迷い人よ、ようこそ。   作:みなたか

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最終話

「戻って来た…」

 

カズマの前には岩崎組の代紋が描かれた大きな門。

 

「…この門を通る時にまさか緊張するなんてな」

 

苦笑し、カズマは大きく深呼吸をした。

毛先がすいせいの髪色と同じ青色に染まった髪が風で揺れる。

 

ライブから1ヵ月たった。

あの戦いの後、カズマは結局また気を失って、次に目が覚めたのは1週間後。

 

「目覚めた時のすいせいの顔は見物だったな」

 

その時の様子を思い出し、少し笑う。

怪我だらけの体が回復するまで3週間かかった。

こよりと医者が言うには本来なら動けるようになるまで半年はかかる重症だったそうだ。

ここまで早く治ったのには理由がある。

 

桐生会元会長 桐生ココのおかげだった。

彼女が提供してくれた龍の血が短期での回復を可能にした。

 

あの場に現れた彼女はそのままケジメと称して指を詰めようとしてた。

若頭が暴走したのは「会長」である私の責任だと言って。

元々彼女はとある理由で街の外に出ていたが元桐生会が暴れていると連絡を受け、戻ってきていたそうだ。

カズマはケジメを取る極道の気持ちは分からなくもないがこちとらただの堅気だ、ということでその申し出を全力で断った。

するとせめてものお詫びとして血と「とあるもの」を頂き、何かあったら「桐生ココ」が力を貸すということで決着した。まあ、後者の方を使うような羽目にはならないことを祈ると思うカズマ。

ちなみに若頭はあの後、あの混乱を巻き起こし街を危険に陥れようとしたことや新生桐生会を復興させようとやっていた色々のことが全部表に出て騎士団に拘束された。

本人はそれに大人しく従ったそうだ。

 

そして回復したカズマは元の世界に戻ってきていた。

ただ、その目的は帰るためではない。

 

門に手を当て、押し開ける。

 

門を開ける音が聞こえたのだろう、数人の組員が表に出てきた。

その誰も彼もがカズマの姿を見ると度肝を抜かしたように驚く。

 

「わ、若!?!?」

 

「オヤジ、オヤジ!! 若が帰ってきました!!!」

 

1人がそう叫びながら建物内に戻っていった。

 

その様に思わず笑ってしまった。

まあ、それもそうだろう。期間的には2カ月は家出していたことになるのだから。

カズマも家に入ろうとしたがその必要は無かった。

どたどたと複数人の足音が響いたと思ったらカズマが一番会いたかった人向こうから来てくれた。

 

「か、カズマ…」

 

少し痩せたんじゃないかと思う。

久しぶりに見たその姿に思わず零れそうな感情があった。

カズマはそれを無理やり飲み込む。

 

カズマは腰を折り、頭を下げた。

 

「ごめん!! 心配かけた!!」

 

その姿に思わず親父は驚愕する。

二か月前は絶対にそんなことをするヤツではなかったからだ。

 

親父はそのまま頭を下げるカズマ近づくと。

 

「カズマ」

 

カズマは顔を上げる、目の前にあったのは拳だった。

カズマはそれを甘んじて受け入れる。

 

「…んぐっ!」

 

ああ、やっぱり重いな。と感じ、そのまま殴り飛ばされる。

そして、抱きしめられた。

 

「馬鹿、やろう! 今までどこいってやがった! こんなにも心配させやがって!!」

 

その声には嗚咽が混じる。

カズマはそれを胸の中で聞く、ふつふつと申し訳なさや罪悪感が沸きあがる。

それはカズマが受け止めなきゃいけないもの。

ああ、でも。

 

「…やっぱり俺、何も分かってなかったんだな」

 

こんなにも心配してくれる人が身近にいることを、周りを見れていなかった。

本当に自分しか見えていなかったんだなと再認識した。

 

「…親父」

 

「…なんだ」

 

「俺、やりたいことが出来たんだ。まだ言葉に出来ない、形にならないものだけどさ」

 

そう言うとカズマは親父の手をほどき、正面から見据える。

 

「だから、ごめん。俺はヤクザに成れない」

 

親父は目を見開いた

 

「…そうか、そうか!」

 

そう言い、親父は頷いた。

 

「変わったな、カズマ。良い方向に」

 

親父はしみじみと呟く。

 

「周りのおかげだよ、俺に気付かしてくれた人たちがいたんだ」

 

