もっと早く!!
『あと120m!!』
「だらっしゃあア!!」
襲い掛かる敵をさらに、あやめさんの経験によりさらに早くなった木刀で吹き飛ばす。
『あと50m!!』
「見えたぁ!!」
大広間への襖が見えた。
だが、やはり行かせないとばかりに狐面の奴らが止めようとしてくる。
「お前らなんかに止められて、堪るかぁ!!!」
激情をその木刀に乗せ、振り抜く。
『着いた!!』
襖を蹴り破り俺は大広間に突入した。
その大きな大広間、奥には5階に、目的地の天守閣に続く階段が見える。
だが、それ以上に目が離せない人がいた。
大広間の中央、狐の面をした女性の、黒髪で赤色のメッシュ、そしていつか見た獣耳だ、俺の苦い記憶がよみがえる。
この人以外に人は居ない。
正真正銘、最後の番人。
「久しぶりですね、大神さん」
その相手は言葉を返さない。
「俺、蹴られたことまだ根に持ってるんですから」
喋らない。
「その面、引っぺがして謝らせてやるから覚悟しろよ」
憑依経験は丁度この大広間に入ってくる時に切れた。
つまりこっから最低でも10分は耐えないといけない。
だが
「…それがどうしたってんだ」
それで諦めるのなら俺はとっくに諦めてる。
「行くぞォ!!」
大きく踏み込んだ。
俺は木刀を、大神さんは拳と蹴りで打ち合う。
だがその実、俺は憑依経験のインターバルによって防御に回っている。
大神さんの拳のラッシュを木刀で受け、弾き、避ける。
今は魔力を使うことが出来ないので身体能力のみで戦っている、だが、
「オウガさん程じゃない!!」
普段は拳で戦うオウガさんはもっと早く、鋭く、重たかった。
それ以下なら幾らでもやりようはある!!
「せい!!」
俺は大神さんの拳の一つを弾く。
胴体、がら空き!!
木刀を振り下ろそうとした。
が大神さんがそのまま宙返り、サマーソルトの要領で俺の木刀を足で蹴り上げた。
「なっ」
油断した!! 「取った」と思ってしまった。
あやめさんから何回も言われてたろ、最後まで油断するな!!
幸いにも木刀を手放すことは無かったが今度は逆に俺の胴体ががら空きになった。
そのまま大神さんは回し蹴りを俺の横っ腹に放ってきた。
「…ぐぉお!!」
前の俺ならただ無様に吹き飛ばされていただけだろう。
だが俺は前の俺とは違う。
蹴とばされた瞬間、俺は木刀を地面に力任せに刺す。
痛む横っ腹を無視して木刀を起点に倒れそうな体を無理やり起こし、そのまま逆に踏み込む!!
「だらっしゃああ!!」
そのまま俺は木刀を大神さんに振りかぶるが大神さんは大きく後ろにジャンプすることでそれを回避した。
距離が開く、俺は大神さんが付けている狐の仮面を睨めつける。
一瞬の沈黙が続く。
まだ憑依経験は使えない。
なら、時間を稼ぐ。
「…アンタは、白上さんの幼馴染だろ!! 一番仲が良かっただろ!!」
幸いにも言いたいことは山ほどある。
「なのに、なんでそのアンタがそっち側なんだよ!!」
大神さんからの反応は無い、それどころか腰を落とし、こちらに踏み込もうとしているのが分かった。
俺は木刀を構えながら口を開く。
「アンタはあの時言ったよな!! 『フブキと仲良くしてくれてありがとう』って!!」
大神さんが地面を蹴り、俺に接近、拳を振るってきた。
「そんな、言葉が、出るぐらい!!」
俺はその拳を冷静に捌きながら言葉を紡ぐ。
「白上さんのことが大事なんだろ!!」
拳と木刀が鍔競り合う。
大神さんの拳を木刀で押しとどめる。
その奇妙な仮面が俺の眼前にある。
とても、無性にムカついた。
俺はその木刀から力を抜き、手放した。
勿論諦めた訳じゃない、ある掛けに出ることにした。
これ、あやめさんに見られたら間違いなく怒られるかへそ曲げられるだろうなぁ、すんません。
押しとどめていた大神さんの拳はその押しとどめられてた力を解放するように物凄いスピードで俺に迫る。
その拳に意識を集中する、最高のカウンターを放てるように。
俺は顔を拳に合わせて僅かにズラす。
頬に少し拳が当たり、切れるが全く持って問題無し。
大神さんから驚いたような息を飲む音が聞こえる。
「いい加減、その邪魔な仮面取って喋ったらどうだ!!!」
一瞬出来た隙、俺は右手を握りしめて大神さんの顔を面ごと殴りぬいた。
もろに入った拳、それは大神さんを大きく吹き飛ばす結果をもたらした。
すぐさま木刀を拾い直して構える。
