迷い人よ、ようこそ。   作:みなたか

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第十一話

ラプラスを抱え、星街とさくらみこは道を走る。

今はただサクラ神社から距離を取る。

 

「……っ!」

 

さくらみこが急に立ち止まった。

 

「みこち!?」

 

いきなり立ち止まったさくらみこに驚き、星街も立ち止まる。

さくらみこは自身の胸元に手を置き、数回深呼吸をした。

 

「…ごめん、大丈夫。急に走って息が切れただけだから」

 

「…本当に?」

 

正直、さっきのカズマの件がある。

今の星街はその言葉をそのまま受け取るには難しい。

 

「うん、もう大丈夫にぇ、それよりこれからどこに行けばいいの?」

 

「それは…」

 

確かにそうだ、結界は抜けたが今はただ我武者羅に走っているだけでどこに行けば良いのか、その目的地が無い。

 

「あっ、スマホ!」

 

ふと星街は思い出した。

そうだ、ここはさっきの結界の中じゃない、つまり連絡は付くはず。

 

スマホを見るとそこには電波が通じている証が表示されている。

すぐさま星街はもう一人の仲間、影山シエンに電話を掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

「…これで一先ず安心かな」

 

ピンク髪のコヨーテ、博衣こよりが横たわるラプラスの治療を終わらせ、胸を撫でおろした。

ラプラスの呼吸もさっきとは違い、だいぶ落ち着いている。

 

「ラプを連れてきてくれてありがとう」

 

鷹嶺ルイが星街とさくらみこに頭を下げる。

 

「…いえ」

 

「……」

 

二人は用意されたソファに座っている、がその顔は暗い。

鷹嶺ルイと博衣こよりは何て声をかけていいのか少し躊躇してしまう。

 

状況は聞いた。

彼女ら二人を庇い、岩崎カズマが一人その場に残ったと。

 

「あの野郎…っ」

 

落ち着いて状況を整理できるようになったとしても、やはり星街はカズマに対して怒りを募らせていた。

その様子を見た鷹嶺ルイは疑問に思う。

1人だけ残ったカズマを心配するなら分かる。

だが、カズマに対して怒りを覚えるのは何か別の理由があるのだろうか。

そんな風に思いながら鷹嶺ルイは星街を見ていると目があった。

 

「…なに?」

 

「えっと…」

 

「すいちゃん口悪いにぇ」

 

何て言って良いか分からず返答に困っているとさくらみこが横から割って入ってくれた。

 

「…あ、ごめん」

 

意外にも素直に謝る星街。

この雰囲気なら聞けるか、と鷹嶺ルイは口を開い星街に尋ねた。

 

なぜ、そこまで彼に怒るのかと。

 

「その、心配の裏返しなら分かるんですけど、貴方のソレはどうにも違うように感じて…」

 

鷹嶺ルイの言葉を受けて星街は少し驚きながらも答えてくれた。

 

「ははっ、そんなに分かりやすかったかな」

 

苦笑する星街。

 

「うん、私のこれはアイツの心配の裏返しとかそんなんじゃない。ただ、単純にムカついているだけ。」

 

何故、鷹嶺ルイは思う。

 

「まあ、何でだって言われてもちょっと言語化しにくいんだけどさ、何と言うか重なるのよね」

 

「重なる?」

 

いつの間にか聞いていた博衣こよりが聞き、星街は答えた。

 

「昔の私」

 

つまりそれは『同族嫌悪』と言うのだろうか。

 

「アイツのあの強がってる癖に芯がグラグラで迷子みたいな所、周りのことを気にかけず自分の考えだけで突っ走ってしまう所、周りの心配に気付かない、見ようとしないところとかさ、上げたらキリがないよ」

 

「今回のことだってそう、勝手に自分で決めて、残された私たちがどう思うかも考えず勝手にやって、だからさ、古い鏡を見せられているようで本当にムカつくって訳」

 

星街は一息つくように出された飲み物を飲む。

 

「ちょっとだけしか話してないけど、あれは確かに昔の星街を連想させるところあるにぇ、雰囲気とか話してる感じとか…」

 

「でしょー、腹立つけど」

 

ケラケラと星街は笑うがそれもちょっとだけ、結局すぐに黙って手に持ったグラスを見つめる。

 

「でもやっぱり心配?」

 

さくらみこがそう問いかける。

 

「誰が…」

 

星街はそう言うがその言葉に自信は無さげだった。

 

「みこはね、心配だよ。 いくら怒ったとしても、それでも私たちを助けてくれた事実は変わらないにぇ… だから無事でいて欲しいって思う、すいちゃんは?」

 

