迷い人よ、ようこそ。   作:みなたか

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第十五話

まず感じたのは強烈な電気の灯り。

眩しく思いながらもカズマは起き上がる、そこには5人の人影があった。

 

「おはよう、よく眠れたか?」

 

シエンはそう言うとカズマに手を差し出す。

 

「ああ、もう十分だ」

 

カズマはその手を掴み、起き上がる。同時に体のあちこちがぽきぽきと音が鳴った。かなり長時間眠っていたようだ。腕を振り、感覚を確かめる。

すると唐突にシエンがカズマに頭を下げた。

 

「すまん、俺がこの件に巻き込んでしまったせいでお前に苦しい思いをさせちまった」

 

思わずぽかんとするカズマ、だがすぐにシエンの肩に手を置いて顔を上げるように促す。

 

「顔を上げてくれ、こうなったのは俺が、まあ、何と言うか、若気の至りと言うか調子に乗った結果だ。だからそんな気に病まないでくれ、むしろ助けに来てくれてありがとう」

 

「…雰囲気が柔らかくなったところを見ると、どうやら成功したんだな」

 

「成功って、(あれ)はお前の差し金って訳か、…まあ、この話は置いといて一旦今の状況とこの後どうするかとか教えてくれ、そっちの人達も」

 

カズマはシエンの後ろに控えていた4人に目をやる。一人は食事を無理やり食べさせられた赤髪の人、シエンといるということは恐らく仲間なのだろう。

 

 

赤髪のチャラ男は緋崎ガンマ、黒髪で耳飾りを付けている夜十神封魔、白髪で細身の羽継烏有、薄い青髪の幽霊、水無世燐央。シエンから紹介された彼らは「UPROAR!!」という名前で活動しているこれまたHoloXと同じく秘密組織らしい。

今回のカズマの救出、そしてあの夢を見させたのは彼らが引き起こしたと説明された。

 

「夢の方に関して行ったのはあの事象を引き起こしただけで、内容に関してはノータッチ。しえぴ先輩からはメンタルの回復を任されただけだからね。ただ、トラウマの記憶の蓋が外れたと聞かされてたから回復するかは正直賭けだったけど、立ち直って良かったよ」

 

そう水無世燐央は説明した。

カズマにとってはあの夢のおかげで全てを思い出せたのだ、感謝こそすれ、恨むなんてありえない。

 

「さて、ここからどうするかだが。まずカズマ、お前を地下三十階に位置するこのフロアから地上まで連れ出す」

 

「地下三十階!?」

 

シエンの言葉に思わず度肝を抜かれたカズマ。今の今までいた場所が地下、それも三十階、驚かない方が無理だ。

 

「…待ってくれ、星街は今どこだ? この建物にはいたはずだ。 何をしてる?」

 

「星街さんは今、地上で観客5万人を相手にライブを行い始めたところだ」

 

「ライブ!? 5万!? 星歌の担い手である星街がそんな人数相手に歌なんて歌ったら桐生会の奴らが!!」

 

「星街さんが星歌の担い手ってことは知ってるんだな。大丈夫だカズマ、これも全て作戦通りで…」

 

「お話し中ごめんなさい、そろそろ警報を誤魔化すのは厳しそうだからこれ以上は…」

 

羽継烏有は手持ちの端末を確認しながらカズマたちに促す。

 

「分かった、続きは地上に向かいながらその都度説明する。うゆ、頼む」

 

「了解です!!」

 

羽継烏有はそう言い、端末を操作。するとどこからともなく部屋中からけたたましい警報音とそれを示す赤ランプが点灯し始めた。

 

「さあ、行こう!!」

 

 

 

 

ライブが始まった会場。星街が歌い、観客が沸く。

それを観客席の一番上、いわゆるVIP席と呼ばれるガラス壁で覆われた客席。そこに桐音テクノロジーズ、社長兼、新生桐生会若頭が座ってライブの様子を眺めていた。

 

