迷い人よ、ようこそ。   作:みなたか

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第十二話

『━我が社、桐音テクノロジーズが新たに建設する超大型音楽アリーナは我が社の最新音楽機材をふんだんに導入し、皆様にかつてない体験と迫力をお届け出来るでしょう。 そしてその建設日であり皆様にお披露目できる一か月後、その日は特別な日になるよう特別なライブを行おうと計画しています。そちらの計画は後日詳細を発表出来るのでもう少々お待ちください。それでは、皆様と新たなアリーナで合える日を心待ちにしています』

 

桐音テクノロジーズ社長、いや、新生桐生会若頭の言葉はそう締めくくられた。

帰ってきたシエンも含め、ラプラスとさくらみこ以外の全員でその映像を見る。

 

「桐音テクノロジーズ、まさかその正体が言ってた新生桐生会だったなんて…」

 

「よく見たら分かりやすく「桐」って文字使ってるもんね」

 

ルイが言った言葉に沙花叉が続ける。

 

「…このタイミングでのメディアへの露出、間違いなく狙ってやがるな」

 

「狙ってるって、何を…?」

 

星街の疑問にシエンは一枚の写真を見せてきた。

 

「…これっ!!」

 

写真を見た星街が驚きの声を上げ、周りにいた人間も星街の見ている写真を覗き込んだ。

 

「ッ!! 岩崎殿!!」

 

そこに写っていたのは椅子に縛り付けられ項垂れているカズマだった。

 

「ここに戻るまでに一旦アジトに戻ったら荒らされててな、『「星街すいせい」一人でサクラ神社まで来い』って書かれた手紙と一緒に置かれていた」

 

シエンは吐き捨てるように言う。

 

「奴ら星街さんを手に入れるためのカードを手に入れたからか俺たちに正体がバレても問題ないって所だろうな」

 

「舐めてる…!」

 

星街の言葉にこの場にいる全員が同意する。

 

だがこの場で議論すべきはこの件だけではないはずだ。

 

「今すぐにでも助けに!!」

 

「待って、いろは」

 

今にも飛び出しそうな風真をルイが静止させる。

 

「ルイ姉!!」

 

風真は反論しようとするが、ルイは落ち着けと言う。

 

「皆も、逸る気持ちは分かる。けど、私たちはヤツらの目的も、どうしてこんなことをするのかも全く知らない、そんな状況で焦って動いても危険なだけよ」

 

ルイの言葉を聞いた全員の空気が穏やかになる。

全員、落ち着いたようだ。

 

「今やるべきは奴らのことをを少しでも知ること、ですよね?」

 

ルイはそう言うとシエンに目線を向けた。

 

「ああ、そうだ、鷹嶺さんの言う通り。 今は奴らのことを知る、その為に情報を得てきたんだから」

 

シエンはそう言うと、この場に居る全員を見渡す。

良いか?と問うと全員頷いた。

 

「奴らが何でサクラ神社を狙ったのか、それを説明するにはまず『迷い人』とは一体何なのかってことから説明する必要がある」

 

「『迷い人』? それがどうして…」

 

星街が、いや、全員がカズマを思い浮かべる、彼は『迷い人』だ。

 

「確か、時々現れる別世界から迷い込んだ人、ですよね」

 

こよりが確認するようにシエンに言う。

 

「ああ、一般的にはそうなっている」

 

「一般的には…?」

 

ああ、とシエンは言う。

その眼差しはこれ以上無いと言った程に真剣だ。

 

「彼ら彼女ら『迷い人』はこの世界に迷い込んだ訳じゃない。本当はこの世界に召喚されたんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「君たち『迷い人』はこの世界、いや、厳密に言えば次元の狭間にいる「ある存在」に召喚されたんだ」

 

手足を椅子に縛り付けられ身動きの取れないカズマは目の前のヤツが言うことをただ聞くことしかできなかった。

サクラ神社で星街と別れてからどれだけの時間が過ぎたか、カズマが気付いた時には既にこの状態だった。

周りを見渡しても物も窓も一つも無い、部屋の入り口である扉があるだけ。

意識を取り戻して数分、いきなり部屋に入ってきた新生桐生会若頭の喋ることを聞く羽目になった。

 

「…どこだここ」

 

「まだ俺が話してる、質問は後にしてくれ」

 

「誰がお前の話なんざ」

 