「それは… お礼を言わないとな」

 

「親父もその1人だよ」

 

「そうか、それなら良かった」

 

カズマは一歩、後ろに下がる。

 

「…もう行くのか?」

 

親父は分かっていた、あのカズマの目を見た時から。

帰ってきたのではない、挨拶を、ケジメを付けに来ただけだと。

 

「ああ、待ってる人がいるんだ」

 

「…本音を言えば行ってほしくないが」

 

「…止めないのか?」

 

「止めて欲しいか? それにそんな目をしてるんだ。お前はもう立派な漢だよ、それだけ分かればもう十分だ」

 

「…そうか」

 

塞き止めていた感情が溢れそうになった。

 

「…定期的に顔は出すからさ」

 

「ああ」

 

「…病気とかするなよ」

 

「ああ」

 

「…今日まで、ありがとう」

 

「ああ」

 

「…行ってきます!!」

 

「ああ、行ってらっしゃい」

 

1人、飛び出したあの時と違い、今は皆に見送られながら門を出る。

 

家の前に待機して壁にもたれかかっていた虎太郎と目が合う。

 

「もう良いのか?」

 

「ああ、もう大丈夫だ。先輩、よろしく頼む」

 

さあ、帰ろう。

気付くとカズマと虎太郎は最初から居なかったようにこの世界から消えた。

 

 

 

 

 

時刻は夕方、帰ってきたカズマと虎太郎は二人ある店を訪ねた。

 

看板には「BAR ROBEL」の文字。

カズマと虎太郎は店内に入る。

 

「お、今日の主役が来たな! いらっしゃい!」

 

マスターのロベルはそう言って二人を歓迎する。

 

「もう皆揃ってるで」

 

店内を見渡すとUPROAR!!、holoX、獅白ぼたん、アステル・レダ、さくらみこ、フブキ、ミオ、そしてシエンにすいせい。あの日一緒に戦った仲間が全員揃っていた。

 

「やっと来たー、遅いぞー」

 

ラプラスはぶー垂れながらそう言う。

 

「悪いな、ついさっきこっちに帰ってきた所なんだよ」

 

そう言い、カズマはすいせいの正面の席が空いていたのでそこに座る。

 

「言っていた「ケジメ」付けてきたの?」

 

すいせいが尋ねる。

 

「ああ、ちゃんとつけて来た」

 

カズマはそう答え、頷いた。

すいせいがその様子を見て少し安心したような表情を見せた。

 

「さあて、全員揃ったことだし始めますか!!」

 

全員席に座ったことを確認したシエンが言う。

これから何が始まるのは。

 

「打ち上げだ!!」

 

どんちゃん騒ぎだ。

 

 

 

 

全員に飲み物が行き渡る。

 

「それじゃあ、カズマ。乾杯の音頭よろしく」

 

シエンはそう言いカズマにバトンを渡す。

また俺かよ、と言いながらカズマはみんなの前に立つ。

 

「あれから一カ月、まあ、俺が1ヵ月入院してたのもあったり、ようやく落ち着いてこういう場を設けられるようになったんだが、改めて言っておこうと思う」

 

そう言うとカズマは一旦手に持つ飲み物を置き、頭を下げた。

 

「俺が今、ここにいれるのは皆が助けてくれたからだ。本当に、ありがとう」

 

皆は口を挟まずその様子を優しく見守る。

カズマはさっさと顔を上げた。

 

「ま、しんみりしたもんはこれぐらいにしといて」

 

カズマは改めて飲み物を持つ。

 

「今日は楽しもう『乾杯!!』」

 

「「「「乾杯!!!」」」」

 

 

 

 

 

「はんばーぐはんばーぐ! っておい! 沙花叉! 吾輩の取るな!!」

 

「いや、ラプラス死ぬほど食べてるから一個ぐらい良いじゃん」

 

「ダメ! 全部吾輩の!!」

 

「はいはい、まだあるから喧嘩しないの」

 

バーのキッチンを借りて作ったハンバーグを手に席に戻ってくるルイは二人を諫める。

この人数の料理をロベル1人で賄うのは大変だろうということでルイは手伝っていた。

ロベルは「気にせんでいいのに」と言っていたがルイはこっちの方が性に合っているのだろう、とても優しい笑顔を浮かべていた。

 

