迷い人よ、ようこそ。   作:みなたか

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第三話

 

「え!? お前って16なのか!?」

 

彼は驚きでラーメンを食べる手を止めた。

 

「そうだ」

 

カズマは関係なくラーメンをすする。

 

「いやいや、その見た目で16は嘘でしょ」

 

テーブルを囲んでラーメンを食べているもう一人の女性が突っ込みを入れた。

 

「よく言われるが俺は正真正銘、今年で16歳だ」

 

「えぇ… すいちゃんよりも年下かよ…」

 

「そう言う星街はいくつなんだよ」

 

「女性に年齢を聞くのはマナー違反だって習わなかった?」

 

「は?」

 

カズマは思わず星街のその上半身、主に胸辺りを見た。

 

「ふっ」

 

「は??」

 

思わず鼻で笑ったカズマ、キレる星街。

 

「おいこら、今どこ見て笑った、言ってみろ」

 

「いや、女性と言う割には思った以上に無くてな」

 

「良い度胸だ表出ろ」

 

「まあまあ、落ち着けって、とりあえずラーメン食べようや」

 

カズマと女性、星街すいせいを窘めるのは影山シエン、先ほど助けてくれた男だ。

あの後三人は何処か落ち着いた所で話をしよう、プラスお腹が空いたということで影山シエンの紹介でこのラーメン屋「ぼたん」に来ていた。

 

「ここなら落ち着いて話出来るし、飯も食える。一石二鳥だ。」

 

「でもラーメン屋ってのはどうなのよ…」

 

「心配しなさんな、ここでの会話は外には漏らさないよ、お客さん」

 

ポツリと呟いた星街の後ろで立っていたのは追加のメニューを持ってきた店長。

女性で白い髪を黒い布で巻いている、まさにラーメン屋って恰好をしている。が、その腰の後ろからは白い尻尾が見える。やはり人間じゃないのだろうか。

 

「はい追加の餃子と炒飯二人前」

 

「すみません、助かりますぼたんさん」

 

そういって影山は店長に頭を下げた。

店長は軽く手を振るとカウンターに戻っていた。

 

「ってことでここなら何でも話せるって訳だけど」

 

すると影山は小声で「ここの店長は元ギャングのボスだから粗相の無いようにな」とポツリ。

その言葉に思わずカズマと星街は「マジかよ」と顔をひきつらせた。

 

「さて、一体何があってあの状況になったんだ?」

 

「気が付いたら」

 

「知らぬ間に」

 

「お前ら仲良いのか悪いかどっちなんだ…」

 

影山は頭を抱えた。

 

 

 

 

 

 

「つまり、カズマは気が付いたら街中にいて走り続けていた所に星街さんの所にたどり着いてそしたらあの集団が現れた、ってことで合ってるか?」

 

「ああ」

 

「大体」

 

「ついでにだが星街さんは何で街はずれの公園で歌っていたんだ?」

 

「いやー、最近路上で歌っていたらよくあいつらに邪魔されることがあって、それが嫌になって離れた誰もいない所で歌っていたの、まあそれでもどっかからか嗅ぎ付けたのか集まってきたけど…」

 

ゴキブリかよ、と吐き捨てる星街。

カズマはふと会話の中で気になったことがあった。

 

「路上でも歌ってたのか」

 

「うん、それなりに、聞きに来てくれる人も結構いるよ、何? 意外?」

 

「いや、あの歌声なら納得だと思っただけだ」

 

「そ、そう」

 

想定していた回答と違ったのか星街はそれ以上突っ込まなかった。

 

「成程、…まずカズマ」

 

「何だ」

 

影山の真剣な目にカズマはラーメンを啜る手を止める。

 

「お前、多分『迷い人』じゃないか?」

 

「まよいびと? 何だそれは」

 

「時たま現れるこっちの世界とは別の世界から迷い込んだ人のこと、普通は小さい子でも知ってるぐらいだけど知らないってことはマジでアンタ迷い人なの?」

 

「…別の世界」

 