「カシラ、お耳に入れたいことが…」

 

組員の一人がVIP部屋に入り、若頭に耳打ちする。

 

「岩崎カズマが脱走したか?」

 

「え、ええ、その通りです」

 

だが、言おうとしたことが言い当てられ少し驚く組員。

 

「どうせネズミが何人か入り込んでいたんだろ。それにこうしてライブが始まったことで既に捕虜としての岩崎カズマに価値は無い。今はこの会場にいる観客全てが星街すいせいにとっての人質だ」

 

想定通りだと言わんばりにあっけらかんとしている若頭。

その反応をみて組員も落ち着きを取り戻す。

 

「どうしますか?」

 

「ビルに居る人間総出で食い止めておけ、奴らの目的はほぼ確実にビルにある管理ルームとこのライブ会場だ。安くない金を叩いて雇った傭兵連中も使え。なに、準備が完了するぐらいまでは持つだろう。ついでにビルに居る連中全員に通達しろ「侵入者を捕まえたらボーナスをやる」とな、これで少しは士気も上がるだろ」

 

「承知しました」

 

組員が若頭より指示を聞くと、耳に付けた無線で指示を飛ばしながらVIPルームを出て行った。

 

『今夜彗星になろうよ、Party Mind 眠れぬ街で』

 

星街の歌が聞こえる。ライブ会場は大盛り上がりだが、若頭はそれに目もくれず壁に立てかけているメモリのようなものをじっと見る。

 

「あと1時間といった所だな、計画通りだ」

 

若頭は襟元に付いた桐生会の代紋バッジを握る。普段、桐音テクノロジーズの社長として活動しているため普段は付けないのだが、今日は特別だから、と身に着けていた。

 

「会長、見ていてください。桐生会は終わってないことを、私がそこに辿り着くところを」

 

 

 

 

 

警報が鳴り続ける廊下をカズマを含めた6人は駆ける。

 

「待てやゴラァ!!」

 

目の前には道を立ちふさがるように立つスーツを着た新生桐生組の組員と恐らくそいつらが雇った兵隊たち。

夜十神封魔がそいつらに向かって呪符を投げるとその呪符が爆発がした。

 

「ちぇいさー!!」

 

相手が怯んだ隙に緋崎ガンマが手に持ったバットをフルスイングして敵をノックダウンさせる。

穴が開いた道を6人は速度を落とさず駆け続ける。

 

「わざわざ何で警報を鳴らしたんだ!?」

 

「この方が好都合だからだ!!」

 

走りながらシエンはカズマの問いに答える。

 

「この建物にいる敵の数は正直数えたくないぐらいの人数、お前を地上に送り届けるのも、その後の作戦にも色々響く! だから適度に釣って間引く必要がある!!」

 

「それでこの状況って訳か…!」

 

「そういうこと!! ちなみにエレベーターなんて都合の良い物はねえからな!! 正しく言うと使えなくしたから!!」

 

「相手が使う可能性があるから、ってことかっ!!」

 

「イエス!!」

 

「で、この後は!?」

 

「さっきも言った通り、お前を地上の安全な所まで送り届ける!!」

 

「それなら星街の所に連れて行ってくれ!!」

 

「はぁ!?」

 

「俺はアイツに今すぐにでも言わないといけないことがあるんだ!!」

 

「無茶言うな!! ただでさえ起きたばかり、しかも魔力は使えないんだろ!?」

 

「頼む!! 無理なら意地でも一人で行くから!!」

 

UPROAR!!の奴らが目の前の敵を蹴散らすのを横目にカズマはシエンに頼む。

 

「…はぁ、こうなると思ってたよ、チクショウ!! 多分星街さんの所に行こうとするだろう、って。お前ら!! 想定通りプランB!!」

 

『了解!!』

 

シエンは前を走るUPROAR!!に声をかけると威勢のいい返事が返ってきた。

 