「お、シエンさんグラス空いてるじゃないっすか、ほらほら飲んで飲んで!!」

 

「ちょ、おいガンマ! そんなポンポン入れるな! アステルさんも見てないで止めてくださいよ!」

 

「お、このミートパスタうめ」

 

騒ぐ二人に我関せずとパスタを食べるアステル。

 

「ガハハハハハ!!」

 

「アッハハッハハ!!」

 

「何でこの二人こんなしょうもないことで笑ってるでござるか?」

 

「それが酒の力ってことにぇ、いろは殿も飲む? 飲め!!」

 

「わぁ、こっちも聞く耳ないでござる」

 

アルコールが入って真っ赤な顔でゲラ笑いをしてる獅白ぼたんとミオ。それを眺めるさくらみこといろは。

 

ふと店の入り口が開くベルの音がした。

今日は貸し切りになってるので普通の客はこないはず、来るとすれば。

 

「はーい、ピザ「アルーラ」お届けでーす!!」

 

注文していたピザとかだ。

 

「待ってたよー、アルさん久しぶり」

 

「お久しぶりです」

 

「おおー! 虎太郎にフブキさんじゃないっすかお久ー」

 

ピザを持ってきたのはアルーラを名乗る、アルランディス。

かつて虎太郎たちと一緒に戦ったアルランディスとは幾分か若く見える。

 

「あの時はありがとうございました、送ってくれて」

 

虎太郎とフブキは揃って頭を下げる。

 

「良いって良いって、間に合って良かったよ。それよか、このピザ置きたいんだけど良いかな?」

 

「ああ、ごめんなさい」

 

フブキとカズマは席を開け、アルランディスはそこにピザを置く。

 

「なんや注文してた分よりちょっと少なくないか?」

 

ロベルが置いたピザを見てそう呟く。

 

「心配しなくてもまだあるって」

 

そう言うとまた店の扉が開いた。

入ってきたのは青髪で背の高い、女の人?とオレンジ髪のこれまた派手な女性。二人とも手に沢山のピザを持ってきた。

 

「店長! 数が多い!」

 

「てんちょー、これってどこに置いたら良いですか?」

 

「ああ、莉々華ちゃん、こっちこっち」

 

「おい無視すんなうんち!!」

 

「うんち言うな!!」

 

色々ありつつも二人もピザをテーブルに置いた。

 

ロベルはアルランディスに料金を払いつつ二人のことを訪ねた。

 

「新しく雇ったバイトの人か?」

 

「そうそう、青くんに莉々華ちゃん。最近忙しくなってきたから雇ったのよ」

 

「成程、ほなまた会うことこともあるかもな。はい、これ代金」

 

「ひーふーみー、うん、確かに。その時はよろしくしてやってくれ」

 

代金を確認したアルランディス「それじゃあ楽しんで~」と二人を連れて早々にバーを後にした。

 

皆はもう店内に蔓延するピザの匂いに興味深々だ。

 

「ほらほら、好きなピザ食え食え!!」

 

ロベルがそう言うと皆ピザに飛びついた。

 

「ほい、ほい、ほい」

 

「…おい、すいせい。何で俺のピザに野菜を乗っける」

 

「カズマの体の為を思って」

 

「いや、絶対野菜食べれねえだけだろ!!」

 

「すいちゃん、お前のご主人 お前、すいちゃんの使い魔 言うこと聞け」

 

「うるさいわ!!」

 

はぁ、とため息を付きながら他のより野菜の多くなったピザを食べる。

 

「お、旨い」

 

一口食べたら怒ってたことも忘れるぐらい美味しかった。

 

「口ではそう言っても食べてあげるんだねー」

 

水無瀬 燐央がふわふわと浮かびながらニヤニヤ顔でピザを食べる。

イラっと来たカズマは席を移動し、皆と仲良く談笑しながらピザを食べてるこよりの元に向かった。

 

「こより」

 

「もぐっ、もぐっ。はいはい、どうしたんですか、カズマ君」

 

「前にラプラスが持ってきたヤツあるか?」

 

「前というと、お見舞いの時にラプちゃんが悪ふざけで持ってきたあれ?」

 

「ああ、それだ」

 

「あるけど、ご利用は安全にね」

 

こよりはカズマに中身が真っ赤な試験管を渡した。

カズマは全身体能力を生かし、目にも止まらない速さで水無瀬燐央が今まさに食べようとしていたピザにその赤いやつをぶちまける。

燐央はそのままそれを口に含んでしまった。

 