改めてカズマは思い返す。

見たことのない町の風景、見たことのない獣の耳や尻尾の付いた人。

影山の頭部にある獣の耳、時折動くそれは偽物とは思えない。

 

「(本当に…、別世界なのか…?)」

 

「何かこっちの世界に来るときの『きっかけ』みたいなものは無かったのか?」

 

影山にそう言われカズマはあの公園で渡された手紙を思い出した。

 

「そうだ、確かあの手紙を読んで…」

 

確かポケットに、とポケットを漁ってみたがそこに手紙は入っていなかった。

 

「無い…」

 

恐らくこちらの世界に飛ばされて来て、走り回った時に落としたのだろうか。

 

「手紙を読んでアンタらの言うこっちの世界に来たはずなんだが、その手紙が無い」

 

「成程、つまりカズマが迷い人である証明をするものは無い、と…」

 

影山の顔がにやりと怪しく笑ったのが分かった。

 

「…どうするつもりだ?」

 

カズマは思わず警戒した。

 

「取引しねえか、岩崎カズマ」

 

「取引?」

 

「今のお前は寝泊まりする宿も無ければこっちの世界の金すらなく、明日生きていく目途も立っていない」

 

「ああ、そうだ」

 

「だから寝泊まりする場所と多くは無いが金もやる、その変わり俺のやろうとしていることに協力してくれ」

 

「待って」

 

星街がその会話を断ち切り、影山を睨む。

 

「迷い人は役所に届け出を出せば住む場所を提供してくれるはずでしょ、それを言わないのはちょっとずるくない?」

 

「確かにそうだ、でもカズマを『迷い人』だと証明するものは?」

 

「あ」

 

そう、カズマはこの世界に来るきっかけ、迷い人である証明の手紙を無くしていた。

 

「…コイツに何をさせるつもり」

 

「ずいぶんとカズマの肩を持つじゃねえか、初対面だろ?」

 

「…そうだけど、仮にも助けてもらった恩人だし、危ないことをさせようとしてるなら、そりゃあ止めるよ」

 

「星街…」

 

思わずカズマは驚嘆の目で見た。

確かに助けたのは事実だがそういう風に思ってくれていることに正直驚いた。

 

「何よ?」

 

「いや、意外だと思って」

 

「…流石に恩人に素っ気なくするほど罰当たりな人間じゃないわよ」

 

そう言うと星街は首をプイと振り、そっぽを向いた。

 

「まあ、なんだ。危なくないとは言い切れないが、コイツの喧嘩の腕っぷしなら大丈夫な頼み事さ、それにこれは星街さん、アンタにも関係あるんだ」

 

「私に?」

 

影山は頷いた。

 

「俺はとある人に言われてな、『ある奴ら』ってのを追ってる」

 

「『ある奴ら』?」

 

「ああ、それで、その『ある奴ら』に繋がるのがさっき星街さんを追いかけていた奴らなんだ」

 

「…その「奴ら」ってのは何だ、何で星街が追われる」

 

「元桐生会構成員」

 

影山はそう言うと、ポケットから小さい何かを取り出した。

 

「き、桐生会!?」

 

カズマは頭にハテナを浮かべたが星街は驚愕した声を上げる。

影山がポケットから取り出したのはカズマもよく見たことがある代紋バッジだった。

それには『桐生』の文字が彫られている。

 

「これはさっきノシた連中からちょいと拝借したものだ」

 

つまり先ほどの連中はその桐生会のメンバーだと。

 

「…桐生会ってのはなんだ、間違いなく堅気のグループじゃないのは確かだろ」

 

「…元々この町で知らない人は居ないぐらいのヤクザの組よ、その会長の桐生ココは最強の種族である龍族」

 

「付け加えるのなら、圧倒的な力にプラスして圧倒的なカリスマで人々をまとめ上げ、その桐生会の構成員の人数は2万を超えると言われていた」

 

「二万!?」

 

「まあ、それも3年前に解散して殆どの組員は白上家って大きな家が斡旋して堅気になったはずなんだけどなぁ…」

 

