「若、遅いですね…」
組の事務所で心配そうな声を漏らす、その人物は先ほどカズマとすれ違った男であり、組長の右腕、幹部。
「…いつもより少し時間が長引いてるだけだ、そのうち帰ってくる」
親父がそう返す。
組の人間はカズマをよく可愛がっていた。
組長の息子ということもあるが、それ以上に組が掲げる「義理人情」に憧れを持ってくれて、組長の息子だからということを鼻にかけず、決して驕らない。組員にも分け隔てなく接する、そのお陰か、カズマは組の大半の人間から好かれていた。
何人か組を継いでほしいと思っている人もいるぐらいだ。
「俺、やっぱり探してくるっす!!」
組員の人が声を上げた。
だが、それを親父である組長が止める。
「止めろ、カズマもそこまでガキじゃないんだ、勝手に帰ってくる」
「で、でも何かに巻き込まれてたり…」
「それこそ大丈夫だ、腕っぷしだけはうちの組の奴らよりよっぽど強い」
「でも…」
「くどいぞ、その辺にしとけ」
幹部が止めに入った。
その様子を見て、組長は茶を飲もうとする。
が、もうすでにその湯呑にお茶は入っていない、どうやら飲み終えたことに気が付いていなかったようだ。
「…オヤジ、お茶入れましょうか」
「…頼む」
組の空気は静まり返っていた。
「オラァ!!」
「ぐへっ」
カズマの放った拳がまた一人相手を吹き飛ばす。
その流れで背後から襲い掛かってくる人を今度は裏拳で顔面を殴打。
「…なんっ」
「バレバレだっ、つうの!!」
そのまま殴ってよろめいた相手を足払い、体が浮いた所にとび膝蹴りを浴びせ、集団に突っ込ませた。
そのまま複数人が巻き込まれて倒れる。
「たった一人でこれってマジかよ…」
集団の一人が思わず戦慄する。
既に10人はやられた、それもたった一人の手によって。
「…っ、あ、相手は一人だ、囲んで袋にしろ!!」
「ちっ」
相手のその一言でカズマを囲むように包囲された。
「(ちょっとは考えてきやがったか、一人ひとり突っ込んできてくれた方が楽だったんだがな…)」
包囲されるカズマ、相手はジリジリとその包囲を狭める。
「うぉらあああ!!」
包囲の一人が雄たけびを上げてカズマに殴り掛かる。
その拳をカズマは冷静に避け、その鳩尾に拳を放つ。
「ごほっ!!」
相手は体はくの字に曲がりそのまま白目を剥いて気を失う、それを皮切りに次々と包囲していた連中がカズマに襲い掛かる。
殴りを回避し、カウンターを放つ、すると直ぐに別の相手が拳を振るってくるのでそれを受け止め、逆に殴り返す。
カズマは十人以上を相手に一人で大立ち回りを見せていた。
「…はぁっ、はぁっ」
連続の死闘、カズマも流石に息が上がってきた。
周囲にはさっきの倍以上の人間が倒れ、残り人数も最初と比べて半分以下になってきた。
カズマは今だ倒れず拳を構える。
「おら、どうした、かかって来いよ!!」
その様子を見る相手たちは、今だ倒れないカズマに恐怖を覚えたのか数歩後ずさりした。
「(…アイツはもう逃げれたか?)」
カズマは先ほど逃がした女性の心配をする、多少道は長いと思うがそれでも一本道、かなりの時間戦っているのだ、流石に大通り出て助けなり、何なりとしているだろう、そう思った。
思考を戦いと別の所に割いたのがいけなかったのだろうか、もしくはそれは初めて見るものだったから驚いたからだろうか。
気が付いた時にはカズマの目の前にはこぶし大の炎の弾が飛んできていた。
「なっ!?」
とっさに腕で顔を守る。
瞬間、弾ける衝撃と熱。
「熱っ!!」
その勢いに押されるように地面を滑るように後退させられる。
両腕には決して軽傷では済まない傷と火傷が出来た。
「(な、何だ、今のは!?)」
