私、星街すいせいは魔法が使えなかった。
そのことが分かったのは私が小学生の頃だ。
魔法の最初の授業、そこで誰でも出来る魔法が出来なかった。
この世界に住む人は例外は無く、上手さの加減はあれど全員が魔法を使うことが出来る。
それが常識だった。
私だって出来ると思っていた。
その時の担任には「ちょっと魔力の発現が遅れてるだけだから大丈夫」そう言われた。
そう言われ続けて3年が立つ頃になると担任は何も言わなくなった。
むしろ魔力を一切発現することのできない私をいつまで立っても魔力を発現することのできない「気持ち悪い子」というような目で見始めた。
その担任の目は生徒まで伝播した。
日に日に増していく私を「気持ち悪い子」と見る周りの視線。
友達はいなくなり、学校での居場所も無くなった。
そんな小学生時代を送り、中学生になった。
その時、内心では中学になったら何か変わるかな、なんて根拠のない期待があった。
だが中学でも変わらなかった。
小学生の時より増えた私を「気持ち悪い子」と見る目。
それに加えて中学からは私を魔力を発現することのできない可哀そうな子という「可哀そうな目」で見る人間も現れた。
私はグレた。
まともに授業も受けず、担任とはしょっちゅう喧嘩し、生活指導にも何回世話になったのか覚えていないぐらい。
まあ、でもそうなっても親と姉だけは私に優しかったっけ。
今思えば凄い迷惑と心配を掛けたなと思う。
でもその当時の私にはその優しさですら、「哀れみ」に感じてそれを拒絶していた。
そんな日々を数年過ごした。
ある日、私は学校の授業をサボり、見晴らしの良い高台にある小さな神社に来ていた。
その神社に人影は無く、私一人。誰の目も気にすること無い、当初見つけたその神社で時間を潰していた。
当時から歌は好きだった。
特に歌うのはもっと好きだった。
だからよく歌を歌って時間を潰すことが多かった。
その日も誰の目も憚られることの無い神社で一人、歌を歌っていた。
一曲歌い終えた時だった。
「おぉー! 凄い上手な歌だったにぇ」
そんな舌足らずな声が私の後ろからした。
振り向くとそこに少女が立っていた。
誰も居ないはずの神社、そんな所に急に現れた少女。
少女はこの神社の巫女だと名乗った。
丁度咲いていた桜の色のような髪色をしていて、服装は確かに巫女ぽかった。
あの時の私なら誰彼構わず喋りかけられたら噛みつくようなことをしていたのに、少女にはそんな気は起きなかった。
誰にも見せなかった歌っている所を見られたからだろうか、理由は分からなかった。
それがその神社「サクラ神社」の巫女「さくらみこ」との出会いだった。
さくらみこ、みこちと仲良くなるのに時間は掛からなかった。
波長が合ったと言うのだろうか、これまで出会った人の中で一緒に居て一番心地の良い関係だった。
まあ、本人には絶対に言わないけど…。
みこちは神社に住んでいるらしく、神社に行けば必ずいた。
家族には学校に行くフリだけしてサボり、神社に行ってはみこちと日が暮れるまで過ごす。
毎日苦痛だった日々が楽しいと思えるようになっていった。
いつも通り神社で歌っているとみこちが言ったんだ。
「すいちゃん、歌手になれば良いのに」
正直寝耳に水だった。
私はただ自分が歌いたいから歌っていた。
「いやいや、無理だって」
「すいちゃんなら絶対に成れるって、いつも歌を聞いているみこが保証するにぇ!」
自信満々なみこちのそんな言葉に思わず乗ってみたくなった。
「…うーん、でも歌手ってのはなぁ、なんか堅苦しいというか」
「あ! ならアイドルは?」
「アイドル…」
私の脳内に可愛い服を着て、大きなドームのライブ会場で沢山の人々の前に立って歌う私を思い描く。
今まで私のことをあんな目で見てきた人たちが今度は「きらきらした目」で見てくる。
「…悪くないかも」
うん、悪くない。
「ほんと!?」
でも、何よりみこちの「きらきらした目」がとても心地よい。
「アイドル星街すいせい始動だにぇ!!」
その笑顔が私の原点になっていった。
ん? ああ、魔法の件?
