迷い人よ、ようこそ。   作:みなたか

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2022年 11月13日追加
2024年 3月20日加筆


第十四話

虎太郎たちは白上のお嬢様のところに向かう。

もちろん白上当主はそれを追おうとする、今の力は儀式の際に発生する魔力から来るものだ、だから儀式そのものを止められると白上当主は俺たちに勝ち目が無くなる。

だが逆に、今のこの消耗した状態での戦いを続ければ必ず俺たちの方が負ける。

ゆえに最小の人数で白上当主を足止めし、できるだけ早く儀式を止めて白上のお嬢様を目覚めさせる必要がある。

俺とあやめさんは魔力が残り少ないが、アルさんの魔力は十分に残っている。これなら倒せなくとも足止めぐらいなら何とでもなるとさっきの戦いで判断した。

だからこその人選、だが、まあ。

 

「別に、倒してしまっても良いんだろう!!?」

 

俺は虎太郎を追おうとしていた白上当主の懐に移動、拳を振るう。

魔力が少ないため、あの鎌はもう出せない。

すぐさま気付いた当主は人間離れしたスピードで刀を拳の間に差し込み、受け止める。

だが、構わん、ぶち抜く!!

 

「せああああ!!」

 

その拳は大きな衝撃波となり当主を刀の上から叩く。

 

「な…!?」

 

驚く当主、その体は後ろに吹き飛ぶ。

 

「ここまで力をまだッ!!?」

 

追撃はこれで終わらない。

あやめさんがその場で二刀をクロスし魔力を込めて振りかぶる。

 

「コタローの、所には行かせない!!」

 

それは斬撃となり、当主に迫る。

斬撃を回避しようと当主は動こうとするがアルさんがそれを許さない。

 

「そこを動くんじゃあねえ!!」

 

当主の退路を塞ぐようにその二丁の銃から銃弾が放たれる。

 

動けない当主にあやめさんの斬撃が当たる。

それも刀で受け止められるが、勢いは止まらない。

斬撃に押されるように白上当主は大きく後ろに後退した。

当主は最初の位置と比べるとかなり離れた。

距離は十分に稼げた、これなら虎太郎に手は出せないだろう。

 

「さあて、当主さんよ、俺たちにちょいとばかし付き合ってくれや」

 

頼むぞ、虎太郎ッ!!

 

 

 

 

 

走り出した俺はすぐに白上さんの元にたどり着いた。

 

「白上さん!!」

 

声をかけるが白上さんは俯いたまま、何も反応を示さない。

 

俺はその肩に手を触れた、その瞬間火花のような電撃が走った。

 

「な、いっつ!!」

 

手に少しの痛み。

すると白上さん顔を上げ、ゆっくりとその目を開いた。

 

「フブキ…?」

 

大神さんがそう声を掛ける。

 

「……」

 

その目は無、光を灯していなかった。

 

「フブちゃん…?」

 

フレアさんが心配そうに声を上げる。

 

すると唐突に白上さんは虚空に手を翳した。

するとそこには刀身が蒼い長い刀、いや太刀が現れた。

白上さんはそれを掴むと一番近くにいた俺に斬りかかってきた。

 

「白上さん!?」

 

何だこれは、何がどうなって…

咄嗟に木刀でその太刀を受け止める。

 

「重いッ!?!?」

 

正面からの太刀の振り下ろしを受け止めているがその勢いに押され、膝を地面に付く。

まずいまずいまずいッ!! このままだと押しつぶされる!!