さくらみこは星街にそう問いかける。

星街はそっぽを向いていたが小さな声で「心配」とだけ返した。

さくらみこはその答えだけ聞いてとても満足したようにうんうん、と頷いた。

 

 

丁度そのタイミングでここ、HoloXアジトの玄関が開いた音がした。

どうやら三人が帰ってきたようだ。

 

「お帰り、三人とも」

 

鷹嶺ルイは三人、沙花叉クロヱ、風真いろは、影山シエンを出迎える。

 

「それで、どうだった?」

 

「打つ手なし、完全に遮断されてネズミ一匹入る隙間すら無かった」

 

シエンはため息を付きながらそう言った。

沙花叉と風真も同じ様子だ。

 

「試しに斬ってみたけど弾かれたでござる…」

 

「星街さんたちが出たっていう、出入口も探したけど完全に閉ざされてた」

 

三人の報告はこの場にいる全員の顔を曇らせるには十分な報告。

沙花叉、風真、シエンの三人はカズマが一人残ったサクラ神社の様子を確認していってもらっていた。

 

「アイツは…?」

 

星街はシエンたちに問いかける。

だがシエンは首を横に振る。

 

「手掛り無し、中にも入れなかったから何も分らん」

 

「…っ」

 

シエンはそう吐き捨てるように言った。

星街は何でだと言い返しそうになったがそのシエンの右手を見て口を閉ざした。

シエンの右手は見て分かるぐらい強く握りしめられている。

 

短い付き合いであってもそれでもシエンにとってカズマは既に仲間だ。

その仲間がどうなったか分からない。

それはシエンにとって何よりも屈辱でそれを突き止めれない自分が悔しかった。

 

そんな様子を見て到底責めれるわけもない。

 

「それに加えて何故か騎士団の人達が結界回りを警備してたでござる」

 

「はぁ!? 騎士団!?」

 

風真のその報告に星街が声を上げる。

さくらみこと鷹嶺ルイ、博衣こよりも驚愕する。

 

「どういうこと、何で騎士団が警備を…」

 

「順当に考えれば奴ら、新生桐生会でしたっけ? そいつらが騎士団に警備の依頼したって考えれば出来ない話じゃないですね」

 

星街の疑問の声に沙花叉が回答する。

 

「でも、それでも騎士団は公的な存在。そんなところに依頼なんて正当な組織じゃないと出来ないわよ…」

 

鷹嶺ルイが頭を抱える。

 

行方の分からないカズマ。

新生桐生会、そして騎士団。

あまりにも自体が混沌と化してきていた。

 

「あの、一つ思ったんですけど」

 

そう言い沙花叉が手を上げる。

 

「あのサクラ神社って何なんですか? 話を聞いた感じ新生桐生会は元々あの神社を押さえようとしてて、そこに“たまたま”星街さんたちが鉢合わせして、結果こうなってる訳じゃないですか」

 

「…目的はそもそもサクラ神社を手に入れること、星街さんたちはオマケ、ってことはあの神社自体にわざわざボスが出張ってくるだけのモノがあるってことか」

 

沙花叉の言葉にシエンが返す。

沙花叉はそうだと言わんばかりに頷いた。

 

「誰かサクラ神社に詳しい人っていません?」

 

沙花叉がそう言う。

その言葉を受けて星街がさくらみこを見た。

 

さくらみこは言っていた。

彼女はサクラ神社に住んでいる、と。

 

だが当の本人は首を傾げながら言う。

 

「え、でもあそこには何も無いよ? ただ神社と大きな桜の木があるだけだっ、た、し、…あ、あれ?」

 

さくらみこの体が突如としてふらついた。

 

「みこち?」

 

星街が心配そうに声をかける。

 

彼女の視界が歪んだ。

 

次の瞬間。

 

「みこち!?」

 

どさり、とさくらみこは地面に倒れ伏した。

 

 

 

 

さくらみこはラプラスが眠るベッドと反対のベッドに寝かされた。

彼女に意識は無い。

博衣こよりが空中に映るディスプレイを確認しながら彼女の診察を行っている。

 

「うむむむ…」

 

「…みこちはどうなったの?」

 

ディスプレイを見ながら唸る博衣こよりに星街は問いかけた。

 

星街はここに来るまでに一度立ち止まってまで呼吸を整えていたさくらみこを思い出す。

あれはやはり何かしら彼女に異常があったのだろうと改めて思うと同時に、それを「大丈夫」だと言い張った彼女とそのことを追求しなかった自分に腹が立つ。

何で誰も彼も自分より他人を優先する。

 

「(みこちもアイツも…)」

 

星街は言い表せない思いをぶつける様にその手を強く握りしめた。

 

