迷い人よ、ようこそ。   作:みなたか

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2022年11月13日 追加



第ニ.五話

「おはようございまーす」

 

時間はお昼、俺はバーの扉を開けながら挨拶をした。

 

「おはよう虎太郎、今日もよろしく頼むで」

「うっす」

 

あれから一週間、俺は宛がわれたアパートで寝起きしながら夕刻ロベルもとい、マスターが経営するバーでアルバイトをしていた。

俺は店奥のロッカーに行き、アルバイトのエプロンを付け店内に戻る。

 

「準備完了しました!!」

「よし、じゃあ仕込み手伝ってくれ、そこにある野菜をいつも通りに切ってくれるか?」

「アイアイサー!!」

 

俺はマスターに言われ、バーのカウンター裏で野菜を切り始める。

トマトは半月切りに、玉ねぎはみじん切りと輪切りに、にんじんはいちょう切りに…

トントンと包丁を振り下ろす音がリズムよく響く。

 

「にしても虎太郎は本当に優秀やな。接客も問題無し、こうやって仕込みとか料理もちゃんと出来る。確か接客のアルバイトをしてたんやっけ?」

 

俺は野菜を切りながらマスターの質問に答える。

 

「そうですよ、丁度去年から一年、つい先月辺りに辞めた所でしたね」

「これまたつい最近のことなんやな、辞めた理由聞いてもいいか?」

「別に大した理由は無いですよ。今年受験生なんで流石に勉強に専念しようかなって思って辞めたんですよ、って自分で言ってて何ですけどこっちって受験っていう概念あるんですか?」

 

こっちと言うのは勿論この世界のことだ。

 

「ああ、あるで。多分虎太郎の世界とそう変わらんのちゃうかな。普通に受験はあるし、勿論学校もある。まあ学校で学ぶことは虎太郎の世界とは違うかもしれんけどなぁ」

「ほー、こっちにも学校はあるんですね」

「でもそうなると虎太郎難儀やな、受験生の大事な時期にこっちに飛ばされるなんて」

「あー、確かにそれはそうかも」

「確かに…ってお前、大事やぞ? 受験は、将来を決めるとまでは言わんけど人生においてかなり大事なことなんやからちゃんと考えないと…」

「まぁまぁ、何とかなりますよ多分、はい野菜切り終わりました」

 

俺は切った野菜の入ったトレーをマスターに渡す。

 

「はぁ、まあちゃんと考えや」

 

そう言いマスターはトレーを受け取った。

 

「うん、確かにちゃんと切れてる、上出来やね。そう言えばやってた前のアルバイトも飲食店? 包丁の扱いとかも慣れてるし」

「はい、そうですよ、厨房に接客に何でもやってました」

「ほー、何でもか。学生でありながらそれだけバイトもやってたって凄いな、何かそこでバイトしてた理由とかもあったりするん?」

「いやー、大して理由無かったですよ」

「え、無かったんか?」

「はい、ただ親が社会勉強としてバイトはした方が良いぞって言われてやってたって感じですね」

「えぇ…」

「まあ最初は親に言われてって感じでやってましたけど、最後の方はバイトが楽しくてやってましたよ。さ、次は何しましょうか」

 

俺は話を切り上げマスターに次の仕事の指示を仰いだ。

 

 

 

時間は夜19時を回った辺り、バーには晩御飯目当てでやってきた客が数人、あと2時間もすれば今度はお酒目当てで客がやってくる。

 

また、バーの扉が開いたベルの音が響く。

 

「いらっしゃいませー、って白上さん」

「あ、お久しぶりです、荒川さん、来ちゃいました」

 

入ってきたのは白上さん、一週間ぶりだ。

 

「2人いけますか?」

「はい、大丈夫ですよ。 大神さんとですか?」

「いえ、今日は…」

「お、君がフブキが言ってた迷い人?」

 

白上さんの影から出てきたのは髪をサイドテールにした見た感じ明るそうな人だ。

 

「夏色まつりでーす、よろしくね」

「荒川虎太郎です」

 

挨拶してきた夏色まつりさんは俺のことを「ふむふむ」とじろじろ見てくる。

俺はその視線と、白上さんとはまた別な雰囲気に何故か少し違和感を感じつつ、俺は二人をテーブル席に案内した。

 

「お、フブキさんにまつりさんやん、おひさー」

「おひさーロベルさん」

「お邪魔しますね、ロベルさん」

 

マスターは夏色さんとも知り合いのようだ。

 

「こちらメニューになります」

「ありがとー」

 

俺は夏色さんと白上さんにメニューを渡す。

 

