「α星の戦艦の位置は」
次元潜航艇ガルマンウルフ号の艦内でフラーケンはレーダー手に尋ねる。
「位置x15y21z30、距離2万宇宙km」
「よし、1500宇宙kmまで全艦ワープ。その後、次元空間に潜航、射程距離まで接近。」
フラーケンの緊張が、ハイニにはピリピリと伝わった。
「ねえ、先輩。今日の夕飯は何ですか?」
「何だ、土門。珍しいな、お前がそんなことを聞くなんて」
「いや、俺じゃなくて。揚羽がたまにはビーフシチューが食いたいなって、うるさいんですよ。」
「そうか。じゃ、明日の飯はビーフシチューにしてやろう」二人は食糧庫の備蓄を確認しながら笑った。
バース星での戦闘の後、宇宙は静かだった。決まり切った日常が続いていく。漆黒の闇の中、星々のきらめきが眩しいほどだ。しかし、生活班の二人にとって、外を眺められるのは、自由時間のみであった。
「キャプテン。ヤマト射程距離内に入りました。」とレーダー手
「よし、全艦亜空間魚雷、準備。」
「2号艦、発射準備完了、3号艦・・・」ハイニは、僚艦の状況を告げる。なぜ、亜空間魚雷の爆薬を半分にしなければならないのか。ハイニは心の中で舌打ちをした。いつも俺たちは、一発で敵を仕留めてきたのに「全艦、準備完了。」
「よし、1号艦から3号艦はヤマトの艦首、デスラー砲発射孔に、8号艦から10号艦はヤマトエンジン部分に魚雷集中攻撃。他艦はヤマト両舷と艦底部の突出部(第3艦橋)を狙え。亜空間魚雷、発射。」
次元空間に、無数の魚雷が航跡を引いた。ヤマトに向かって。
展望室に向かっていた、竜介と平田は激しい衝撃に床に叩きつけられた。他の隊員たちも転がっている。
「な、何が起きたんだ。土門。大丈夫か。」「大丈夫です。先輩」
コスモタイガーの隊員たちも機体から放り出された。
「隊長、ハッチが開きません。」「何だって、艦長室に報告しろ」
第一艦橋も、パニックに陥っていた。
「被害状況を報告せよ」進は放り出された座席に戻ると艦内に呼びかけた。
「第三艦橋半壊!」「波動エンジン噴射口、被弾。ワープ不可能。」「波動砲被弾。魚雷です。」
「太田。レーダーはどうなってるんだ。」相原が叫ぶ。
「レーダーに何も映ってないんだ」太田も叫び返した。
「故障か?」南部の問に「いや、どこも異常が無い。」真田が答えた。
「このままじゃ、嬲り殺しだ。古代。」
「くそぅ。敵はどこに居るんだ。」
「大丈夫ですか、平田先輩。」
「ちょっとねん挫しただけだ。急いで戻ろう、ここは危ない。」平田が答えたのと同時だった。
轟音とともに、その場の全員が吹き飛ばされた。
「ううっ。」竜介はようやく立ち上がり、辺りを見回した。コスモタイガーのパイロットが倒れている。「大丈夫か」抱き起すと、夥しい血があふれてきた。すでにこと切れている。
「平田さん」瓦礫の中に腕が出ている。「先輩。」引っ張ると腕だけがずるりと抜けた。「平田さん!!」
思わず瓦礫に取りつく。その時、警報が鳴っているのに初めて気がついた。「隔壁閉鎖」「隔壁閉鎖」
気圧が下がっている。シャッターが閉まる前に戻らねばならない。
「何をやっている、死にたいのか。」衛生兵が竜介の腕をつかんだ。
「先輩が」「もう、手遅れだ。」
衛生兵は竜介の襟首をつかんで引きずり出した。2人が隔壁のなかに入るのとシャッターが閉まるのがほぼ同時だった。呆然としている竜介の耳に艦内放送が聞こえてきた。
「土門隊員。至急第一艦橋へ」
「全弾命中。ヤマト噴射口損傷。」報告を聞き、フラーケンの片頬に薄い笑いが浮かんだ。
「なんだ。あの戦艦。見掛け倒しじゃねえか。」ハイニは拍子抜けしたような顔をした。「次元ソナーも持ってねえみてえっすよ」
「油断するな馬鹿者。全艦魚雷発射準備」
「土門、お前は訓練学校で異次元戦闘を選択していたな」第一艦橋に入ってきた竜介に真田が話しかけた。
「はい、そうですが?」
「今、ヤマトを襲っている敵は、次元潜航艇らしい。土門、お前の意見が聞きたい。」進がつけ足した。
