迷い人よ、ようこそ。   作:みなたか

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第四話

ラーメンを食べ、カズマはシエンの拠点に泊まった次の日。

カズマとシエンは昼間から昨日戦った路地裏に来ていた。

 

「流石に奴らはもう居ないな」

 

「よし、何か奴らに繋がるものが残ってないか探すぞ」

 

彼らは昨日の奴らの手がかりを探しにここに来た。

 

「あれだけ大見得切った割には一番最初にやることは落とし物探しか…」

 

「それを言うな… 本番は夜だからそれまでに出来ることをやろうぜ」

 

「一つずつ、一歩ずつか」

 

カズマとシエンは手がかり探しを始めた。

が、それも数十分後。

 

「…何もねえな」

 

「…ああ」

 

見つかったのは昨日シエンが回収したものと同じ桐生会の代紋バッジが1つ。

情報としては全く進展がない。

カズマは手に入れた代紋バッジを眺める。

 

「何見てるんだカズマ …って代紋バッジか、やっぱりこういうのを見るのは珍しいか?」

 

「いや、見慣れてるからな、珍しくは無い」

 

「見慣れてる?」

 

シエンは脳内に疑問符を浮かべた、代紋バッジなんて一般人は見たこと無い人の方が多いのではなかろうか。

 

「そういえば言っていなかったな、俺の親父はヤクザの組の組長やってんだ」

 

「…マジ?」

 

「ああ、それで代紋のバッジは組の人間が付けてるからな、だから見慣れてる」

 

「…成程、ヤクザの組長の息子か、てことはカズマもヤクザなのか?」

 

「いや、俺は…ヤクザじゃない」

 

むしろヤクザに成ろうとするのを止められている状態だ。

そう言えば、喧嘩別れして家を出たままだったな、と思い出す。

シエンはカズマの何とも言えない表情から何かを感じ取ったのかこれ以上追及することは無かった。

 

「…代紋バッジってのはその人のプライド、組が掲げるもんを自分も背負うっていう覚悟の証。複数人で寄ってたかって女を連れ去ろうとするような奴らが持っていいもんじゃねえよ」

 

「ああ、そうだな」

 

カズマは代紋バッジをポケットに入れた。

 

「やめろっての!! 触んな!!」

 

何処からともなくそんな叫び声が聞こえた。

カズマとシエンは思わず顔を見合わせる。

 

「…何だ?」

 

「あっちから、だな」

 

二人は奥の路地裏に繋がる道を見つめた。

 

 

 

 

 

「たっく、ラプは何処に行ったのよ…」

 

女性が一人、ビルの上に立ち何かを探していた。

美少女というよりは美女という言葉が合うだろうか、ピンクに近い赤髪でショートカット、一般女性と比べたら身長は高い。

 

『ルイ姉、見つかったー?』

 

彼女の付ける端末から声が聞こえる。

 

「うーん、今探してるけど…」

 

ルイ姉と言われた彼女は目が銃のスコープ、レティクルのようになった。

 

「ただでさえ魔力が封印されてるから肉眼で見つけるしか無いんだけど…、お?」

 

彼女が何かに気付いた。

 

「いろは、そこから10時方向約800m先の路地裏にラプ発見、見るからに悪そうな男二人に絡まれてるから助けてあげて」

 

『了解、でござる!!』

 

「クロエはそこから2時方向大体1kmぐらいかな、行ってあげて」

 

『えぇ…、遠いよぉ』

 

「わがまま言わない、私もすぐ行くから」

 

そう言うと彼女は端末の通信を切る。

 

「ん?」

 

すると通信を切った端末にメッセージが送られてきていた。

差出人は彼女らのアジトで待機している仲間。

 

「何々、『昨日の例の場所確認してたら面白いの見つけたー』 って画像?」

 

そのメッセージにはとある画像が添付されていた。

 

彼女はその画像を一瞥すると差出人に「引き続き調査をよろしく」と返し、ビルからビルに飛び移った。

 

 

 

 

 

カズマとシエンは声がした路地裏の方に行くと、そこには。

 

「放せって!!」

 

「ったく、クソガキが…」

 

「偉そうにしやがって、教育しねえとなぁ」

 

「吾輩はガキじゃねえ!!」

 

そこにはガラの悪い男二人と大きな二本のツノを頭部に生やした身長の低い子供、のような少女がいた。

その少女は一人の男から腕を掴まれていて、それを振りほどこうと手を振り回してる。

 

