昇華祭から1ヵ月たった。
あの後は皆、死屍累々になって帰り、泥のように眠り、起きてからBAR ROBELに集合してほぼ丸一日どんちゃん騒ぎをした。
それからは変わらずの日常が過ごされ、俺は変わらずバーでバイトを続けていた。
まあ、変わったといえばフブキがバーに来ることが増えたぐらいか、理由を聞いても「内緒でーす」と言って答えてくれなかった。
そんな平穏な日常の中、一つ決心をしたことがあった。
今日はその為にとある場所に来た。
「ここに来るのはもう3ヶ月、いや体感5か月振りか。役所」
正直もう少し早く来ようと思ったのだが傷が完全に癒えるのにこれだけの時間がかかった。
そのまま迷い人の窓口に行く、受付の人は俺の顔を見ると。
「少々お待ちください」
そう言い、奥に引っ込んだ。
待つこと数分。
「こちらにどうぞ」
とある部屋に通された、で、そこにいたのは
「やあ、久しぶりですね」
俺に手紙を渡したオッサンだった。
「はい、お久しぶりです」
なんというか驚きは無かった。
そもそも俺が何でこの世界にこれたのか。
そしてこの世界で何故あんなに早く住むところが決まったのか、全てこの人が仕組んでいたのだろう。
「昇華祭についてはお疲れさまでした」
「全部知ってるんですか」
「ええ、役所に届け出のあった迷い人の動向はこちらでも確認出来るようになってるんですよ」
まるで監視されてる見たいで少し嫌な感じはするが、まあ、あの保証の対価だと思えば安いものだけど。
「そう嫌な顔をしないでください、僕としても折角招待した人が大変なことになっていたら罪悪感を感じますからね」
「まあ、あんなに手厚い保証を受けられたので文句は言わないですよ」
ふと気になることが頭に浮かんだ。
「そういえば、俺が最初この世界に来た時、フブキの、白上家が所有する湖に落とされてフブキと出会ったのも仕組んでいたのですか?」
「いえ、それは全くの偶然ですよ」
思わずホッとした。
フブキとの出会いすら仕組まれていたものだったら流石にちょっと嫌な感じがしただろう。
「本当ならこの役所の前に転移する筈だったんですけどね、はっはは、バグりました」
「おい」
「まあまあ、そのお陰で白上フブキさんと出会えた訳です、これは正直予想出来なかったですよ。まるで運命に導かれてるかのように出会ったんですから」
「運命……」
最初にフブキと出会った時の事を思い出す。
半裸の服が水に濡れて肌にくっついている白髪獣耳美少女、なんとも思春期の好青年には刺激の強すぎる光景だ。
本当に運命か……?
「ところでどうですか? 迷いの方は、まあここに来られたということは」
「ええ、バッチリ解決しましたよ」
「それは良かった」
「…多分、ここに来た目的も分かっていると思うんですけど」
「はい、これですね」
オッサンは手紙を俺に渡した、それはこの世界に来た時とほぼ同じ手紙。
「手紙を開くとアナタは元の世界に戻ります、ただ向こうでも同じように時間は流れているので3ヶ月後の元の世界ですね」
「まあ、それぐらいは覚悟してましたよ」
「いつごろ帰られるのですか?」
「えっと、色々お世話になった人に挨拶してってなるので多分明後日ですね」
「成程」
「あ、そうだ、ありがとうございます」
「何のことです?」
「あの部屋とか生活費とか」
「ああ、そのことですか、気にしなくても大丈夫ですよ」
このオッサンはいつもニヤニヤしてるなぁと、貰う物も貰ったのでそろそろ帰ろう。
「じゃあ、俺はこれで、あ、次いでなんですけど」
「はい?」
「あなたって何て呼ばれているんですか? お世話になったんだし名前ぐらいは憶えておきたいんですけど」
「…そうですね、いつもはYAGOOって呼ばれています」
「じゃあ、YAGOOさん、お世話になりました。」
俺は一礼して部屋を出た。そしてそのまま役所を出る。
「さあて、お別れの挨拶しに行きますかぁ」