「わ、わかりました。」呆然としている竜介にさらに言葉がかけられた。
「俺たちも初めての相手なんだ。しっかり頼むぞ。」
これで先輩の仇が取れる竜介はそう思った。
「と、とにかく、見えない敵をあぶりだすには、波動爆雷を使うのが一番だと思います。角度は30°、これで大抵の相手の位置がわかるはずです。真田副長、次元ソナーの政策をお願いします。」
「分かった」真田は第一艦橋を飛び出していく。
「よし、南部、波動爆雷発射。」「波動爆雷、発射せよ。角度30」
「波動爆雷、きます。」
「全艦、最深度まで潜航」
「2号艦、3号艦被弾」
さすがに手ごわい、長引けはこちらが不利だ。フラーケンは舌を捲いた。
「やむを得ん。ヤマトの艦長室(第1艦橋)に向け、亜空間魚雷発射。」これで、指揮官の何人かは死ぬだろう。だが、機関部が無事ならば、磁力メッキとデスラー砲の秘密はわかるに違いない。
「艦長、だいたいの位置が分かりました。爆雷の連続発射を」
「よし、連続発射。」
その言葉と同時に、亜空間魚雷が第一艦橋に襲い掛かった。皆、なぎ倒される。
「大丈夫か、南部、島。」しかし、誘爆が進を襲った。
「艦長。」「古代君」ユキが駆け寄った。「佐渡先生。」島が佐渡を呼んだ。
「艦長室付近に被弾。かなりのダメージがあった模様です。」レーダー手がいった。
「攻撃続けますか?キャプテン?」ハイニの問に
「しばらく待て」フラーケンは腕を組んでいる。
「何でキャプテン、チャンスじゃないすか?」
「生きたまま捕えろと言う命令を忘れたのか」フラーケンの眼が光る。
佐渡とユキは進を担架に乗せて、第一艦橋から運び出した。
「艦長は、艦長は」
「落ち着け土門。佐渡先生がついている。古代は死にはせん。」島がたしなめた。「今は俺たちで、敵を倒さねばならないんだ。頼むぞ、土門、お前の知識を借りたい。」
竜介が頷いた。
「次元ソナーの設置が終わったぞ。今から第一艦橋に戻る。」真田の声が飛び込んできた。
「次元ソナーさえあれば、連中の動きは筒抜けです。」竜介の顔が輝いた。
「俺が作動させる。みんな静かにしてくれ。」
「ヤマト艦底部に反応。次元ソナーのようです。」
「よし、2号艦、ヤマト前方へ向けて発進。3号艦、ヤマト後方に移動」レーダー手の報告を受けたフラーケンの命令は信じられないものだった。
「キャプテン!それじゃ敵に筒抜け」ハイニの問にフラーケンの答は無い。
「反応があった。1つはヤマトの前方、6時の方向。もう1つは、ヤマトの後方12時の方向。距離15宇宙km」
「爆雷の発射お願いします。」「波動爆雷発射」南部が伝達した。
傷ついた2号艦も3号艦も防ぐ術はない。異次元から飛び出した潜航艇に、第一艦橋のスタッフたちは一瞬息を呑んだ。
「第1砲塔、第3砲塔、主砲発射。」南部の命令が聞こえる。
ビームが走り、閃光と共に潜航艇が砕け散る。
「やったぞ。」竜介は思わず叫んだ。
「いまだ。全艦。至近距離より亜空間魚雷発射。」フラーケンの命令が響く。
歓喜の叫びも一瞬だった。無数の亜空間魚雷が再びヤマトに突き刺さる。
「あの艦は囮だ。次元ソナーの弱点をついてきた。なんて奴らだ。」真田が叫び、竜介は呆然とした。
「よし、4号艦から8号艦まで潜航したまま、ポイントK2まで移動。ヤマトを東部方面軍機動要塞まで引きずり込め。」フラーケンは僚艦に命令した。
「通信回線開け」パネルにガイデルの姿が映し出される。「ヤマトを吊りだしました。ポイントk2に移動中です。」
「よくやった。ガルマンウルフ。とどめはこちらで刺す。」
「潜航艇が逃げていくぞ」真田がソナー音を聞きながら叫んだ。
「追いかけましょう。副長。」と言った竜介に
「まて、なぜ逃げるんだ。」島が尋ねた。
「弾が切れたのでは」竜介は思わず言った。
「そうだな、今仕留めておかなければ、後後、厄介になりかねない。」真田も応え、島は頷いた。
「損害状況を報告してくれ。」島が呼びかけた。
