迷い人よ、ようこそ。   作:みなたか

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第十六話

HoloX+カズマとシエンは道を駆け、現れる敵は問題なく倒しながら進む。

カズマは走りながらこよりに籠手の説明を受けていた。

 

「多分そろそろ一本目が切れるころだと思います」

 

こよりがそう言うとカズマの籠手がプシューと煙を吐き、黒い棒状の物を吐き出した。

カズマはそれを掴み、眺める。と同時に先ほどまで満ちていた魔力が無くなるのを感じた。

 

「今ので分かったと思うのですが、その黒い棒。カートリッジが魔力の源です。ラプちゃんの魔力が込められていて、それを籠手に装填することでカズマ君に合った魔力に変換しています」

 

そういえば、と受け取った学ランの内ポケットに似たようなものが刺さっていたのを思い出したカズマは確認するとそこには左右で10本ほどのカートリッジが刺さっていた。

 

「ちなみにそれ一本作るのに2時間はかかってるから大事に使えよ!!」

 

ラプラスが横から口を挟む。

これ一本に2時間、つまり単純計算で20時間はこのカートリッジを作るのに時間をかけたということだ。

 

「ああ、大事に使わせてもらおう」

 

そう言ったカズマは内ポケットからカートリッジを一本取り出し早速籠手に装填する。

 

「言った側から使うんじゃない!!」

 

「俺はエリクサーを使える時に使うタイプだ」

 

また心臓が大きく鼓動する。少しの気持ち悪さも一瞬、すぐに慣れた感覚になる。

 

「カズマ君。念のための注意なんですが、短時間で多量のカートリッジの使用なんかは絶対にやめてください。カズマ君用に調整しているとは言え、他人の魔力を無理やり流し込んでいる状態です。そんなことを多用したら体にどんな異常が出るか分からないので連続使用だけは本当にやめてくださいね」

 

「……ああ、分かった」

 

「ちょっと間が無かったかな!? 言っておくけど本当に止めてよ!?」

 

こよりの声を背にカズマはまた現れた敵に向かって走り出す。

紫電を乗せた拳はやはりカズマの想定を超えた威力で繰り出される。

現れた敵を一掃し、改めて自らの拳を眺めた。

そんな様子を見ていたシエンがどうかしたか、と尋ねてきた。

 

「いや、魔力ってのはこんなにも使いやすい物なんだなって。前までは荒れている川からバケツで水をすくうような感覚だったのが今じゃ緩やかな川を手ですくうぐらい簡単だ」

 

「何ともまあ分かったような分からない表現だな… まあ、でもそうか。やはりあの人が言っていたのは正しかったってことか…」

 

「何か知ってるのか、シエン」

 

少し考え込み、シエンは答えた。

 

「…迷い人の魔力がどこから来ているかは聞かされたか?」

 

「確か次元の狭間にいる『ときのそら』だったっけ? そこからだって言われたが」

 

「ああ、間違いない。でだ、カズマが前まで魔力を使う時に苦労していた理由だが、「ときのそら」とのパスが不完全だったのが原因だと思う」

 

パス、その単語を聞いてカズマは思い出したことがある。

 

「…ヤツが言っていた「パスはあっさりと切れた」って」

 

「なら確定だ。カズマと「ときのそら」とのパスは不完全だったせいで魔力を上手く扱えなかったんだろう。「迷い人」であるが故に魔力の量だけは人一倍あるからな、今まではそれで誤魔化していた状態だったわけだ。カズマがよくやっていた爆発も魔力を上手くコントロール出来ないが故に起きていたことだ」

 

「…成程、あの爆発は魔力コントロールの失敗作だったって訳か」

 

腑に落ちた気分だ。

改めて自らの腕、いや魔力を見る。

 

「つまりこれが本来の魔力の味、ってことか」

 

「他人の魔力を無理やり変換して使っているから少し違うかもしれないが大体はそうだろうな。あ、魔力を自由に使えるってなってもはしゃぐなよ」

 

「……分かってるよ」

 

