迷い人よ、ようこそ。   作:みなたか

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後日談は上下に分けさせてもらいます。


後日談 上

「ほんま急に来るとかびっくりするで」

 

「まあ、俺も急にこっちに飛ばされたので」

 

そう俺はカウンターにいるマスターに言う。ほぼ1年ぶりの再会だ。

あの後俺はBAR ROBELに来ていた、中はほぼ変わっていなくて懐かしさを覚える。

 

「そういえばお昼の時間帯の営業も始めたんですね」

 

今の時間はちょうどお昼時、1年前ならバーは夜しか営業していなかったのにこの昼間にも店が開いており、客もまばらに入っていた。

 

「そうやねん、1年前、虎太郎が帰ってから1カ月後ぐらいやな、あれからバイトが一人増えてな、ちょっとやってみるかって思ったら案外出来てな、それなりにお昼でもお客さんが来てくれるってわけや」

 

「それでそのバイトってのが…」

 

「はい、虎太郎君、おまたせでーす、フブキ特製オムライスですよー」

 

俺の前には美味しそうなオムライスが置かれた、大きなハートのケチャップ付きだ。

 

「…まさかフブキがここでバイトを始めるなんて」

「あはは、取りあえず冷めちゃいけないのでどぞどぞ」

 

どこか恥ずかしそうなフブキはその照れた顔を隠すように俺にオムライスを進めてきた。

 

「じゃあ、頂きます」

 

オムライスをパクりと一口。

 

「どう…ですか?」

「うん、美味い」

「本当ですか!?」

 

物凄い勢いで聞いてきたので少し驚いた、フブキの尻尾もぶんぶんと物凄いスピードで左右に揺れている。

 

「うん、本当。ほら俺って素直だって言ったじゃん?」

「…えへへ」

「良かったなぁ、フブキさん」

「はい!!」

 

フブキは嬉しそうに笑う。

 

「そや、虎太郎。フブキさんがここでバイトし始めた理由なんやけどな」

「え、ちょ、ちょっとロベルさん!?」

 

何を急に言うんだと言った顔をするフブキ。

 

「なんや、 別に言っても困ることじゃないやろ?」

「で、でも恥ずかしいですし…」

「え、めっちゃ気になるんですけど」

「やろ?」

「こ、虎太郎君!?」

 

マスターが喋るのをフブキが止めようとするが、それより先にマスターが口を開いた。

 

「虎太郎に憧れたからやって」

「え?」

「~~~~~ッ!!!???」

 

思わずな理由で俺は驚愕したが、それ以上にフブキがオムライスを運んでたトレイで頭を隠して蹲ってしまった。

マスターと顔を合わせた。マスターは俺に目で合図してきたので取りあえず、蹲るフブキに目線を合わせるようにその場にしゃがんだ。

 

「…その、えっと」

「……」

 

フブキは顔をトレイで隠しているので見えないが、ちらっと見える耳とかは真っ赤に染まっているので恥ずかしがっているだけなのだろうと勝手に結論付ける。

 

「俺に憧れて…ってどういう…」

「……虎太郎君は」

 

フブキは顔をトレイで隠しながらボソボソと喋り始めた。

 

「虎太郎君は白上にとって、ヒーロー、なんです」

「え、ヒーロー?」

「…私を助けてくれて、未来をくれた。そんなヒーローがやってたことに憧れちゃったんです」

「だからこのバーでバイトを…」

 

俺は顔が赤くなるのが分かる、俺のことをそんな風に思っていてくれていたのかと思うと嬉しさと恥ずかしさで思わず顔がにやけてしまう。

俺は人差し指で頬をかく。

 

「えっと、それはその…ありがとう。俺を憧れなんて言ってくれて、その、嬉しいよ」

 

俺は恥ずかしかったがトレイで顔を隠しているフブキに笑顔に向けた。

すると少しトレイをどかしたフブキ。フブキは俺の顔を見ると。

 

「~~~~~ッッやっぱり恥ずかしい!!」

 

物凄いスピードで立つとバーのカウンターの奥に走って引っ込んでいった。

 

「……何ニヤニヤしてるんですかマスター」

「いや、良いもん見させてもろたなって思って」

「まったく…」

 