「ありがとう、シエン」

 

「礼を言うなら全部終わってからだ!!」

 

そう言うとシエンは道塞ぐ組員に鉛弾をぶち込む。急所は必ず外す、彼らは殺す為にここに来た訳ではないのだから。だが、急所を外して撃つことで敵は倒れはしなかった。

それを確認したカズマは腰を屈め、ステップで接近、拳を最小限の動作で振りぬき、敵を昏倒させる。

その動きは前までの力に任せた破壊力のある動きではない。これがカズマに合った本当の戦い方。防御を主体にし、攻撃は最小限かつ高威力の一撃で相手を沈める。原点を思い出したことで新たに獲得した戦闘スタイルだ。

 

「…前より拳がスマートになってないか? 綺麗になったというか」

 

駆けながらシエンはカズマの戦い方の変わりように驚きの声を零す。

 

「あの夢のおかげだよ。それで思い出せた。今の俺に合った最強の戦闘スタイルってやつが」

 

カズマに訪れた心の変化。正直あの夢は一か八かのほぼ博打だった。結果論ではあるがこうしてカズマにとって良い結果をもたらしてることにシエンは少し安堵する。

ふと気づくと水無世燐央がいつの間にか横に来ていた。彼は壁をすり抜けれることから先行して先の道を確認してもらっている。

 

「突き当り右に上に上がる階段、階段にいる敵は3人程度です!!」

 

水無世のその報告をうけ、シエンは少し緩んだ気持ちを引き締める。まだまだ始まったばかりだ。

 

「了解!! お前ら行くぞ!!」

 

彼らは敵をなぎ倒しながら階段を駆け上がる。

 

 

 

羽継烏有は人の目には見えない程細いワイヤーを駆使してまとめて敵を転ばせる。

 

「俺の本業は怪盗だぞっ!! 正面から戦うのは専門外だってのにっ!!」

 

「はいはい、文句言ってないで次来るよー」

 

「チクショー!!」

 

羽継烏有の嘆きに水無世燐央は返答するとまた壁に潜り、敵の位置と数を把握しに行く。

 

「ほほいのほい!!」

 

羽継烏有が転ばした敵に夜十神封魔が呪符を投げては爆発させ、撃ち漏らしは緋崎ガンマのサポートでカバー。

水無世燐央が斥候と把握、羽継烏有が初撃、夜十神封魔がメイン火力、緋崎ガンマが遊撃、それも全て阿吽の呼吸と言うべきコンビネーションを披露し敵をなぎ倒していくのを見てカズマは感嘆の声を上げる。

 

「凄いコンビネーションだな、無駄が無い。」

 

「確かにあいつらの連携は凄いが、それに加えて敵の奴らがそこまで強くないこともあるな」

 

シエンがカズマの言葉を拾う。

 

「だが、敵が強くなくてもこの数だけは厄介だ。一体どこから沸いて出てくるんだよ」

 

「これでもこのビルの三分の一ぐらいだ、まだまだ出てくるぞ。ったくこの兵隊の数、どれだけ金を積んだんだ」

 

どこか呆れているシエンの言葉にカズマは少し固まる。

確かにシエンは敵を間引くと言っていたがそれでもこの量だ。一体地上に付くころには何時になっているか分からない。

 

「おい、シエン」

 

故に少し焦りを覚え、カズマはシエンを見る。

だが、その焦りはシエンの想定内だった。

 

「大丈夫、焦んな。手はある」

 

「だが…」

 

カズマが言い終える前にシエンは声を張り上げた。

 

「お前ら!! ここは任せるぞ!!」

 

任せる。シエンはUPROAR!!の面々にそう言った。

何?とカズマは素直に思った。確かに相手は弱い、だがこの大量の人数を捌くのに4人では厳しくないか?と、それでもこの人数を任せる、とシエンは言う。

確か階段を10階程上がったはずだ、つまり後20階、エレベーターのような便利なものは敵側に占領されているので勿論使えない。6人でここまでこれたのだ。それを残り20階、カズマとシエンの二人のみで上がれるのか?

