迷い人よ、ようこそ。   作:みなたか

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第十七話

歌い終わった星街は一息つく。

歌った曲数的にライブが始まって1時間を経過したころだろうかと考える。

歌っている時に星街は魔力を横から奪い取られる感覚をずっと感じていた。

恐らくは何かを動かすためのエネルギー、それを奴らは欲していた。

 

ふと星街は顔を見上げ、VIP席を見る。

 

「…っ!!」

 

目が合った。

新生桐生会の若頭、全ての元凶。かなりの距離があるというのに目が合った。

全身がゾワッと鳥肌が立つ。

 

笑っていたのだ。

勝利を確信した笑み。

 

その瞬間、地面が揺れた。

 

「な、何!?」

 

いや、地面ではない。ドームが揺れているのだ。

 

星明りが見えた。

本来ならドームから見えるはずのない星明りが。

天井部分のパーツがどんどん外れ、一つの塊を形成し始める。

 

観客はどこか空気が違うことを感じつつもこれも演出の一つなのかとそれを茫然と眺める。

 

「これが、奴らがやろうとしていたこと」

 

それはどんどん大きくなり、一つの形を形成する。

長い胴体。大きな尻尾。蝙蝠のような羽。鋭い爪に大きな口と牙。

ドームを覆いつくすがごとく現れたそれは。

 

「ドラゴン…」

 

観客の誰かが言った。

それは鉄で出来た超巨大ドラゴンとなった。

 

 

 

観客は変わらず茫然としていた。

星街はその様子を見て思わず大声を上げる。

 

「逃げて!!」

 

だが茫然とした観客の耳にはその言葉は届かない。

鉄のドラゴンはそのままドームの壁を掴む。

それは瓦礫となって落ちる。幸いにも観客席には当たらなかったがすぐそばに瓦礫は落ちた。

 

「■■■■■■■ッッッッ!!!!」

 

ドラゴンはその大きな口を開け、咆哮した。

それを皮きりに観客は堰を切ったように悲鳴を上げ始めた。

 

混乱する状況。何がどうなっているのか状況が掴めずオロオロとするだけで対応することの出来ない警備をしている騎士団員。

状況は一瞬にしてカオスとなっていた。

 

星街は動かない。いや、動けない。

ドラゴンが星街を睨みつけているからではない、先ほどの壁を破壊して瓦礫を観客席のそばに落としたアレ。

恐らく。いや、十中八九わざとだ。

いつでも観客に危害を加えることが出来る、だからお前は何もするな、大人しくしておけ。という観客を人質に取った忠告。

思わず星街は舌打ちする。

 

ドラゴンがその巨体を揺らし、その顎を大きく開いた。

 

星街の背中に冷や汗が流れる。

ドラゴンの視線は間違いなく星街を捉えていた。

星街のことを喰らおうとしているのは誰から見ても明らかだった。

その様子を見ていた観客からも悲鳴が上がる。

 

その顎が星街の眼前まで迫る。

誰もが喰われる、そう思った。

 

 

 

紫色の稲妻が走った。

 

 

 

紫電はその顎を吹き飛ばし、ドラゴンを大きくかち上げる。

 

 

「…全く、遅いのよ」

 

「ああ。待たせたな」

 

岩崎カズマ、ここに現着した。

 

 

 

 

目の前には鉄のドラゴン。不意を突いた今の一撃で大きく体勢は崩したがこちらはカートリッジを丸々一本消費してしまった。おまけにドラゴンは起き上がろうともがいている、もうすぐ立ち上がってくるだろう。

だから、話すタイミングは今しかなかった。

 

「星街」

 

カズマは星街と向かい合った。

星街もその目を見る。

 

「ごめん」

 

カズマは腰を折り、星街に頭を下げた。

 

「俺、自分のことしか見てなかった」

 

星街は口を挟まない。

カズマは続きを話す。

 

「全部、自分1人でどうにか出来ていると思ってた。でもそうじゃなかった。自分がやったことで結局は周りに迷惑や心配をかけてた。当然のことだったのにそれを分かってなかった」