博衣こよりはディスプレイから顔を離し、星街と皆を見る。

 

「まず、結論から言うと彼女が倒れた原因は魔力欠如です」

 

「魔力欠如って、魔力が足りなくなって気絶するやつ?」

 

博衣こよりの言葉に沙花叉が返す。

 

「うん、体内にある魔力が尽きかけてる。しかも普通なら休めば魔力は回復するんですけど、彼女は回復する傾向が全く無いです…」

 

それはつまり、彼女は回復することなくこのまま寝たままだということを示していた。

 

こほん、と息を整える。

まるで大事なことを言うように口を開いた。

 

「彼女、さくらみこさんは人間じゃありません」

 

「…え?」

 

博衣こよりのその言葉に声を漏らしつつも星街はラプラスも同じことを言っていたことを思い出した。

 

「どっちかって言うと精霊に近い存在です」

 

精霊。

それは主に自然やモノに宿る霊的な存在。

本来、実体を持たない精霊だが何かしらの要因で魔力を帯びることで人としてを形作り実体を得て顕現する。

と星街は学校で教わった記憶がある。

 

「みこちが、精霊…?」

 

いきなりの情報に処理が追い付かない星街。

彼女はそんなこと、一言も…。

 

いや、待て。

 

「(あの時ラプラスが言っていた『自分でも気づいていないのか』って)」

 

つまり彼女、さくらみこは自身でも精霊だと自覚せず今まで過ごしていた、と…。

 

「星街さん、どうしましたか?」

 

急に黙り、考え込む星街を疑問に思ったのか博衣こよりは星街に問いかける。

星街はラプラスに言われたことを全員に話した。

 

「本人に自覚が無かった…?」

 

「ラプがそう言ったのなら間違い無いと思うけど。こより、普通そんなことあるの?」

 

鷹嶺ルイがそう聞く。

 

「いや、そんな事例は今まで見たことも聞いたことも… 星街さん、彼女とはどこで知り合ったんですか?」

 

「…サクラ神社で歌っていたらいつの間にか居て… 本人は神社に住んでいるって」

 

星街の言葉にこよりが考え込む。

だが、それ以上に反応を示した人がいた。

 

「歌って… いや、まさか」

 

思わず、と言った具合に口を開くシエン。

その場にいる全員の視線がシエンに向いた。

 

「影山殿?」

 

「……」

 

影山は腕を組み、目を瞑る。

何かを考えるように。

 

「…可能性はありえる、か」

 

考え事が終わったのか数分後、彼は目を開ける。

変わらず全員の視線が集中した。

 

「シエン、何か知ってるの?」

 

改めて、今度は星街がそう問う。

 

「……」

 

シエンは星街の訴えかけるような視線を受け悩む。

果たしてまだ想像の域を出ないこの考えを伝えてもよいのか。

正直、シエンはこの想像の結論を急ぎたくなかった。

これはシエンにとって、もっと確証を受けて初めて結論を出すべき大事な内容であり、それを説明するには”とあること”から話さないといけない。

だがそれはシエン一人の判断で話して良いことではない。

 

「教えて、私の大事な友達のことを」

 

星街は訴えかけるようにシエンに言う。視線が交差する、互いに目は逸らさない。

答えるまで梃子でも動かない強い意志をシエンは感じた。

シエンは星街の視線を受け悩み、とりあえずの結論を出す。

 

「半日待ってくれ」

 

そう言うとシエンは踵を返してHoloXの入り口に向かいながら口を開く。

 

「これから先の話は想像と妄想で話したら絶対にダメな領域になってくる」

 

「で?」

 

「事実と確証を得てくる」

 

そうシエンは後ろ目で星街に言う。

 

「なに、日付が変わるまでには戻ってくる」

 

「ならよし」

 

そう言うとシエンはHoloXのアジトを出た。

 

 

 

「それじゃ、これ以降の話はアイツが帰ってきてからで」

 

そう言うことになりこの場は一旦解散となった。

博衣は引き続きラプラスとさくらみこの看病を行ってくれると。

 

沙花叉はサクラ神社の偵察、風真は武器の手入れ、鷹嶺ルイは家事を。

 

やることが無い星街はソファに座り、だらだらとテレビを付けるのだった。

 

 

 

 

星街はとりあえず時間を潰す為、テレビを垂れ流すように付けていた。

ちなみにテレビの内容は頭に入ってきていない、ただ今日起きたことをまとめ、整理して受け止める為のBGMとして使っていた。

 

表面上は澄ました顔で座っているがその実頭は心配事でパンクしそうであった。

 

「(みこちもアイツも二人揃って「大丈夫」って… 全然大丈夫じゃないじゃん)」

 