「解散したときは町中しばらくその話題で持ち切りだった記憶があるわ」

 

「…で、何でその元桐生会が星街を襲うんだ?」

 

「そ、そう、何で私が元桐生会に狙われるの!?」

 

改めて机にある桐生と書かれた代紋バッジを見る。

星街を襲ってきた奴らがこれを持っているってことはその元桐生会の連中ってのは確定か。

 

「…それに答える前に星街さんにもう一つ質問だ、さっき路上で歌ってるって言ったがそれは『1年前』ぐらいからか?」

 

「うん、一年ぐらい前からだけど、何で知ってるの? 実はすいちゃんのファンだったり?」

 

「そういう訳ではないけど」

 

「違うのか、じゃいいや」

 

「ちょっと黙ってろ星街」

 

「はい」

 

カズマが思わず突っ込んだ。

 

「…話を戻すがその元桐生会らしきメンバーの活動が活発になってきたのも丁度1年前、最初は姿をちらほら見るだけだったが段々と行動が目立つようになってきた。桐生ココがいた時には絶対にしないようなことまでし始めやがった。」

 

影山が星街を見る。

 

「星街さん、さっきカズマに魔法かけてたよな、『歌』で」

 

「うん、かけたけど」

 

「多分、いや間違いなくあいつらの目的は星街さん、アンタのその『歌』だ」

 

「…え」

 

思わない所に追いかけられる原因があったことに驚きを隠せない星街。

 

「すまん、少し良いか」

 

「どうしたカズマ」

 

「いや、その魔法ってのは奴らが使ってた炎の弾とか星街が俺の腕を治してくれたあの力で良いのか?」

 

「あ、そうかカズマの世界には魔法が無いのか。そうだ、その認識で合っている」

 

曰く魔法というのは自身にある魔力を消費して呪文や特定の動作などを行い、超常現象を起こさせるものらしい。

 

「成程、でもまだ分らんな、その魔法の『歌』を使うってだけで星街がなぜ追われるんだ?」

 

「『魔法の歌』ってのが問題なんだ」

 

「どういうことだ?」

 

「普通の人は歌に魔法を乗せるような面倒で複雑なことは特別な事情でもない限りまずやらないんだ」

 

カズマの脳裏に星街に魔法をかけてもらった光景が浮かぶ。

あの時、星街はただ自然に、当たり前のように歌で魔法を使った。

 

「なあ星街さん、君は『魔法の歌』ってのを意識せずに当たり前のように出来る、間違いないか?」

 

「…うん、というか私、歌わないと魔法使えないし」

 

「確定だな、元桐生会は君のその『魔法の歌』を狙っている。星街さんが路上で歌い始めた辺りで奴らの行動が活発になってきたのはどっかで星街さんの歌を手に入れたかだと思う、動画サイトとかで」

 

「…確かに、何本か路上で歌った私の動画はネットに上がってるけど、でも今になって何で直接攫おうとしてくるの」

 

「それが分かれば苦労はしねえんだよなぁ」

 

影山は頭を抱えた。

 

「…なあ、一つ良いか」

 

一つカズマに疑問が浮かんだ。

 

「ああ、どうぞ」

 

「影山はその『魔法の歌』について何でそこまで詳しいんだ、星街が知らないってことはこの世界の『一般常識』ってことでも無いんだろ?」

 

「お前って意外と頭良い?」

 

「意外は余計だ、で、どうなんだ?」

 

「まあ色々教えてもらったんだよ、俺にこの件を頼んできた人に。あー、大丈夫、良い人だから」

 

明らかにはぐらかすその言い方、間違いなくまだ何か隠していると思うが。

 

「…まあ、良いか」

 

「意外とあっさりだな、もっと詰めてくると思ったが」

 

「いや、アンタは悪い奴じゃねえから大丈夫だと思っただけだ」

 

影山は思わず驚愕の目でカズマを見た。

 

「…意外と悪いやつかもしれねえぞ」

 

「生憎と人を見る目だけはあるんだよ」

 

カズマは家があれなだけあって様々な人間と相対したことがある。

その時の感からだ。

 