次の日はBAR ROBELで俺のお別れパーティーを開いてくれて、お世話になった人は全員来てくれた。
フブキ、ミオさん、マスター、まつり、アルさん、ノエルさん、フレアさん、あやめさん、天真さん、オウガさん、そして桐生さんも来てくれた。
それはもうどんちゃん騒ぎだった。
一番やばかったのはフブキとまつりが間違えて酒を飲んで酔っ払った時だった。
「んもおおお、なんで帰っちゃうのおおおお!!!」
「そうだよぉ、まつりたちを置いてさぁ、一生こっちにいたらいいじゃああん」
「ですですです!!」
そう言いながら俺の両脇を固めてずっと詰められていた。
ちなみに周りもそうだそうだ、とか言って全く助けてくれなかった。
次の日、俺はフブキと出会った最初の湖に来ていた。ここで手紙を開けると言っていたので昨日の面子皆見送りに来てくれていた。
「虎太郎君」
「うん?」
「懐かしいですね」
「そう、だなぁ」
ここで俺とフブキは出会ったんだ。
「虎太郎君、私、ちゃんと生きます、もう生きることから逃げたりなんかしません」
「うん」
「だからっ、虎太郎君も」
「俺さ、この世界に教えてもらったんだよ、立ち向かう強さってのを」
「え?」
思い出される三ヶ月の記憶、嫌な思いも苦い思いも痛い思いも沢山したけど、けど。
やっぱり楽しかった。
皆と過ごしたこの三ヶ月は俺のかけがえのない宝物だ。そう思えた。
そう思えたのはあの時、逃げる事を止めて立ち向かったからだ。
だから。
「だからさ、俺元の世界でも逃げずに頑張ってみるよ」
「はいっ!!」
すると、フブキが立ち止まった。
「虎太郎君、これ受け取ってください」
そう言い俺に渡してきたのは一本の短刀だった。
「これは…」
鞘に収まっている刀身を出すとそれは綺麗な蒼に染まっていた。いつか見たフブキが使っていた太刀の短刀バージョンのような感じだ。
「それは私の力を込めて作った短刀です」
「綺麗だ…、でも、良いのかこんな大事そうなの…」
「はい、大事なものだからこそ、虎太郎君に貰ってほしいんです、沢山感謝している虎太郎君に」
「そっか…、じゃあ、ありがたく貰うよ」
俺は短刀をしまった。
俺は皆を見回した。
マスター
「またいつでも来てくれて良いからな、虎太郎のエプロン残しておくからな!!」
アルさん
「まあ、また俺のピザを食べたくなったら来いよ、飛び切りのやつを焼いてやる」
あやめさん
「余があげた木刀、絶対に無くすんじゃないぞ!! あと元気でな!!」
ノエルさん
「向こうでも元気でね、体調には気を付けて、でも鍛錬は忘れないようにね」
フレアさん
「寂しくなっちゃうけど、また会えるって私は信じてるからね」
天真さん
「君と共に戦えたことをとても誇りに思うよ、元気で」
オウガさん
「おう、虎太郎、お前との鍛錬もあの襲撃も全部終わってみたら結構楽しかったぞ、達者でな」
桐生さん
「あー、まあ達者でナ、もし次会えたらうちの組でも入れヤ」
ミオさん
「君には本当に色んなことを教えて貰って、返しきれない恩が出来ちゃったから、もし助けが必要なら言ってね。絶対に、世界超えてでも行くから」
まつり
「まつりに会いたくなったらいつでも来てもいいからね。言っとくけど冗談じゃないからね、本当に会いに来てよ!! 世界超えて!!」
フブキ
「私、私、絶対に、虎太郎君に助けてもらったこと忘れません。だから、私のこと、皆のこと忘れないでくださいね!! それで、会いたくなったらまた来てください、皆大歓迎ですから!!」
思わず目頭が熱くなる、こんなにも慕ってくれてたのか。
「皆、ありがとう」
俺に出来る精一杯の笑顔を返す。
「それじゃあ、また」
手紙を開いた。
『迷いを晴らした人に告げる。その迷いの先に行くことを望むのなら、この世界を投げ捨て、己の”世界”に戻られたし』
虎太郎君は手紙を開くとまるで元から居なかったかのようにこの世界から消えた。
「…行っちゃったね」