 

「フブキ!!」

 

その瞬間俺に掛かっていた重さが無くなる。

大神さんが白上さんを蹴とばして距離を開けてくれた。

 

「大丈夫!? 虎太郎!!」

「は、はい何とか、ありがとうござます!!」

 

すぐさま立ち、フブキさんを見る。

8本の尾を生やした白上さんは太刀を構えてこちらに顔を向けている。

変わらずその表情は無表情だ。

何がどうなってる…

 

「これは…、白上当主も厄介なものを仕込みましたね…」

「天真さん、フブちゃんに何が起こってるのか分かるんですか?」

 

天真さんが何かに気付いたのかフレアさんがそれを聞く。

 

「ええ、この状態、多分自動迎撃魔法の一種ですね、前の騎士団の調査で似たものを見ました」

 

天真さんが床に敷かれている魔法陣を指さす。

 

「ほら、ここの部分、明らかに敷かれている魔法陣とは別種の陣です」

「あ、ほんとだ…、これ上から上書きされてる…、でもこれなら読めそう」

 

フレアさんが床の陣に触れる。

 

「…儀式が完了するまでの保険って感じだね、効果が続くのは儀式が終了するか、妨害者が存在しなくなったらっていう簡単な条件」

 

不知火さんが書かれた魔法陣の解析を行う。

 

「対処法はありますか?」

 

白上さんからは目を逸らさずにフレアさんに質問する。

 

「うん、あるよ。この魔法、どうやら急ごしらえで作ったモノっぽくてちょっと脆いから割と力業が通ると思う」

 

フレアさんはそう言いながら銃をリロードする。

 

「今のフブちゃんの意識は眠っている状態、だからそれを呼び覚ませば良いだけ」

「…ちなみに、具体的には」

「消耗させつつ呼びかける!!」

「成程、確かに力業だ、分かりやすい!!」

 

俺は再度木刀を強く握り構える。

対処法が分かればなんとかなる。

 

俺はいの一番に駆け出した。

 

「目を覚ませ、白上さん!!」

 

俺は木刀を白上さんに叩きつけるが太刀で受け止められる。

 

「目を覚まして、フブキ!!」

 

後ろから駆けてきた大神さんがその拳振るうが避けられた。

 

「ちょっと寝起きには痛いの行くからね!!」

 

フレアさんがそう言いながら銃を発射。

だがその弾もすべてその太刀で弾かれる。

 

「何で白上親子は当たり前のように銃弾を見切るの!?」

 

フレアさんがそう嘆きながらも適時リロードを挟み弾を撃ち続ける。

 

俺はもう一度白上さんに接近、木刀を叩きつける。

 

「だらっしゃあ!!」

 

それは太刀で受け止められる。

 

「むぎぎぎぎ」

 

若干押され気味になる。

…切るか、憑依経験。

残っている魔力の感じ、あと一回なら出来る。

オウガさんたちが白上当主を抑えてくれているこの時間が勝負、おそらくあの感じからしてそう長くは持たないだろう。

なら短期決戦が必須条件。

憑依経験を発動しようと魔力を木刀に込めた。

 

『怖い』

「え?」

 

何かが俺の中に流れ込んだ。

急の出来事で驚き、力が緩んでしまった。

その隙を見逃す相手ではない、太刀でそのまま吹き飛ばされた。

 

「おっと!! 大丈夫?」

 

天真さんがキャッチしてくれたことで遠くまで飛ばされることは無かったが…。

 

「あれは…」

 

ノエルさんが間に入って白上さんの相手をしている。

今はさっき起きたことを考えよう。

俺はまず何をしようとした、憑依経験を使おうとしたら…、何かが俺の頭の中に流れ込んできた。

今まで憑依経験を使っていてて初めての出来事だ。

確かあの太刀と打ち合っている時… もしかして…。

 

「あの太刀の記憶…?」

 

憑依経験は武器に宿る記憶を己に憑依させ戦う魔法。

さっき魔力を太刀に通したとき、木刀は白上さんが握る太刀に触れていた。

あの太刀ごと記憶を読み取ったって考えていいのか?

 

…なら、これの逆の方法でこっちの言葉を白上さんにぶつけて目覚めさせることとかできないか?

