時間は昼時、道の書かれたメモを片手に街中をカズマは一人歩いていた。
「シエンの言っていた服屋ってのは確か…」
星街のライブから一夜明けた次の日、カズマは昨日の戦いでボロボロになった服の替えを買いに街に出ていた。
ちなみに、あの後holoXとは協力することとなった。
シエンは今日、昨日の壊れた端末の部品を持って調べてくれる知り合いの所に行った。
確か『あっぷろー』とか言っていたはずだ。
まあ、それはシエンに任せて今はとりあえず服だ。と、シエンから間に合わせで借りた服と服屋へのメモを見比べ、歩く。
「あの学ラン結構気に入ってたんだけどなぁ」
歩きながら思わず呟く。
あの時は咄嗟ではあったが自らを爆発で飛ばすことで星街を庇えたのだ、そのことに後悔は無いとカズマは思っているが、まあ、それとこれは別だ。
だが、あの言葉がカズマをまた思考の海に潜らせる。
「……」
『私がそうだったから』そう言った星街の顔を。
昨日は結局あのまま有耶無耶になって星街にあの言葉の意味を聞かずじまいだ。
カズマはメモを見ながら歩きつつもその意識はメモには無かった。
ふと、子供たちが遊ぶ声が耳に入ってきた。
顔を上げるとそこには公園があった。
そう言えば、星街と初めて会った場所も公園だったよな、とカズマは思い出しながらその公園を見渡すと数人の子供が元気に走り回り遊んでいた。
「…ん?」
見覚えのある紫色の大きな二本の角を生やしたガキが目に映った。
……いやいや、秘密結社のボスである総帥がまさかこんな真昼間に、子供たちと一緒になって仲良く遊んでいる訳ない。
少し考えすぎて幻覚でも見たか、とカズマは目頭を押さえ、目をほぐしてから見開く。
「今度は吾輩が鬼だ!! ひれ伏せ愚民ども!!」
「ひゃー、今度はラプラスが鬼だー!」
「逃げろー!」
幻覚じゃなかったみたいだ。
元気に子どもと一緒に走り回る秘密結社のボス。
そのボスと公園を通りすがったカズマの目が合った。
「……」
「……」
二人とも足を止め、互いに無言。
「…何やってんだツノガキ」
「ガキじゃねえ!!」
1時間後
「今度は兄ちゃんが鬼だ!!」
「逃げろー!」
「ろー!」
「……」
そこには一緒になって鬼ごっこをするカズマの姿があった。
「いや、何で俺こんなことしてんだ?」
「やーい、どうした! 掛かって来いよ! その図体は見た目だけか??」
ラプラスはカズマを煽ると子供たちと一緒に走り去る。
カズマは無言で追いかけ始めた。
「きゃー!」
「鬼が来たー!」
勿論狙いはラプラス。
「ちょちょちょ!! それは大人気ねえだろ!!」
逃げるラプラスだがあっという間にカズマに追いつかれる。
カズマはそのままラプラスの角を両手でがっちりと握り、持ち上げる。
「ほら、次の鬼はラプラスだぞ」
「ぬうぉ! は、放せ!!」
ラプラスは手足をばたつかせるが当然地面には着かない、持ち上げられたままだ。
「あー、ラプラス持ち上げられてる!!」
「野菜見たい!!」
その様子を子供たちが見て笑う。
顔が真っ赤になるラプラスだったが、そのタイミングでカズマは手を放しラプラスを開放する。
「さて、次の鬼はラプラスだ、逃げろ逃げろ!!」
「きゃー!」
鬼となったラプラスから逃げるため、カズマと子供たちは走り出す。
30分後
「じゃあなー! 兄ちゃん、ラプラスー!」
「ばいばーい!」
「ばーい」
子供たちは昼ご飯だと呼びに来た親に連れられ帰っていた。
時折振り返る子供にカズマとラプラスは手を振る。
「急に誘った吾輩もあれだが、割とお前子供好きなのか?」
手を振りながら横目でラプラスはカズマに質問する。
あの後もカズマは子供たちと遊んでいた。
「…悪いか?」
「いや、ただその見た目とのギャップが凄いなって」
「言ってろ」
カズマ自身、子供は嫌いではない、むしろ好きな方だ。
だが、その見た目上やはり子供たちにも怖がられることが多い。
今回のように初対面で遊ぶなんてことはほぼ無い。
ラプラスが間に入ってくれなきゃいつも通り怖がられて終わりだっただろう。
「で、何でいきなり俺を誘ったんだ?」
「いや、別に? ただなんか見知ったやつが辛気臭い顔してるなって思っただけ」
そう言うラプラスはそっぽを向いていた。
つまり、だ。
わざわざラプラスはあの一瞬でカズマに気を使ったということらしい。