「…ぐぉ!?!?!?」

 

顔を真っ赤にして倒れる水無瀬燐央

 

「燐央が死んだ!!」

 

「この人でなし!!」

 

その様子をみていた夜十神封魔と羽継烏有が叫ぶ。

 

「…す、既に死んでるから。ってこれ辛い、辛すぎる!! 何これ!?!?」

 

起き上がった水無瀬燐央は水を求めて彷徨う。

 

「こよりが調合した激辛ソースだ。大丈夫、体に悪い物は一切入ってないって言ってたから、多分」

 

「多分!?!?」

 

汗を滝のように掻き、焦り散らかす様子をみてスカッとしたカズマは水無瀬燐央に水の入ったコップを渡す。

 

「ほらよ、これでおちょくったのは水に流してやるよ」

 

カズマの持つコップにまた何か入ってないかと怪しむがそれ以上に辛さが限界にきたのか、コップをひったくり一息で飲み干した。

 

「んぐっ、んぐっ、あー、死ぬかと思った」

 

「いや、既に死んでるだろ」

 

「幽霊ジョーク」

 

「笑えねえからやめな」

 

 

 

 

 

 

打ち上げが始まって早数時間。

カズマは外の空気を吸おうと、未だ喧騒の絶えないバーの外に出る。

 

カズマは側に合った手すりに手を置き、大きく伸びをする。

 

「外に出て何やってんだ?」

 

ふと後ろから声がかかった。

振り向くとそこにはアルコールが入って少し顔が赤くなったシエンがいた。

 

「いや、何。ちょっと休憩ってな」

 

「そっか」

 

それだけ言うとシエンもカズマの横に並び、手すりに体重をかけた。

 

二人して笑い声が聞こえるバーを眺める。

会話は無かったが凄く落ち着く空気感、悪くは無かった。

 

「…なあ」

 

どれだけそうしていたか、シエンがポツリと呟いた。

 

「ん?」

 

「俺、お前に謝らないといけないことがあるんだ」

 

いきなりどうしたんだと横目でシエンを見るカズマ。

シエンはカズマにとある物を取り出した。

 

「これ、見覚えないか」

 

カズマはそれを受け取る。

封の空いた手紙だった。

カズマの微かな記憶が蘇る。

 

『こんにちは』

 

夜中の公園で変なおっさんに手紙を渡されたのを思い出した。

 

「無くしたって思ってた例の手紙…」

 

その手紙をシエンが持っていた。そして、そのシエンはカズマに「謝罪」しないといけないと言っている。

事の真相を把握するのに時間は掛からなかった。

 

「最初に会った時にコッソリと拝借してたんだ」

 

シエンは気まずそうに言う。

最初に会った時に言っていた、それがカズマが「迷い人」である証明だったと。

カズマは何も言わない、シエンは次の言葉を続けた。

 

「これがあればお前は「迷い人」だって証明が出来て、俺の話に乗る必要もなく、安全にこの世界で過ごせたはずだった」

 

でも、そうは成らなかった。

 

「…何で、ってなるよな。まあ、理由なんだが、半分は俺の願望。半分はお前をこの世界に呼んだおっさん「YAGOO」からのお願いって所が大きかった」

 

「YAGOO…」

 

カズマの脳裏に公園で出会ったおっさんの姿を思い出す。

 

「そのYAGOOってのは何者なんだ?」

 

「簡単に言うと、この街のお偉いさんで「迷い人」をこっちの世界に召喚するための手紙を配り歩いてるおじさんって所だな」

 

「…何だ、その愉快なおじさんは。というか「迷い人」は『ときのそら』ってのが召喚してるんじゃねえのか?」

 

「ああ、その認識で合ってるよ。でも『ときのそら』が直接召喚したのは最初の一回だけ、それ以外は全部手紙を通した召喚になってるらしい」

 

「直接召喚は最初の一回、それ以降は手紙を使った召喚…」

 

「手紙を受け取った人が『ときのそら』と契約したことになり、こっちの世界に召喚されるようになる。カズマもそうなるはずだったんだがな… なぜかお前は『ときのそら』との契約が不完全のままこっちに召喚されちまった」

 

「…それが、YAGOOからお願いされたことに繋がるのか?」

 