 

思い出した記憶。

親父、組員。そこには自分のことを心配してくれる人がいた。

でも俺はそれらを無視してただ走っていただけだった。

心配した側にたって初めて分かった。

結局独りよがりだった。

 

「俺は星街、アンタに憧れた。自分の道をただひたすらにカッコよく走ってるその姿に。でも俺と違ってその周りには人が付いてきていた。その様に嫉妬しちまった。自分のことだけを考えて突っ走った先にあるのはただの孤独だというのに気づけていなかった」

 

カズマは自らの手の平を見つめる。

 

「俺はただ。この手で掴める人に。心配してくれる人に傷ついて欲しくなかっただけなんだ。それを忘れてた」

 

「だったらアンタはこれからどうするの?」

 

黙って聞いていた星街が初めて口を挟む。

 

「忘れない、この思いを」

 

「今はそうでも、いずれ時が過ぎたら見失ったり忘れちゃう時が来るかもよ? 今までのアンタがそうだったように」

 

「その時は」

 

 

 

「誰かを頼るよ」

 

 

 

カズマの回答を聞いた星街は。

 

 

「そっか」

 

 

「それじゃあ、その時はすいちゃんを頼りな」

 

 

そう言って笑った。

 

 

「■■■■■ァァァッッ!!!!」

 

ドラゴンが咆哮を上げ、起き上がった。

カズマは星街の横に並び立つ。

改めて浴びるその圧力。1人だったら思わず怯んでいただろう、だが横には仲間(星街)が居る。

それだけで恐れるモノは何もなかった。

 

 

カズマ(・・・)

 

星街にそう言われ、思わず横を振り向いた。

 

「どうしたのそんなに驚いて」

 

「いや、初めて名前を呼ばれた気がして」

 

「あれ、そうだっけ」

 

星街はすっとぼけながら左手の拳をカズマに突き出した。

 

「ん!!」

 

「いや、ん。じゃ分からん」

 

「拳、合わせて」

 

カズマはとりあえずそれに合わせて右の拳を突き出し、星街の拳と合わせた。

何をするのか、と問いかけようとしたがそれより先に星街を中心に魔力が渦巻くのが分かった。

 

「アンタはさ、さっき言ったよね。私に憧れたって」

 

「ああ、言ったが」

 

「憧れるだけで満足?」

 

そういう星街の顔は少し挑発じみた顔だった。

思わず苦笑してカズマは答える。

 

「いいや」

 

「じゃあどうしたい?」

 

「お前の横に立ちたい、見てる景色を見てみたい。今の俺の素直な気持ちだ」

 

「……聞いといてなんだけど。シラフでよくそんな恥ずかしいこと言えるな」

 

「本当に聞いといてだな!! で、回答は?」

 

「ま、合格かな!」

 

魔力が強まる。会場に漂う魔力が星街に集中する。

 

その様子を目の前のドラゴンは見ているだけだろうか。勿論否だ。

ドラゴンはその腕を振り上げる。

 

その瞬間。何かがひび割れる音がドームに響いた。

それは一度聞いたことのある音と感覚。

 

「結界が割れた…!」

 

ドームに張り巡らされていた結界、カズマたちが桐生会に勝つために必要な条件の一つ。

その一つが達成された音。それはつまりHoloXが目的を達成したことを示す。

 

でも、目の前のドラゴンはそんなこと意に返さずその振り上げた腕を振り下ろす。

流石にカズマは身構える、が。

 

「大丈夫。まだ仲間がいる」

 

星街はそう言った。

その瞬間ドラゴンの振り上げた腕がはじけ飛んだ。

そう、はじけ飛んだ。

 

ドラゴンの視線がカズマたちを外れる。ドームの遥か外を見て咆哮を上げた。

 

 

 

 

「ちっ、特別製の対戦車用ライフル弾だぞ」

 

そう言い、硝煙を上げるライフルに弾を再装填。

スコープを覗き照準を合わせようとする。だが、ドラゴンの視線は彼女、ラーメン屋の店主。獅白ぼたんをはっきりと認識していた。

 

