祭当日、時刻は20時を回ったところだ。
BAR ROBELに集まった皆の顔を見た。
まつり、マスター、アルさん、あやめさん、ノエルさん、フレアさん、天真さん、オウガさん。
「それじゃあ、行きますか」
俺たちは白上神社に向かった。
街から出て白上神社に続く道のり、そこは多くの出店が並んでおり、人々で賑わっていた。
「おぉー、人間様たちが一杯だな」
「事情を知らない人から見たらただの祭りだからな」
「そうそう、俺だって事情知らなかったら普通にピザ屋の出店出そうと思ってたもん」
「お、焼きそばおいひーー」
「たこ焼きも美味しいですよ」
「何やってんのお前ら?」
出店でいつの間にか焼きそばとたこ焼きを購入して食べてるノエルさんと天真さん、騎士団コンビに突っ込みをいれるマスター。
「いや、だって美味しそうだったし」
「腹が減っては戦はできぬって言いますし」
「はぁ、状況分かっとんのか、この天然騎士団」
「まあまあ、ロベルさん、時間はまだありますし」
フレアさんはマスターに時計を見せまだ大丈夫だと宥める。
今の時間は21時を回ったぐらい、人混みもあるがこのまま真っすぐ進めば22時前には神社の入口には着くだろうという時間。
昨日、バーで作戦会議していたことが思い出される。
「大体神社入口から天守閣までの距離を考えると普通に行けば15分から30分もあれば着くはずですが」
テーブルの上に白上神社の見取り図を広げ、それを覗き込みながら話していた。
「まず間違いなく警備とかいっぱいおるやろうなぁ」
「はい、だから妨害も含めて1時間から2時間はかかるであろうと予想されます」
岸堂さんがそうまとめる。
「裏口とかどこか目につかないような入口とかは無いのか?」
荒咬さんが聞くが、それに白銀さんは首を振る。
「裏口の類は少なくとも騎士団に知らされているものは一つもないんですよ」
「成程、つまり正面からの突撃しかないのか」
「ねぇねぇ」
ふとまつりさんが声を上げる。
「今更なんだけどさ、ノエルとフレアに天真君はさこの襲撃に加わって良かったの? 騎士団所属なのに、確か白上一族は騎士団に警備依頼も出してるんでしょ?」
確かに。騎士団に所属している白銀さん、不知火さん、岸堂さんはこの情報を外部に漏らすというのは騎士団の裏切りという事にはならないのだろうか。
「私たちの方は大丈夫ですよ、私の部隊、白銀騎士団は今回警備依頼された部隊とは全く別ですので」
「私達の部隊の上の人は姫様だからね、もし今回のことを何か言われても事情を話せば大丈夫だよ。てか止められてもフブちゃんは私たちだって友達だから、何が何でも助けに行くよ」
白銀さんと不知火さんはそう言い切った。
「僕も大丈夫ですよ、一応警備依頼された部隊ではあるんですけど」
「え、そうなのか?」
アルランディスさんが思わず岸堂さんに聞き返した。
「うん、だってこの見取り図とか僕の部隊から持ってきたやつだし」
「え、それって大丈夫なの?」
百鬼さんも思わず聞き返した。確かに、それこそ騎士団の裏切りになると思うんだけど。
「ええ、だって今回の件があってもなくても騎士団辞めるつもりだったんで」
「え?」
「だから、何やらかしても大丈夫ですよ」
「え、え、ちょっと待ってくれ、騎士団辞める!?」
「はい」
「何でまた…」
「いやー、旅に出たいなーと」
「お前はほんと…」
アルランディスさんは思わず顔を手で覆った。
「まあいいや、作戦会議続けよう」
話を進めようとアルランディスさんは続きを促した。
「取りあえず全員、正門からの正面突破で異論は無いかな?」
不知火さんの言葉に全員頷いた。
「突撃するメンバーは俺、百鬼さん、白銀さん、不知火さん、荒咬さん、岸堂さん、ですね」
「…なあ、ちょっと良いか」
荒咬さんが口を挟んだ、何かあるのだろうか…
「あ、はい」
「ずっと気になっていたんだが、俺らのことは名前で呼んでくれないのか?」
「え?」
何を言われるのかと一瞬身構えたが肩透かしを食らった。
「あ、分かるー、名前で呼んでるのまつりちゃんだけじゃん、余、なんか壁を感じるんだけどー」
「えーっと…」
