俺が異世界生活を始めてから1ヵ月たった。
今日も俺はマスターのバーで営業時間前の仕込みを手伝っていた。
「虎太郎くーん、アルさんの所に行って今日のピザ受け取ってきてー」
「了解です、アルランディスさんのピザ美味いっすもんね」
「こっちで出すときは温めるだけで美味いように調理してくれるしなぁ」
アルランディスさんというのはBAR ROBELから徒歩15分ぐらいの所にあるピザ屋を運営してる人、ピザが好きすぎて自分で作り始めちゃったらしい、んでマスターの知り合い、BAR ROBELではアルランディスさんのピザを提供している。もちろんこっちで出すときはアルランディスのピザってメニューに書いてる。
「いやー、それにしてもマジで虎太郎君働いてくれて助かるわぁ。仕込みも手伝ってくれるし、夜の営業中も接客凄い出来るし客からの評判も良い。うん、言うこと無し」
「え、なんすか、急に褒めて、気持ち悪いですよ」
「ちょっとお!? 急に辛辣になるやん!!」
「んじゃあ、ピザ受け取ってきまーす」
「無視すんなー?」
俺はマスターの言葉を聞きつつピザを受け取りにバーを出た。
「アルランディスさーん、ピザ貰いに来ましたー」
早速俺はピザ屋の扉を開けた、がどうやら先に先客が二人程いるらしい、店主である高身長イケメンおじさんのアルランディスさんは接客してた。
「お、虎太郎君かちょっと待ってなー」
「了解でーす」
と、先に並んでた二人を見ると、見たことのある人が一人いた。
「あれ? 確か荒川虎太郎君」
居たのは白銀騎士団、団長の白銀ノエルさん、この間夏色さんと一緒にお世話になった人だ。
「あ、どうも。お久しぶりです」
「久しぶりー、どう最近は、変な人とかいない?」
「はい、大丈夫ですよ」
「ノエル、この方は?」
ノエルさんと一緒に並んでいた褐色の耳が長い美女さん、エルフかな、褐色エルフさんが話しかけてきた。
「ほら、この前話した半グレ集団の被害に会った人だよ」
「あー、成程。不知火フレアです、よろしくね」
「荒川虎太郎です」
俺は不知火さんと挨拶をする。
「荒川君はここによく来るの?」
「来るというか、仕事で…」
「仕事?」
「実は近くのBAR ROBELってバーでバイトしてまして、ここのピザをメニューとして仕入れているんですよ」
「実は私たち初めてでさ、知り合いに聞いて来たんだ」
「お、そうなんですか、本当に美味しいですよここのピザは」
「おー、楽しみだ」
白銀さんはどうやら嬉しそうだった。
「お、嬉しいことを言ってくれるね」
するとカウンターにアルランディスさんが戻ってきた。
「はい、オリジナルピザ10枚ね」
「わーい、楽しみー!!」
そう言うと銀髪巨乳お姉さんが大量の箱を受け取っていた。
「…え、10枚?」
さ、流石に一人で食べる訳じゃないよな…、うん、不知火さんもいるし…。
「本当、ノエルはいっつも沢山食べるね、さっきお昼ご飯食べたばかりなのに」
「フレアも食べる?」
「私はもうお腹一杯だよ…」
…いや、聞かなかったことにしよう。
「それじゃあ荒川君もまたねー」
「あ、はい、もし良かったらBAR ROBELにも来てください」
二人は店を出て行った。
「次は虎太郎君だね、ちょっと待っててな」
その後俺は店用のピザを受け取りピザ屋を後にした。
バーに戻る道中であった。
「あ、虎太郎君じゃーん」
…面倒な声が聞こえた。
「ちょっとー、何無視してんのよー」
…無視しよう、あれから週3以上の頻度で店に来て分かったんだ、この人まともに相手をすると面倒だということが。
「こっち向いてよー、もう、そんなに無視するなら、もいじゃうよ?」
「何処を!?」