「大方この周辺に住んでいるガラの悪い大人に目を付けられた少女って所だな」

 

シエンがそう言う、どうやら目的の奴らとは全く関係は無いが。

 

「行くぞ、シエン」

 

カズマはこの光景を見て見ぬ振り出来るような人間ではない。

 

「了解」

 

カズマとシエンは互いに目配せをしてそっと、気付かれないように男二人に近づく。

気付かれないように近づいたカズマがまず少女を掴んでいる男の腕を掴んで捻り上げた。

 

「い、痛えええ!! な、何だ、お前!!」

 

その男は痛みで少女の腕を手放す。

 

「は、放せ!!」

 

男は腕を振りほどこうと振り回すが、全く振りほどける気配はない、むしろどんどんカズマの掴む力が強くなり、どんどんその顔を青ざめさせていた。

カズマはシエンの方を見る。

 

「ふっ!!」

 

シエンはもう一人の男の鳩尾に拳を叩き込んだ。

その男は白目を剥いてお腹を押さえて倒れこむ、気絶したようだ。

カズマが掴んでいる男がその様子を見て更に顔を青ざめた。

カズマは手を放す。

一瞬の手の解放、その男に安堵の顔が浮かぶが、次の瞬間カズマはその男の胸倉を掴み、引っ張り上げる。

 

「とっとと失せろ、良いな」

 

カズマのその鋭い眼光に睨みつけられた男は無言で何度も頷く。

それを見たカズマは胸倉から手を離した。

解放された男は気絶した男を引っ張り、ものすごい速さでこの路地裏から姿を消した。

 

「こんなもんか、大丈夫かガキンチョ」

 

カズマは先ほどまで絡まれていた少女の様子を確認する。

その少女は顔を俯かせていてその様子は伺えなかったが勝手に怖かったのだろうとカズマは解釈した。

 

「全く、こんな路地裏は子供一人で来る所じゃねえぞ」

 

「……………ない」

 

「とりあえずシエン、コイツを安全な所まで連れていくか」

 

「ああ、そうだな、嬢ちゃん、家の場所とか分かる? 親の連絡先とか」

 

「…………じゃない」

 

「ん?」

 

「え?」

 

「吾輩は!! ガキでも、子供でも、嬢ちゃんでもない!!!」

 

少女が上げたその顔は憤怒に染まっていた。

急な大声に一瞬あっけに取られたカズマとシエンだがよくある大人に見られたい子供の癇癪だと勝手に判断した。

 

「あー、はいはいそうだね、君は子供じゃないね」

 

「絶対にそう思ってない!!」

 

「とりあえずは安全な所に行くぞ、ガキンチョ」

 

「だから、吾輩は!!」

 

「はぁ…」

 

思わずため息を付くカズマ。

 

「(このままじゃ埒が明かない、こうなったら無理やりにで安全な所に連れていくか?)」

 

「吾輩は子供じゃない!!」

 

瞬間、すさまじい悪寒がカズマを襲った。

 

「伏せろ!! カズマ!!」

 

シエンが放ったその言葉に本能的に従い、身を屈める。

さっきまで体が合ったところに何かが通った。

カズマは大きくバックステップを踏み、シエンと横並びになる。

 

「大丈夫でござるか、ラプ殿」

 

「いろはー!!」

 

そこには刀を構えた金髪の侍がいた。

体があった場所を通ったのは刀だったようだ。

 

「かざまたちの総帥に手を出してタダで済むとは思わないことでござるよ」

 

そう言うと侍の少女は刀をカズマに向ける。

誤解されているのは明白だった。

 

「ま、まて俺たちは」

 

すぐさま誤解を解こうとしたカズマだったが、角の生えた少女がにやりと笑った。

 

「吾輩、あいつらに襲われそうになった!!」

 

「は?」

 

「すっごく怖かった!!」

 

それを聞いてその侍はカズマたちを睨みつける。

 

「お覚悟を、でござる」

 

少女はべーっと舌を出してカズマとシエンを馬鹿にしたような顔で見た。

 

「(あんのクソガキィ…)」

 

だが、そんなことを思っている暇は無かった。

 

侍の姿がブレる。

次の瞬間、気が付くと侍はカズマの懐に入ってきていた。

 

「(早い!!)」

 

振るわれた刀をカズマは上体を反らすことで回避。

だが侍は続きとばかりに刀を振るう。

足をずらし、横に避けるカズマ。

次の刃が飛んできた。

 