いや、悩むよりやってみるか。

 

「ノエルさん!! 変わります!!」

 

俺はノエルさんに変わるように斬り込む

 

「え、虎太郎君 大丈夫なの!?」

「大丈夫です!!」

 

俺は憑依経験を使う時と同じように魔力を木刀に通す、そして。

 

「目を覚ませええ!!!」

 

それを白上さんに叩きつける。無論それは白上さんは太刀で受け止める、が。

 

「う、う」

 

白上さんは苦しそうに頭を押さえ、生えている八本の尻尾、その一つが消滅した。

ビンゴだ。

行けるぞ、これなら!!

 

 

 

 

 

 

 

俺の放った二つの銃弾が白上当主に迫る。

 

「ふっ!!」

 

当然の様にそれはその刀で切り伏せられる。

何度も見た光景だ。

入れ替わる様に今度はあやめさんとオウガがタイミングを合わせてラッシュを仕掛ける。

 

「せいせいせい!!」

「オラオラオラァ!!」

 

左右からの息の合った攻撃。

だが二方向の攻撃にも関わらず、白上当主は儀式の魔力を使うことで大幅に強化した身体能力でその全てを捌ききる。

 

「スピードを上げるぞ!!」

「了解っ!!」

 

更に攻撃の速度を上げるあやめさんとオウガ、この状態で俺が攻撃で横やりを入れるのは二人の攻撃のリズムを崩すことになり、あまり良くない。

カバーに徹するため俺は銃をリロードする。

 

「ふむ」

 

白上当主はスピードの上がった二人の攻撃ですら冷静に捌く。

 

「ならば、遠距離の方から片付けるか」

 

そう言った瞬間、白上当主はその場から立ち消えた。

あやめさんとオウガさんが驚き、大きく目を見開き、俺の名前を呼ぶ。

 

「アルさん!!」

「アルランディスさん!!」

 

二人の視線の先、それは俺の後ろを指し示していた。

俺は二人の視線を信じ、後ろに振り向き銃を放つ。

 

「惜しい」

 

そこに居たのはやはり白上当主。

至近距離、あまりにも近すぎる。

当然の如く放った銃弾は避けられた。

 

「この距離ならば避けられまい」

 

ああ、確かに銃は中から遠距離の武器。

至極簡単、銃の使用者は距離を詰められるのは大きな弱点だ。

 

ま、それは俺以外のやつの話だがな。

 

俺は二丁の銃を手放す。

あまりにもあり得ない選択。

その選択を取ったがため、白上当主の驚きその体は一瞬の硬直を生む。

その一瞬だけで俺には十分だった。

 

右手を大きく握りしめ、振りかぶる。

 

「筋肉はァ!!」

 

そして俺はその右手を放った。

 

「裏切らない!!」

 

俺の拳は白上当主の顔面を捉え、その体ごと吹き飛ばした。

 

「ちっ、入ったと思ったんだけどな」

「…流石にまずかったですよ今の」

 

白上当主は起き上がる。

あの一瞬、白上当主は拳が当たる瞬間僅かに後ろに飛んだことにより急所を外されていた。

 

「まさか銃を使うこと自体がブラフだったとは、驚かされました」

「ま、何事も体が資本だからな」

 

俺は落とした銃を拾う。

別に拳の方が強いだけで銃も強いからな俺は。

あやめさんとオウガが俺の前に並ぶ。

 

「さて、再開と行きましょうや、当主さん」

 

オウガがそう言ったその瞬間だった。

 

「なっ!?!?」

 

白上当主が膝を付いた。

 

「まさか、これはフブキが!!」

 

俺たちは全員、虎太郎が向かったであろうフブキさんの方を見た。

 

「尻尾の数が減ってる…」

 

あやめさんがそう言い、それに気が付いた。

確かに尻尾の数が一本減っている。

それが白上当主が膝を付いた正体か。

魔法陣と白上当主をつなぐ魔力を確認すると、その流れは先程より少し少なくなってるのが確認できた。

 

「…やはり急ごしらえの防衛魔法だと役に立ちませんか」

 

そう言いながらも白上当主は再び立ち、刀を構えた。

 

「ナイスだぜ、虎太郎」

 