「まずっ!」

 

ライフルを担ぐとすぐさま隣のビルの屋上に飛び移った。

ぼたんが今まで居た場所を魔力の光線が貫く。

 

「全く、ドームまで1kmは離れているんだぞ!!」

 

そう言い、彼女はビルとビルの屋上を華麗に飛び回る。その後ろをドラゴンが放った魔力の光線が追いかける。

彼女がシエンから任されたのは遠距離、意識外からの援護。だがドームには結界が貼られていたため、援護は結界が無くなってからという話になっていた。

 

で、結界が無くなったので援護に回ったのだが。

 

「全く、ここを射撃ポイントに選んでおいて正解だったかな」

 

もしかしたら反撃が来るかもしれない。だから逃げやすいこのビル街屋上を射撃する場所としてぼたんは選んでいた。それが正解だった。

 

「ステンバーイ」

 

魔力光線に追われながら、ぼたんは空中でライフルを構え照準を覗く。

 

「ファイア!!」

 

引き金を引く。

打ち出された弾丸はドームに健在するドラゴンに命中した。

 

「ビューティフォー。あまり舐めんなよー」

 

カカカカっと笑いながらビルに次々飛び移り弾を再装填。

再び照準を覗くが。

 

「あれ、なんか再生してね?」

 

そこに映るのは弾が撃ち込まれ、抉れた箇所が徐々に元に戻っていく様だ。

 

「再生持ちはちょっと聞いてないかなぁ。これは現場にいる奴らに何とかしてもらわないと無理臭い」

 

ため息を付きながらライフルを肩に担ぐ。

 

「場所を変えるか。ま、多少の援護はしたからこれで大丈夫でしょ」

 

今まさに援護対象に攻撃しようとしていたのを防いだのだ。一旦は十分だろう。

そうと決まれば。すたこらさっさとその場を離れた。

 

 

 

 

ドラゴンは魔力の光線を遥か遠くに放つ。

カズマには一体何が起こったのか、少し困惑した状況だったが何者かの援護が入ったのだろうと納得した。

何はともあれ、ドラゴンの意識が完全に他へと移った。

 

「迷える人に告げる」

 

拳を合わせた星街が静かにそう呟いた。

瞬間、カズマの見ている景色が変わった。

目に映るのは数多の記憶。そこには星街が映っていた。

 

「これは、星街の記憶…なのか?」

 

映る記憶を眺める。

星街が経験した記憶、数多の経験。

 

ああ、分かっていた。そんな気がしていたのだ。彼女は。

 

「特別なんかじゃない」

 

ただ必死に努力して。諦めず。転んでも歯を食いしばって立ち上がってきた。

あえかなヒロインじゃ断じてない。

でも、だからこそ憧れた。その先に輝く星をすぐそばで見てみたいって思えた!!

 

「アンタも結構な人生を送ってたのね」

 

カズマの目の前に星街が現れた。

その様子。どうやらカズマと同じく星街もカズマの記憶を見たのだろう。

互いに苦笑する。

 

何も言わず星街は手を差し出す。

カズマはその手を迷わず取った。

 

 

 

景色が晴れる。

 

「準備は良い? カズマ」

 

「ああ、勿論だ。すいせい」

 

二人を中心に魔力がうねりを上げる。

ドラゴンが気付いたが今更もう遅い。既に仕込みは終わっているのだ。

 

「その迷いを晴らすことを望むのならば」

 

さあ。

 

「己の世界を投げ捨て」

 

ここに再び契約を。

 

「「我らの“星”に来られたし」」

 

 

 

 

 

心臓が大きく鼓動する。

足りていないところが埋まった感覚があった。

繋がりを感じた。温もりを感じた。

以前は不確かだったものが今回は確かに感じれた。

 

青い魔力が天を貫かんばかりに立ち上がった。

 

止めろ。と言わんばかりに鉄のドラゴンはその顎から大きな火炎を吐き出した。

だが、それはただの拳によって弾かれる。

ドラゴンの動きが一瞬驚いたように止まった。

 