「お決まりになりましたら…」

「荒川君だったよね、迷い人って本当?」

「あ、はいそうですけど」

「おお、本物なんだ。いやー、フブキから聞いてね、ちょっと見てみたくてさ。フブキが男の人の事を話題にするのなんて珍しかったし」

「は、はぁ」

「それでそれで、折角だし君のことを教えてよ」

 

この人は笑顔でじっと俺の目を見てくる、俺が仕事中だということを見て分からないのだろうか。

 

「ま、まつりちゃん、荒川さんはお仕事中ですし…」

「やぞー、まつりさん、うちの新人をイジメるのはやめてくれへんかー?」

「イジメてないよー、ちょっとお話したいだけだよー!!」

 

マスターの言葉が気に召さなかったのか夏色さんは頬をぷくーと膨らませる。

 

…ふと、何故か父親の言葉を思い出した。

 

『虎太郎、初対面で妙に親し気に話してくる女には気を付けろ』

『どうしたんだよ、いきなり』

『良いから聞けって、これはお前が将来変な女に引っかからない為だ』

『お、おう』

『初対面ではなぜか妙に親しく話してきて、あれ? この人俺に興味があるのでは。とか思わしてくる悪魔みたいな女がいる』

『ほー』

『そういう奴は大体ぶりっこのようなあざとい動きをするんだ』

『ほん』

『そう、母さんみたいな感じだ』

『お、流れ変わったな』

『いいか、マジで気を付けろ、母さんみたいなあざとくて可愛い女にはまず気を付けるだぞ』

『へぇ、誰があざといのか教えて欲しいですね』

『誰ってそりゃ、母さ、母さん!?!?』

『虎太郎と話してると思ったら訳の分からないことを吹き込んで…』

『いや、これは』

『ちょっとこれはお話する必要がありますね』

 

そう言うと記憶の父親は母親に引きずられ消えていった。

 

そう、そうだ。さっき感じた違和感はこれか。

似てるんだ母さんに。

主にあざとい部分が。

 

 

「ちょっとぐらい良いよねー」

 

ねー、と何故か夏色さんから同意を求められる。

父親との話を思い出してこの人の動作一つ一つがあざとい様に見えてきた。

白上さんには悪いが正直早くこの人から離れたい。

 

「いやー、俺には仕事がありますから」

 

ではごゆっくりーと俺は足早にその席を離れた。

 

 

 

 

「じゃあね、フブキー、ミオー!!」

「はい、また」

「まつりも気を付けてね」

「うん!!」

 

私、まつりはフブキとフブキを迎えに来たミオに別れの手を振り、夜の街を歩きだす。

ロベルさんのバーを出た後、時間があったのでフブキと軽くカラオケに行ってたらかなり遅い時間になってしまった。

ミオに送ろうかと言われたがいつもの歩きなれた道、人通りもそんなに少なくないしまつり一人だけでも大丈夫だと言い、一人で歩く。

 

「にしても荒川君か」

 

バーの新しいアルバイト、フブキが話していた迷い人。

 

「普通の人だったなー」

 

特にイケメンという訳でもなく、よく言えば普通の人、学校のクラスに目立たずに何人かいるタイプ。でも落ち着いてて大人びたような人だった。確かフブキから聞いた話では18、もう少し年上のような印象を受けた。

 

「でもなーんか、距離があったなぁ」

 

注文を聞きに来た時も持ってきた時も会話は最低限、フブキもオタクトークが出来なくて少し寂しそうにしていた。なんか警戒されてる?

 

「考えすぎかな?」

 

…時間帯は夜、見慣れた道ではあるがこの時間帯は人通りは多い方じゃない。

だから前からやってきた数人の男性は道でも目立っていた。

 

「お、何を考えてるのー?」

「ねえねえ、君今暇ー?、遊ぼうよー」

「結構可愛い子じゃん」

 

その数人の男性は全員髪を染めてピアスを付け、中には肩に入れ墨が見える人もいるザ・不良といった感じだった。そして共通なのが全員顔が赤い、お酒を飲んでいるようだ。

 

「いえ、帰る途中ですので」

 

内心ちょい面倒だなとは思いつつも、こういうのには数は多くないが絡まれたことがある。だがその時は適当にあしらえば大丈夫だった、だから今回も大丈夫。そう思って油断をしていた。

 

男性たちの横を通り過ぎようとしたら腕を掴まれた。

 

「何処行くのよー」

「は、離して!!」

 

まつりは掴まれた腕を振り払おうと手を振る。

だが、酔っていても男性、ただの女性には力では敵わない。

 

周囲を見渡す、人通りが少ないとはいえ、人は通る。だから誰か助けてくれる、そう信じて。

だが思いとは裏腹に通る人は目が合うも、不良たちの見た目と人数を見て気まずそうに目を逸らして通り過ぎていく。

 

腕を掴んでくる男性を見る。

初めて見る気持ち悪くて怖い顔。

 

「━ぁッ」

 

声を上げようにも恐怖で喉が詰まりまともな声が出なかった。

誰も助けてくれない、掴まれて逃げれない、怖い、怖い、怖い。

 

まともな思考は出来ない。

恐怖で何も出来ない。

嫌だ、嫌だ、嫌だ!!