決して物理的な攻撃じゃない、感じたこともない感触、そして衝撃。
カズマの脳内には困惑が渦巻く。
「っ、魔法だ!! 囲んで魔法の攻撃を打て!!」
相手の一人がまた指示を出す。
魔法? そう疑問に思うより前にそれは相手が答えを示してくれた。
カズマを囲む相手たちが手をかざすと、そこには炎の塊、氷の塊、雷など様々なものが現れる。
咄嗟にカズマは地面を転がった。
彼が元いた場所に氷の礫が突き刺さる。
更に追い打ちをかけるように今度は炎の弾が放たれた。
カズマは同じように回避しようとしたが、両腕に痛みが走る。
その痛みにより一瞬硬直してしまった。
それがいけなかった。
「(あ、ダメだ)」
炎の弾は目の前、先ほどの威力を見たところ直撃すればただでは済まない。
カズマはその攻撃を防ぐことも避けることもできないことを理解してしまった。
せめて、と体に力を込めて衝撃に備えた。
その時、カズマの顔の横を何かが横切った。
それは炎の弾にぶつかると炎をかき消し、ついでと言わんばかりに炎の弾を放った相手の体に当たるとソイツを吹き飛ばした。
「たっくよ、一人相手にこの人数で襲い掛かるとかスジが通ってねえな」
そう言いながらカズマの後ろから人が歩いてきた。
黒いコートを着ており、黒髪に前髪には白髪が混じった髪型。犬のような耳が付いている。
身長はカズマと同じく180cm近い、その手には一丁の銃が握られていた。
その人物は膝を付いているカズマに声をかけた。
「よお、手貸すぜ」
「アンタは一体…」
助けてもらったのは確かだが、正直困惑の方が勝っていた。
何故助ける? そういう疑問がカズマには浮かんだ。
「礼なら彼女に言いな」
彼はそう言うとその背後から女性が駆け寄ってきた。
「…成程な」
その女性は先ほど先に行かせた女性だった。
その女性は路地裏を走っていた。
「はぁっ! はぁっ!」
「(後、少し!!)」
大通りまであと少し。
「(だけど…!!)」
「待て!!」
「動くな!!」
二人の人間から追いかけられていた、服装からしてさっきの連中と同じ。
カズマが全員引き付けたと思っていたが少し残っていたようだった。
カズマと別れてから少し走った辺りで横の道から出てきて奴らは追いかけてきた。
最初は離れていたその間の距離も段々と縮まってきている。
このままいくと彼女は大通りにたどり着く前にあいつらに捕まってしまう。
彼女は段々と近づく足音からそのことを理解していた。
だから焦ってしまった。
「(早く、助けを呼ばな、いっ!?)」
それは普段なら気にも留めることもない地面の亀裂、それに足を取られてしまった。
彼女の体がそのまま地面を転がった。
「あぐっ!!」
マズイマズイマズイ!! 彼女の頭の中には警告音が鳴り響く。
遂に、二人の影が彼女に追いついてしまった。
「全く、手こずらせやがって…」
彼女は地面に手を付きながらその両者を睨め付ける。
ジリジリと二人は彼女との距離を詰める。
「誰か!! 助けて!!!」
まだ大通りとは距離があるが、それでも一縷の望みを掛けて助けを呼ぶ。
もう一度。
「誰かっ…!!」
「おっと、これ以上大きな声は出させないぜ」
彼女の口を抑え込まれ、完全に口をふさがれた。
思わず恐怖を覚えたが。
「(ダメだダメだ、諦めるな!!)」
だが彼女の目はまだ諦めていない。
「(こうなったら、この手を嚙みちぎってでも!!)」
そう思った瞬間。
裏路地にパンっ、と乾いた音が響く。
「ぐえっ!!」
彼女の口を抑え込んでいた人が倒れた。
「な!?」
もう一人が驚いていたが、上から降ってきた人物にソイツは蹴り飛ばされた。
「…よっと、大丈夫か、嬢ちゃん」