それはさらっと解決した。
ふと、みこちに話したんだ、魔力が無くて魔法が使えないって。
そしたら
「え? すいちゃん歌っているとき魔力出てるよ?」
だってさ。
私も度肝を抜かれ、試しに歌いながら魔法をイメージしたんだ。
そしたら出来た。
何じゃそりゃ、と思うけど、本当にさらっと解決してしまった。
今まで何年も悩んでいたことが簡単に。
みこちのたった一言で。
もうその日は嬉しいのかあっさりと解決した肩透かし感とかよく分からない感情になって涙でぐちゃぐちゃになりながらみこちに抱き着いたっけ。
「…今、お前に頼ってしまったら俺は、俺は」
アイツの顔は誰彼構わず噛みついていた頃の私を思い出させた。
前に進まず、ただ周りに当たってたばかりの自分を。
既に通った道、これはただの同族嫌悪だ。めっちゃムカつく。
だけど。
「すいちゃん!」
あの時手を手を差し伸べてくれたみこちを裏切りたくない。
まぁ、ムカついたんで一発は叩くんだけどね。
「…え」
カズマは冷や水を頭から掛けられた気分になった。
冷静にならざるを得なかった。
「どういう、意味だ」
カズマは星街に「そうだった」と言われたその真意を問おうとした。
だがそれよりも対峙していた敵の二人が同時に襲い掛かってくる。
カズマと星街が仲間割れを起こしてチャンスだとでも思ったのだろう。
「ちっ!!」
カズマは立ち上がろうとするが、体に力が入らない。
目の前にいる敵は後二人。
シエンと風真が相手をしている奴ら以外だとこれで最後。
星街が身構えて、膝を着いているカズマを守ろうと前に立ちふさがった。
「馬鹿!! 下がれ!!」
カズマが星街にそう叫ぶが彼女は動かない。
それどころかカズマを守るように両手を広げる始末。
だが、星街の表情は厳しく、武器を持っている相手に対しての恐怖を抑えきれていない。
彼女は歌い手であって、戦う者ではない、恐怖を覚えるのも当然のことだった。
なぜ彼女はその恐怖を自覚しながらも両手を広げ、立ちふさがるのか。
その答えを察するのはカズマにとって容易いことであった。
「(ざっけんな!!)」
だが、それでも体は動かない。
その瞬間、敵の一人が倒れた。
「え?」
「なっ」
星街とカズマが驚きの声を上げる。
カズマには何か黒い影が横切ったように見えた。
すると今度は空中から何かが飛来すると同時に、残りの敵一人を地面に抑え込んだ。
「ぐへぁ!?」
敵は驚きの声を上げ、拘束を解こうと、じたばた体を動かすが身動きが取れない。
「やっぱり見てて正解だったわね」
「高嶺、ルイ!?」
「沙花又も居ますよー」
そう言い、現れたのは沙花又クロヱ。
どうやらさっき横切った黒い影は彼女のようだ、その手には伸びた敵の首元を掴んで引きずっていた。
「っ」
星街は急に現れた鷹嶺たちに警戒を目を向け、カズマを守るように両手を広げ立ちふさがる。
カズマは星街の誤解を解くために声をかける。
「星街、こいつらは風真の仲間だ、大丈夫」
「…そう、なんだ」
そう言い、星街はゆっくりとその両手を下ろした。
「たっくー、お前、本当に無茶するなー」
この場には似つかわしくない幼い声が聞こえてきた。
「ラプラスもか」
「モニターしてるはかせ以外は全員いるよ」
そう言うとラプラスは膝を着いているカズマに近づいてきた。
「腕」
「…腕?」
ラプラスはカズマのつららが突き刺さったままの左腕を指さす。
カズマは疑問に思いながらもその左腕をラプラスに掲げると。
「ほいっ、さ!!」
そのつららを思いっきり引き抜いた。
「なぁ!? おま、急に何っ、すんだ!!」
左腕に激痛と同時に止まっていた血が噴き出す。
「あ、アンタ!! 大丈夫!?」
星街が驚きながら駆け寄ってくる。
「んな大げさだなぁ」
「お前!!」
ラプラスのその発言に星街が怒る。
「はいはい落ち着けって、とりあえずこれ飲みな」
「うぉぷ」
ラプラスは手に持った試験管の薬品をカズマの口に流し込んだ。
「はかせの薬だからすぐ治る」
ラプラスがそう言っている間にもカズマの傷が徐々に治っていく、つららが突き刺さった穴も塞がった。