「(本当に悪い奴はゲロ以下の匂いがするもんだよ)」

 

影山はこほんと一息ついた。

 

「で、もろもろの事情は説明したと思うが。改めてカズマ、元桐生会が行おうとしている企みの究明と、それが危険なものだった時の阻止の協力をお願いしたい。対価は寝泊まり出来る宿とこの世界のお金だ」

 

「……」

 

カズマの脳裏に浮かんだのは父親と組の人間の顔。

普通なら、一般の人間ならここは普通帰る方法などを探すのであろうが、カズマは…。

 

「(…帰ってもどうせ、親父とまた喧嘩するだけだ)」

 

カズマは頭に浮かんだ顔を振り払った。

 

「(それに助けてもらった借りもあるしな)」

 

むしろそれを返さずに何もしなかったらそれこそ組や親父に向ける顔が無い。

ふと、黙っていた星街が口を出した。

 

「ねえ、騎士団は頼れないの? 桐生会関係なんでしょ、なら騎士団は動くと思うけど…」

 

「…いや、騎士団は動かない」

 

「は? 動かないって、どうしてそう言い切れるのよ」

 

「コイツは俺に頼み事をしてきた人からの情報だが、騎士団はどうやら元桐生会のやつらをあえて無視してる節がある。ここ1年近く、元桐生会のやつらはちょこちょこと目撃されていてなおかつ問題も起こしてるのにそれに騎士団は対応しようとしないのが理由だ、現に星街さんもその被害にあっただろう」

 

「…てことは何、もしかして騎士団は元桐生会のやつと繋がってるってこと?」

 

「いや、そこは分からん。ただ可能性が高いって話だ」

 

話を聞いていたカズマが口を挟んだ。

 

「話の腰を折って悪い、気になるワードがあったんだが「騎士団」ってのはなんだ?」

 

「ん?騎士団ってのは警備だったり犯罪を取り締まったり、異変や問題の原因究明に当たるこの国の組織だが…」

 

「成程、警察みたいなもんって思ってたら良いのか」

 

カズマは納得した。

 

「ま、そういうことで騎士団は頼れない。他に何か質問はあるか?」

 

「…もう一つ、俺から質問」

 

カズマがもう一度手を上げた。

 

「何で俺なんだ?」

 

何故シエンがカズマを頼るのか、それを聞きたかった。

 

「うーん、まあ色々だな。さっきも言ったがお前のあの腕っぷしを買ったのもあるし、宿無し迷い人ってことで宿と金を提供すれば楽に扱えるかもってのもあった」

 

「おい」

 

「だが、まあ一番は」

 

影山は星街をみた。

 

「初対面の女のために命張る男だったから、だな」

 

影山はそう言うとカズマに手を差し出した。

カズマは少し笑うとその手を取った。

 

「交渉成立だな」

 

「ああ、これからよろしく頼む、影山」

 

「シエンで良いさ」

 

「了解、シエン」

 

契約はここに成った。

 

「で、星街さん、現状奴らはアンタを狙っている。協力してくれると俺らも動きやすいんだが、どうだ?」

 

「あー、うん、良いよ」

 

「軽いな」

 

あっけらかんと答える星街にカズマは驚いた。

 

「まあ、このまま放っておいても狙われるだけだし、それなら逆に叩き潰す方が良いでしょ、ってことでよろしく」

 

「中々バイオレンスな返答ではあるが、うん、よろしく頼む、星街さん」

 

「こっちこそ」

 

星街とシエンは握手を交わす。

ここに三人の即席チームが出来上がった。

 

「さて、チーム結成記念だ、ここは奢るぜ、って言ってもカズマはこっちの金は持ってないから必然的に奢ることになるんだが」

 

「出世払いで頼む」

 

「奢り!? やったー、すいちゃんも追加しよー」

 

「店長、餃子3人前、炒飯大盛追加!!」

 

「あいよー」

 

「あ、あの、加減はしてくださいね?」

 

この後、シエンの財布は案の定羽のように軽くなった。

 

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