だが、カズマの疑問と心配をよそにUPROAR!!の4人は。

 

『応!!』

 

と、大きな声で肯定の返事を返す。まるで想定されていた通りだと言うように。

 

「カズマ!! 行くぞ!!」

 

シエンはカズマの背中を叩いて急かし、先に階段を駆け上がった。UPROAR!!の面子がカズマを見て一様に頷く。

つまり、これは。

 

「作戦の内ってことかよ!!」

 

説明されていないとしんどいなぁ!? と内心毒づきながらシエンを追ってカズマは階段を駆け上がるのだった。

 

 

 

 

階段を駆け上がると二人は少し大きめな部屋に出た。

 

「何で階段の位置が階によってバラバラなんだよ」

 

「それはこの建物を作った桐音テクノロジーズに言いな」

 

カズマは毒づきながら言うとシエンは息を整えながら答える。

 

下の階からは敵が上がってくる気配はない、UPROAR!!の面々が下の階で相手をしてくれているおかげだろう。

 

「地下20階、つまり地上まであと20階か…」

 

階段に書かれている表記を見てカズマは呟く。

 

「どうした? もうへばったか?」

 

「はっ、冗談。 この程度屁でもねえよ」

 

すると前方から多数の足音。どうやら敵がやってきたようだ。

 

カズマは拳を構える。が、対照的にシエンは何も構えなかった。

その様子横目で見たカズマは不審に思う。だが、それはすぐに解消されることになった。

 

敵たちが部屋になだれ込む。その瞬間、部屋の照明が落ちた。

部屋が暗闇に包まれる。

 

敵たちが何だ何だ、と騒ぐ。

 

「そこに跪け!」

 

聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「掃いて捨てるような現実を!」

 

「一刀両断ぶった切る!」

 

「終わりなき輪廻に迷いし子らよ!」

 

「漆黒の翼で誘おう!」

 

「我ら、エデンの星の統べる者!」

 

部屋の中心がスポットライトの灯りに照らされた。

そこにいたのは5人の女性。

 

『秘密結社holoX!!!』

 

「でござるー」

 

思わずぽかんとしてしまうカズマ。シエンは驚いていない、恐らくこれも想定内だったのだろう、いや、よく見たら顔がにやけている。この口上はちょっと予想していなかったようだ。

 

ラプラスがこちらを見た。カズマと目が合う。

するとラプラスは嬉しそうに、安心したように、笑った。

 

ラプラスは敵に向かって右手を掲げ、狼煙を上げる。

 

「皆の者、かかれー!!」

 

『Yes My Dark!!』

 

 

 

開幕は風真いろはの抜刀。

腰を低く落とした体勢から放たれる目にも止まらない斬撃。

その攻撃は前方に佇む複数の敵を巻き込んだ。

 

だが、それでいろはの攻撃は終わらない。

 

「シッ…!!」

 

素早く攻撃を与えた相手に近づくとそのまま上に切り上げ。

浮き上がる敵、いろはもその勢いのまま飛び上がり地面に叩きつけるように斬撃を放った。

その斬撃の衝撃は敵陣に大きな穴を作る。

 

「ばっくばっくばくーん」

 

そんな気の抜けた声とは裏腹に沙花叉クロヱはナイフを片手にいろはの開けた穴に切り込む。

不規則に動きつつ、敵には動きを掴ませないスピードで駆け回り、そのすれ違いざまに手に持つナイフで切り刻む。敵はいつ来るかも分からない攻撃によりその場に縫い付けられることになった。

 

「クロヱ!!」

 