気付くとカズマはドラゴンの眼前に移動していた。

そして。

 

「うぉらあ!!」

 

正面からその顔を殴り飛ばす。

地響きを立ててドラゴンはそのまま地に倒れた。

 

カズマはすいせいの隣に戻る。

 

「どうよ」

 

「最高!!」

 

互いに親指を立ててサムズアップした。

 

 

 

『成程。星街すいせいとの契約を行ったのか』

 

何処からともなく声が聞こえた。

それは聞いたことのある声。今回の元凶。

 

「若頭か」

 

散々色々言われたのだ。忘れるはずがない。

何処にいるのかと辺りを見回すと、今しがた殴り飛ばしたドラゴンが起き上がった。

 

『大した威力だ。だがこの程度で壊れる程柔には作っていない』

 

その声は目の前の鉄のドラゴンから聞こえた。

よく見ると殴り飛ばし、抉ったその顔面は既にその形を既に取り戻していた。

 

「自動再生付き、ね」

 

呆れたようにすいせいが呟く。

 

「でもそれはさっきまで集めた私の魔力を使ったもの。結界も壊れ、星の魔力を集めることが出来なければいつか絶対に魔力の底が付く」

 

『ならそれまでに貴様らを倒せばいい話だ』

 

「やれるもんならやってみな」

 

カズマはそう言い切る。

正直今なら誰にも負けない感覚があった。

 

『ふむ』

 

若頭がそう言った瞬間、ドラゴンは観客席に向かってその尻尾を振り回した。

 

「カズマ!!」

 

すいせいは叫ぶ。カズマはそれより先に飛び出した。

 

観客席に当たるかどうかの瀬戸際。そのタイミングで尻尾に追いついたカズマは尻尾を両腕で押さえる。だが尻尾はジリジリとカズマを押し始めた。

 

「ぐぬあああああ!! すいせい!! 魔力を回せ!!」

 

「もうやってる!!」

 

カズマはすいせいから魔力が送られるのを感じる。

それを右足に集中。

 

「ゼリャアァ!!!」

 

尻尾を蹴り上げた。

軌道の変わった尻尾は観客席には当たらず、ドームの壁に当たった。壁は音を立てて崩れる。

 

「堅気に手ぇ出すんじゃねえよ!! それでも極道か!!」

 

『目的の為には致し方ないさ』

 

「屑が…!」

 

『何とでも言うがいい。それよりよいのか? 彼女は息も絶え絶えだぞ?』

 

若頭のその言葉に咄嗟に振り向いた。視線の先には膝を着くすいせい。

すぐさま側に駆け寄る。

 

「大丈夫か!?」

 

「…ちょ、ちょっと飛ばしすぎた」

 

カズマとの直接契約に加えて先ほどの魔力消費。

急激に力を使用したことによるスタミナ切れ。

恐らく少し待てば立てるようにはなるはずだ。

 

だが、それ以上に厄介なことになった。ヤツは観客を巻き込むことに躊躇が無い屑だ。

ヤツを叩きたくても観客を守るためにどうしても防御に回る必要が出てくる。

 

「………━━━んッ!!」

 

ふと、聞きなれない声が耳に入ったような気がした。

 

「今、何か…」

 

周囲を見渡すが何もない。

 

「………━━━ちゃんッ!!」

 

いや、確かに声が聞こえた。

 

「おいおい何やってんだあの馬鹿!!??」

 

星街は上を見上げ、叫んだ。

カズマも上を見上げる。

 

そこには。

 

「すいちゃあああんんんんッ!!!!」

 

空から巫女が落ちてきていた。

 

「は?」

 

一瞬何が起きたか分からなかった。

だが。

 

「だずげでえええええええええええええ!!!!!!!」

 

その声で一気に真顔になった。

 

「…すいせい」

 

「…お願い」

 

落ちてくる巫女をキャッチしようと動くが目の前にいるドラゴンはそれを許してくれるのだろうか。

そう思った矢先、大きな破裂音と共にドラゴンの羽が抉れた。

 