オウガは笑顔を浮かべ拳を構える。

白上当主はさっきよりも確実に弱くなっている。

これなら勝機はある。

 

「さて、あと少しでハッピーエンドだ、気張っていくぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、虎太郎、何やったの?」

 

大神さんが俺の元に来て訪ねてきた。

 

「あの、覚えてますか? 大神さんと戦った時に使った憑依経験って技」

「う、うん覚えてるけど…」

「それを応用して言葉を叩きつけたら反応してくれました」

「て、ことはそれを続ければ」

「はい、白上さんを起こせると思います」

「成程、じゃあ隙を作って虎太郎に攻撃を打ち込んでもらうで良い?」

「大丈夫です!!」

「おっけー、あ、そうだ」

「はい?」

「うちの事はミオで良いよ」

 

そう言うと大神さ、いや、ミオさんは白上さんに攻撃を始めた。

 

「今!!」

 

ミオさんがそう言う、そのタイミングで俺が入り、同じように木刀を叩きつけた。

 

「皆待ってるぞ!!!」

 

木刀を太刀で受け止める白上さんだったが、やはりその顔を痛みに耐えるような苦痛な顔を見せ、尻尾がもう一本消滅。

しかし俺を太刀で押し出すように振りかぶってきた。

だが、それは後ろから差し込まれた剣に受け止められた。

 

「大丈夫かい、虎太郎君」

「天真さん、ありがとうございます」

「お礼なら後、それより虎太郎君ならさっきまで何も反応を返さなかったフブキさんを目覚めさせれるって認識で合ってる?」

 

白上さんの太刀を受け止めている天真さんは横目で俺に目を合わせた。

 

「はい、俺の木刀が白上さんの太刀に触れることが出来ればなんとかなります」

「成程、了ッ解!!」

 

すると天真さんはその剣に力を込めて白上さんの太刀を押し返す。

 

「虎太郎君!!」

 

天真さんの合図を受けて俺は再び木刀を白上さんの太刀に叩きつける。

 

「そりゃ生きてたら怖いことぐらい沢山ある!!」

 

天真さんが横で支えてくれる分、余裕があると思った俺はさらに言葉を重ねる。

 

「でも、皆が居る!! 君は一人じゃない!!」

 

木刀を受け止める白上さん、だがその力は明らか先ほどよりも弱くなり、尻尾も更に二本消滅、元に戻すにはあと三本!!

 

「うあああああ!!!」

 

白上さんは癇癪を起すように太刀をむやみやたらに振り始めた。

 

「ヤバ!!」

 

天真さんはそう言うと俺を担いで大きく後ろに下がった。

安全な距離になってから俺は天真さんから降ろされる。

すると今度は白上さんの動きを封じるように魔力弾が空から降り注ぐ。

 

「ノエル!!」

 

フレアさんが放った無数の魔力弾は白上さんの動きを止める。

 

「どっせい!!」

 

そこに合図を受けたノエルさんがメイスを地面に叩きつけた。

 

その衝撃は地面を砕きながら進み、動きを止めている白上さんの足元まで行くと、大きく弾けた。

その衝撃により、白上さんは体勢を崩す。

 

「「虎太郎君!!」」

 

フレアさんとノエルさん、二人同時に合図が飛ぶ。

俺は天真さんが開けてくれた距離を今度は縮めるために走り出す。

 

「だから、生きることを諦めるな!!」

 

木刀をもう一度太刀に叩きつける。

 

「あああああああ!!!」

 

更に尻尾が一本消滅。

すると白上さんを中心に暴風が吹き荒れた。

 

「のわッ!?」

 

一番近くにいた俺は容易く吹き飛ばされた、が。

 

「おっと」

「大丈夫? 虎太郎」

 

俺を受け止めてくれたのはマスターとまつり。

 

「ありがとうございます、マスター、まつり」

 

俺は二人に礼を言い、立ち上がる。

 

「…いっつ」

 

ふと、体に痛みが走る。

流石に無理し過ぎたか、桐生さんからもらった血で完全には回復した訳じゃないからな。

 

