席に座り、俺たちは会話を再開させた。
今度はフブキもいる。
「で、その短刀で帰ることはできたの?」
「ふぁい」
まつりに聞かれ、頬に真っ赤な手形がついた俺は答えた。
「それでこっちに戻ってきた時は何故かフブキの目の前に出たと」
「ふぁい」
「何でフブキさんの目の前に出たんやろうな…」
「…確か最初にこっちに戻ってきた時、虎太郎君あの湖に落ちてきましたよね、白上がいた」
「ん? それって、もしかして」
フブキの言うことに何か気づいたのかミオさんが言う。
「確か虎太郎がこっちに来る時はフブキが渡した短刀を使うんだよね」
「そうですけど、もしかして」
ここまで言われると俺でも気づく。
「はい、虎太郎君がその短刀を用いてこっちに来る時は必ず白上の近くに転移するんだと思います。恐らくですけどその短刀には私の力が宿っていますしそれが原因だと思います」
「なるへそ…」
つまり俺が短刀を使ってこっちに来る時は必ずフブキの近くに転移するのか。
「でもさでもさ、なんでそもそも、その短刀で世界を渡れるの?」
まつりがそう聞いた。
確かにそうだ、そもそも何でこの短刀で世界を渡れるんだ、これもフブキの力のおかげなのか…?
「うーん、これも正直推測の域を出ないんだけど」
ミオさんはそう前置き、話し始めた。
「その短刀にはフブキの力が宿っているからその力に呼応してフブキの近くに次元が繋がるんだと思う、多分、その短刀は世界を渡る能力を持っているんじゃなくて、フブキの近くに空間を繋げる能力なんじゃないかな」
「な、成程」
俺はミオさんが言ったことを何となく理解しつつ、短刀を取り出した。
そして鞘から取り出す。
「これにそんな力が…うん…?」
刀身を眺めて呟いたが、あることに気づいた。
「なんか、黒くなってる?」
よく見るといつもなら蒼い輝きを放っているのだが、今は少しその輝きが小さく、少し黒くなっている。
「え?」
フブキはそう呟いた俺の方を振り向き、手に持っていた短刀をじっくりと見る。
「…確かに力が弱まってる」
「もしかして何度も世界を渡ったから?」
これ、この短刀にある力が無くなったら俺もしかして帰れない…?
「はい、でもこれなら1日ぐらい休ませたら元に戻りますよ」
「あ、そうなの」
なんと自動回復機能付きのようだ。
「ふふん、なんたって虎太郎君に渡すために作ったんですよ、そんな軟なものを作ったつもりはないです」
胸を張りながらフブキはそう答える。
「うん? でもそうなら虎太郎は最低1日はこっちにおらなあかんってことか?」
「…あ」
マスターが気づいたことを言ったら胸を張っていたフブキは動きを止めた。
「…まあ、明日は休みなので1日ぐらいなんとかなりますよ」
事実、明日は丁度休みなので大学の方は大丈夫だが、問題は祖父母たちだ。
「…あの一件以降、俺に対してめっちゃ過保護になってるんだよなぁ」
そう、あの一件、俺が一年前こっちに来た件以降。祖父母はそれはもう過保護になった。
コンビニ行くのですらめっちゃ心配してくるし、学校に登校する時ですら送っていこうかとか言われる始末。
ま、何とかなるか。
「取り合えず今日の寝床か、前の部屋はさすがに使えないし…」
「あ、それな「それなら!!」」
マスターが何か言おうとしたがそれにフブキが被せてきた。
「うちに泊まりに来ませんか、 そ、その、今回虎太郎君がこっちに来ちゃったのも元を辿れば白上のせいみたいないところもありますし」