一緒に遊べばその辛気臭い顔も少しはマシになるだろう、と。
そっぽを向くラプラス、カズマにはそれが照れ隠しに見えた。
「…ありがとよ」
「な、か、勘違いするんじゃねえぞ!? 吾輩はただその辛気臭い顔がムカついただけだからな!!」
お礼の言葉は簡単に出た。
言ってから思った。
何でコイツにはサラッと出るのにアイツには言えないのか、と。
「…お前、また辛気臭い顔になってるぞ」
「……」
カズマは顔に手をやる。
確かにその顔は少し強張っているように思えた。
「お前、この後予定は?」
「…あ?」
「よ・て・い」
「…服、買いに行くぐらいだが」
「んじゃあ、その後飯行こうぜ」
「はぁ?」
「決まり、吾輩に付いてこい!」
そう言うとラプラスは公園を出て歩き始めた。
「ほら、行くぞ!!」
「…何だってんだ」
振り向いたラプラスに促されカズマもラプラスと共に公園を後にした。
二人はハンバーガー屋のテーブル席に顔を突き合わせて座り、ハンバーガーを食べていた。
カズマは新しい服、丈の長い学ラン、通称長ランを羽織っている。
まさか学ランが置いてあるとは思っていなかった。
オマケに防炎仕様。
カズマには願ったり叶ったりだと、とても気に入っていた。
「何回見てもその恰好イカツすぎるだろ」
ハンバーガーを食べながらラプラスは言う、ちなみにその頬にはソースが付いている。
「もきゅもきゅ」
さながらその姿は頬にヒマワリの種を詰めたハムスターのようだ。
「…おい、付いてるぞ」
カズマはそう言うとソースが付いてる側の頬を指さす。
「え、どこ」
ラプラスはナプキンでソースを拭き取ろうとするが全く見当違いの所を擦り、全く取れていない。
「じっとしてろ」
見ていられなかったカズマはそう言うとナプキンを持ち、ラプラスの頬に付いたソースを拭き取る。
意外にもラプラスは大人しくそれを受け入れた。
「うむ、ご苦労」
そう言うとラプラスは引き続きハンバーガーを食べ進める。
拒否されるかなと思っていたカズマは少し驚いていたが、その口ぶりから鷹嶺にも同じようなことをやって貰っているのだろうと納得した。
「んで、もきゅ、何が、もきゅ、あったんだ、もきゅ、よ」
「喋りながら話すな、何言ってるか分からん」
「もきゅもきゅ」
カズマがそう言うとラプラスはハンバーガーを食べ終えた。
「ごくん、何があったんだよ」
「何がって」
「その辛気臭い顔の理由」
「……」
「何だ? 急にだんまりかよ、この吾輩が折角聞いてやるってのに」
ラプラスはポテトを摘まみながら続ける。
「まあ、別に言う言わないは勝手だが、その悩みのせいで奴らとの戦いに影響が出ても知らないからな」
そうラプラスはぶっきらぼうに言うが暗にカズマを心配する気持ちが感じ取れた。
コイツ、口はあれだが案外優しい奴なんだなとカズマは思う。
そうじゃなきゃ公園で誘って来たりしない。
ここまでされて何もしないんじゃ逆にこっちがガキか、と思ったカズマは閉じていた口を開いた。
「…いや、言いたくない訳じゃない、だた何て言ったら良いのか、何で悩んでるのか自分でも分からねえんだ」
「じゃあ、その浮かんでいるモノを全部言え、整理はこっちでやってやる」
カズマはラプラスにそう言われ、話し始めた。
父親のこと。
組のこと。
星街のライブのこと。
星街の昨日の発言のこと。
とりあえず、頭でぐちゃぐちゃになっていることを全て。
「…」
「…以上だ」
全て吐き出し終わったカズマは喉を潤すためにドリンクを手に取る。
「うーん、何かオマエ」
全てを聞いた上でラプラスは呆れたように次の言葉を発した。
「ぐらぐらだな」
カズマはドリンクを飲もうとするのを止めた。
「オマエは何を成したいんだ? 態々こんな異世界に来てやってるのは偶々出会った女の護衛、しかもその護衛対象の女に女々しい感情抱いて勝手にヘラって」
ラプラスはコーラを飲んで一息つく。
「そもそも何だ、ヤクザに成りたいのに何で成りたいのも分からない時点で意味わからん、よく今まで気付かずにヤクザに成ろうとしてたな」
「…じゃあ、どうしたらいいんだよ」
俯くカズマは手に持ったドリンクに力が籠る
「んなもん思い出すしかねえだろ、それか新しい理由を見つけるか、つっても後者よりは前者の方が楽だが」
「どっちも出来たらこんなに悩んでねえよ…」