「…けど、まあここが無理のしどころよな」

 

俺は白上さんを見る。

大きな太刀を上段に構えていた。

その刃の部分は膨大な魔力を纏い長く伸ばされ、月の明りに照らされるように蒼く蒼く、強い輝きを放っていた。

 

思わず俺は息を飲む。

その圧力に飲まれそうになった。

 

「今更何を怖気づいてるんや!!」

「そうそう、あと一歩だよ、ファイト!!」

 

そう俺の両肩に触れてくれた人がいた。

 

「マスター、まつり…」

「全く、今度はうちが殴らないといけないのかな」

 

そう言い、ミオさんはこの圧力から守るように俺の前に立ってくれた。

 

「フブキを助けるって言ったのは虎太郎だよ?」

「ミオさん」

「道なら私たちが作るから」

「虎太郎君は信じて!!」

 

フレアさんとノエルさんはそう言い、左右に立つ。

 

「フレアさん、ノエルさん…」

「僕もいること忘れたら困るよ?」

 

天真さんは誰よりも前に立つ、皆を守るように先頭に。

 

「天真さん」

 

全く、何度助けられるんだよ。

強張っていた口がにやける。

 

「…ふぅ」

 

目を瞑り、息を吐く。

そして目を開く。

 

「…恐らく、これが最後の攻撃です」

 

白上さんの力の高まりを見るに最強の一撃。

 

「皆」

 

俺は皆に改めて言う。

 

「助けよう、絶対に」

 

「おう!」

「うん!」

「勿論!」

「任せて!」

「おっけ!」

「ああ!」

 

白上さんの一撃が振り下ろされる。

 

「まずは僕!!」

 

天真さんはその剣に魔力を纏わせる。

 

「ぜああああああああ!!!」

 

そして振り下ろされた太刀を受け止めた。

 

「うぉおおおおおおお!!!」

 

雄叫びを上げる天真さん。その剣は確かに太刀を受け止めているが僅かに押され始めていた。

 

「ノエル、行くよ!!」

 

フレアさんは俺にしたようにノエルさんのメイスに炎を纏わせる。

だがそれは俺の時よりも赤く、熱く、燃え上がる。

 

「ありがとう、フレア!!」

 

ノエルさんはそのまま走り出し、太刀を受け止めている天真さんの剣の一歩前に出てその太刀を押し上げる。

 

「やあああああああああ!!」

 

ノエルさんが叫ぶ。踏み込んだ足元は大きく抉れ、メイスからは激しく炎が巻き上がる。

 

そして、ついに。

 

「「あああああああああああ!!」」

 

振り下ろされていた太刀が下から打ち付けられたメイスと剣により、大きく打ち上がった。

 

それを見たミオさんは一足先に走る。

 

両肩を押される。

言葉は無かったが確かに、マスターとまつりから行ってこいと言われた気がした。

俺はミオさんを追う形で走る。

 

魔力を解放する、己の残っている魔力を全て木刀に注ぎ込む。

憑依経験発動、赤い魔力が俺を包む。

だが、これで終わらない。

ふり絞れ。

一分も要らない。

凝縮しろ。

一撃に全てを込めろ。

 

纏った赤い魔力が凝縮。

身にまとった魔力が手に取るようにわかる。

頭部にはあやめさんの角の様に魔力で出来た角が形成される。

 

 

更に加速。

 

ミオさんの前に出る。

 

「ミオさん、殴り飛ばしてください!!」

「了解!!」

 

俺はその場で軽くジャンプ、膝を曲げ、足裏をミオさんの前に来るように体勢を変える。

ミオさんはそのまま俺の足裏を加速した拳で振り抜いた。

 

「いっっけえええええええええええ!!!」

 

それはまるでミサイルのように打ち出された。

打ち上がった白上さんの握る太刀に狙いを定める。

 

「「「「「虎太郎!!」」」」」

 

皆の声が聞こえた。

 

俺は木刀を握りしめる。

 

 

「帰って来い!! フブキィ!!」

 

 

白上さんが握っている太刀に木刀を叩きつける。

 

激しい衝突。

 

太刀と木刀が拮抗する。さらに力を籠める。

 

…届け

 

届け

 

届け!!