泊まらせてくれるのは物凄くありがたいのだが、女性の家に泊まりに行く、このハードルはちょっと童貞にはきつすぎませんかね。
「えっと、その」
「…私の家に泊まるの嫌、ですか?」
「嫌、じゃあないんだけど、その、女性の家に泊まるのは少し恥ずかしいと言いますか、何と言いますか、そ、そう、さっきマスター何か言いかけてませんでした?」
「話題ずらし露骨すぎんか? まあ、俺の話は忘れてええよ。せっかくの申し出だし、フブキさんのところ泊まったら?」
「え…」
マスターなら分かってくれると思っていたのに急に梯子外された。
「ダメ…ですか?」
「…お言葉に甘えさせてもらいます」
「やった!!」
いや、そんな上目遣いには敵わないです…。
バーで食事をした後、まつりは分かれて今は俺、フブキ、ミオさんの三人で二人の家、白上家の神社に向かっていた。
「虎太郎は大学に進学したんだね」
「はい、めっちゃ勉強大変でしたけどね」
「それでちゃんと受かったんでしょ、偉いじゃん」
「ママ…」
「うちにこんな大きな子はいません」
「嘘だ!!」
「嘘じゃありません」
「そうだよ、ミオは白上のママです」
「うん、それも違うね」
「そんな!?」
「何でそんなに驚く」
他愛のない話をしながら俺たちは白上家に向かっていた、1年という期間が開いても変わらず接してくれる。
正直、また会えて、会話できるなんて夢に思っていなかったことだ、しかもこれからは1日の回数制限はあるが、いつでもこっちに来ることができる。
「虎太郎君、嬉しそうですね」
フブキがそう言ってきた。どうやら分かるぐらい俺は嬉しそうなのだろう。
「うん、こうやってまた会話できるのがめっちゃ嬉しくて」
頬を人差し指でかき、少しばかり感じた恥ずかしさを誤魔化す。
「…うん、白上も嬉しいです」
フブキはえへへとはにかみながらそう答える。
ミオさんを見ると同じように微笑んでいる。
三人は笑みを浮かべた。
「ささ、もう着きましたよ」
白上神社に到着した三人。
フブキが先導し、入り口の門を開ける。
俺って1年前、ここに襲撃をかけたんだよなぁ… その場所に今は招かれて来るというのはなんというか少しおかしな気分だ。
「ただいまー!!」
フブキはそう言い中に入り、俺とミオさんはそれに続く。
「おかえり、フブキ、ミオ」
一人、出迎えた人がいた。
「そして、久しぶりだね。虎太郎君」
そこにいたのはかつてこの白上神社の本堂にて戦った男。
フブキの父親。
「白上、当主」
思わず顔が強張る。
だが、相手はそんなことは意に介さず笑顔で出迎えた。
「はは、そんなに身構えなくても良い、事情は聞いているよ、ゆっくりしていってくれ」
「…え、っとその、お世話になります」
「ああ」
そう言うと白上当主は建物の中に入っていた。
「さて、虎太郎君、こっちですよ」
あの後は案内された部屋で三人で雑談をし、ミオさんが用意した夕食を食べた。
夜も更けたころ、二人はお風呂に行くということで今は部屋に一人だった。
すると部屋の扉が叩かれ、来客があった。
「失礼するよ」
「ふぁ!? 白上当主!?」
「ああ、良かった虎太郎君」
「ど、どうしたんですか?」
「ちょっと話がしたくてね、少しいいかな」
俺は白上当主に連れられて、白上神社で一番高い所、かつて戦った本堂にきた。
「ここに来ると、それも君がいると嫌でも1年前を思い出すね」
「あ、あはは、そうっすね」
いやいやいやいやいや、怖すぎるんですけど、何、俺何かしたっけ、いや、心当たりありすぎるんですけど!?!?