高嶺ルイは大きな声でクロヱの名前を呼ぶ。

その声を聴いたクロヱは大きく跳躍、バク転を繰り返しその場から離脱する。

その様子を確認するまでもなくルイは手のムチを大きく振るう。そのムチはルイの魔力に応じて長くなる特別製。

 

「せあああ!!」

 

長くなったムチはこのフロアに現れた敵全てを一か所に集める。

 

「こより!!」

 

「まっかせてー!!」

 

ルイの声を受け、博衣こよりはその白衣の内側から数本の試験管を取り出すと。

 

「一発デカい花火いっちゃうよー!!」

 

それをまとめた敵に向かって放り投げる。

瞬間、デカい爆発音と衝撃。

 

気付けばこのフロアにいた敵の全ては地に伏していた。

 

時間にして1分にも満たない連携攻撃。

 

「ふははは!! どんなもんじゃい!!」

 

「ラプは何もしてないでしょ」

 

「あいた」

 

ドヤ顔をするラプラスに思わず突っ込みを入れるルイだった。

 

 

 

 

「よっ」

 

ラプラスはカズマに軽く手を挙げる。

久しぶりだというのにあっけらかんとした挨拶に思わず笑みがこぼれる。

 

「ああ」

 

カズマも手を振り返す。

 

「体の方はもう大丈夫なんだな」

 

カズマのラプラスの最後の記憶は神社で若頭に深手を負わされた姿。

 

「あれから一か月弱だぞ? もう全快に決まってるっての」

 

「そうか、よかった」

 

本当に安心したかのようにカズマは胸を撫でおろす。

そんな様子を見たラプラスは少し驚いたような顔をした。

 

「…ちょっとはマシな面になったじゃねえか」

 

「おかげ様でな」

 

二人は笑みを浮かべる。

言葉はいらない、それだけで十分伝わったからだ。

そんな様子をみて周りの人も笑みを浮かべる。

 

「にしても派手な登場だったな、シエンは知ってたのか?」

 

「いや、ここで合流するのは決まってたがあんなことをするのは聞いてなかったって」

 

「やっぱ登場は派手じゃないとな!!」

 

ラプラスは胸を反らしてドヤる。

 

「それなりに準備面倒だったんだからね、全く…」

 

「とか言って、幹部だってノリノリだったじゃねえか!!」

 

「ま、まあ、やってみたら気持ちよかったから」

 

「うぇーい、やっぱり楽しかったんじゃねえか」

 

ラプラスは肘でルイを突いて笑う。

ルイはラプラスのそんな態度に思わず手が出そうになるがぐっと堪える。

 

「で、ラプちゃん、カズマ君に渡すものがあるんじゃいのー?」

 

「あ、そうだった」

 

こよりの言葉でラプラスは思い出したかのように懐をあさると、取り出したのは一枚の上着。

 

「ん」

 

それをラプラスはカズマに突き出す。

なんだそれは、と思いながらカズマはその折りたたまれた上着を受け取り、広げる。

 

「…これは、あの時の学ランか!」

 

それはラプラスの止血をするために使用した服。たった数時間しか着れなかったものだ。

だが、よく見るとあの時の服と見た目が少し違う。学ランのいたるところに紫色のラインのような模様が入っていた。

 

「吾輩印の改造学ランよ、どうだ、嬉しいだろ?」

 

「…あー、うん。嬉しいよ」

 

「おい、何だその微妙な反応は!!」

 

うーん、紫色のラインかぁ、と思いつつも、ともかくカズマはその学ランに袖を通した。

サイズも変わらず、体にフィット。

 

「うん?」

 

だが、その服の内側に妙な違和感を感じる。何か硬いものが入っている感覚だ。

カズマはその内側に目を通すと、そこには長方形の黒い物体が何個もセットされていた。

 

「はい、こよりからもカズマに君にプレゼントです!!」

 

学ランの内側を確認しているカズマに、こよりはあるものを手渡した。

 

「これは…?」

 

「こより印のお手製籠手です。両腕に付けてみてください」

 