拗ねたようにカズマはドリンクを飲む。
「…あ、もしかして」
すると、ラプラスが何かを思いついたように声を上げ、コーラを置く。
「ちょい頭出して」
「?」
「ほら」
カズマは疑問符を浮かべながら頭をラプラスに向けた。
ラプラスはカズマの頭に手を置く。
「ラプラス?」
「静かに」
ラプラスは集中するかのように目を閉じる。
「…えーと、これがこうなって… あ、みっけ、やっぱり蓋されてる… これが原因か」
その瞬間鈍い頭痛がカズマを襲った。
「いっ!!」
「我慢しな、すぐ収まるから」
ラプラスの言う通り確かに頭痛はすぐ収まった。
「よし、おっけ」
ラプラスはそう言うと手を放す。
「何したんだ…?」
頭を押さえつつラプラスに問う。
「ちょいと記憶の蓋を外しただけ、変な所には手出してねーよ」
「記憶、ってお前そんなこと出来るのか…? それに蓋って」
「そりゃあ力封印されても吾輩だからな、これぐらいは出来る。蓋ってのは文字通り蓋だ、お前の記憶のな」
「俺の記憶の蓋?」
「ああ、基本的に人ってのは嫌な記憶だったり要らない記憶は脳が勝手に忘れる、だけど稀に忘れることが出来ないぐらい強烈、かつ、精神に支障をきたすような記憶の場合、まあ、トラウマって奴だな。それで脳は体を守るために自動的にその
「…その記憶の蓋が俺にもあったと」
「そゆこと、だから思い出せなかった訳。後は「きっかけ」さえあれば勝手に思い出すよ」
そう言うとラプラスは残っていたポテトを摘まんだ。
食事を終え、ハンバーガー屋を出たカズマとラプラス。
「今度は吾輩に付きあえ」
そう言うとラプラスは、相も変わらず辛気臭い顔をしているカズマの腕を引っ張りある所に向かった。
カズマとラプラスの前には石でできた長い階段があった。
階段の先には神社のような社が見える。
「で、何でここに連れてきたんだ?」
カズマはラプラスに問う。
「この先、神社からオマエがご執心な女、星街だっけ? アイツと同種の魔力が薄っすらと滲み出てる」
「なに?」
「ま、吾輩レベルじゃないと分からないぐらいだけど」
そう言うとラプラスは階段を上り始めた。
とりあえずカズマもそれに続く。
「…昨日から吾輩の記憶に違和感があったんだ」
「違和感?」
「ああ、何か記憶が抜け落ちてるような、
「記憶が抜け落ちるって… ただ忘れてただけじゃないのか?」
「吾輩は一度観測したことは忘れねえんだよ」
サラッと言った言葉に思わず驚愕を覚えるカズマ。
確かにカズマの世界にも一度見たことを忘れない、瞬間記憶能力といったものがあることを思い出し、それと同じものかと納得した。
「んで違和感を感じたのは『魔法の歌』という言葉、そのワードが吾輩の記憶には無かった。いや、それに関する記憶が無かった、この
「つまりオマエはその違和感を解消する為に星街と同じ
ラプラスは頷いた。
「ま、手がかかりがあったら良いなレベルだけどな、ガチならオマエだけじゃなくて幹部たちも連れてきてる」
「…つまりあれか、俺はオマエの子守目的で連れてこられたわけか」
「そうそう、って誰が子守じゃ!! 吾輩は子供じゃねえって何回も言ってるだろ!! 護衛だよ、護衛、吾輩全く戦えないから!!」
「…はぁ、まあ俺も星街と同じ魔力ってのは気になるし、桐生会が星街を使ってやろうとしてる「何か」に繋がってるかも、か」
「そうそう、それじゃあさっさと行こう!!」
ラプラスはそう言い、階段を二段駆け上がった。
カズマもそれに追いつこうと一段上がる。
ふと、違和感。
ラプラスが二段飛ばしで階段を上がる。
カズマは一段づつ。
確かな違和感。
「…おい、ラプラス」
カズマはラプラスを見る。
ラプラスも同じようにカズマと目を合わせる。
「…」
無言で目を合わせる二人。
ラプラスが恐る恐る口を開いた。
「…今、吾輩は二段飛ばしで階段を上ったよな」
「…俺は一段ずつ上がったはずだ」
「じゃあ、なぜ同じ段差にいる?」
カズマとラプラスが踏みしめている階段は同じだった。
カズマは背中に冷や汗が流れるのを感じる。
「…一段、下ってみる」
カズマはそう言うと上がった階段を一段下った。
だが。
「同じだ」
二人は変わらず同じ段差にいた。
「つまり?」
「吾輩たちはこの階段に閉じ込められたってことだ。…え、嫌なんですけど」
それはこちらのセリフだとカズマは叫びたかった。