「星街すいせいを欲する理由を知りたくはないのか?」

 

その言葉にカズマは黙り込んだ。

 

「よろしい、では続けよう」

 

そう言うとヤツは話を再開した。

 

「ではその『迷い人』を召喚した「ある存在」とは何者なのか」

 

ヤツは勿体ぶるようにカズマの周りを歩き始めた。

 

「…勿体ぶるなよ」

 

「君からの質問待ちだったのだがね」

 

「お前が質問は後って言ったんだろうが」

 

「おっと、そうだったな。ではそれは忘れてくれ」

 

「…何か気が狂うな」

 

カズマは解せない顔をしたがヤツはそれを意に返さず引き続き歩く。

 

「で、誰なんだ。俺を召喚した「ある存在」ってのは」

 

「『ときのそら』」

 

そいつは言った。

 

「「星歌(せいか)の担い手」にしてこの世界の守護者、今は次元の狭間で眠り続け、この世界を見守っているという」

 

「星歌…?」

 

初めて聞く単語に疑問符を浮かべるカズマ。

 

「…それに、という(・・・)? 何だ曖昧じゃねえか」

 

「実際に見たわけじゃないからね、このことは俺が会長から聞いた話だ」

 

会長、恐らくそれは言っていた元桐生会の会長だろうと理解した。

 

「で、それが星街を狙う理由と何の関係がある?」

 

「分からないかね、彼女も「星歌の担い手」なんだよ」

 

「…あ?」

 

つまり何だ、コイツらは星街が「星歌の担い手」ってやつだから星街を狙っていた、と。

 

「俺は彼女の「星歌の担い手」の力が欲しい、まさかネット上に転がっているとは思っていなかったがな、見つけれたのは幸運と偶々会長から聞いて星歌を研究していたからだ」

 

「…「星歌の担い手」の力ってのは何なんだ、その力を使ってお前らは何をするつもりなんだ」

 

「桐生会は終わってない、それを知らしめるためだ」

 

ヤツは据わった目でそう言う。

その目は暗く、どこか狂気を宿しているように見えた。

 

「「星歌の担い手」その力の本質は歌を用いて束ね、貯める力だ」

 

星の歌。という割にはどうもちんけではないか? とカズマは思った。

 

「そしてその束ねる力の対象は自らに留まらない。他人、動物、自然、そして世界、生きているモノ全てが対象なのだ。本来、人は自らの内にある魔力のみしか使えない。だが「星歌の担い手」は違う、まさに無限の魔力を生成しそれを貯めることが可能。つまり最大の人型無限魔力生成タンクなのだ、まあ代わりに「星歌の担い手」自身には魔力が存在しないがな」

 

そう熱弁する若頭。

それとは逆にカズマは話を聞けば聞くほど冷め切ってきていた。

 

「つまり、オマエはその力が欲しいから、ただ魔力タンクっていう道具が欲しいが為に星街を狙ったってことか」

 

「そうだが?」

 

何を当たり前のことを言っているだ。と言わんばり。

その態度はカズマに怒りとほんの少しの不気味さを与えた。

 

「そして」

 

「ふざけんな、アイツは、星街すいせいは決して道具なんかじゃねえ!!」

 

「…ふむ、一つ疑問なんだが、確か君と星街すいせいが出会ったのはたった数日前、なのになぜ彼女にそこまで入れ込む?」

 

そんな空気を読まないヤツの疑問にカズマは怒りのまま答えた。

 

「憧れたからだ!!」

 

そう、そうだ。

憧れだ、アイツは。初めて会った時から惹かれてた。

夜空に浮かぶ月に照らされた立ち姿、あの歌。

そして孤高に見えて、その実皆を惹きつける圧倒的カリスマと言うべきオーラ。

カズマもそれに魅せられた一人。

カズマが持っていないモノを持っている彼女に憧れるのは当然だった。

 

「…そうか、そういうことか」

 

それを聞いた若頭は何か納得したように手を打った。

 

「あの時、何故君が笑っていたのか、ずっと疑問だったが今ようやく分かった」

 

あの時、恐らくサクラ神社で囮になった時のことか。

 

「君は彼女、星街すいせい。「憧れの存在」の役に立てたと思ったのがどうしようもなく嬉しかったのか!!」

 

これは傑作だ!! と若頭は腹を抱えて笑い出した。

そんな様子をカズマは睨みつける。

 

「何がおかしい」

 