 

 

「うぉおおおおらああああああ!!!」

 

 

その瞬間、ぶつかり合った太刀と木刀は目も眩むような激しい輝きを放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の未来は生まれた時から決まっていた。

神になり、白上一族を導く。

だから昔からそう育てられてきた。

基本は神の器となるこの体を鍛える鍛錬。

父は私が先がないと理解しているからか、基本的には表面上は良い顔をしなかったが、好きなことをしても許してくれた。アニメを見る。ゲームをする。今思えばこのオタク文化に触れたのもこの神になるということ事実からの逃げ場所として知らぬ間に選んでいたのかもしれない。

そして友達もたくさんできた。

ミオ、ノエル、フレア、ココ会長、あやめちゃん、まつりちゃん、ロベルさん、アルさん、そして荒川君、他にも沢山出来た。

だから、そのことを忘れてしまうのかと思うと、とても怖くなった。

だからそれを漏らした。

そしたら手を差し伸べてくれた。

でもその手は取れなかった。彼女たちが現れ、取れなかった。

いや、違う。

その気になれば彼女たちを振り切って掴めた。でもその寸前で臆してしまった。

この手を握ってどうなるのか。

そこに未来はあるのか。

そして何より、この手を握ったことで荒川君を巻き込んでしまう。

その怖さから手を取ることはできなかった。

 

彼はそれでも来てくれた。

でも、その体は既にボロボロだった、沢山の傷を負っていた。

何故か、私のせいだ。

もっと怖くなった。

私が生きていたら傷つけてしまう、そう思った。

こんなことになるぐらいなら言わなければよかった。

ごめんなさい、ごめんなさい、だから…もう、私を放っておいてください、一人で眠りにつかせてください。もう、誰も傷つけたくないから。

 

 

「目を覚ませええ!!!」

 

 

声が聞こえた。

 

 

「皆待ってるぞ!!!」

 

 

やめてください。

放っておいてください。

 

 

「そりゃ生きてたら怖いことぐらい沢山ある!!」

 

 

それだけの言葉で片付けないでください。

どれだけの思いで今私がここにいるのか、分かってください。

 

 

「でも、皆が居る!! 君は一人じゃない!!」

 

 

暗闇の世界にヒビが入った。

 

 

「だから、生きることを諦めるな!!」

 

 

それでも、私は…

 

 

「帰って来い!! フブキ!!」

 

 

膝を抱えた私は顔を上げる。

そこには手を差し伸べる荒川君が立っていた。

 

「…もう、放っておいてください」

 

「いやです」

 

「誰も傷付けたくないんです。私が生きていることで私が関わることで誰かが傷付く、それがもう耐えられないんです」

 

「だから貴女はこんなところで一人、閉じ籠るんですか」

 

「はい」

 

「何というか、白上さんは本当に優しい人ですね」

 

「…え?」

 

その返答は私にとって予想外のものだった。

だから驚きを返した。

こんなにも迷惑をかけているというのに、それでも彼はそんな言葉をかけてくれるのかと。

 

「だってそれは白上さんが優しいからこそ、そう思っている訳でしょ」

 

「……」

 

「でも、だからこそ言いますね」

 

彼は言う。

 

「傷つけることを恐れるな」

 

その言葉は残酷だった。

 

「人間はさ、誰かと関わって傷つけ合ってその上で支え合って生きていくもんだよ」

「でも! だからと言って傷つけて良い理由にはならないじゃないですか!」

「うん、だから友達がいるんだよ。傷つけ合っても一緒にいれる、そういう存在が友達になるんだよ」

「…とも、だち」

 

皆の顔が脳裏に浮かんでは消えた。

 