 

 

 

 

「あれ、夏色さん?」

 

その声は恐怖に包まれてたまつりを救い上げた。

 

 

 

 

暗い夜道、人通りは少ない中、酔った複数の男性に囲まれ腕を掴まれている女性。

事案ですか?

バイト終わりの帰路、アパートに帰る途中に今日見た顔がやばそうなことに巻き込まれていた。名前は確か、そう。

 

「あれ、夏色さん?」

 

夏色さんと目が合う。

その顔は恐怖に染まり、泣きそうにも見えた。

 

「お知り合いとかですか?」

 

俺の問いに夏色さんは首を横に振った。

 

「なんだァ?」

「今ちょっと取り込み中だからよー、どっかいけよ」

 

酔った人たちが俺を認識して詰め寄ってこようとする。

だが酔っているのでやはり足元は覚束ない。

故に夏色さんに近づくのは容易だった。

夏色さんの腕を掴んでいる人を見る。

背格好は俺より高い、そして筋肉質、普通ならかないっこない相手だけど酒に酔っていてるこの状態なら。

俺は足をそいつの股下に差し込み、すぐさま蹴り上げた。

 

「ふんっ!!」

 

足先に何やら気持ちの悪い感触が伝わるがそれ以上に相手は悶絶し、夏色さんを掴んでいる手を離した。

 

今度は俺が夏色さんの手を取る。

 

「走るよ」

 

俺は夏色さんを連れて走り出した。

 

「ちょ、おま」

 

酔った集団からそんな声が聞こえるが無視無視、俺は夏色さんを半ば引っ張るような形で走った。

 

 

 

 

夏色さんの手を引いて走り出してから10分ぐらい経ったか。

 

「ちょっ、と、待っ、って…」

 

息も絶え絶えな夏色さんの声が聞こえ、俺は走るのを止めて立ち止まった。

 

「ちょ、ちょっと休憩、させて」

 

立ち止まったところで俺も急に疲れが押し寄せてくる、周囲にあの集団がいない事を確認して、夏色さんを道の脇に連れて座らせ、俺もその隣に座った。

 

「はぁ、はぁ、しんど…」

 

心臓が激しく鼓動を鳴らしているがこれは走った疲れか、もしくは夏色さんを助けた時の緊張と恐怖からか、まあ多分両方だろ。

俺と夏色さんはそのまま数分間、無言で息を整えた。

 

「…ありがと、助けてくれて」

「…まあ、成り行きっすよ」

 

正直物凄く疲れた、もう二度とやりたくない。

 

「それでもありがとう、誰も助けてくれなかったし」

 

夏色さんの言葉を聞いて、俺でも何でこの人を助けたんだ?と思った。

普通に考えたらあんなやばそうな集団、俺も他の人と同じように見て見ぬふりをしそうだし、夏色さんだぞ? 俺はバーで思いっきり警戒したじゃないか、何で今更…… あっ。

 

「…助けて欲しそうな顔してたからだ」

「え?」

 

思い出すのは恐怖と何かにすがるような夏色さんの表情、その顔を見た時俺は無性に。

 

「あの時の夏色さんの顔見たらさ、助けなきゃって思ってさ、そしたら体が勝手に動いてた、何でだろうな?」

 

自分でも何故か分からず少し笑いそうになりながら、照れ隠しで頬を指で掻こうとした。

 

「手、震えてる」

「え?」

 

夏色さんに指摘されて俺は初めて手が震えていることに気が付いた。

助けた時の恐怖と緊張と助けられた安堵からだろうか。

 

「あ、あはは、あまりにダサいな」

 

思わず夏色さんに見られたくないなと思い手を隠そうとしたが。

 

「ダサくなんかない」

 

夏色さんは俺の震える手を両手で包み込んだ。

 

「ダサくなんかない、まつりを助けてくれて、この手で握ってくれて、まつりは凄く安心したんだよ。だからダサくなんかない、むしろ誇ってよ、この手はまつりを助けたんだぞーっ!!って」

 