「うんうん、それに明日は皆で力を合わせないといけないんだし、なんか距離があるなー」
「不知火さんも…」
「なんや、名前で呼ばれへん理由でもあるんか?」
「マスター…、いや、えっとそんなんじゃなくてその…」
「その?」
改めて言うとちょっと恥ずかしいのだが…
「その、急に名前で呼んだら『え、いきなり名前で呼ばれたんだけど、そんなに仲良くなったわけでもないし、キモ』とか思われるのが嫌で…」
「は? 何言ってるんだお前、1ヵ月近く色々やってるんだ、十分仲いいだろ」
「えっと…」
「ほら、名前で呼べ」
「オウガ、さん」
「おう」
オウガさんは頷いた。
「次余―!!」
「あやめさん」
「うむ」
あやめさんは呼ばれて胸を張った。
「ノエルさん」
「はーい」
「フレアさん」
「はい」
「天真さん」
「うん」
「えっと、アルさん」
「はは、俺はニックネームだな、良いね」
「ロベ…マスター」
「はいはーい、っておい!! 俺だけそのまんまか」
「だってマスターはマスターですしおすし」
「はぁ、ま、ええわ」
「ねえねえ、まつりは?」
と、既に名前呼びしてるまつりさんが入ってきた。
「いや、まつりさんはもう名前で呼んでるだろ」
「呼び捨てが良い、そっちの方が仲良さそうだし」
「…まつり」
「ほい!!」
にへら、と笑みを浮かべるまつり。思わず惚れそうになっちゃう笑顔なので簡単に見せないでほしい。
「さて、虎太郎君の名前呼びが決まったところで話を続けるよ」
ノエルさんが話を作戦会議を促した。
「突撃するメンバーはさっき言った通り、後はまつり先輩とロベルさん、アルさんですけど3人には突撃するメンバーのオペレーターをお願いしたいんです」
ノエルさんはタブレットとイヤフォン型の無線を取り出した。
「このタブレットには白上神社の全体マップが入ってます、そしてこっちの無線は位置を発信する電波を発信されて、タブレットに何処にいるのかが分かるようになってます。ただ、この無線、普通の場所なら問題ないんですが、明日の白上神社のような妨害が予想されるような場所だと稀に位置情報がバグることがあるんですよ」
白銀さんの言葉にマスターは疑問を漏らす。
「バグる?」
「はい、その地が発している魔力だったり地脈だったり、電波が色々なものに混線しちゃうんです。だからこれらの道具を使う時は出来るだけ無線とタブレットは近くないといけないんです、今回だと白上神社正門付近ですね」
「成程、サポート役も神社の近くに行けばいいだけの話やな」
「はい、しかし、神社に近いとサポート組も狙われる可能性もあるので…」
「そんなの突撃するメンバーに比べたら屁でもないよ」
「うんうん、サポートは任せて」
着々と話が進んできた。
「それで突入した後なんですけど、騎士団情報を共有しますね」
天真さんは神社のマップを指さす。
「騎士団が護衛を任されているのはこの正門から一つ目の大広間に繋がる部分の廊下とその大広間に集中してます。それ以降の部分の警備は要らないと言われたらしいので恐らくその先は白上一族、そして大神一族が待ち構えていると思いましょう。天守閣は白上神社の5階、外から吹き抜けで見える場所ですね。で、ですね…」
天真さん何か言いにくそうにしている。
「どうした、天真」
「いえ、すみませんアランさん、大丈夫です。 これは正直、正しい情報なのか分からないんですが、正しい情報の場合、僕たちの一番の鬼門は恐らくこの三階の大広間です」
天真さんはマップの三階の大広間を指さした。
「んー? 何かあるのか?」
あやめさんが天真さんに聞く。
「はい、警備を担当するやつから聞いたんですが、この三階の大広間には白上一族も大神一族も配置しないらしいです」
「え、どういうことなの?」
思わずフレアさんがそう聞いたが、俺たちも同じ気持ちだ。階の殆どを占める三階の大広間を警備無しにするというのはどういうことなのだろうか。
「…恐らくなんですが、この大広間には白上一族、大神一族の警備が要らない何かがあるはずなんです」
「それがマズイやつっちゅうことか」
「はい、その四階の道中と大広間には変わらず警備を配置するらしいので…、頭の片隅に留めておいてほしいです」