ははは!! と目に涙すら浮かべて笑う若頭は言う。

 

「君が役に立てたと思っていたそれは独りよがりの行為だったということだよ」

 

「…は?」

 

「君を餌に星街すいせいをおびき出す、既に手は打った」

 

そう言ってヤツは邪悪に笑う。

 

「あの時、勘違いせずに星街すいせいと逃げていたらこうはならなかったかもな、なのに君は残り、囮になることを選択した。浅ましくも星街すいせいの役に立てると思い!! ああ、実に滑稽だ、まるで道化だな!!」

 

カズマの怒りは沸点を超えた。

 

「てんめえええええ!!!」

 

「何を怒っているのかね、これは全て君が自分で招いたことだ。自分で自分の首を絞めるだけでなく「憧れの存在」の首を絞めることになったがね」

 

カズマは怒りに身を任せ手足を縛る椅子ごと魔力の爆発で破壊しようとした。

だが。

 

「…何でっ」

 

何も起こらない。

 

「ああ、もしかして魔力を使おうとしたのかね、使えないだろ?」

 

「なにしやがった!!」

 

「君と『ときのそら』との魔力パスを切った」

 

パスを、切った?

そのことを理解するにはそもそもの情報が足りてないカズマには無理だった。

 

「君は『ときのそら』から召喚された、いわば肉体がある使い魔。この世界に来てその身に満ちていた魔力は一体どこから来ていたと思う? そう、『ときのそら』からだ、俺はその魔力の繋がり、パスを切った。つまり今の君は魔力を持たないただの一般人以下の存在に成り下がったという訳だ。 パスの切断には少し手こずるかと思ったが妙にあっさり切れたがな」

 

魔力が使えない、と理解したカズマはならば、と力ずくでその手足に力を入れるがびくともしない。

 

「言っておくが君を縛るそれはただの縄と椅子と思わない方が良い、勿論魔法で強化してある、この世界の一般人以下の君にそれを破ることは一生かかっても無理だぞ、と言っても無駄か。せいぜいその体力を切らさない程度に頑張りたまえ」

 

そう言うと若頭は笑いながら部屋から立ち去る。

 

「では、次来るときはもう少し大人しくなっていることを期待するよ」

 

「ふざ、けるなあああ!!!」

 

無慈悲にもその扉は閉められ、何もない部屋にカズマが一人取り残された。

 

 

 

 

 

 

「「星歌の担い手」それが奴ら新生桐生会が星街さんを狙う理由…」

 

沙花叉がシエンから説明を聞き、そう呟く、他の人達も同じような反応だ。

 

「そしてさくらみこさんのことだが、恐らく彼女は星街さんに召喚された使い魔だ。 それもかなりイレギュラーな」

 

「みこちが、使い魔…!?」

 

シエンのカミングアウトに星街は驚きを隠せない。

 

「星街さんが歌ってたあのサクラ神社、あそこはこの街に通ってる魔力の吹きだまり、龍脈点。そこで歌っていた星街さんは知らず知らずにサクラ神社を媒体に「迷い人」と同じように彼女を召喚したって所だろう」

 

「でも媒体となったサクラ神社は敵の手に落ちて結界で封鎖された… そうか! だから彼女の魔力は回復しないんですね。さくらみこさんの魔力は龍脈点であるサクラ神社から送られるものだから」

 

こよりの言葉にシエンは頷く。こよりの考えは合っているようだ。

 

「…逆を言うと、みこちの魔力を回復させるには奴らからサクラ神社を取り戻すしかない」

 

「ああ、彼女を目覚めさせる方法はそれだけだ」

 

シエンの言葉を受け、星街は拳を握りしめた。

はいはい、と風真が手を上げた。

 

「結局奴らがサクラ神社を狙った理由って何なんですか?」

 

「それは…」

 

「もしかして、サクラ神社が「星歌」の最適化された龍脈点になったから…?」

 

こよりの言葉にシエンは驚きを隠せない。間違っていない、むしろ正解なのだ。

 

「1を言ったら100を理解するの凄くないですか? 博衣さん」

 

「へへん、これでもHoloXの頭脳ですから! あ、あと、こよりで良いですよ」

 

胸を張るこよりを後目にシエンは続ける。

 

「サクラ神社は星街さんがあの地で歌を歌うことで「星歌」に最適化され、召喚を行うことが出来るまでになった。奴らは「星歌」の力を欲してる、そしてその力を最大限に引き出すことの出来る場所なんてものを見つけたら…」