俺は食べかけのオムライスを食べ始める。

 

 

半分ぐらいオムライスを食べたころ、バーの入口に付いたベルが鳴る。誰かがこのバーに入ってきたようだ。

 

「やっほー、お昼食べにきたよロベル…さ、ん…」

 

ふと見ると見たことのある茶色のサイドテール。

するとその後ろにはこれまた見たことのある黒髪獣耳赤メッシュが見える。

 

「どうしたの入口で急にとま…って…」

 

そんな二人はオムライスを頬張っている俺と目が合った。

取りあえず俺は片腕を上げて。

 

「おっす」

「「おっす、じゃねええええええええええ!!!」」

 

バーに入店してきた二人、夏色まつりと大神ミオはそう叫んだ。.

 

 

 

「待って待って待って」

「お久しぶり」

「そうだけど!! 久しぶりだけど!!」

 

急に現れた俺にミオさんとまつりは驚くと同時にオムライスを頬張っている俺に詰め寄ってきた。

 

「虎太郎、なんだよね?」

「おう」

「うちの幻覚じゃないのよね」

「本物ですよ」

 

するとミオさんは俺の頬に手を当ててきた。

 

「…うん、本物だ」

「だから言ったじゃないですか」

「…だって、だって」

「もう、会えないって思ってたんだよ?」

 

まつりとミオさんは声を震わせ、その目には少し涙が浮かんでいた。

 

「ミオさん、まつり…」

 

そう思うと少しどこか申し訳ないような気持ちが沸いてきた。

 

「それなのに…」

 

ミオさんはそう言うと俺の頬に触れていた手で頬をぐっと掴んできた。

 

「何で君は!! こんなにも!! お気楽なの!?」

「いふぁいです」

「まつりも腹立ってきた」

 

するとまつりもミオさんが掴んでいる頬とは逆の頬を掴んできた。

 

「このー!!」

「いふぁい」

「どれだけまつりたちが悲しんだと思ってるの!!」

 

それを言われるとあまりにも痛すぎる。

こうなったら二人の気が済むまでやらせよう。

 

 

 

「何、やってるの?」

 

流れに身を任せていたらフブキが戻ってきた。

だが何故かその目は据わっていた。

 

「フ、フブキ?」

「虎太郎君の頬を二人で掴んで何やってるの? 痛そうだよ?」

「え、えっとこれはね、虎太郎が」

「まつりちゃん?」

「ひぇ」

 

あまりにも低く、ドスの利いた声だったのもあり、まつりは俺の頬から手を離した。

 

「ミオも」

「はい」

 

さっきまでの勢いは何だったのか、一瞬で手を放す二人。

 

「大丈夫でしたか? 虎太郎君」

「う、うん」

 

先ほどの勢いからか思わず言葉がどもってしまう。

 

フブキはそのまま俺の頬に手を当てた。

 

「ほら、やっぱり赤くなってるじゃないですか」

 

そして、そのままフブキはその手で俺の頬を撫でてきた。

 

「…あの」

「よしよし」

 

あの、照れくさいんですけど…。

 

「あの、フブキさん?」

「んー、何ですかー?」

 

その声音は少し嬉しそうな気がした。

もしかして喜んでいらっしゃる?

 

「恥ずかしいんですけど、皆見てるし」

 

ふと周りを見るとまつりとミオさん、マスターもこっちを見てニヤニヤしていた。

フブキも周りを見てそれに気づいた。

フブキはそっと手を放し、こほん、と息を付いた。

 

「ミオとまつりちゃん、注文は決まりましたか?」

「いや、それは無理があるやろ」

 

あからさまな話題逸らしにマスターはツッコミを入れ、皆は耐えきれずに笑みがこぼれた。

 

 

 

あの後、恥ずかしくなったフブキは再度、カウンターの奥に引っ込み、俺とマスター、ミオさんとまつりの四人で話していた。

 

「でさ、本題なんだけどさ」

 

そう前置きを置いたミオさん。

 

「虎太郎はどうやってこっちに来たの?」

 

皆も気になっていたのか頷いてこっちを見てきた。

 

「うーん、なんというか…」

 

正直俺も何でこっちに来たのか分からない、あの時触れた空中に現れた線。

あれに触れたらこっちに飛ばされていた。あの線が出来た原因は…。

 