「ああ、YAGOOから「召喚した「迷い人」を手助けして欲しい」って連絡が来てな、不完全な契約だったから心配だったんだろうよ。んで話を聞きに行ったら「元桐生会」のことも追加で調べてくれってなって今回の件に関わることになった」

 

シエンは改めてカズマと向き合った。

 

「それでお前に出会って、思ったんだ。「コイツとなら上手くやれる」って、だから手紙を隠した。 直接俺の庇護下に入れた方が手助けしやすいのと、「元桐生会」の件で手を貸してもらうために」

 

シエンはカズマに頭を下げた。

 

「だから、ごめん。俺の勝手でお前から「安全に過ごす」ってことを取り上げちまった。本当にすまない」

 

ああ、確かに。

シエンが手紙を隠したことでカズマは「危険」に立ち入ることになった。

でも。

 

「…でも、それがあったから俺は前に進めたんだ」

 

そういうカズマの表情は晴れやかだ、決してシエンを憎んでいるような顔ではない。

 

「確かに、シエンの言う通り、「安全」に過ごすって未来もあったかもしれない。でも、もしそうだったら俺はまだ迷ったままだったかもしれない。これは結果論かもしれないけどさ、俺は今、凄く満足してるよ。こうなって良かったって思ってる。シエン、俺はお前に感謝ことすれ、怒ったり憎んだりなんて一切してないよ」

 

だからさ。

 

「ありがとうな、あの時俺に手を貸してくれたのがお前で良かった」

 

「……」

 

顔を上げたシエンは。

 

「…そっか、そっか」

 

泣きそうな、でもホッとした表情で頷いた。

 

 

 

 

 

それからもしばらく二人で夜風を浴びてるとまたバーの扉が開いた。

 

「…あっ! いたいた」

 

カズマとシエンを探していたのか、少し周りを見渡して見つけると駆け寄ってきた。

 

「すいせいも休憩か?」

 

カズマは手を上げ、駆け寄ってきたすいせいに言う。

 

「いや、アンタたちを探してただけ」

 

そう言うとすいせいもカズマの横の手すりに体重をかけ、三人並んだ。

 

「探してたって何かあったのか?」

 

シエンがそう尋ねるが、すいせいは首を横に振る。

 

「いや、ただ三人で話したいなって思っただけ。ほら、最初は三人で始まったじゃない」

 

「そういえば、そうだな」

 

三人は思い出に浸る。

 

「最初はすいせいが追いかけられてたところから始まったのか」

 

「いや、その前にカズマが私の歌を勝手に聞いてたところからスタートでしょ、あの時の金払え」

 

「出世払いでよろしく」

 

「ははっ、そう言えばあの時のラーメン代返してもらってないな」

 

「いや、それはシエンが奢りって言ってただろ」

 

「あれ、そうだっけ?」

 

「そうだって。なあ、すいせい」

 

「うん、確かにそう言ってたよ」

 

三人は笑う。

他にも色々と話した、カズマがこっちの世界にやってきてからの話を。

 

「本当に、色々あったな」

 

「うん」

 

「そうだな」

 

カズマの言葉に二人が同意する。

 

「そう言えば、カズマの髪はそのままなんだな」

 

「ああ、これか」

 

シエンに言われ、カズマは青色に染まった髪の毛先を触る。

 

「殆どはあの戦いが終わった時に元の黒髪に戻ったんだがな、毛先だけは変わらずだ」

 

「その髪色も星歌の力でそうなったんだよな、てことは今後星歌の力を使う時は青髪になるのか」

 

「多分そうじゃねえか?」

 

カズマは髪を触るのを止めて手を下ろす。

すいせいがこっちを見て何か言いたそうか顔をしていた。

 

「どうした、すいせい」

 

「…不満なのかなぁって、その髪色」

 

そう言うと今度はすいせいが自らの青い髪を指先でいじりだした。

その顔は少し心配そうな顔をしていた。

珍しい表情をするもんだ、とカズマは思いながらすいせいに返答する。

 

「いやいや、不満だったら即切ってるっての。ずっと黒髪だったからな、ちょっとだけイメチェンだイメチェン。それに…」

 

「それに?」

 

「俺はこの髪色がすいせいとの繋がりを感じれて結構気に入ってるんだ」

 

「なっ…!?」

 

すいせいはカズマのそんな回答を受けて思わず赤面した。

シエンは「わぉ、言うねぇ」とニヤニヤとしながら眺める。

だが、カズマからしたらなんのこっちゃと疑問符を浮かべる。

 