『狙撃か!!』

 

運が良いのかタイミングよく援護が入った。ドラゴンはそっちに気を取られるだろう。これなら問題なく動ける。

 

カズマは手のひらに魔力を集中させる。

今まで勝手に起こっていた爆発を今度は意図的に引き起こす。

小さく魔力を圧縮し、それを発火。

 

バンッ! と破裂音を響かせカズマの体は跳んだ。

 

「わぷっ!!??」

 

落ちている少女を空中でキャッチする。

 

「あ”り”が”と”う”」

 

彼女は涙と鼻水を垂れ流しながら礼を言う。その顔面はぐちゃぐちゃになっててどう反応したらいいのか困る。

 

「喋ると舌噛むから気を付けな」

 

カズマはそう言うともう一度爆発を起こし、地面に着地した。

問題なく地面に降り立ち少女を下ろすとその少女は一目散にすいせいの元に駆け寄り、その胸に飛び込んだ。

 

「すいちゃん!!」

 

すいせいもそれを抱き留める。

 

「良かった、目が覚めたんだね。みこち」

 

「うん。 ごめん、心配かけて」

 

「全くだよ。みこちが私を心配させるなんて生意気」

 

「えへへー」

 

「誉めてないっての…」

 

微笑ましい光景に状況も忘れて少しほっこりするカズマ。

 

すると目の前にディスプレイが投影された。

 

『あー、ごほんごほん。感動の再会の所悪いんだけど本題に入ってもらえるかな。時間はあまりなさそうだし』

 

その画面に映るのは黄色いメッシュの入った青髪の少年。

 

『あ、君がツノガキとシエンが言ってた迷い人か。僕はアステル・レダ。協力者だよ』

 

パチっとウィンクをするアステル。成程。彼も仲間ということか。

 

「あ、そうだったそうだった」

 

そう言うとさくらみこはすいせいから離れ、舞台の真ん中に立つ。

見渡すと変わらず観客は混乱の中にいた。彼女は今から何をするつもりなのか。

 

「今から結界を再構築するよ。だからその間みこを守って欲しいにぇ」

 

「結界を?」

 

『詳しい説明は省くけど。ここにいる観客の安全を確保するためだよ』

 

アステルはカズマの疑問にそう答える。観客の安全。確かにそれが出来れば頭を悩ましていることが一気に解消する。

結界の再構築とその間の護衛。ドラゴンは狙撃してくる相手に手を取られている。今このタイミングしかない。俺もドラゴンへの攻撃に参加すればさくらみこの邪魔をされる確率は低くなるだろう。

よし。とカズマは頷いた。

すいせいはそれを見て立ち上がろうとするがまだ体力が回復していない。だが、ふらつく足を無理やり立たせようとしていた。

 

「まだ大人しくしとけ」

 

カズマがやんわりと留める。

 

「…ダメ、立たないと。誰がアンタに魔力を送るのよ」

 

「だからこそ今は耐えろ。恐らくだがまだ戦いは終わらない。その時にオマエがへばってたら俺が何も出来ないだろ」

 

「……」

 

「大丈夫だ。俺を信じろ」

 

すると。カズマの説得が通じたのか星街はその場に大人しく座った。

 

「…分かったわよ、信じてあげる。だけど絶対にやられないでよ」

 

「誰にモノ言ってんだ」

 

そう言いカズマは内ポケットに入ったカートリッジを一本取り出す。残りこれを含めて3本だ。

 

「……まって、それナニ?」

 

「ああ、これ? これは魔力カートリッジだ。ラプラスの魔力が込められてる」

 

一瞬場の空気が凍った気がした。

 

「…へー、ほー、ふーん。すいちゃんが居るのに他の女の力借りるんだ。へー」

 

星街は半目でカズマを睨む。なぜだろう、冷や汗が流れた。

 

「い、いや。待て待て、言い方に悪意しか無くないか?」

 

「べっつにー。私は御覧の通り今は何も出来ないですし? 他の女の力使うしかないもんねー??」

 