「恐らく、これのせいかな」

 

俺は1年前フブキから貰った短刀を取り出した。

 

「それは、フブキが渡した短刀かな」

「はいそうですけど、分かるんですか?」

「うん、それにその短刀作るのうちも手伝ったもん、刀身部分から」

「そうなんですか!?」

 

明かされる衝撃的な事実、この短刀はフブキが力を込めたとは言っていたがまさか一から作った物だとは…

って思うと俺、そんな大事なものを手を滑らして落としたのか…

 

「その、この短刀をちょっと落としてしまって」

「落とした!?」

「その時に空中に出来た線に触れたらこっちに来たって感じです」

「落としたの!?」

「どうどう、ミオ」

 

ふしゃーッ!! と獣の心を取り戻しつつあるミオさんをまつりが宥めてる。

いや、ほんとすみません…、わざとじゃないんです…

 

「とりあえず、虎太郎がこっちにまた来れたのはその短刀のおかげやねんな」

「そういうことです」

 

 マスターがふと思いついたように言った。

 

「ほなら、それで逆に帰ることはできるんか?」

「そう言えば試してないですね」

 

ちょっとやってみるか、と席を立ち短刀を鞘から取り出す。

周りに当たらないことを確認した俺はそのまま短刀を振った。

 

「せい!!」

 

すると今度はその空中には振るった短刀をなぞるように線が浮いていた。

 

「お?」

 

俺はその線に触れた。

 

 

すると景色が一瞬で変わった。

周りを見渡すと見たことのある自分の部屋、どうやら戻ってきたようだ。

時計を見るとあれから大体5時間ぐらい経っていた、時間の流れは一緒のようだ。

 

「もう一回やってみるか」

 

そい、と短刀を振るう。

するとさっきと同じように空中に線が出来た。

もう一度俺はその線に触れる。

 

 

一瞬の浮遊感。

 

また景色が変わる。

 

「え?」

「はにゃ?」

 

目の前にはエプロンを付けたフブキ。

急な出来事で驚いた俺は足を滑らせる。

 

「のわッ!!」

「きゃあ!?」

 

そのまま派手な音を立てて俺は目の前のフブキを巻き込み倒れた。

 

「…いつつ、ごめん。フブキ大丈…夫…か」

 

俺はフブキと倒れた、その体勢は奇しくも俺がフブキを押し倒す形になっていた。

 

フブキは何が起こったのか理解できずに俺と向き合う形でぼうとしていた。

 

「ご、ごめん!!」

 

すぐさま俺はその場から立とうとした、が。

 

「…え、えっと、えっと、どうぞ!!」

 

何をどう解釈して脳内でどういう判決が出たのか分からないが、なぜかフブキは顔を真っ赤にして目をぐるぐるさせながら唇を突き出した。

 

「ふ、フブキ?」

「あ、でも、その、初めてなので優しくしてくれると…」

 

待って待って待って、これはどういうことですかね、なんでフブキは顔を真っ赤にしてキス待ちしてるんですかね!!??

 

すると。

 

「おーい、そろそろええかー?」

 

後ろから関西弁で声がかかった。

振り向くとそこには呆れた目で見ているマスター、ミオさん、まつり。

 

「ちょっとさすがにそういうのは人の目がある所ではやらないで欲しいなぁ」

「やーい、虎太郎のけだものー」

 

どうやら俺は元の世界から無事こっちには来れたようだがそんなことを呑気に考えている場合じゃあない。

今はとにかくこの状況をなんとかしないと。

すると、フブキは目が普通に戻った。皆の声を聞いて正気に戻ったのか?

相変わらず顔は赤いが…、いや…どんどん赤くなってきている。

 

「フブキ…?」

「きゃあああ!?!?!?」

 

そのままフブキは俺に平手打ちをぶちかました。

 

「ひでぶっ!!」

「いや、私、私一体何を…、あんな恥ずかしいことを…!?!?」

 

平手打ちをされた勢いのまま俺は地面とキスをした。

 

「ふべ…」

「あ、あ、虎太郎君!?!? ご、ごめんなさい!!」

 

「なんや、この状況」

 

思わずマスターはそう呟いた。

 

 

 

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