起き上がった大神さん、その面の半分は砕けて顔の右半分は見えていた。
「…っせんだよ、…が」
「あ?」
「━うるっせぇんだよ、ド素人が!!」
急に喋り始めたと思ったら先程よりも早いスピードで俺に迫ってきた。
堪らず木刀で受け止める。
「分かってんだよ、ウチだってこんな事間違っていることぐらい!!」
「だったら反対して白上さん助ければ良いだけだろ!!」
「んなこと出来たら、ここでこんなことしてるわけねぇだろ!!」
大神さんの拳の連打が撃ち込まれる。
「ウチだって助けたいさ!! でもそれが白上家が決めたことなんだよ!!」
俺はその全てを木刀で弾く。
「大神家は白上家の影の存在、白上家の決めたことには逆らえない、昔からそう教えられてきた。フブキは生まれた時からこうなることが分かっていて、ウチはそれを家の命で傍で見てきた!!」
大神さんはその場でジャンプ、そのまま回転して踵落としを振るってきた。
俺は右に転がることで回避。
「君に分かる!? いずれ消えてしまう人と友達になって、仲良くさせられて、一族のしがらみで何も出来ない、助けることが出来ないウチの苦しみが!!」
割れた仮面、その瞳からは涙がこぼれていた。
俺は回避した所に大神さんが蹴りを入れられ、吹き飛ばされた。
「はぁ、はぁ」
荒く息を吐く大神さん。
「…なん、だよ」
俺は立ち上がる。
流石にモロに食らったので痛い。
「なんだよ、結局言い訳してるだけじゃねえか」
「は?」
「白上家、だの大神家だの、一族のしがらみだの、結局全部言い訳じゃねえか」
「何を」
「だってそうだろ!? アンタは、アンタは誰だ!?」
「ウチ? ウチは大神ミオ…」
「ああそうだ、大神ミオだ!! でもな」
この人は大事なことを忘れてる。
「いつまで大神一族の大神ミオでいるつもりだ!! アンタは、白上フブキの幼馴染で一番の友人の大神ミオだろ!! いい加減目を覚ませ!!」
「…━ッ」
俺は駆け出した。
この大馬鹿野郎の目を覚まさせるために。
大神さんの戦意はまだ衰えていない。
だから、あの人の認識の一歩先を行く。
体、持ってくれよ!!
木刀に無理やり少し戻ってきた魔力をなんとか流し込む。
クールタイムは後3分程残っているがこれならまだ、何とか成るはずだ。
だがそれでも俺の体からは魔力を無理やり使った事で軋む音がする。
少し、少しだけで良いんだ、あの人の一歩上を良ければいい!!
俺の願いが届いたのか薄らとではあるが赤色の魔力が俺を覆う。
更に加速。
大神さんの割れた面から見える片目が驚きで大きく見開いた。
「歯食いしばれよ、大神ミオ!!」
左手に力を込める、狙いは残った左の仮面。
俺はそのまま左手を振り抜いた。
その拳は無抵抗の
吹き飛ぶ大神さん。
そのタイミングで憑依経験が切れる、あまりにも凄い疲労が遅いかかり膝を付きそうになるが。
「まだ、残ってる!!」
俺は立ち上がる。まだだ、あと一歩すぐそこだ。
階段を上がる前に吹き飛んだ大神さんの横に立った。
「目が覚めましたか?
「…うん」
「俺は今から白上さんを助けに行きます、動けるようになったら来てください」
「…全く、荒川君は人使いが荒いなぁ」
大神さんが涙を流す、まるで今まで溜めたものを流すように。それを後ろ目に俺は階段を上り始めた。
『23時45分、あと15分、ぎりぎり間に合ったね』
「ああ」
まつりの言葉を聞きながら俺は天守閣への扉の前に立つ。
「皆はまだ来ない…か」
結局ここにたどり着いたのは俺一人だった。
『み…く…いってたし……ぶだよ』
「ん?おいまつり?」
『や…流…混線…きた』
「まつり!!」
『大……、虎……絶……助けれる!!』
無線が途切れた、恐らく危惧してた混線だろう。
本当に一人になった。一人だと思うと少し寂しいという気持ちがよぎる。
頭を振ってそんな考えを振り払う。
「大丈夫、大丈夫だ」
本堂の扉を勢いよく開けた。
そこは白上神社で一番高い場所、吹き抜けの本堂、空には大きな満月が浮かんでいる。
そしてそこに彼女はいた。
白無垢のような綺麗な衣装を着て。
彼女はこちらを見る、驚いた瞳。
こういう時なんて言ってあげたら良いのか分からないが、ある漫画の言葉が浮かんだ。
「もう、大丈夫」
一歩近づく。
「何故かって?」
満面の笑みを浮かべてこう言うんだ。
「俺が来た!!」
彼女は、白上さんは嬉しそうな顔して泣いていた。