「いや、だから言い方。このカートリッジは戦う為であって、そういう意図はねえだろ」

 

「はいはいそうですねー」

 

『ちょっと、痴話げんかならこれが終わってからやってくれよ』

 

「「誰が痴話げんかじゃ!!」」

 

アステルの呆れた言葉に突っ込みを入れる二人。

だがそうだ、今はこんなことしている場合じゃない。とカズマはぶー垂れるすいせいを横目にカートリッジを籠手に装填。紫電が迸る。

 

するとその魔力に気付いたのだろう。狙撃してくる相手をしていたドラゴンの目線が一瞬こちらを向いた。

 

カートリッジの残りは3本。先ほど与えた攻撃と感覚からするにドラゴンにダメージを与えるためにはカートリッジを丸々一本消費する羽目になる。

つまり、ドラゴンを直接攻撃できるのは3回のみ。たった三回だ。

 

「…はっ、上等!!」

 

カズマは飛び出した。

 

 

 

 

「…何ニヤニヤしてるのよ」

 

「いやー、すいちゃんに仲いい友達が出来てみこちゃんは嬉しい訳ですよ」

 

さくらみこはニヤニヤとした顔ですいせいを見ていた。

 

「みこちのそのニヤケ面引っ叩きたくなるんだけど」

 

「やめてよ!?」

 

「ほら、さっさと結界を貼りなおすんでしょ、さっさとやる」

 

はいぃ、と返事をしたさくらみこは舞台の真ん中に立つと目を閉じる。

会場全体が喧騒で溢れる中、その場だけは神聖な空気で満ちているかのように見えた。

さくらみこは数回深呼吸し、瞳を開ける。

 

「…っ!」

 

空気が変わった。

さくらみこは大幣を取り出し。その体を大きく動かして舞を踊り始める。

優雅に。流れるように。

 

その様子はそばで見ていたすいせいは勿論、混乱に満ちていた観客たちもその舞を見て息を飲んだ。

 

「みこち、こんなにも綺麗に。…それに観客の皆も」

 

ふと気づくと観客席から悲鳴などは聞こえなくなっていた。皆、さくらみこの舞に目を奪われているのだ。

さくらみこはそれには目もくれず、ただ舞う。その様は服の色も相まって舞い落ちるサクラの花びらを連想した。

 

 

そんな様子をドラゴンがただ見ているだけだろうか、否。勿論止めようと動くが、遠距離からの狙撃。そして。

 

「うぉら!!」

 

カズマの妨害によって手が出せない状態でいた。

射撃位置がたびたび変わる遠距離からの不可視な一撃とカズマの攻撃はドラゴンを押さえることに成功していた。

 

『小癪な!!』

 

若頭はそう呟くがそれでドラゴンが攻勢に出る訳ではない。

カズマの攻撃を正面から受け止めたドラゴンはその巨体を少し後退させる。

若頭は驚愕する。星街すいせいが魔力を送れない以上。コイツはどこからこの力を得ているのか。

 

攻撃を放ったカズマ。そのタイミングで籠手が煙を吐き、カートリッジを排出した。

 

「ちっ!」

 

思わず舌打ちするカズマ。さくらみこの防衛が始まってから既にカートリッジは2本消費。残すはあと1本となっていた。

 

懐から最後のカートリッジを取り出す。

 

『成程、それか』

 

カズマに悪寒が走った。

すぐさま後ろに引いて大きく後退。どこからか援護射撃がドラゴンに入る。

さっきまではそれで隙を潰せていた。だが、その油断が良くなった。

 

気付くとカズマの目の前にはドラゴンの尻尾が迫っていた。

 

「なっ!?」

 

驚くより先にカズマの体を衝撃が貫いた。

射撃を無視して無理やり攻撃を通したのだ。

手に持ったカートリッジは取りこぼし、カズマの体が壁に叩きつけられる。

 

「カズマ!!」

 

すいせいの声が響く。

 

「…ああっ! 生きてるよ!!」

 