「こちら、艦底部、第3装甲板まで破壊されました。死傷者目下のところ不明。おそらく多数。」「第3艦橋の乗員全員死亡」「第2主砲被弾。乗員3名死亡、負傷者いずれも重体。」「波動砲発射口に亀裂」次々と被害を伝える報告が入ってくる。
「なんて奴らだ。やはり、ガルマン帝国なのでしょうか?」竜介の問に
「魚雷の破片から見ても間違いないだろう。太田、ソナーをレーダーと連動させるぞ。」
レーダーに機影が浮かび上がった。
「この速度なら、30分で追いつけます、真田さん。」島が言った。
平田先輩、仇は必ずこの僕が、竜介は心の中で誓った。
「ヤマトは、俺たちには全く気付いてないみたいっすよ。」ハイニが呟いた。
「まだ戦いは終わっていない。気を緩めるな。」
ヤマトが、罠に気づいて転進するのを叩く任務がまだ残っている。
「よし、15宇宙kmまで近づいたぞ。」
「波動爆雷発射お願いします。」「波動爆雷発射、準備。」南部が答えたその時だった。
「前方に大型要塞出現。」レーダーを切り替えた太田が叫んだ。「すごい加速です。」
「しまった。」真田が唇をかんだ。「あの潜航艇艦隊そのものが囮だ。この要塞でヤマトを仕留めるつもりだ。」
「真田副長、波動砲は使えません。」南部が声を絞り出す。
「波動砲とワープを封じるのが第一波の目的だったんだ。」島がうめく。
「島、反転上昇しろ。」「ようそろ。」
「第一砲塔、主砲発射」南部の命令で発射されたビームも要塞の壁に跳ね返されている。
要塞の側面が大きく横に張り出した。そして上部も
「上昇も転回も間に合わない。激突する。」「島、下降しろ。」
ヤマトは要塞の底部に潜り込んだ。しかし、要塞本体も下降した。
「このままでは押しつぶされるぞ。」真田が叫んだ。
真上に巨大な鉄の塊が迫ってくる。音も無く塊に亀裂が走り空洞ができた。ヤマトはその空洞に飲み込まれていく。
「なんだ。真っ暗だぞ。どうしたんだ。」竜介は叫んだ。
「慌てるな。どうやら捕虜にされてしまったらしい。完敗だ。」
「古代、すまない。」島が肩を落とした。
「そんな、波動砲を使いましょう。」竜介の問に
「見ろ、反射版が埋め込まれている。空間磁力メッキだ。波動砲を撃ったとしても自滅するだけだ。」真田は静かに答えた。
「メインパネルに通信が入っています。」相原の叫びと同時に、映像が映し出された。
「ほう、これは」ガイデルは、真田達メインスタッフの姿に息を呑んだ。「君たちが宇宙戦艦ヤマトの指揮官たちか、思ったよりも若いな。君たちの勇気と知恵に、私は心からのエールを送りたい。私は、ガルマン帝国東部方面軍司令官ガイデルである。」
「では、あのダゴン将軍の後任か。」島の言葉に、ガイデルは仰天した。
「君たちはラジェンドラ号に加勢し、わが軍の第7機甲師団を全滅させた。君たちがボラー連邦の一員と分かった今、君たちの母星α星も残念ながら、我々の交戦国になる。しかし、我々はボラーとは違う。我々は、捕虜を虐待はしない。君たちは速やかに武装解除をし、下船したまえ、君たちの身の安全と尊厳は保証し、負傷兵には十分な治療を行うことをここに約束する。」
「もし、断ると言ったら」竜介は思わず叫んだ。
「気の強いことだ。」なかなか骨のある小僧だ、ガイデルは笑った。「当然ヤマトごと破壊する。君たち二人が、司令官のようだな」ガイデルは真田と島を見つめた。「負傷兵のことを考え、速やかに決断されよ。」
「解りました。艦長に報告したのち、下船します。」真田は答えた。
「まだ戦えます。」ガイデルの映像が消えるや否や、竜介は叫んだ。「ヤマトが負けるはずがありません。」
「よせ、我々の完敗だ。敵潜航艇の魚雷は、爆薬を半分にしてあったのだぞ。」真田が説明した。
「何ですって?」
「潜航艇の艦長はヤマトを一発で撃沈することができたのだ。それを、生きたまま捕えさせた。被害が軽微なので油断させ、次元ソナーに慣れてないことも承知で、僚艦さえも犠牲にして、恐ろしい奴だ。」真田はうなった。「そんな部下を使っている司令官が、あの男なんだ。並みの男であるはずが無い。今は耐えるしかない。地球のために。α星の戦いは、ダゴンが勝手に始めたことを、ボラーの同盟国ではないことを、あの司令官に説明し、地球を守るしかない。」