「何だ今の間は。 本当に分かってるよな? まだ病み上がりなんだからな!」

 

 

 

 

 

カズマたちは引き続き現れる敵を倒しながら地上を目指す。

地上まで残り10階というところまで来た。

目の前には上にあがる階段。

 

「よし、吾輩たちはこっちだな」

 

ラプラスはそう言うとHoloXの5人は階段を上らずに奥に繋がる道へ足を向ける。

 

「どういう意味だ? 地上への階段はこっちだろ」

 

カズマはそう言うがシエンがそれを制した。

 

「カズマ、こっからHoloXとはまた別行動だ」

 

「私たちは今からこの会場の結界を管理してる制御ルームに向かうつもり」

 

ルイがそう説明する。

 

「この会場はサクラ神社をもとに建造されていて、その核があるのがこの階の奥にある制御ルーム。こよりたちが桐生会に勝つためには、そこでサクラ神社の結界を取り戻す必要があるんです。そのために制御ルームに向かいます」

 

「でもその制御ルームはかなりの人員を割かれていてがっちり守られてる。そんな所に何も考えず突撃して、その制御ルームに敵が集中しちゃったら結界を取り戻しても沙花叉たちが地上に辿り着けず全てがおじゃんになる。だから「UPROAR!!」の人達と協力してここから下の階にいる敵をある程度分散させる必要があったわけですよ」

 

こよりとクロヱが追加で説明を加え、カズマにも状況が理解できてきた。

 

「だが、制御ルームにもかなりの敵はいるんだろ? なら一人でも味方は多い方が…」

 

そう言いカズマは同じように制御ルームに足を向けるがそれをいろはが制する。

 

「大丈夫でござるよ、カズマ殿。HoloXはそんじょそこらのゴロツキ程度に負ける程弱くは無いでござる。 それにカズマ殿とシエン殿がこのまま地上に向かってくれればその分上の敵を引き付けてくれるので戦いやすくなるでござる」

 

「……」

 

「全く、何も心配いらねえって。お前はこんな所で立ち止まってる場合じゃねえんだろ? カズマはカズマの成すべきことをしろって」

 

ラプラスのその言葉にカズマはハッとさせられた。

 

「…そうか、そうだな。悪い、ちょっと迷ってた」

 

カズマはHoloXの面々を見る。

鷹嶺ルイ 沙花叉クロヱ 風真いろは 博衣こより ラプラス・ダークネス

 

「任せた」

 

皆深く頷いた。

HoloXは制御ルームの方へ歩みを進める。

 

「ラプラス」

 

「何だ?」

 

ただ、カズマはラプラスを一人呼び止めた。

 

今を逃すと言えない気がしたからだ。

 

「ありがとう、お前には何度も助けられた」

 

それは改めての感謝。

ここに至るまで彼女が居なければ既にカズマは終わっていた。

記憶の件も神社での件も、夢のことも。今思い返せばラプラスには世話になりっぱなしだった。

この一言だけで返せたとは勿論思わない。それでも今言っておきたかった。

 

ラプラスは少し面食らったように驚いたがカズマの真剣な表情を見てその感謝を素直に受け取った。

 

「おう!!」

 

ラプラスは背の高いカズマに合わせてつま先で立ち、片手を上げる。

カズマはラプラスに合わせて少しかがみ同じく片手を上げる。

そのまま二人はハイタッチ。

二人は笑う。

そんな程度(・・)のこと気にするな。言葉にしなくともカズマには伝わった。

知り合ったのはついこの間。だがそこには確かに絆が存在したのだった。

 

「そうだ、コイツを連れてけ」

 

ラプラスはそう言うとラプラスの長い髪の隙間から黒いカラスのような生き物が現れカズマの肩に止まる。

 

「吾輩の使い魔だ。もしかしたら何かの役に立つはずだ」

 

「分かった」

 

「じゃあ、また後でな」

 

「ああ」

 

ラプラスは先に歩いていたHoloXの面々に追いつくために小走りで奥へ続く道を走る。

 

カズマとシエンは互いに頷き、階段を上った。

 

 

 