「にしても何であの攻撃受けたんだ? お前なら破壊するとか別の方法も取れただろ」
「…どういう意味だ、というか見てたのか?」
あの攻撃、というのは恐らく左腕に穴が開くことになったあの攻撃だろう。
「幹部が言ってたでしょ、見てたって、んで、どうなんだ?」
「…他に取れる手段が無かったからな、仕方ない」
「本当にぃ?」
「ああ」
「……ふーん、まあいっか」
ラプラスはそう言うとカズマから離れ、星街に向き直った。
「と、いうことで、ハイ、コイツの腕は治ったぞ、吾輩に感謝しな」
「……おい、このクソ生意気なガキぶん殴って良いか?」
「気持ちは分かるが落ち着け」
怒気を滲ませていた星街を落ち着かせるカズマ。
「アンタ、怪我は…」
「もう大丈夫だ」
カズマはそう言い、星街に大丈夫だということを示すために腕を数回振るう。
「そう、なら良い」
「…なぁ」
「ん?」
「…さっきはありが」
ありがとう、と庇ってくれたことに礼を言おうとした。
ついでにもうあんな危ないことはするなと付け加えるつもりだったが、言葉の続きはシエンの大きな声にかき消された。
「おーい!! 大丈夫か!!」
声がした方を見ると、シエンと風真が駆け寄ってきていた。
「さっきは…、何?」
「…いや、やっぱり何でもない」
何というかタイミングを逃したような気がした。
改めて考えると礼を言うことが情けなく思えてきてしまった。
守るべき対象に庇われて、自分のやるべきことすら達成することが出来なかったことを認めるようで。
そんな思考がカズマの続きの言葉を詰まらせた。
いや、むしろお礼を言われるのはこっちでは? わざわざ一張羅の学ランまでボロボロにしてコイツを助けたってのに、そうだ、そうに違いない。
幸いにも「さっきは」の続きは聞かれてないようだ、このまま濁してしまえ。
「ありが、何~?」
前言撤回、ばっちり聞こえていたようだ。
星街の顔はとてもイイ顔だった、良い顔ではない、イイ顔だ。
「…ちっ」
「は? おいコラてめぇ」
「その憎たらしい顔を止めるんだな」
「はぁ~?? この可愛いすいちゃんのお顔をそんな風に言うんだ、金取るぞ」
「寝言は寝て言え」
その後二人はシエンと風真に宥められるまで胸を突き合わせ、ガンを飛ばしあっていた。
「さてさて、キリキリ吐いてもらおうか」
「あら、尋問なら手伝うわよ」
腕を組み仁王立ちをするシエンと鷹嶺はムチを取り出し、パシンと音を立ててしならせた。
「ひぇ」
相対しているのは先ほど取り押さえられた敵、縄で簀巻きにさせられてその表情は襲い掛かってきた時のギラついた顔とは打って変わって恐怖で震えていた。
「やけに似合ってますね…」
「ふふ、ありがと」
「…ムチが似合うって誉め言葉なのか?」
シエンの感想に礼を言う鷹嶺に思わずカズマは呟いた。
「だ、誰か!」
簀巻きにされた敵は助けを求め左右を見渡すがあるのは気絶している敵たちとカズマたち一行。
完全に打つ手がないと察した敵はぽつりぽつりと事情を話し始めた。
「…成程、お前らはただ金で雇われた連中だと?」
「あ、ああ、そこら辺で伸びてる奴らも全員そのはずだ」
「嘘付いてるんじゃないでしょうね」
鷹嶺がムチで地面を叩く。
「う、嘘じゃないです!!」
相手はその音で思わず恐怖の声を上げる。
何と言うか、どういう尋問を受けたのか想像に難くないだろう。
「…スーツの男に良い仕事があるって誘われて」
「その仕事内容は?」
「『ある人を連れてきてくれ』って言われました、それで1憶やるって」
「いっ!?」
「1億!?」
余りにも桁違いな報酬金に一同驚愕した。
「ふん、1憶だなんてすいちゃんも安く見られたもんね」
だが、当の本人は自分に1憶もの大金が掛けられているのに全く意に返さない様子だ。
だが、ただの強がりのセリフには見えない、肝が据わっていると言うのだろうか。
「はい、それで受けると言ったら前金と、機械を渡されました」
「機械?」
縛られた男は自分のポケットに目をやるとシエンはそのポケットの中に入っているモノを取り出した。
「これは… 探査機の一種か?」
シエンはその機械、端末を操作すると地図のようなものが写った。