真田の言葉に島も頷いた。
医務室に3人は急いだ。
「どうしたんだ、3人とも」真田・島・竜介の姿を見て、佐渡は訝しんだ。
「古代の様子は?」
「手術は終わった。命に別状はない。麻酔が切れるまで目は覚めんが、何があったんじゃ島?」
「ヤマトが捕虜になってしまいました。」島はうなだれた。
「ええっ。」ユキの声に竜介は膝をついた。
「僕のせいです。僕が未熟だったから」
「何を言う。お前は立派にやってくれた。」真田と島が慰めた。
「とにかく退艦命令が出ました。ガルマン帝国東部方面軍の総司令官から」
乗組員は武装解除させられ、部署ごとに集められた。ユキは衛生兵として佐渡と共に古代の病室に付き添った。進の意識はまだ戻らない。
「捕虜になるとは、情けない。」佐渡がぼやいている。
「土門隊員。大丈夫?」ユキが尋ねた。幸いにも生活班と衛生兵は、一緒にいることができる。
「班長。申し訳ありません。」竜介の眼に涙があふれ出した。
「勝敗は時の運よ。どんな時でもあきらめず、生きていさえすれば、明日の希望は見いだせるわ。少なくとも負傷兵にはきちんとした手当てが行われたのよ。もうすぐ長い一日が終わるわ。とにかくよく眠ること、そして食べること。いいわね。」
大事なことは食べることと、眠ることだ。平田の言葉が甦る。だが、先輩はもうどこにもいないのだ。遺体すらなく、お別れをすることすらできない。先輩、先輩の仇は必ずこの俺が。竜介は涙を拭いた。
「ご苦労だったな。フラーケン、ハイニ、そして、ガルマンウルフ艦隊の諸君。」
ガイデルは、帰還した一同を集めて労った。
「本来ならば、デスラー総統から直々のお言葉と勲章授与があってしかるべきの働き。しかし、君たちは、あくまでも影。名誉も私からのものとなる。許してもらいたい。」
「とんでもありません。我ら一同、ガルマンの独立と自由を守るため、これからもボラーとの戦いに、命を捧げます。」フラーケンは敬礼した。「今回は僚艦2艦を失う損失がありましたが、無事、敵艦を鹵獲することができ、戦死した仲間も喜んでいることでしょう。」
フラーケンの言葉に、ハイニは涙ぐんだ。ヤマトのせいで死ななくても良い仲間が死んだんだ。
「諸君ら十分に休養を取ってくれ。休暇が明ければ、またボラーとの戦いが始まる。」
「なんですと?ダゴン将軍がそんなことを?」夜、ガイデルの私室に呼ばれた2人は驚いた。
「ヤマトの指揮官の言うことを信ずればだが、敵相手にそんな大ぼらを吹くとは。」ガイデルは呆れかえっていた。
「α星の首脳部に確認するほかないでしょうな。」
「やっぱりね。目立とう精神っすよ。総統には話すんすか」
「言わざるを得んだろうな、きっとお怒りになるだろう。儂も責任は免れ得ないだろうな。」
「でも、ガイデル提督の手腕を買っていたからこそ、バース星の攻略に。」
「ヤマトと言うα星の戦艦を手土産にするほかないだろうが」ガイデルは頭を抱えた。
「ガイデル提督」ブザーが鳴りパネルに技術将校の姿が映し出された。「あの戦艦の母星は、ケンタウルス・リギルではないようです。」
「何?ではどこの星なんだ。」
「はっ。航路データから、彼らの母星は、ケンタウルス・リギルより、さらに辺境。4.3光年先にあるこの星のようです。」
パネルに地球の姿が映し出された。青く美しい姿に3人とも言葉を失った。
「いや~~。きれいだな~~。」
「レ・リスカも青いが、この星は海の」
「何と言う美しさだ、デスラー総統の別荘地に相応しい。」
「この星をプレゼントすれば総統のお怒りも、相当和らぐんじゃ」ハイニがまた寒い冗談を言った。
「この星をプレゼントするおつもりなら」フラーケンがニヤリと笑った。
「いや、今はプレゼントはヤマトだけでいい。まずは、ダゴンの失態を報告せねばならん。ヤマト一隻でこれほど手こずらせた星だ。辺境とは言え恐るべき科学力なのかも知れん。」