カズマとシエンはついに地下10階。残り三分の一まで来たのだ。

階段を上がった二人は大きな広間に出た。

 

「なんとまぁこれは」

 

「熱烈な歓迎だな」

 

そこには所狭しと並んだ敵たち。ざっと見ただけでも50人は超えているだろうか。

全くどれだけの人が居るんだと内心飽き飽きしてきていたカズマ。

 

「おい、来たぞ!!」

 

「倒したらボーナスが出るってお達しだ!! 気張れよ!!」

 

カズマとシエンを認識した敵たちは威勢の良い声を上げ各々戦闘態勢に入る。

 

「たっく、雑魚ばかり並べやがって」

 

シエンは吐き捨てながら二丁の銃を構える。

たが確かにシエンの言う通りだった。カズマから見ても骨のありそうな、強そうな相手は見受けられなかった。だがそれでもこの数だ。ここを切り抜けるにはかなりの時間を要するだろう。

カズマも同じシエンと籠手を構える。肩に乗っていたラプラスの使い魔のカラスは戦闘の邪魔にならないよう翼をはためかせカズマの後ろに回った。

 

互いの緊張感が最大に達し、いざぶつかるとなったその瞬間。

 

敵陣の後方。その左右から十字を切るように二色の影が走った。

一つは白い影。もう一つは赤い影。

その陰が走った通り道は衝撃を伴って敵のその約半数を吹き飛ばした。

 

「ナイスコンビネーション! 衝破・十文字 って名付けようかな? どう虎太郎」

 

白髪狐耳の少女は興奮しながら声を上げる。

 

「なんと言うか、怒られそうな技名だから止めておこうか」

 

虎太郎、そう呼ばれた赤い魔力を纏った青年はいつの間にか狐耳の少女の側に立ち返答する。

狐耳少女は少し残念がりながらも周りを見渡す、するとシエンとカズマを見つけ指を差して声を上げた。

 

「あ、いた! おーい。シエンさーん!!」

 

二人はシエンとカズマの元に駆け寄る。

 

「シエン、二人は」

 

その様子をみてカズマはシエンに問いかける。だが、ほとんど回答は分かってるようなものだった。

シエンは嬉しさを隠しきれないように笑みを浮かべ、返答する。

 

「ああ、援軍だ」

 

 

 

 

「遅れてすみません。シエンさん!」

 

「いや、来てくれて助かった」

 

二人はシエンとカズマの元に駆け寄る。敵はいきなり半分の数を減らされたことで今だ動けずにいた。

 

「アルさんに送ってもらってなかったら危なかったな」

 

「だね、後でお礼を言わないと」

 

二人は安堵したように顔を合わせる。その様子を見ただけでも二人の仲の良さが伺えた。

 

「それで彼が」

 

狐耳の少女の視線がカズマを向いた。

 

「ああ、話していた。岩崎カズマだ」

 

「では自己紹介しないとですね。初めまして! 白上フブキって言います! シエンさんとはバイト先の店長を通して仲良くなって… ってこれじゃあ長くなっちゃいますね。ともかくシエンさんの友達です!」

 

白髪の狐耳の少女。白上フブキはそう言い軽くお辞儀をし、隣の黒髪の青年が今度は俺か、と自己紹介を始める。

 

「俺は荒川虎太郎。フブキと同じくバイト先の店長に…って感じだが、多分君にはこういうのが一番早く俺のことを分かってくれるかな。俺は君の先輩(元迷い人)だ。よろしく」

 

「なっ」

 

その正体はカズマを驚かせるのには十分だった。

驚いた様子をみて虎太郎は少し笑う。がすぐに顔を引き締める。

 

「さて、自己紹介もここまでにしてそろそろ行きましょうか」

 

虎太郎はそう言うと敵を見る。そこにはさっきの攻撃からは立ち直り、戦闘態勢に入っている敵が多く見られた。

 

「ここまで来るのに道すがら適当に倒してきたのですが、合流することを優先していたので楽になるかという期待は無しで」

 