崩れた壁から何とか起き上がるカズマ。怪我の数は少なくないが致命傷ではない。上手く籠手を尻尾と体の間に挟み込めたのと、ラプラスから貰った上着のおかげでダメージを軽減できた。

だが、カートリッジは今の攻撃で落として、どこにあるかは分からない。つまり、カズマのドラゴンに対する有効打が無くなったことを意味していた。

カズマは内心焦る。

 

だが。

 

「ありがとう」

 

ついに、吉報がもたらされた。

 

「出来た」

 

さくらみこが手に持っていた大幣を一振り。

 

「サクラカゼ」

 

その瞬間、さくらみの背後に大きな木が出現する。

その木はどんどん成長し、満開の桜の花を咲かせた。

 

「綺麗…」

 

誰かが言った。

皆が息を飲む。ああ、確かに綺麗だ。この会場にいる全ての人間がその見た目に目を奪われる。

 

『…話には聞いてたけどこの規模の結界を、それも感覚で貼るのか。流石サクラ神社の精霊だな』

 

「えへへー。じゃあ難しいことは分からないから後はよろしく!」

 

『はいはい。後の演算処理はこっちで任せてゆっくりしておきな』

 

すると間もなく観客席が光に包まれた。

光がやむとそこにいた観客は一人残らずいなくなっていた。

 

『よし、観客5万人全員の収容を完了』

 

「何が起こった…?」

 

『上を見てみな』

 

アステルがそう言い、すいせいとカズマは上を見上げた。

綺麗な星空が浮かぶ空に突如として稲妻が走る。

するとそこに現れたのは列車だった。

ただの列車ではない。とてつもなく長く。大きい。

 

「列車!? しかもこんなにデカいのを空に…!?」

 

いつの間に。とすいせいは驚く。

星空を走る列車。カズマは昔、父親と一緒に見た銀河を走る鉄道のアニメを思い出した。

 

「こいつは… たまげたな。観客全てをあの列車に?」

 

『うん。このドームにいた観客5万人。一人残らず全員この列車に乗ってる』

 

さあ。とアステルは声をかける。

 

『これで観客を気にすることなく思う存分戦えるよ』

 

アステルの言葉に緩んだ空気が引き締まる。

 

「ああ、そうだったな」

 

「ありがとうね」

 

カズマとすいせいはドラゴンを前に並び立つ。

援護射撃は既に止んでいた。結界を貼りなおしたことにより会場外からの援護射撃は期待できないだろう。

 

「みこはこの結界を維持しないといけないから戦闘に参加できないけど頑張って!!」

 

みこちからの応援を受け取る。

今度は「ああ、そうだ」とアステルはカズマたち。いや、正確にはすいせいを見る。

 

『僕から最後のアドバイス。この列車からもドームの様子は見れるようにする。そしてネットのライブ中継も終わっていない。つまり』

 

「まだ、ライブ(・・・)は終わってない」

 

『そういうこと。それじゃあ後は健闘を祈るよ』

 

アステルはそう言うとディスプレイが消えた。

 

目の前に佇むドラゴンと相対する。

 

「待たせたな。今度は本気で相手してやるよ」

 

『今までは本気じゃなかったと?』

 

「ええ、そうよ。全然本気じゃなかった」

 

『ふむ。強がりもそこそこにしておかないと後で恥をかくだけだぞ』

 

若頭は鼻で笑う。確かに先ほどまでのカズマとすいせいの様子を見ていたらそう思うのは当然だろう。

事実、二人は万全とは言い難い状態だ。

 

だが、それがどうした。

 

隣には頼りになる最高の仲間がいて、目の前には最大の敵。

今、威勢を張らなくて。今、笑わなくてどうする。

 

「強がりかどうかは」

 

「身をもって感じな」

 

カズマはその籠手を。すいせいはマイクを手に取った。

 

カズマはすいせいに目をやる、目が合った。

二人は頷く、言葉はいらない。それ以上のもの()で繋がっているから。

 

『さあ、こい!!』

 

ここに最終決戦の幕が上がった。

 

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