その地図の中にうっすらと赤い点が浮かんで点滅しているのが見える。
「この点の位置…」
端末を覗き込んだ鷹嶺ルイが地図上に写っている赤い点の位置であろう場所に目を向ける。
「…え、何?」
そこには星街がいる。
シエンは「もしかして」と思い星街に声をかけた。
「星街さん、そこから少し左右に動いてくれないか?」
シエンがそういうと星街は疑問に思いながらも左右に移動する。
すると地図に写る赤い点も移動した。
「…これって」
「…ああ、星街さんの位置を示してる」
シエンのその言葉に一同驚愕を示した。
「つまり今、星街の位置は筒抜けってことか!?」
カズマの言葉にシエンは頷き、肯定した。
「星街さんの居場所がバレているのはこの機械のせいか…」
シエンは改めて簀巻きにされている男に目を向けた。
「…そ、その点は最初地図に写ってなかったんだ、だけど2時間ぐらい前から反応し始めて」
シエンの視線に気づいた男は何も言わずとも話してくれた。
「2時間前… というと」
「確かライブが始まったころでござるな」
風真はそう言った。
その瞬間、カズマの脳内に浮かぶ点が線でつながった。
「…まさか、歌か?」
昨日の出来事を思い出す。
今思えばあの時、星街が歌を歌い終わった後にあいつらは現れ、その後、いくらでも追いかけてきた。
そして今回、あいつらが現れたのはライブ、歌い終わった後。
もし星街の位置情報が最初から分かるのならわざわざライブ後に襲い掛かってくる理由が分からない。
「星街さん、軽く、それこそ鼻歌レベルで良いから歌を歌ってみてくれないか?」
カズマと同じ結論に至ったのかシエンは星街にお願いをした。
星街はシエンの言葉に従い、軽く鼻歌を歌うと。
「…っ! 決まりだ!」
さっきまで地図上に写っていた薄い赤い点が濃くなるのが確認できた。
つまり。
「こいつらは星街すいせいさんの歌を目印にして追いかけてくるってことですね?」
沙花又は確認の意味を込めて、現状を全員に問いかける。
それにシエンとカズマは頷くことで同意した。
「…歌、歌、うーん、それにこの魔力どこかで、…いや、吾輩の記憶が抜け落ちてる?」
するとラプラスが考え事がぶつぶつと頭を振りながら考える。
そんなラプラスを後目に鷹嶺が更に問いかける。
「そもそも、何で星街すいせいさんがあいつら、元桐生会の連中に狙われているのかしら、1憶なんて大金までかけて…」
その疑問を聞いて、カズマとシエン、星街は目を合わせ、頷く。
3人ともholoXに事情を説明することに合意した。
鷹嶺の疑問にカズマが答えた。
「シエン曰く星街の『魔法の歌』が目当てらしい」
「ああ、現状それしか考えられない」
「魔法の歌?」
鷹嶺がそう言うとシエンたちは星街が歌を歌うことで魔法を使えることを教えた。
「成程、確かに歌を歌うことでした魔法を使えないなんて聞いたことも無いし特殊すぎる、ちなみに元桐生会たちが星街すいせいさんの『魔法の歌』を手に入れて何をしようとしているのかってのは…」
「そこを調べてるって訳」
シエンはそう言うと端末を見る。
「その一歩がコレ」
その瞬間だった。
シエンの手に持っていた端末が小さな爆発音を立てて爆発した。
「…は?」
シエンは何が起こったのか理解できなかった。
それは他の皆も同じ、一同驚愕で驚くとそこら辺で伸びている奴らからも小さな爆発音が連鎖的に起きた。
「ちょちょちょちょ!!! 待って待って!!」
シエンが慌てて爆発音の元を見るとそこにはかつて端末があったであろう残骸が転がっているだけだった。
「…う、嘘だろ、手がかり」
「他のやつもダメですね…」
沙花叉が伸びている奴らの懐を探るが同じく端末の残骸があるだけ。
「いや、仕方ない、せめてこれだけでも持って帰るか」
シエンがそう言い残骸をポケットにしまう。
「それで何とかなるのか?」
カズマが疑問を口にする。
「分からんがちょっと知り合いに調べてもらうわ」
そういうシエンだったが残念そうだ。
「まあ、こういう状況です。これで俺たちの手の内は晒しました。で、holoXさんここは一つ、協力と行きませんか?」
シエンはholoXに協力を申し出た。