「実はもう一人一緒にきたのですが、彼女には少し上の階で敵を引き付けてくれています。とりあえずそこまで行って合流することを目指しましょう」

 

虎太郎とフブキの言葉に異論無しとシエンとカズマは頷く。

 

虎太郎はその手に木刀を。フブキは蒼い刀を構える。

 

「邪魔してくる奴は殴ってよしってな!!」

 

「行きましょう!!」

 

 

 

 

 

4人は虎太郎とフブキを先頭に走る。それは必然的に虎太郎とフブキに敵が集中することを意味していた。

が、勿論二人とも想定通り。むしろシエンとカズマの二人の体力を温存する意味も込めて二人が前に出ていた。

 

赤い魔力を高ぶらせて虎太郎は木刀を振るう。

その様子をフブキは横目で見つつも同じく刀を振るい、敵を倒す。

そんな中フブキは虎太郎に声をかける。

 

「何度みても思うんだけどカズマ君の魔力色はどうして赤色なのかな… せっかくなら白上と一緒の水色になったらよかったのに」

 

「いやいや、んな無茶な。 俺だって赤色になるとは思ってなかったって」

 

「でもそれ、あやめちゃんの影響でしょ」

 

「ま、まあ多分そうだと思うけど」

 

「ぶぅぶぅ」

 

「不貞腐れるな」

 

「嘘、冗談だって。 でも迷い人の時の魔力はもう使えないんだよね」

 

「ああ、きれいさっぱり」

 

そう、虎太郎は迷い人の時に使っていたバカみたいに量の多い魔力はもう使えない。なら今使っている赤色の魔力はなんなのか。

それは、虎太郎自身の魔力色。だが、虎太郎はこの世界出身ではないため魔力を扱えないはず。

 

「でもこの木刀握って鍛錬したらなんか出てきちゃって…」

 

そう、この一言に尽きるのだ。

何の因果か、才能があったのか。百鬼あやめの木刀で鍛錬を続けているとある日、唐突に魔力を再発現したのだ。

故に色が赤色なのだろう、ちなみにあやめは弟子が同じ魔力色だったことを知ってお揃いだーと喜んでいた。まあ、だからこそフブキはそれが面白くないのもあるのだろう。

 

「だけど前みたいに量は多くないから調整は必要だけどな」

 

そう言いながら虎太郎は木刀に薄く魔力を纏わせ敵を切る。

 

「うーん、そこまで魔力を操れる人こっちの世界でもあまりいないんだけどなぁ」

 

フブキもそれに負けじと敵の攻撃を受け止め、返す刀で切り返した。

二人は顔を合わせ向き合う。たがその視線の先は両者ともに顔の後ろ。そこには背後から不意を突こうとする敵の影があった。

 

その様子をみていたカズマは不意を突かれたのかと思い、声を上げそうだったがその必要は無かった。

 

虎太郎は懐から蒼色の小太刀を取り出すとそれを木刀を握っていない左手で振るう。

それと同時にフブキも蒼い太刀を振るった。

 

次の瞬間、二人の姿が入れ替わった。

超高速で動いたとかそういう物ではない、本当に二人の位置が入れ替わった。少なくともカズマにはそう見えた。

 

虎太郎とフブキはそのまま互いの背後に忍び寄っていた敵を切る。

敵は突如として出現した虎太郎とフブキに何も反応できなかった。

 

「もうタイミングもばっちりだね」

 

「ああ、失敗することも無くなったな」

 

虎太郎はそのまま小太刀を左手に、右手に木刀と二刀流で構える。

 

虎太郎のもつ蒼い小太刀には白上フブキがいる場所に次元を繋げる能力を持つ。

そして白上フブキの持つ蒼い太刀は虎太郎のことを思い浮かべながら切ることで虎太郎が居る場所に次元を繋げることが出来る。

つまり二人の次元を繋げる動作を全く寸分の狂いもなく同時に繰り出せばどうなるのか。

そう、両者の立ち位置が入れ替わるのだ。

今の入れ替わり攻撃はそれを戦いに転用した攻撃。ちなみに難易度は物凄い高い。互いの信頼感と練習を重ねて初めて実戦で使うことの出来る技だ。

 