 

「奴らは当然手に入れようとする」

 

ルイがそう結論付ける。

 

「…「星歌」龍脈すらも変えてしまう力、そんなのあまりにも」

 

危険すぎる、沙花叉がそう続けようとして思いとどまる。

この場にはその力を扱える人が居るのだ、デリカシーの無い発言だと口を閉じた。

だが、その場にいた全員はその後の言葉は何となく理解できた。

 

「…大丈夫、気にしないで。 力は所詮力、結局は使う人次第ってことは分かってるから」

 

だが、多少たりとも星街すいせいは自らの内にそんな力があるのかと驚きを隠せないでいた。

 

「「ときのそら」とその関係者は「星歌」を利用し、人々を貶める人が現れないようにこの世界から「星歌」に関することを消去した。はずたったんだがな、懸念していたことが起きちまった…」

 

頭を掻きながら嘆くシエン。

だが、シエンの言葉に全員が疑問を持った。

 

「消去した?」

 

ルイがシエンに聞き、シエンはそのまま答えた。

 

「ああ、「ときのそら」の「星歌」の力は世界に干渉するレベルだからな、それぐらいは容易かったんだ」

 

 

「成程、そういうことか」

 

その発言はこの場に居る誰でもない。

声の方を振り向くとそこには寝ていたはずのラプラスが立っていた。

 

「ラプ!?」

 

その場にいる皆、驚愕する。たった数時間で立てるようになる怪我じゃなかったからだ。

案の定、ラプラスの足取りはふらついていた。

こよりが急いでラプラスに駆け寄る。

 

「まだ寝てないと!!」

 

「こんな時におちおち寝れるかよ、それよりさっきの「星歌」の話だ」

 

ラプラスはシエンのことを見る。

 

「この吾輩の記憶から「星歌」に関することが削除されたってのは分かった、でもなら何でオマエは「星歌」のことを知ってるんだ、さっき言ってた関係者ってやつなのか?」

 

「…いや、俺は「ときのそら」の関係者じゃない。 その関係者の知り合いといった感じだ、今回の話も全てその関係者から聞かされた」

 

「ちなみにその関係者ってのは?」

 

「誰かは言えない、そういう契約でお前らに話して良いってことになっている」

 

「ちぇー、ここまで話したのなら全部話せよー」

 

「…悪いとは思っている」

 

シエンは目を逸らし、気まずそうに言う。

不貞腐れたラプラスはその様子をみてシエンが不本意であることは理解した。

シエンは改めて全員を見渡す。

 

「さて、これで話せることは全部話した。こっからどう動くかだが…」

 

「吾輩たちHoloXは岩崎カズマの救出に動く」

 

間髪入れずにラプラスはそう答えた。

 

「ってことで良いよな、皆」

 

鷹嶺ルイ、博衣こより、沙花叉クロエ、風真いろは、HoloXの面々は頷いた。

 

「総帥がそう言うなら」

 

「ラプちゃんが決めたのなら異論はないかな」

 

「久しぶりに働きますかぁ」

 

「右に同じ、でござる」

 

その返答に影山シエンは少なからず驚愕を覚えた。

HoloXの目的は現在この街で問題を起こしている桐生会の残党、新生桐生会の連中を排除すること。

カズマを助けること自体は奴らを倒すことには繋がらないはずだ。

だからこその驚きだった。

 

「…良いのか?」

 

「それこそ何を今更だっての、もうアイツとは知らない仲じゃないし借りもまた作っちまったからな」

 

ラプラスはそう言うと今自らが羽織っている上着に手をやる。

それはカズマがラプラスの応急処置の際に使用した丈の長い学ラン。

 

「それでお前らはどうするんだ?」

 

シエンと星街に目を向ける。

 

「俺もカズマの救出に動く、元々この件にアイツを巻き込んじまったのは俺だ。アイツの優しさに漬け込んで巻き込み、アイツが本当に危険な時に俺は居なかった。それで結局こんな危険なことに巻き込んでしまった」

 

シエンは己を罰するかのように強く拳を握りこむ。

 

「俺の方から頼む。カズマを助けるのに協力してくれ」

 

「もちろん」

 

影山シエンとHoloXの動きは決まった。

後は…。

 

「私は━━」

 

 

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