「虎太郎君」
「は、はい」
白上当主は懐から一つの瓶と小さいコップ。お猪口を取り出した。
「付き合いたまえ」
「え?」
そう言うと俺にお猪口を一つ渡し、有無を言わさずそのお猪口に瓶の中身を注いできた。
「乾杯」
「か、乾杯」
白上当主は一口で注がれたものを飲み干す、するとすぐさま二杯目を注ぐ。
俺はその様子を見ながら少し口を付ける。
「…美味しい」
「それは良かった、良いお酒が入ったからね」
俺は少しずつちょびちょびと飲み、白上当主はそのお酒をぐびぐびと飲んでいた。
それから無言の時間が5分ぐらいたち、俺がそろそろ雰囲気に耐え切れなくなるころ、白上当主は口を開いた。
「フブキのことはどう思っているのかね」
「どう、とは…」
「好きかどうなのかってことだよ」
思わずむせた。
「げほっ、げほっ、いきなり何を…」
「……正直、私がフブキに強いてきたことを考えれば今更親ヅラするのはおかしいだろう」
「……」
「私は一年前の昇華祭、白上家当主としては決して良くない結果ではあった。でも、でも私はあの時、安心したんだ、これでフブキのことを犠牲にせずに済むと」
俺は白上当主の話に耳を傾ける。
「私は虎太郎君、君にとても感謝しているんだ、フブキを救ってくれたことに」
白上当主は手に持っているお猪口を置いて、俺に向き直った。
「私は君なら良いと思っている」
「…え?」
「フブキを命を懸けて身も心も助けてくれた、それに少なからずフブキも君のことを思っているだろう」
いきなり言われて俺は正直戸惑った。
「…正直、俺はフブキのことをどう思っているのか、その、自分でも良く分かっていません」
「だが」
「でも、思っていることはあります」
「…聞かせてもらえるかな」
「俺は、フブキに泣いて欲しくないって思ってます」
思い出すのは1年前、フブキが泣いていた時のことを…。
思い出しただけでも苦しくなる。
彼女が泣くと、俺が痛いんだ、だから。
俺はフブキに泣いて欲しくない。
「そう、か」
白上当主はどこか満足そうに頷いた。
俺と白上当主はその後、黙ってお酒を飲んでいた。
だが、その沈黙は嫌なものでは無くなっていた。
「いよっと、戻ってきたな」
あの後白上神社で夜を明かし、朝、フブキとミオさんそれと白上当主に見送られて俺は元の世界に戻ってきた。
短刀を鞘に戻す。
時刻は丁度朝の8時、さて…、爺ちゃん婆ちゃんにどう言い訳するか…。
そう思った瞬間だった。
目の前の空間に一本の線が走った。
「…は?」
その線は広がり、中から人影が出てきた。
「うんしょーっ!! あ、虎太郎君!! 来れましたよ」
「は…?」
出てきたのはさっき見送りしてもらったフブキがいた。
「え、え? フブキ?」
「はい、フブキですよ」
「どうやってこっちに…」
「虎太郎君のことを思いながら刀を振ったら来れちゃいました」
「は?」
何を言っているんだこの獣耳白髪美少女は。
フブキは手に持っていた刀を鞘に戻すと。
「ここが虎太郎君の部屋ですか」
「じろじろと見られると恥ずかしいんだけど…」
「良いじゃないですかー、あ、次いでにこの世界を案内してくださいよ!!」
ほらほらー、とフブキは俺の手を掴み、部屋のドアを開ける。
俺は来ちゃったのはしょうがないし、まあいっかと思っていた。
ドアを開けるとお婆ちゃんがいた。
「こ、こ、こ、虎太郎!!?? 今までどこにいっとったん…や…」
半日以上家に居なかったのだろうからそれはもう心配させてしまったのだろう。
申し訳ないと思ったが、お婆ちゃんの目線がフブキを捉えた。
「こ、こ、こ、こ、虎太郎が、女を連れ込んでるーーー!!!!!!!」
お婆ちゃんは「爺さーん!!」と叫びながら年寄りにしてはもの凄い速さで走っていった。
「…騒がしい婆ちゃんでごめん」
「あはは、大丈夫ですよ、そうだ、虎太郎君のお爺様とお婆様に是非、挨拶させてください」
「え?」
何を言っとるんやこの狐は。
そんなことをしたら爺ちゃんと婆ちゃんはフブキを俺のそういう相手だと判断しそうな気が…
「白上は別にそれでも良いですよ?」
「…は?」
「ささ、行きましょう!!」
「え、ちょ、ちょっと待って!! それってどういう…」
フブキは俺を引っ張り、婆ちゃんが走っていた方に歩き出す。
よく見るとフブキの顔は真っ赤だ。
フブキは俺にえへへと笑みを向ける。俺もそれに釣られて笑みを浮かべる。
俺の胸がドキリと高鳴る。
何というか、これからの生活は楽しくなるだろう、そういう予感がした。
改めて、ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。
虎太郎の話はこれで完結となります。
もしかしたら新たな主人公で新章を始めるかもしれませんので、その時が来たら、またよろしくお願いします。
ではまた。