彼女は一瞬あっけに取られていた。
「声がギリギリ聞こえて良かったぜ、何とか場所が分かった」
彼は敵ではない。
直ぐにそう判断した。
だから。
「お、奥!! 奥にいる人も助けて!!」
四の五の言う前に彼に助けを求めた。
「大丈夫!?」
その女性はカズマの元に駆け寄った。
「…たっくよ、何で帰ってきたんだよ」
「あー、そういうこと言うんだー、折角助けを連れてきたのに」
カズマは先ほど助けてくれた人に目をやる。
それに気が付いた彼は銃をクルクルと回すとウィンクするとまた敵と向き合った。
そうだ、まだ敵は残ってる、また終わってない。
「下がってろ」
カズマはもう一度立ち上がる。
「その腕…!!」
カズマの火傷を負った腕を見て女性は驚きの声を上げる。
だがそれを無視してカズマは助けてくれた彼の横に並び拳を構える。
「何で助けてくれたとか後で聞くとして、味方だと思って良いんだな?」
「じゃなきゃ助けてねえって」
「それもそうか」
思わず苦笑するカズマ。
「ちょ、ちょっと待って!!」
そこで女性が声を上げた、何だ?とカズマはその女性の様子を見ると、その手には何故かマイクが握られてた。
「マイク?」
その疑問はすぐに解消された。
『ララ━━』
女性はそのマイクを使って歌いだした。
歌詞は無い、ただリズムをなぞるだけ、だがそれだけでもそれは上手いというのが分かる歌声だ。
すると、彼女を中心に青い光、オーラのようなものが現れだした。
次の瞬間その青い光はカズマの腕に纏い始めた。
「な、何だ…!?」
思わず驚くカズマだったが、それ以上に彼は驚いた。
「(痛みが引いていく…!!)」
先ほどまで感じていた火傷の痛み、それは瞬く間に引いていった。
助けてくれた男性は「やっぱり…」と呟いていたがそれを拾うものは誰もいなかった。
「治ったでしょ?」
「あ、ああ」
「ついでにオマケしておいたからさ」
その女性は今だ攻めあぐねていた敵たちを指さす。
「お前たち、やっておしまいなさい!!」
その発言に思わず肩透かしを食らうカズマ。
「んだよ…それ」
「一度で良いから言ってみたかったの!!」
「まあまあ、奴さんも待たせるのも悪いし、さっさとやろうぜ」
そう男性は言うと銃を一番前にいた敵に放つ。
「それも、そうだな!!」
カズマは撃たれて仰け反った相手に急接近、拳を放つ。
相手はそのまま吹き飛ばされる。
「(…いつものより威力が高い?)」
そこに相手から火の玉が飛んできた。
さっきまでなら避ける一択だったが、今の状態だといける気がした。
そのままカズマは青いオーラを纏った拳で迫ってきていた火の玉を殴った。
それは確かな感触と共に火の玉を消し飛ばした。
「(痛みもない、これのおかげか)」
確か彼女はオマケと言っていたがそれがこれなのだろうか。
「ま、考えるのは後、今はコイツらを叩き潰すのが先だ」
敵たちはさっきまで効いていた魔法が効かなかったからだろうか、驚愕しているのが見て分かる。
「俺を忘れてもらっちゃあ困るなぁ!!」
いつの間にかもう一本銃を取り出した彼は二丁の銃を放ち始めた。
その銃から放たれる弾、エネルギーのような紫色の何かは、相手を一人、また一人と倒していく。
カズマはその銃弾が飛び交う中敵に飛び込む。
銃弾が敵の中に風穴を開け、拳が敵を殴り飛ばす。
わずか5分ぐらいだったか、気が付くとそこに立っていたのは僅か三人。
銃を持った獣耳の男性。
周りには複数の人が倒れていた。
もう一人はカズマ。
彼の周りにも人が大勢倒れていた。
二人は何も言わずに近づくと手を上げ、ハイタッチを交わした。
「ちょっと!! すいちゃんもいるんだけど!!」