全員深くうなずいた。
「これぐらいですね、騎士団が持ってる情報は」
「あ、ちょっと思ったんだけどさ」
あやめさんが何かを思ったのか口を開いた。
「確か本堂は吹き抜けの外から見える場所にあるって言ったよね?」
「はい、白上神社で一番高い所です、あやめ先輩」
その疑問にノエルさんが答えた。
「じゃあさ、建物全部無視してそのまま直接天守閣に突っ込むってことは無理なの?」
確かに、と思った。本堂は吹き抜けの天守閣、つまり外から見えているのならそこから入れるはずだ、あやめさんとかならジャンプで屋根伝いに行けば確実に行けるだろう。
「それは私たちも一瞬考えたんですけど、どうやら上手く行かないそうで…」
「どうやらその本堂には多重に防護結界が張られているらしくて外からは入れず、中からじゃないと入れないんです」
「余の刀でも切り裂けない?」
「はい、ほぼ無理かと…」
「はぁー、ノエルちゃんが言うなら間違いないかー」
どうやら簡単には行かないようだ。
「よっしゃ、皆大体理解できたな、他に共有しておくべき情報はないか?」
オウガさんがそう言うが誰も言葉を挟まない、つまりこれで全部のはずだ。
「じゃあ、神社に突入する時間は22時だとすると、20時ぐらいにここに集合で良いかな」
『異論なし!!』
と言うのが昨日あった。
皆と道を歩きながら俺は遠目から見える白上神社、その本堂を睨みつける。
流石にまだ白上さんはおらず姿は見えない。
「……い」
色々と思い出す、白上さんのあの表情。
「…ーい!」
泣きじゃくったあの日を。
「おーい!!」
だから俺は…。
「でやぁ!!」
その瞬間俺の口の中が灼熱に染まる。
「ふぉあ!?!? あ、あふ、あふい!!」
「やっと反応した」
そこには爪楊枝を持ったまつり、その手にはたこ焼きがあることから俺の口の中にその熱々の湯気が出ているたこ焼きを放り込んだんだろう。
「お、おまへ!!」
何とかゆっくりたこ焼きを咀嚼した。
「お前、やって良いことと悪いことがあるぞ!?!? こんな馬鹿みたいに熱いたこ焼きを入れるなんざ…」
「だって虎太郎、怖い顔してたよ」
「…」
心当たりがありすぎて何も言えない。
「フブキを助けに行くんでしょ、そんな怖い顔じゃなくてさ」
まつりがにぃーと笑顔を見せた。
「笑顔で助けに行こうよ」
「…そうだな」
それに釣られて俺も笑った、その時初めて俺は自分の顔が強張っていたのが分かった。
心のどこかで焦りとかあったんだろう、やり遂げなければとか、助けれなかったらとかの不安や焦燥が。
だが、俺は一人じゃないんだ。
それを改めて教えられた。
「ありがとう」
「どういたしましてー」
ただ、熱々のたこ焼きを口の中に放り込んだのだけは許さん。
「お礼に今度は俺がたこ焼き食べさせてやる、それを寄越せ」
「嫌だ!! 絶対に一口で放り込むつもりでしょ!! 馬鹿じゃないの!?」
「お前、今やった自分の行動を思い出せ!!」
このやり取りをマスターに止められるまで続けた。
「フブキ様、準備を」
面を付けた召使いが呼びに来た。
「分かりました」
白無垢のような衣装を着せられた私は本堂のある天守閣へと向かう。
私はこれから神になる。
白上と大神の一族の未来の為にこの身を捧げる。
生まれた時から既に決まっていたことだ。
家族の為になるのなら大丈夫。
だから、だから怖くない。
「……」
足が止まる。
「フブキ様?」
ダメだ。
怖いなぁ。
腕が震えているのが分かる。
あの時、あの公園で荒川君と引き離されてから1ヵ月。
外界との接触を、後悔を断つためにただひたすらに器の鍛錬に打ち込んだ。
打ち込まされた。二度とあんな弱音を吐かないように。
でも、それでも。
「…あの時、あの手を掴んでいたら何か変わったのかなぁ」
思い出すのは私に手を差し出す荒川君。
でも、彼はそのせいで傷を負ってしまった。
私に関わったことで彼が傷ついてしまった。
「フブキ様」
召使いとは別の面を付けた人が声を掛けてきた。
ああ、もう名前で呼んでくれないんだね。
面を付けた黒髪の召使いに促され、立ち止まった私は天守閣に向かって歩き出した。