「籠手…?」

 

手渡されたものは手のひらから肘までを覆うもの。カズマはヤクザの家で生まれ育ったために武器を目にする機会もあった。もちろんその中に籠手も存在した。だが、こよりから渡されたそれは何というか。

 

「妙に、メカメカしくないか?」

 

「それがこより印ってことですよ、大丈夫! 性能は折り紙付きですから!」

 

とりあえずカズマはその籠手を両腕に装着し、数回腕を振りぬく。動きを阻害するようなものではない、むしろこれで殴れば十分武器として機能するだろう。

 

「よし、装着しましたね、それじゃあ、説明を…」

 

その時、全員の耳に階段から降りてくる複数人の足音が聞こえた。

 

「少し、ちんたらしすぎたでござるな…」

 

いろははそう言い、刀を構える。

 

「だな、あー、博衣」

 

「こよりで良いですよー」

 

「こより、説明ってのは後で良いか? とりあえずここを抜けないと話にならねえ」

 

「いえ、それならぶっつけ本番でいっちゃいましょうか」

 

本番? そう言う前に敵が部屋にぞろぞろと入ってきた。

 

数はそんなに多くない。とっとと倒して次の階に向かうのが吉だろう。

 

「カズマ君、籠手についているボタンを押してください」

 

こよりは自らの腕を指さす。同じところを確認するとそこに小さなボタンがあった。

 

「こう、か?」

 

カズマはこよりの指示通りそのボタンを押した。すると籠手がカシャン! とスライドするような音を鳴らす。

その瞬間、カズマの心臓が大きく鼓動した。

今まで感じたことのない感覚が体中を駆け巡る。思わずえずきそうになったがその感覚は一瞬だけ、むしろ気づけばそれは懐かしい感覚に変わっていた。

 

「ああ、そういうことか」

 

カズマはそれだけでこの籠手の効果を把握できた。

大きく踏み込む。それは”紫電”を伴って地面を蹴りだした。踏み込んだ勢いでカズマは飛び出すのと同時にその籠手で包まれた拳を敵に向かって振りぬく。

 

「シッ!!」

 

それは踏み込んだ時と同様、紫電の閃光を放ちながら放たれた。

思わず攻撃を放ったカズマ自身も驚くほどの威力と衝撃。一人昏倒させる想定が蓋を開けてみたら三人吹き飛ばしていた。

 

「ひょえー、さすがこんこよの発明、すっごい威力」

 

クロヱが敵をナイフで切りつけながら横目で呟く。

そんなこよりは胸を張って得意げに鼻をこする。

 

「えっへん。これがHoloXの頭脳って訳よ」

 

「…成程、あの籠手は使用者に魔力を付与するものなのか」

 

シエンが関心したように呟くと同時にあることに気づいた。

 

「それにあの紫色の魔力、あれはもしかして」

 

「そう、吾輩の魔力だ!!」

 

どうだー、すごい威力だろ!! とこちらも自信満々にドヤ顔をするラプラス。

その言葉を聞いたカズマは驚くと同時に思わず籠手に目をやる。

 

「…これ、ラプラスの魔力なのか」

 

今、カズマの体を駆け巡っている力、それがラプラスのものなのか。という驚きと同時にこんなにも扱いやすいものなのかと感じた。魔力の流れが手に取るように分かる。前に使っていた魔力はもっと調整が難しかった。荒れ狂う川の流れを無理やりバケツでかき出す… みたいな感覚から、なだらかな川流れから必要量だけバケツで取り込む。といった…。まあ、とりあえずとても簡単になった。

 

「ちょっとー、話ばっかりしていないでこっちにも手を貸して欲しいでござるー!」

 

そんなことを思っていたらいろはからヘルプの要請。そうだ、まだ敵は残っている。色々考えるのはここを突破してからで問題ない。

カズマはまた紫電を伴って敵に向かっていった。

 

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