はぁ、とため息を付く星街。

そのタイミングで目の前のテーブルに新しい飲み物がことん、と置かれた。

顔を上げると鷹嶺ルイがお盆を持って立っていた。

 

「…ありがとう、えっと、鷹嶺さん」

 

「ルイで良いですよ、星街さん」

 

「えっと、ありがとう、ルイ。 私もすいせいで良いよ」

 

ルイは星街の横に腰を下ろした。

 

「あらためて、ラプを助けてくれてありがとうございます」

 

そう言うとルイは頭を下げた。

 

「あんなんでも私たちの大事な総帥ですから」

 

ルイは頬を手で掻き、少し恥ずかしそうだ。

 

「…ううん、お礼を言わないといけないのはこっち。ラプラスがアイツを庇ってくれなかったら私たちはこの場に居なかった、癪でムカつくけど」

 

星街はそう言い、むくれる。

カズマが倒れていたら、囮をしてくれなかったら。

間違いなくあの場で全員捕まっていた。

いくらアイツにムカついてもそれは間違いない。だが、本人の意思とは裏腹にその胸の内にある「やるせなさ」は増すばかりだ。

星街は出された飲み物を見つめ、つい考え込んでしまう。

 

「…でも正しいことだったとしても、受け入れられないことってありますよね」

 

ルイの言葉に星街は顔を上げ、ルイを見た。

 

「実はラプの無茶は今に始まったことじゃないんですよ」

 

そう言うと思い出すようにルイは語る。

 

「いつだってそう、いつもはただの悪ガキなのにいざとなったらいの一番に自分を犠牲にして無茶をする… で、それがいつも大体そうすることで良い方向に転んでいくんです。現に私たち、HoloXはそのラプラスの無茶のおかげでここにいます。」

 

呆れたようにルイは言うがその目は優しそうであった。

過去にHoloXの人間とラプラスの間に何があったのか、星街には知るよしも無いがどれも一筋縄ではいかなかったのだろう、そしてラプラスが今回と同じように無理をした。

きっとそういうことなのだろう。

 

「でも、それは…」

 

星街の言いたいことは分かっていると言わんばかりにルイは言葉を続けた。

 

「ええ、その方法がいくら正しくても、私たちは到底その犠牲を受け入れることなんて出来ない。でもいくら止めてって言ってもやめる気配も無いですし、本人も『お前らがいるから大丈夫!!』とか言って… 全く心配するこっちの身にもなりなさいよ」

 

ルイはため息を付く。

最後の方はただ愚痴になっている気がしなくも無いが。

 

「だから、その感情は抑え込んで飲み込む必要なんて無いですよ」

 

「…あ」

 

星街はその言葉を聞いて胸のつっかえが取れた気がした。

 

「むしろ何であんなことしたんだって言って、一発引っ叩くぐらいが丁度良いです」

 

「…ええ、そうね。 むしろ何でこんな単純なことで悩んでたのか馬鹿らしくなってきたわ」

 

星街は立ち上がり、拳を握り頷く。

 

「よし、アイツにあったら文句言ってふざけたこと言ったら一発殴ろう、そこからだ」

 

そう言い、星街はルイに話を聞いてくれた礼を述べた。

 

「いえいえ、あ、飲み物のお替りいります?」

 

よく見ると星街が飲んでいた飲み物はいつの間にか空になっていた。

 

「じゃあ、お願いしようかな」

 

「了解です、ちょっと待っててくださいね」

 

そう言いルイは立ち上がり、台所に向かった。

 

星街は再度ソファに座り込むと点いていたテレビを見る。

丁度ニュースを放送していた。

 

『なんと、あの大手音楽機器開発会社、桐音テクノロジーズがこの街に最大規模の音楽アリーナを建設する予定とは』

 

『一体どんなアリーナになるのか、今から一か月後が楽しみです』

 

キャスターと出演者がそう話す。

桐音テクノロジーズと言えば星街が持っている音楽機材も確かその会社のモノだったはずだ。

へぇー、と星街はそのニュースを見る。

 

『丁度その桐音テクノロジーズの社長からビデオメッセージが届きましたので視聴者の皆様にお見せいたしますね』

 

そうキャスターは言うと画面が切り替る。

そこには一人の男が映っていた。

恐らくキャスターが言った桐音テクノロジーズの社長だろう。

 

だが、星街はその男が映った瞬間、飛び上がった。

 

「あ、あああああ!!!!!!」

 

テレビを指さし、大声を上げて驚愕する。

何たってそこに映っていたのは数時間前、サクラ神社で相対した新生桐生会の若頭その人だったからだ。

 

 

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