「(ダメだ、流石に避けれない。しかも刃物、正面から受けたらこっちの手が終わる、なら…)」

 

カズマは振るわれる刀を見る。

正確に、その一点に集中する。

 

「シッ!!」

 

その刀の横腹を手の甲で叩き、受け流す。

 

「なっ!?」

 

相手の侍も素手で受け流されるとは思っていなかったのだろう、驚愕した声が漏れる。

が、相手はそのまま連続で刀を振るってきた。

無数に襲い掛かる刃、一般人なら間違いなく既に終わっていただろう。

カズマはその刃をすべて横から弾き、自分の安全地帯を確保していた。

 

「ちっ!!」

 

攻める侍に守るカズマ、拮抗した状態に思われたが、カズマの手が痛み始める。

その手から血が流れてきた。

素手で刀に触れているのだから当然だ。少しずつその刃によって切り傷が生まれてきていた。

 

「カズマ!!」

 

このままではまずいと思ったシエンは侍に銃を向ける。

 

「ちょっと痛いけど我慢してくれよ!!」

 

撃とうとしている弾は非殺傷弾、痛むだけで傷や殺すことは無い。

だが、引き金を引こうとしたその瞬間、シエンにナイフが飛んできた。

 

「今度は何だ!!」

 

シエンは思わず後ろに下がると、その足元にナイフが数本突き刺さる。

シエンの背後から刃が振りかぶられた。

それをシエンはほぼ獣の直感で前転することで回避、刃を振るってきた物の姿を見た。

性別は女性、銀髪の髪に顔には仮面を付け、フードをかぶっている。

 

「………」

 

その少女は無言でシエンに斬りかかる。

 

「ちょちょちょッ!!」

 

狭い路地裏で二つの戦闘が発生した。

 

 

シエンの相手は狭い路地を縦横無尽に壁を蹴って飛び回りながら攻撃を仕掛けてくる。

 

「ダメだ、狙いが定まらない」

 

シエンは銃を構え相手を狙おうとするが、その照準が合う前に動き回られて当てれない、あまりにも場所が悪すぎた。

相手はその都度、手に持ったナイフでシエンに斬りかかる。

 

「ちっ!!」

 

シエンは狙いの定まらない銃を下ろし、回避に専念する。

攻撃する仮面の少女、回避するシエン、こちらもカズマと同じく防戦一方な状況が展開されていた。

 

 

 

 

カズマは侍の少女が放つ無数の刃の斬撃を捌いていた。

だがその両腕と体の一部には切り傷が同じように沢山出来ていた。

 

傷だらけのカズマと無傷で刀を振るっている侍の少女、どちらの方が余裕があるかどうかと言われたら少女の方だと客観的に見た場合判断するだろう。

だが侍の少女は違った。

 

「(…この人、いくら攻撃しても攻めきれないでござるッ)」

 

どれだけ攻撃しても致命傷には至らず、すべての斬撃を正確に捌かれる。

両腕にはいくつもの切り傷が出来ているが大したダメージになっていない。

まるで“岩”相手に刀を振るっている感覚に陥りそうになる。

 

だが、それ以上に侍の少女は一つ大きな疑問があった。

侍の少女はその攻撃の手を一旦止め、カズマに問う。

 

「何故、拙者に攻撃しないでござるか?」

 

そう、カズマは一度たりとも少女に攻撃を加える、いや、攻撃をしようとするモーションすら見せていなかった。

 

カズマは口を開いた。

 

「…女相手に手を出す訳ないだろ」

 

「………は?」

 

―― 今、目の前の男はなんと言ったのか。

―― 拙者が女だから攻撃しない?

 

「…舐めてるでござるか?」

 

それは侍に対して、武人に対して最大限の侮辱だった。

 

「そもそもラプに手を出そうとした時点で何を今更!!」

 

「それこそこっちの話を聞け、 そもそも俺たちはそのガキに手を出そうとしてない!!」

 

「…え?」

 

思わず侍の少女はツノの生えた少女を見た。

 

「ラプ?」

 

「う、嘘付いてる!! ソイツ嘘付いてる!! 吾輩襲われかけた!!」

 

そう言う少女の目侍の少女は見続けると徐々に目が泳いできた。

明らかに嘘をついている目だった。

 

その時、空から人が降り立った。

 

「その人の言ってることは本当だよ、いろは。 嘘付いてるのはラプの方」

 

「ルイ姉!!」

 

