古代進が、護衛艦夕月の艦長となったのは半年前であった。今、夕月は、ケンタウルス・リギルからの輸送船団を護衛する定時任務についている。
「今から、1時間後にエッジワース・カイパーベルトに入る。そうなれば、太陽系の中庭だ。」進は輸送船旗艦に呼びかけた。
「了解。やっと警備体制が解けるな、古代。」メインパネルに僚友の島大介の姿が浮かび上がる。
「ああ、戻ってくるとほっとするよ。いくら平和だと言っても万が一ってこともある。それに大切な人員と資源だからなあ。島。」
「そうさ、地球はまだ復興の途中だからな」島が遠くを見晴るかすような目になった。
西暦2205年、ガトランティス帝国との死闘の後、地球は急ピッチで戦禍の傷跡を回復させている最中(さなか)であった。
「なあ、島、お前、ヤマトに戻りたいんじゃないか?輸送船じゃ、お前の腕も宝の持ち腐れだろう。」進はいたずらっぽく笑った。
「お前こそ、主砲発射準備って言いたくてうずうずしてるんじゃないか、艦長代理殿。」島も軽口を叩く。
パネル越しに二人は笑った。
「お前の兄さんから手紙は来てるのかい?」
「年に1回。」
「まるで年賀状だなあ。」
「便りの無いのは良い便りって、兄さんは思ってるんだろうな。サーシャは4歳になったってさ。もうすぐ妹ができるそうだ。」
「じゃあ、お前も早くユキと、」
進の顔が見る見る赤くなる。島は吹きだした。
「しかし、平和だな。」ひとしきり笑った後島が言った。
「ああ、退屈だけど、何もないのが一番なんだろうな。」
「おいおい、年寄り臭いこと言うなよ。」島の言葉にまた二人は笑った。
「未確認飛行物体接近!!」警報と共にレーダー手の報告が聞こえる。
「位置を確認せよ。総員第1種戦闘態勢!!」進が叫んだ。
「位置は、x35y15z18.超大型ミサイル。護衛艦より大型です。」
「主砲発射準備、輸送船団。全速でこの空域から離脱せよ。」
「ようそろ。」
島の声と同時に、パネルがオフになった。
「この針路だと地球に衝突しかねない。通信士、至急海王星基地に連絡。援護要請。全砲門発射、目標大型ミサイル!!」
2日後、進は防衛軍の技術省に向かった。真田技術長に面会するためである。面会室にはもうすでに二人来ていた。島大介と防衛軍司令官藤堂である。藤堂の姿に、容易ならざる事態が進行しているのかと進は不安になった。
「ガミラスのものでも、ガトランティスのものでもありません。」真田はミサイルの破片をパネルに写しながらを説明した。「しかし、恐ろしく強力なミサイルです。おそらくまともに当たれば、地球など一瞬で吹き飛んでしまうでしょう。」
「いったい誰が何の目的で?」蒼ざめた顔で島が尋ねる。
「わからん。ただ、太陽系の周辺で大規模な戦闘がおこっているとしか考えられん。」藤堂が眉をひそめた。「軍の機密だったのだが、君たちには話そう。これと同じようなUFOをパトロール艇が11番惑星付近で目撃したのだ。最初は我々も彗星かと思っていたのだが」
「地球がまた侵略されるということですか」進は尋ねた。
「そうとは思えない。」真田が口を開いた。「ガミラスもガトランティスも宣戦布告をしてから始めている。軌道からも流れ弾としか考えられない。」
「君たちに新たな命令を伝える。」藤堂の言葉に3人は直立した。「1カ月後、遠洋試験航海に出る宇宙戦艦ヤマトに古代、艦長として着任せよ。」
「ええっ?自分はまだ未熟。」
「お前以上の適任がいるとは思えんがな、古代。」藤堂は続けた。「艦長古代の補佐役として、真田志郎、島大介、副長を命ずる。古代の補佐をせよ。」
「はっ!」二人は敬礼した。
「当初のヤマトの目的は、新兵の訓練をかねた遠洋航海であったが、太陽系外縁部で戦いが起こっている以上、乗組員の安全と状況調査のために、お前たちの経験が必要だ。旧乗員たちにも、順次命令が行く。」
その日の夕方、進は久しぶりに、地上勤務のユキとデートをした。茜色に染まった水平線に大きな夕日が沈んで行く。風が海の匂いを運んできた。柔らかな空の色、草のほのかな臭い、宇宙から帰ったばかりの進には、繊細な地球の風景はことのほか美しく感じられる。