二人はそのまま入れ替わり立ち代わりで敵を蹂躙していく。

 

ふと、虎太郎は呟いた。

 

「何と言うか、2年前を思い出すかな」

 

「2年前って」

 

「うん、昇華祭」

 

それは二人の運命が大きく動いた大事件。

 

「この大勢相手に大立ち回りをして前に進んでいく感じ、あの時もこんなんだった」

 

「白上は待ってる側だったから分からないんだけど…」

 

「まあまあ、今は横に居るから」

 

「そう言われるとズルいなぁ」

 

「でもフブキともあれから色々あったなぁ。ほら、あの時はまだ話すときも敬語だったじゃん。それが今は無くなってて」

 

「…確かに、いつの間にか抜けてたね」

 

フブキは笑みを浮かべる。

 

「あの時とは違って今は一緒に戦える。か、そう思うと嬉しくなってきたかも」

 

「でしょ?」

 

フブキの言葉に虎太郎も笑みを浮かべた。

虎太郎も嬉しいのだ。あの時は助ける対象だったフブキがこうして横に並び立ち、一緒に戦えていることが。

 

「それに今回は俺たちが助ける側だ」

 

虎太郎は後ろ目でカズマとシエンを見る。

二人は虎太郎とフブキのうち漏らした敵を叩いている。

 

「彼らにも2年前の俺らと同じく、成すべきことを成すためにこの場に居るんだろ。だからこそ先輩の俺らが少しでも手助けしてやらねえとな」

 

そう言い虎太郎は木刀を振るった。

フブキもそれに同意する。

 

「うん!!」

 

 

 

 

 

虎太郎とフブキを加えた4人は順調に階を駆け上がる。

 

3階層ぐらい上がった所で敵が固まっている個所に遭遇した。誰か1人、かなりの敵を引き付けて大立ち回りを行っていた。

緑色の魔力が迸り、纏めて複数の敵が吹き飛ぶ。

 

「ミオ!!」

 

フブキはそう叫び敵を吹き飛ばした黒髪の獣耳少女のもとへ駆け寄る。3人もそれを追う。

 

「はぁはぁ、やっときたフブキぃ」

 

その少女は息も絶え絶えだったがフブキの顔を見てとても安堵した表情を浮かべた。

 

「お待たせしました、ミオさん!」

 

虎太郎はミオと呼ばれた少女を守るように前に立ち。敵を見据える。

シエンとカズマもその後ろに付いた。

 

「虎太郎も遅いよぉ、全く」

 

カズマはふと周囲を見渡す。倒れている敵の数はぱっと見ただけでも100人はいるんじゃないだろうか。

 

「この人数を一人で…」

 

思わず驚きの声を上げるカズマ。どうやら彼女もフブキや虎太郎と同じく強者なのだろうと確信した。

 

「君が例の迷い人。かな?」

 

その彼女がカズマに声をかける。

 

「ああ、岩崎カズマだ」

 

「うちは大神ミオ。フブキや虎太郎の友達だよ。…ふむふむ、そっか」

 

自己紹介もそこそこにミオはカズマの様子をみてふむふむと頷いた。

疑問符を浮かべるカズマ。

 

「ああ、ごめんごめん。急に見ちゃって。ただ、聞いてた話とちょっと違ってたから。立ち直ったんだね」

 

ミオはそうに微笑む。

成程。とカズマは理解する。それと同時に彼女はとてもやさしい人なのだと。

何を聞いていたのか分からないが聞いただけの他人をここまで慮れる人はそうそう居ないだろう。

 

「仲間のおかげだ」

 

「そっかそっか。それが分かってるだけで偉いよ」

 

さて、とミオは拳を構える。

 

「こっからはうちも手を貸すよ。さあ、行こう」

 

 

 

 

ミオと合流した4人はそのまま上の階に駆け上がる。変わらず湧いて出てくる敵の数は多かったが地上に近づくにつれその数は減ってきているように思えた。ついに上限が見えてきたのだろうかと期待する。