夏色さんは俺にそう微笑む。

…強いなと思った。一番怖い目に合ったのはこの人なのに、そんな自分を差し置いてまで俺を慰めてくれる。こんなんじゃまるで…

 

「…警戒してた俺が馬鹿みたいじゃん」

「ん? 何か言った?」

「いえ、何も、ありがとうございます、もう震え止まりましたから」

 

そう言い俺は息も整ったので立とうとした。

 

 

 

すると複数の足音が聞こえてきた。

 

「あ、いましたぜ!!」

「おうおうおう、さっきは酷いことしてくれたなぁ、おかげで明日は血尿かも知れへんわ」

「ダチがこんな目に合ったんだ、倍返しさせて貰わないと気が済まないよなぁ」

 

さっきの集団、もう追いつてきたのか。

マズイと思い俺は夏色さんに声を掛ける。

 

「また走れます? 夏色さん」

「…ごめん、無理」

「え?」

「腰、抜けちゃった」

「うっそだろおい」

 

まさかの事態に冷や汗が止まらない。

 

「お、今回は逃げないのか」

「潔くて良いねぇ」

 

いや、逃げないんじゃなくて逃げれないんですよ。

 

本当にマズイ、だがどうすれば…

不良グループはもう目の前、今にも殴りかかりそうな体勢だ。

万事休す。

 

その瞬間、俺たちと不良グループの間に何か降ってきた。

 

「こおおおらああああああ!!!!」

 

地響きを立て、道は衝撃でひびが入る。

それは人だった。

メイスを付け、銀髪で胸が大きい人。

 

「君たちだね、通報した人が言ってた不良集団ってのは」

「……おい、おい、やべえぞ、ありゃ白銀騎士団だ!!」

「それもあれは…」

「俺も新聞で見たぞ…、ありゃ、白銀騎士団団長!!」

「お、団長も有名になったなぁ」

 

その人は鼻上を指で擦り少し嬉しそうだ。

俺は思わず話しかけた。

 

「あ、あの…」

「ノエル!!」

 

すると夏色さんが嬉しそうな声を上げる、あれ? お知り合い?

 

「え、まつり先輩!? 何でこんな所にって、もしかして被害にあっていた女性って…、よっし、ちょっと待っててすぐに片づけるから」

 

その後の事は言うまでもない。ノエルと呼ばれた人は不良集団を一瞬で叩きのめすと、その人たちを縛り上げて騎士団の詰め所って所に連れていった。俺たちは騎士団の助けもあり各々家に帰った。

 

 

 

「いやー、昨日は散々でしたな」

 

次の日の昼。俺はバイトの為、バーに向かっていた。

昨日は色々とあったが今日は特に変わらずだ。

 

「あ、いたいた!!」

 

不意に肩を叩かれる。

振り向くとそこにあったのは指、俺の頬はその指に突かれた。

小学生じみたいたずらに俺は少し苛立ちを覚え、その指を払う。

 

「何するんですか、夏色さん」

「えへへ、引っかかったー」

 

立っていたのは夏色さん、昨日の今日でどうしたのだろうか。

 

「いやー、改めてお礼を言っておこうと思ってさ、あらかわ……、虎太郎君に」

 

急に名前呼びされて一瞬ドキリとした。

いや、だってしゃあないやん、こちとら純情チェリーボーイ虎太郎やぞ?

いきなりそんな名前で呼ばれたら思わず、あれ? この人俺のこと好きなんか? って思っちゃうんじゃん!!

 

「お、お礼なんて、昨日してもらったしそれで…」

「いやー、それだとちょっとまつりの気が収まらなくてさ、ほらまつりにして欲しいことない? 何でもじゃないけど出来るだけ手伝うよ?」

「何でも…?」

「うわ、そこに反応するのは童貞臭いよ」

「うるさいわい」

 

仕方なくないか? 正直そういう振りだったろ。

 

「いや、まあ特にして欲しいことなんてないですし… そうだな…」

「ワクワク」

 

キラキラした目で夏色さんがこっちを見ている。

 

「…うーん、まああれですね、時々バーに来て飯食べて飲み物飲んでお金落として行ってください」

「えぇー、何というかしょうもないー」

「じゃあ、何だったら良いんですか?」

「そりゃあ、えっちなことやあんなことを… ぐへへへ」

「アンタ自分で何言ってるのか分かってるのか?」

「ナニ?」

「シャラップ!!」

「ま、そういうことなら仕方ないか」

 

夏色さんは一歩前に出て笑顔をこっちに向ける。

 

「じゃあこれからはちょくちょくバーに通うね。美味しい料理を楽しみにしてるよ、虎太郎君」

 

その笑顔は確かにあざとくて、可愛かった。

 

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