「俺は白上さんのことを友達だと思ってる。いや、俺だけじゃない、ミオさんも、まつりも、みんな。だから良いんだよ、傷付けたって! それで君と関われるのなら!」

 

荒川君は手をもう一度差し伸べた。

 

「その傷付ける(関わり合う)っていう一歩を踏み出そうよ」

 

私はその手を見つめる。

 

「…良いんですか?」

 

自ら発したその声は震えていた。

 

「…また、傷付いちゃうかも知れないんですよ?」

 

喉をつまらせ、感情が溢れそうになる。

 

「それでも…」

「うん、良いよ」

 

そう言って彼は微笑んだ。

 

「俺は君の友達なんだから」

 

頬に溢れた感情が伝う。

ポタポタと溢れる。

そんな中、私は一つ疑問に思う。

 

「…どうして、ここまでしてくれるんですか?」

「言っただろ、友達だからだって。それに」

「それに…?」

 

「君が「助け」を求めている顔をしていたからだよ」

 

その言葉はとても胸に染み込んだ。

感情がさらに溢れ出す。

 

手を取れなかった私を。 怖じ気づいて「助けて」と声に出せずにいた私を、白上を見つけてくれた。 彼の姿は本当に…。

 

かつて掴めなかったその手に自らの手をおずおずと、でも確かに重ねる。

 

「ありがとうございます。虎太郎君(My Hero)!!」

 

虎太郎君、白上は今笑えていますか?

 

 

 

 

 

 

 

気がつくと俺は地面に倒れ伏していた。痛みに耐えながら体を起こし、近くで倒れている白上さんを抱き上げた。

 

「白上さん!!」

 

皆が駆け寄って白上さんの様子を見守る。

8本あった尻尾は既に無く、手に持っていた蒼い太刀も砕かれ、側に突き刺さっていた。

 

「う、ううん」

 

白上さんは目を開けた。

 

「白上さん!!」

「虎太郎君、それに… ミオに皆も…」

 

ミオさんは白上さんに抱き付いた。

 

「フブキ、フブキ!!」

「ミオ… そっか私…」

 

周囲を見回した白上さんは状況を理解したようだ。

抱き着くミオさんを優しくあやすように背中をさする。

 

「お帰りなさい、白上さん」

「…もうフブキとは呼んでくれないんですか?」

「え」

 

白上さんは少し不服そうな顔をした。

確かに攻撃する際、無我夢中で口に出していたのを思い出す。

改めて考えると恥ずかしさが出てきたがまあ、今更だし良いか。

 

「えっと、お帰り、フブキ」

 

名前で呼ぶと彼女はまるで花が咲いたように笑った。

 

「ただいまです、虎太郎君」

 

こうして俺たちはフブキを取り返したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「でやああああ!!!」

 

あやめさんの二刀による乱舞が白上当主を襲う。

 

「せあッ!!」

 

そして白上当主の持つ刀をついに弾き飛ばした。

 

「今だよ!!」

 

そうあやめさんはオウガさんとアルさんに合図する。

 

「よし、決めるぞオウガ!!」

「はい!!」

 

アルさんは魔力の込めた弾丸を宙に放り投げる。

それをジャンプしていたオウガさんが拳で白上当主に叩きつける。

 

「オラァ!!」

 

それは大きな爆発を引き起こし白上当主を吹き飛ばした。

 

 

大の字に倒れ伏す白上当主、起き上がる気配は無かった。

確実に俺たちの勝ちだろう。

 

 

「負けか…」

 

当主はそう呟く。

フブキは一人で立ち、当主の元に向かった。

俺たちもその後を追う。

 

「父様」

「…フブキか」

「はい」

「そうか、そうなったのだな」

「…父様、私は」

「……」

「私は、人として生きていきます」

「そうか」

「…」

「……今まで、苦労を掛けたな」

 

そう答えた白上当主の顔はどこか穏やかだった。

 

 

こうして、昇華祭は幕を閉じた。

 

 




次回、最終話です。
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