「あっははは!! ようやくこっち見た」
俺の前に現れたのは茶髪の髪をサイドテールにしたギャルっぽい人、名前を夏色まつり。
「ったく、いい加減無視するの止めてよ、悲しくなるじゃん…」
夏色さんが悲しそうに、かつ上目遣いでこちらを見つめる、うん。
「あざとい」
「あ?」
一瞬にして夏色さんの顔が真顔になった。
「てめー、いつも会うたびに『あざとい』って言ってくるのどうなのよ」
「だってあざといのは事実じゃないですか、そのぶりっこみたいな仕草、止めたらどうですか? 鳥肌立ちますよ」
「やんのかオメー!!」
「先に絡んできたのはそっちでしょ」
「それはそう」
「急に冷静になるんじゃあない」
このやり取りも1回や2回じゃないので割と慣れたものだ。
「で、虎太郎君は一体何をしてるの?」
「見て分からないです? 買い出しっすよ」
そう言って俺は手に持ったピザを夏色さんに見せる。
「そういう夏色さんは一体何を?」
「もう、まつりで良いって言ってるのに」
「いや、別にそこまで仲良くないでしょ」
「ひどい… あの日夜遅くまで激しく運動してあんなに熱くなった仲なのに…」
「言い方!?」
周りの通行人も何だ?という顔でチラチラと見てきている。
「まつり悲しいんだけど…」
「…チッ」
「あ!! 今!! 今舌打ちした!!!」
「気のせいでは、んで? 夏色さんは一体何をしてたのよ」
「散歩だよ、散歩、今日はチア部の活動も無いしね。あ、そうだ、丁度いいしバーでご飯食べよー」
「まだ仕込み中です」
「えー、なんか作ってよー」
「無理です」
「ぶーぶー」
「…はぁ、簡単なのしか出せませんよ?」
「マジ!? 虎太郎君の作る料理美味しいから嬉しい!! 好き!!」
ほんと、そういう所やぞ。
バーに戻り仕込みをしながらマスターに許可を取って夏色さん用に軽食を作った。
マスターからは「えらい仲良くなったなぁ」なんて言われたが心外である。
「ほい、サンドイッチお待ち」
「待ってました!!」
頂きます、と夏色さんはサンドイッチを頬張り始めた。
「おいひー」
「口に物を入れて喋ると行儀悪いですよ」
俺がそう言うと、食べることに集中するのか黙って口を動かし始めた、何というか夏色さんを見てるとリスを彷彿とさせるのは何故なのだろうか。
「あ、そうだ、虎太郎君」
口の中の物を一旦食べ終えたのか夏色さんが質問してきた。
「最近、フブキの様子で変わったこととかない?」
「白上さんですか?」
白上さんとはあれから何度かバーに来てもらったりして色々とオタクトークをしたりこの世界の漫画とかを貸してもらっていた。
「そうそう、何と言うかなー、変なんだよなー、昨日会った時も意識が心ここにあらずって感じで」
ほう、白上さんが…、最後に会ったのは三日前のこのバーだったけど…。
「いや、前に会った時はそんな印象無かったですね」
まあ、知り合って1ヵ月ぐらいしか経ってないのでそんなに分からないってのが本音だ。
「本人は何か言ってないんですか? 悩みがあるとか…」
「一応聞いたんだけど、何もないって言っててさ。まあフブキの性格を考えると悩みがあっても隠す気がするんだよねぇ」
「成程、了解です。もし今度会ったら俺も気にしてみますね」
「うん、お願いね、多分最近フブキと仲が良いのは虎太郎君だと思うからさ」
「俺?」
夏色さんはそう言い、俺は首をかしげる。
「だって、フブキと会話しててもさ、よく君のことがフブキの口から出てくるんだよ、『オタクトークが~』とかで」
あー、そういう意味ね、オタク仲間的な意味ね。あっぶな、俺じゃなきゃ勘違いしちゃうところだったじゃないか。
「取りあえず分かりました、にしても…」