「あ、アンタってたまにシラフで言えないようなことを平然と言うわね」

 

「そうか?」

 

「そうよ…」

 

赤く染まった顔を冷ますように手で仰ぐすいせい。

 

「中々見れないような、星街さんの顔を見れたな」

 

「うるさい」

 

シエンはそう茶化し、その脇腹をすいせいに突っつかれる。

そんな様子をカズマも見て笑った。

 

 

しばらく、そんな他愛のない話をしながら三人は店を眺めていた。

シエンがポツリと呟く。

 

「星街さんとカズマは予定通り?」

 

「うん」

 

「明日、この街を立つ」

 

そう、二人はこの街を明日立つ予定をしていた。

 

「流石にね、あんなことがあったらしばらくは街を出歩けないよ。この一カ月物凄いしんどかった」

 

すいせいは心底うんざりとした感じで言う。

1ヵ月前のライブ。あの時の様子はあの場にいた観客だけでなく配信もされていた為、多くの人が目にした。

つまり、星歌の力が多くの人が目の当たりにすることになったのだ。

 

「流石に星歌の力は広まっては無いが、それでも「星街すいせいとその仲間」には不可思議な力があるってもっぱらの噂になっちまったからな」

 

「でも、あの時はそれしか方法は無かったのよ。そうじゃなかったらあそこまでの力は出せなかった」

 

星歌の力は人々の魔力、力を歌を用いて干渉し束ねる能力。

あの時、力を最大限に引き出すにはああするしかなかった。

 

「ま、ほとぼりが冷めるまでの旅ってことでそんなに長くはならないと思う。カズマもいるから安全だし退屈もしないでしょ」

 

「何処へでもお付き合いしますともご主人様」

 

「うむ、くるしゅうない」

 

そんなやり取りにシエンは苦笑した。

 

「さくらみこさんも一緒に行ければ良かったんだけどな」

 

「サクラ神社をあのままには出来ないってことだったな」

 

サクラ神社。あの場所はドームにされたが新生桐生会とかが色々関わっていたことで解体されることとなった。

 

「まあ、みこちはそれ以上にサクラ神社を媒介に召喚しちゃったからあの場を離れることが出来ないのよね」

 

すいせいは少し悲しそうに呟く。

 

「でも、もしかしたら星歌の力が強くなればその制限も外れるかもしれないってことだろ?」

 

カズマはそう言う、だから元気を出せと。

 

「今回の旅は星歌の力を巡る旅でもあるんだ、もしかしたらその力を強くする方法もあるだろ」

 

星歌。何もすいせいが最初の担い手ではない。

『ときのそら』のように過去に何人も担い手が居た…という話を街の外から帰ってきた「桐生ココ」が言っていた。そしてその痕跡は世界のあちこちに残っていると。

今回の旅の目的はその痕跡を辿るものだ。

 

「ええ、絶対に強くなってやるわ」

 

そう言うすいせいの目は闘志に燃えていた。

 

「そっか、それじゃあしばらくは二人とはお別れだな」

 

シエンは少し寂しそうに呟く。

 

「なんだよ、急にしおらしくなるなって」

 

カズマがシエンの肩を叩きながらそう慰める。

 

「そうそう、定期的に連絡も入れてあげるし、我慢しなさい」

 

「桐生ココと何かやることがあるんだろ? それも同じ星歌関連で」

 

そう、シエンはシエンで桐生ココと共に星歌のことで調査すべきことがあるそうなのだ。

シエンはそれに駆り出されることになった。

 

「だったら絶対にまたどこかで交わるよ」

 

「そしたらまた今日みたいに笑って飯でも食べようって」

 

「…ああ、そうだな!」

 

さて、とシエンは手すりから離れる。

 

「それじゃあ、またの再開を願ってもう一回乾杯と行こうぜ」

 

「何だよそれ、まあ良いけどさ」

 

「しょうがないわね」

 

シエンに促され、カズマとすいせい談笑しながら店内に戻った。

 

まだ店内の喧騒が収まることはないのだろう。

 

 

 

 

次の日

 

「昨日の今日なのにちゃんと全員揃ったな」

 

シエンが少し驚きながらもそう呟く。

 

「流石に見送りに遅れたら目も当てられないでしょ」

 

「うぅ、頭が痛い」

 