侍の少女からルイ姉と呼ばれた女性は地面に着地するとそのまま角の生えた少女の元に向かった。

 

「ラプ」

 

「か、幹部、吾輩は…」

 

「言っとくけど全部見てたからね」

 

その女性の目は銃のレティクルのようになった目を指さす。

 

「うっ…」

 

シエンと仮面の少女も「何だ?」と集まってきた。

 

全員集まったことを確認した女性、“ルイ姉”は最初に男性二人に絡まれていたのを助けたのがカズマとシエンだということを説明した。

 

事情を聞いた侍の少女がその場に正座した。

すると懐から小さい刀、小太刀を取り出すと。

 

「この責任は拙者が取るでござる」

 

ノータイムで切腹しようとしたのでカズマとシエンは全力で止めた。

 

 

 

 

 

「うぅ、本当に申し訳ないでござる…」

 

そういう侍の少女はカズマの傷付いた腕に応急処置を施し、包帯を巻いてくれていた。

 

「いや、大丈夫だから、これ以上は自分で…」

 

「これぐらいはせめてやらして欲しいでござる」

 

侍の少女は包帯をカズマに巻いてくれているのだが必然的に二人の体の距離が近くなる。

そのことにカズマは赤面していた。

 

見た目はいかつい大人に見えるが実際は16歳の思春期真っただ中の少年、女性にこの距離で近づかれると恥ずかしくなるものだ。

 

その様子を見てたシエンは子供っぽいところあるじゃねえか、と微笑ましく見ていた。

 

「よっし、これで完了でござる」

 

応急処置が完了した。

 

「ありがとう、えっと…」

 

カズマは彼女の名前を知らない。

 

「いろは、風真いろはでござる」

 

「ありがとう、風真、俺は岩崎カズマだ」

 

「岩崎殿、お礼だなんて本当に申し訳ないでござる…、応急処置だけだし…、せめてアジトに帰ればこよちゃんの薬があるのでござるが…」

 

「そうね、アジトに連れて行こうか」

 

そう言ったのはルイ姉と呼ばれてた女性。

 

「え、幹部!?」

 

その発言に小さい少女は驚く。

 

「悪いのはこっちだからね、いろはが言ったようにアジトにはこよりもいるから」

 

「で、でも…」

 

「ラプラス?そもそもこうなったのはラプが原因だからね、それにまだ謝ってないでしょ」

 

「だってだって!! コイツら吾輩を子供だとかガキンチョだとか言うんだもん!!」

 

「傍から見たらそう見えるのは当たり前でしょ…、謝りなさい」

 

「やだやだやだ!!」

 

まるで親子のような喧嘩を始めてしまった二人。

 

「あのー」

 

シエンがそーっと手を上げる。

 

「こっちこそ彼女を子供扱いしてしまったのは事実なので」

 

「ああ、こっちこそ悪かった」

 

シエンとカズマは少女に頭を下げた。

 

「ほ、ほら!! だから吾輩は悪く…」

 

「これで駄々こねるのは流石に子どもですよー、ラプラスー」

 

そう言うのは仮面を付けた少女。

 

「うぅ…」

 

「ほら、ラプラス」

 

「…嘘ついてごめんなさい」

 

少女は促され、シエンとカズマに頭を下げた。

女性は気分を入れ替えるように手を叩いた。

 

「よし、それじゃあアジトに行こうか」

 

女性はカズマたちにそう促した。

 

「…それに聞きたいこともあるからね」

 

小声で吐いた言葉は誰の耳に入ることは無かった。

 

 

 

 

カズマとシエン、二人は彼女らに連れられて歩いていた。

 

「着いたでござるよ」

 

風真がそう言うが、そこには壁しかなかった。

 

「? 壁しか無いが…」

 

「いや、カズマ、これは魔法で隠蔽されてる」

 

シエンがそう言うと仮面の少女が肯定した。

 

「そーゆーことでーす、さあさあ、どぞどぞー」

 

カズマとシエンは少女に押される。

本来なら壁にぶつかるはずがその壁をすり抜けるとそこには地下に続く階段があった。

 

「おぉ」

 

思わずな体験に驚くカズマ。

外から隠蔽された階段、まさにアジト、隠れ家と呼ぶにふさわしい物だった。

階段を降りるとそこには扉がある。

 

背の高い女性がその扉を開ける。

 

「さあ、ようこそ」

 

「吾輩たちのアジトにな!!」

 

少女はにやりと笑った。

 

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