「うん?」
「夏色さんって意外と友達思いなんですね」
「意外ってなんだ意外って!!」
「冗談です、夏色さんが本当は優しくて友達思いで、あざとくて、ちょいメンヘラな所がある素敵な人ですから」
「ありが… うん? それって誉めてる? いや、誉めてねーなお前!!」
この後まつりさんが怒ったのでオレンジジュースを追加で奢ってあげると機嫌が良くなった。ちょろい。
夏色さんと会話して数日、今日も今日とてバーで働く俺。
バーの扉が開かれて入店音のベルが鳴った。
「いらっしゃいませー、って大神さんじゃん」
「久しぶり、荒川君」
来店してきたのは大神さんだった、いつもなら白上さんも一緒にいるはずだが…
「今日はお一人で?」
「うん、フブキはちょっと用事があってね…」
白上さんは用事なのかー、って思いながら俺は大神さんをカウンター席に案内した。
「注文はどうされます?」
「うーん、と… カルボナーラで」
「かしこまりました、少々お待ちください。」
「あ、ちょっと待って」
俺は注文を聞き、マスターに注文を通そうと下がろうとしたが大神さんに呼び止められた。
「はい、これ」
大神さんは大きな紙袋を渡してきた、中身を確認すると沢山の漫画だった。
「フブキが渡してくれって」
白上さんはこの世界の漫画をよく貸してくれる、が今回渡された量はいつもより何倍もの量があった。
「こんなに沢山… 良いんですか?」
「うん、フブキが渡してって言ってたし大丈夫だよ」
そう言った大神さんの目は何故か分からないが少し悲しそうに見えた。
「…あの、何かありました?」
俺は思わず大神さんに問いかけた。
「…何も無いよ、何も」
大神さんはそう言うが俺にはやはり何かに悩んでいる様子に見える。
心ここにあらず、といった感じだ。
「でも」
「大丈夫!!」
それは店内に響く声だった。
「大丈夫だから…」
大神さんはやはりそう言う、拒絶の声。
踏み込み過ぎた、素直にそう思った。
これ以上は何も言ってはいけない、いや、言う度胸も勇気もない。
「……失礼しました。注文の品をご用意しますので少々お待ちください」
最低限の謝罪を残し、俺は逃げた。
それから数分、マスターに何かあったのかと聞かれたが気にしないでくださいと返し、カルボナーラを大神さんの元に運ぶ。
「お待たせしました、カルボナーラです」
「ありがとう」
俺は皿を大神さんの前に置き、先ほどの事もあったので直ぐに下がろうとした。
「では、ごゆっくりと」
「さっきはごめんね、大きな声出して」
「い、いえ。さっきは俺が変なこと言ったのが悪かったですし」
「そんなこと無い、あれはウチが悪いよ、荒川君は心配してくれたのにあんな態度取っちゃった、ごめんね」
大神さんは再度謝罪を述べ、食事を始めた。
その後は何も無く、大神さんの会計時に少し会話をした。
「…ありがとうね、フブキと仲良くしてもらって」
大神さんはそう言ってきたがそれは違う、むしろお礼を言うのは俺の方だ。
「いやいや、こちらこそありがとうですよ、こっちに来て右も左も分からない俺を助けてくれましたし。しかもそれ以降も仲良くしてもらって、感謝しかないですよ」
「ふふ、なら良かったかな」
「でもまあ、どうしたんですか? 急にそんなこと言うなんて」
「なんというか、言いたくなってさ」
そういう大神さんはやはり悲しそうだった。
「…大神さんもですよ、仲良くしてくれてありがとうございます」
これぐらいなら許されるだろう。
え、といった少し驚きの顔をこちらに見せる大神さん。
「…そっか、うん。ありがとうね」
悲しそうな顔には変わらないが、それでも少し笑顔になった大神さんはそう返してくれた。