アステルがそう返す横で緋崎ガンマが頭を押さえながら呟く。

 

「まあ、確かに朝日がちょっと目に染みるなぁ。終わったらもうひと眠りしよ」

 

獅白ぼたんが眩しそうに太陽を手で隠す。

 

昨日、あのバーに集まった人は全員この街の入り口に集まっていた。

皆、今日この街を立つすいせいとカズマを見送りに来ていた。

 

シエンの視線の先にはすいせいとカズマ、その周りには人が集まっていた。

 

「すいちゃん…」

 

「なーに泣きそうになってるのよ、みこち」

 

「だ、だってぇ…」

 

「もう… ほら」

 

すいせいは両手を広げるとさくらみこはその胸に抱き着いた。

 

「別に今生の別れじゃないでしょ、ちょっと旅に出るだけ」

 

「…う”ん」

 

「だから泣かないの。私が強くなって、みこちを連れて行けるようになるから、その時は一緒に旅をしよう」

 

「…わがっだ」

 

ならよし、とさくらみこはすいせいの元から離れる。

…すいせいの目尻に写る雫は指摘するもんが野暮ってもんだろ。

 

「カズマ君」

 

さくらみこがカズマに呼びかける。

 

「すいちゃんのこと、よろしくお願いします」

 

さくらみこはカズマに頭を下げた。

 

「ああ、任せてくれ」

 

カズマはそれをちゃんと受け止めた。

顔を上げたさくらみこは笑顔で頷く、その顔にはもう涙は無かった。

 

カズマの腰にぽんと軽い衝撃があった。

振り向くとそこにはラプラスが軽いパンチをして立っていた。

 

「…もう行っちまうのかよ」

 

その声は案外寂しそうでカズマは少し驚く。

 

「お前には、本当に何度も助けられたな」

 

「そう思ってるならもうちょっとこの街に居て吾輩たちに借りを返してくれ」

 

「それは… この街に帰ってきたら少しずつ返させてもらうよ」

 

「…絶対だからな」

 

「おう」

 

二人はあの時と同じように手を掲げ、ハイタッチをした。

 

 

「それじゃあ、カズマ。そろそろ行こうか」

 

「おう」

 

すいせいは横にあるサイドカー付きのバイクの運転側に乗り込んだ。

 

「これカズマがサイドカー側に乗るのいつ見ても笑えるな」

 

「おい止めろ、それは俺が一番分かってるんだ」

 

シエンの茶化しにカズマは「勘弁してくれ免許持ってないんだ」と言い返す。

このバイクは話していた桐生ココからの贈り物、街の外に旅に行くということで受け取ったもの。

まあ、中身とかはちょくちょく変えていたり、こよりの改造が入っているが超高性能なバイクだ。

 

「それじゃあ、みんな」

 

サイドカーに乗り込む前にカズマは改めて全員を見渡し、それぞれの顔を見る。

 

「元気で!」

 

そう言うとカズマはサイドカーに乗り込んだ。

すいせいはそれを確認するとバイクを発進させる。

 

「カズマ! 星街さん! 行ってらっしゃい!!」

 

シエンは二人の背中に声をかけた、それを皮切りに皆、各々別れの言葉を投げかける。

 

二人は後ろ手に、手を振った。

既に別れの言葉は尽くした、見送りに来た人はその返答だけで十分。

 

みんな、バイクが見えなくなるまでその姿を見送った。

 

 

 

 

 

バイクを走らせるすいせいは呟く。

 

「旅が終わりを迎えた日にはさ」

 

カズマはその後を引き継ぐ。

 

「集めた荷物をただ放り投げて笑い合おう」

 

二人は笑みを浮かべる。

 

そんな最後を求めて。

 

「「そんな旅路を共にゆこう」」

 

 

 

岩崎カズマの章 完




岩崎カズマの章、これにて完結になります。

読んでいただいた方々に感謝を。

1話の前書きでも書きましたが4th fesのロスを回避するために書き始め、気が付けば5th fesが終わって笑っちゃいました。

さてさて、岩崎カズマの章を読んでいただいた方々には分かるとは思いますが明らかに回収していない色々があったと思います。

まあ、はい、そうです。
次の章を待ってください…。
誰を出すかだったり、話の流れだったりは既に決めているのですが、お付き合い頂ける方は長い目でよろしくお願いします。

それでは、また機会がありましたら。
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