階段を上り、ついに地下一階。

カズマの籠手が煙を吐き、カートリッジを排出する。カズマはそれを掴むと内ポケットに挿入されている残りのカートリッジを確認する。

 

「残り5本。か」

 

カートリッジを一本引き抜くと躊躇なく籠手に装填する。こよりからは短時間での連続使用はご法度だと言われたが、今はただこの速度を落としたくなかった。あと一階だ。あと一階で星街の元に辿り着くと思うとその逸る心は止める方が難しいだろう。

シエンはその様子を見るが、ため息を吐いてそれを容認する。止めろと言っても聞かないのは分かっているようだ。

 

「これが終わったら即こよりさんに診てもらうからな」

 

「…っああ!」

 

一瞬の吐き気に耐え、カズマは走る速度を上げ、虎太郎とフブキより前に出る。

行く手を敵が阻むが、その拳を振りぬき、道を切り開く。

するとカズマの視界に上へと続く階段が見えた。

 

「見えた!!」

 

だが、やはり最後の階段だからだろう。そこには今までで一番大勢の敵が所せましと待ち構えていた。

その数に思わずカズマは走る速度が落ちかけた。

だが。

 

「走れ!!」

 

後ろから虎太郎の声が響く。

その声を受けカズマは速度を落とすことなく走った。

行く手を阻む大勢の敵。それは後ろから飛んできた二つの斬撃が敵陣に大きな穴を作った。

 

「道は俺たちが作る!!」

 

「だから岩崎さんは止まらず行ってください!!」

 

二人は止まらずその刃を振り続ける。カズマの道を作るために。

その穴をこじ開けるように無数の弾丸と拳が貫く。

 

「君は先に行って!! 決して振り返らずに!!」

 

「露払いは任せろ!! だからお前の得た答えを彼女にぶつけてこい!!」

 

4人の猛攻によりついに階段へ上がる道が開く。

 

「ああ!!」

 

カズマはその階段を駆け上がった。

 

敵もカズマを追おうとその後に続こうとするが。

 

「こっから先は通行止めだっての!!」

 

4人が立ちふさがる。ここから先には絶対に行かせない。

敵たちはその気迫に思わず一歩下がった。

虎太郎は後ろ目で階段を確認する。そこにはカズマの姿は無かった。既に階段は上り切っただろう。

 

「…確か、二年前も同じことがあったな。俺は見送られる側だっただけど」

 

思わず苦笑してしまう。あの時戦ったドラゴンはまさに最強だった。

だが、今の敵たちはただ数が多いだけのでくの坊。

 

「この程度で俺たちを倒せると思うなよ」

 

カズマは左手に持つ小太刀を鞘に戻すと目を閉じ意識を集中した。

赤い魔力がうねりを上げ、虎太郎を覆う。

頭部には魔力で出来た二本の真っ赤な角が現れる。

 

「憑依経験」

 

左手に魔力で生成された真っ赤な刀が顕現する。それは二年前には無かった力。

右手に木刀、左手に魔力の刀。虎太郎はその二刀を構える。その構えは師匠である百鬼あやめと同じ構え。

木刀を敵に付きつけ、睨みつける。

 

「さあ、やられてぇ奴からかかって来い」

 

 

 

 

歌声と歓声が聞こえる。

 

『さよならだ さよならなんだって認めたくないけど』

 

歌の聞こえる方向に向かって走る。

 

『雨上がりのこの世界が眩しいから』

 

道に敵は居ない。全ての敵は地下に集中しているのだろう。

 

『もう帰らない 振り返らない 思い出と共に』

 

UPROAR!! HoloX 荒川虎太郎 白上フブキ 大神ミオ そして影山シエン 彼ら彼女らが繋いでくれたことで今カズマは走っている。

 

『新しい風にあおられ』

 

憧れた存在に伝えたい。得た答えを。

 

『そしてまた君に会いたいと願い 駆けてゆく』

 

だから今はただがむしゃらに。

 

『駆けてゆく』

 

駆けるのだ。

 

 

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