私の一番の親友のミオが声を掛ける。
「……」
私は何も言えない。
そんな私をミオが優しく抱き込んでくれた。
溜めていたものが溢れてきた。
「私、わたしっ、こたろ、う君に」
ボロボロになりながら助けてくれた、私に生きるという選択肢をくれた。
色々なものを、暖かいものを私にくれた。
「ずっと、いてくれると、思ってた」
「…うん」
ミオは優しく抱きしめてくれる。その声は少し涙声だった。
「行って、ほしくなかったっ」
お別れは泣かないようにって思った、笑顔で見送ろうって、でも。もう良いよね。
「うああああっ、あああああっ!!」
私はミオの胸の中で泣き続けた。
あれから1年がたった。
確かに元の世界に帰ると確かに3ヶ月経過していた。
家に戻るとそれはもうえらい心配された。どこに行ってただの、今まで何してただの、警察に捜索願を出してたらしい。一応、自分探しの旅をしてたって言っておいた。まあ、間違っていないだろう。
ただ、一番衝撃的だったのは祖父の変わりようだった。久しぶりに見る祖父の姿は酷く憔悴していた。祖母に聞いた所、俺が出て行ってからまともに飯が喉を通らなかったそうだ。
そのことを聞いて流石に罪悪感が沸いたがそれと同時に元々は祖父の一方的な発言のせいなので自業自得だから気にするな、と祖母から言われたので気にしないようにするつもりだ。
そして、例の跡継ぎの問題だが祖父からは「虎太郎の好きにしなさい」と言われた。何とまあな変わりようだ。流石に3カ月の失踪は堪えたらしく強制させるのは流石に良くないと理解したようだ。ということで未来を自由に選択出来るようになった俺は進学という選択を取った。
だが、実質三ヶ月失踪で勉強していないわけだからそれはもう焦った。
めちゃめちゃ勉強大変だった。でもあの修行中のことを思い出すと何でも余裕だと思い何とかなった。
そうして大学に無事合格。入学式を終えて、自宅に帰り自分の部屋に戻ってきた。
ふと部屋に置いている貰った短刀を取り出す。
これを見るたびに俺はあの世界のことを思い出す。
体に満ちていたあの魔力はこっちの世界に帰ってくると完全に消失した。あの世界と俺を繋ぐものは思い出と、この短刀だった。
この短刀を見るたびに、あの駆け抜けた三か月を思い出すたびに何度も頑張ろうと思えた。
鞘から刀身を出す、綺麗な蒼が目に付く。が、見惚れていると手が滑ったのか短刀を落としてしまった。
「わわわ、鞘無しはやばいやばい」
急いで短刀を拾い、鞘に戻す。
そしてふと、短刀を落としたところを見た。
「あれ?」
何か空中に線が?
俺は思わずそれに触れた。
そうしたら。
何故か空に投げ出されていた。
「は?」
なんかデジャブを感じるんですけど
「うおおおおおいいいいいいいいい!!!!!!」
そのまま俺は下にあった池に激しい水しぶきを上げて落ちた。
急いで陸に上がろうとしたのだが、なーんか見たことがある白髪獣耳美少女がいるんですが、そしてこっちをじっと見つめているんですけど。
本当にこんなことが二回も起きるなんて、マジで運命なのかもなって思ったり思わなかったり。
取りあえず俺は陸に上がった。
そしてその美少女に声を掛けた。
「えっと、久しぶり」
「……」
「おーい」
「…え、え、こたろう、さん?」
「おう、荒川 虎太郎ですよ」
「……」
「えーと…」
すると美少女、フブキが目に涙を溜めて抱き付いてきた。
「うぇい!?」
思わず変な声が出た。
「…偽物じゃないですよね?」
「……うん、本物」
「だよね、本当に虎太郎君だよね!?」
「はい、虎太郎です」
「会えた、また、会えた!!」
フブキはうわーん、と涙を流し始めて抱き付く力を強めた。
まあ、こうして俺はフブキと、この世界と再会を果たしたのだった。
これにて完結です、読んでもらってありがとうございます。
あ、もし気が向いたらもしかしたら後日談とか適当に出すかもしれないので、その時はよろしくお願いします。