「ねえ。進さん。」
「ユキ?」
「私にも乗艦命令が来たわ。南部君や太田君にも」
「久しぶりに、全員集合になるんだなあ。」
「ガトランティス戦役以来だから、4年ぶりね」
「もう、そんなに経つんだなあ」
「乗艦したら、進さんは艦長、私は生活班長。ヤマトの中では、古代艦長って呼ばなきゃならないのかしら、古代君じゃダメ?」ユキが甘い声で囁いた。
ユキの肩を抱き寄せながら、進は答えた。
「古代君でいいさ。僕はまだ、未熟だよ。島や真田さん、ユキやアナライザーの力も借りないとね。」
互いの気持ちはわかっているはずなのに、なぜか一歩が踏み出せない。進は自分がもどかしかった。結婚するならユキ以外は考えられないのに、なぜ、兄の守とスターシャのようにできないのか。ユキだってそれを望んでいるはずなのに、そう進は思った。
「進さん、どうしたの?ぼんやりして。ヤマトのことでも考えてんでしょ」
「違うよ。久しぶりのデートだったからもっと、気の利いた場所にすれば良かったかなって」
「気の利いた場所って?」
「う、う~~ん、例えば立体映画館とか・・・」
「進さん、ヤマトで初めて火星に降りた時のこと覚えてる?」
「うん、ドライアイスの雪が降ってたよね。」
「あの時、私、地球ではもう見られない風景ねって言ったの。」
そうだ。ガミラスの遊星爆弾で荒廃した地球は、見るも無残な姿だった。みんな絶望の中、ヤマトに希望を託したのだった。
「でも、今こんな美しい風景の中にいられるんだもの。」
二人は水平線を見つめた。日がすでに沈み、藍色の空に星が一つ二つと輝き始めた。
「ヤマトから見た星空は、怖いほど深い黒、でも、地球の底から見るこの星空の色が私は好きなの。」
風が冷たくなってきた。進は上着を脱ぎ、ワンピース姿のユキの肩をその上着でそっと包んだ。
次の日、宇宙戦士訓練学校では卒業式と同時に、配属先の発表が行われた。
一人の訓練生が憮然とした様子で掲示板を見つめている。
「土門。」その訓練生に声をかけた青年がいる。すらりとした体格と整った顔立ちが印象的だった。
「揚羽か。」土門と呼ばれた訓練生が振り返った。先ほどの青年よりはやや小柄だがまだ少年の面差しが残るあどけない顔立ちだった。しかし、訓練生の瞳には、どこか暗い影が宿っていた。
「どうしたんだよ、土門。しょっぱい顔してさ。ヤマトに配属されたんだろ?」
「ああ、されたさ、でも・・・」
「どうしたのさ?」
「生活班、炊事係だってさ。」土門は吐き捨てるように言った。
「ええっ?お前、確か、戦闘班希望じゃ?」
「ああ、でもダメだった。」舌打ちが聞こえる。「お前はどうだったんだい?揚羽」
「希望通り、ヤマトのコスモタイガーに配属になった。」すまなそうな声である。
「ああ、やっぱりね、揚羽コンツェルンの御曹司と戦災孤児とじゃ、雲泥の差さ。」思わず言葉が出て、さすがに土門もしまったという顔になる。
「怒るぞ、お前。それじゃまるで俺が、コネで入ったみたいじゃないか。」
「すまん。お前がパイロット科一の腕前だったのはみんなが知ってるさ、俺が悪かった。つい、カッとなって」
「いいさ、そんなこと。でも人事の連中もどこに目をつけてるんだか。お前が砲術科でトップの成績なのを知ってるはずだぜ。」揚羽は慰めた。
「お~~い、揚羽、土門。」訓練生が二人を呼んだ。「これから打ち上げをやるんだ。お前らも来いよ。」
二人は急いで彼らと合流した。
夜、寮の一室で土門竜介が、荷物をまとめている。隣の部屋のいびきがここまで聞こえてくる。
みんな、弾けてたもんなあ。
竜介の頬がほころぶ。竜介はその笑顔のまま机の上の写真を見つめた。両親と一緒に写った写真である。12年前の写真だった。
行ってくるよ、宇宙へ、父さん・・・母さん・・・
宇宙戦艦ヤマトⅢの世界観の二次創作ですが
2201年の白色彗星以降は、地球は侵略されていない設定で
イスカンダルのスターシャさんも守兄さんも存命です。
(新たなる旅立ちと永遠にはなかったことにしてあります)