ヤマト三度、宇宙へ   作:ryoko22

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第12話 得難きもの

その日、総統府の執務室で、タランとキーリングからの報告を聞き終わったデスラーが、おもむろに言った。

「ガイデルからの連絡が無い。」何か拗ねたような言い方だった。

「はあ?」タランは絶句した。

「聞こえなかったのかね。10日以上も音沙汰無しだ。」

「しかし、総統閣下。元々、東部戦線の報告は結果が出てからが、多かったのではありませんか。」キーリングも不思議そうに答えた。

「第7機甲師団が、壊滅した。補充をしてやったほうが良かったのかもしれぬ。」

「補充が必要なら、ガイデル提督はご自身で総統にお願いすると思いますが。」タランがつけ足した。

「何か嫌な予感がするのだよ。」

「予感・・・ですか」総統らしくもないタランは首をかしげた。

「考えられ得るとすれば、シャルバート信者どもでしょうが、東部戦線にはバースの兵士たちもおります。滅多なことはできないでしょう。」キーリングが答えた。

 

「お疲れなのかな。」「お気に入りのガイデル提督の戦果報告がなくて、寂しいのではありませんか」退出後、二人は総統府の廊下で話した。

キーリングはさすがに切れ者だ。タランはいつも思う。秘密警察を駆使したシャルバート信者のあぶり出し、内偵・調略によるボラー衛星国のかく乱、ガルマン帝国の屋台骨を支えるのは、まさに彼なのだ。軍事による勝利など一時のもの、戦わずして勝つ、その体現者がこの若者なのだ。これほどの業績を上げながら、驕りも野心も無い。贅沢にも無頓着、なぜ、こうも無私でいられるのか。

「どうされました?タラン将軍?」

「キーリング内務大臣、シャルバート信者の動向は?」

「実は、将軍の中にもいるのです。」キーリングは声を潜めた。「証拠がまだですが、ハイゲル将軍はまず間違いありません。あと」キーリングは概要を説明した。

「すぐに、総統閣下にご報告を。」

「でも、証拠が」

「構いません。」二人は執務室に戻った。

「解った。ガルマン首脳部の中にまでシャルバートか。」デスラーは憮然とした。「まず、頭をつぶす。明日、定例議会があったな。そこで捕える。」

 

定例議会で、キーリングの追及を受けたハイゲルは自決した。シャルバート信者であると自白したのも同じであった。時を置かず、秘密警察によるハイゲル一派の拘束が行われた。

「おめでとうございます。総統。」その夜、タランとキーリングは、総統の私室で、祝杯に預かった。

「主だった信者は捕えましたので、今後、抵抗は少なくなると思われます。」

「長い道のりだったな、キーリング内務大臣。全ガルマン人に代わって礼を言うぞ。」

「狂信者の始末は」タランが聞いた。

「ベムラーゼのように粛清できれば、いいのだが」

「収容所に入れます。収容所内で騒ぎでも起こせば、それを口実に」

「ベムラーゼのようにかね。」デスラーの問にキーリングは頷いた。

「狂信者どもには、ベムラーゼのやり方しかないという訳か。」デスラーはため息をついた。

「総統閣下。東部方面軍総司令ガイデル提督から、入電がありますが。」

「至急回線を開け。」デスラーは二人ににこやかに言った。「今宵は良いことが重なる。」

 

パネルに現れたガイデルは、心なしか蒼ざめていた。

「どうしたね。ガイデル、その顔色は」デスラーは穏やかに話しかけた。

「総統。申し訳ございません。第7機甲師団を壊滅させたのは、総統から侵攻を禁じられていた最辺境の恒星系の戦艦、宇宙戦艦ヤマトでした。」ガイデルは平伏した。

「何。」デスラーの眉が吊りあがる。

「私は、ヤマトのバース星寄港を知り、ボラー連邦の同盟国と思い、ヤマトと戦い、拿捕したのです。」

「なぜ、なぜそれを早く知らせない!」デスラーはグラスを握りつぶした。怒りの凄まじさに、ガイデルは震えあがった。キーリングも呆然と見つめている。

「お、お許しください。総統閣下。ヤマトの乗組員は皆、客人として逗留しております。」

「黙れ。なぜ独断で」

デスラーの怒りが収まらない。まずい、とタランは思い。パネルに割って入った。

「ガイデル提督。今は通信を切る。しばらく待って下さい。どうかご短慮はなさらぬように。」ガイデルとタランはパネル越しに見つめ合った。

「タラン!勝手なことを」通信を切ったタランに、デスラーの怒りは収まらない。

「キーリング内務大臣、しばらく外に出ていてください。」

「しかし」

「大丈夫です。」タランはキーリングを外に追い出した。

 

「タラン!」

「総統閣下。厳罰を承知で申しあげます。一体なんのお怒りですか。ガイデル提督が、命令を無視し、独断でヤマトと戦ったことに対してですか?」

「そうだ!分かり切ったことを聞くな!」

「私にはそうは思えません。」

「何?」

「我々ガミラスが勝てなかった唯一の戦艦。総統閣下ですら、辛勝しかできなかったあのヤマトを、易々と拿捕したガイデル提督への嫉妬なのではありませんか。」

デスラーは怒りの余りか言葉が続かない。

「確かにガイデル提督は、部下の監視が甘かったのかもしれません。ですが、我々とて、キーリングの情報を提督に伝えなかったではありませんか。ガイデル提督が聞いていれば、別のやり方があったのではありませんか。」

デスラーは椅子に座った。

「総統、前に私におっしゃったではありませんか。僅かの罪で有能な部下を失う自由は無いのだと。閣下。ガルマンは、ボラーとシャルバートの二正面作戦を強いられています。その上、部下の離反を招けば、到底ボラーと戦うことはできません。ガルマン人とガミラス人の未来はどうなるのですか。」

「私に部下が背くというのか」

「もし、ガイデル提督を失うことになれば、ガルマンウルフは二度と総統のためには働きますまい。それでもよろしいのですか。」

デスラーの眼から怒りが消えた。

「これほどの事を申し上げたのですから、私は死罪でも構いません。私の命を持ってガイデル提督の罪をお許しください。ガルマン帝国の未来のために。」

「ガイデルも、君も、キーリングも、」デスラーは静かに言った。「ガルマン帝国にとっては必要な人材だ。余人をもって代えがたい。そう君に言ったはずだぞ。」

 

ガイデルは回線の切れたパネルの前で微動だにもしなかった。何時間たったのであろう。パネルに光が入った。

「ガイデル。」穏やかな声でデスラーは言った。先ほどの怒りは微塵もない。「すまなかった。」

「はっ。」ガイデルは敬礼した。

「もっと詳しく、ヤマトと地球のことを話しておくべきだった。」

「ガミラスの友好国とは知らず、申し訳ありません。」

「友好、そんなものではないな。」デスラーの片頬に苦い笑いが浮かぶ。「あれは因縁の戦艦だ。」戸惑うガイデルにさらに続けた。「今回の事は、一切不問にする。今後もガルマンのために働いてほしい。君は得難い人材だ。」

「はっ。」ガイデルには全てわかった、タランが命懸けで説得してくれたことを。

「ヤマトの艦長に会いたい。」

「はい、古代艦長にすぐに来て貰います。」

 

第一艦橋のメインスタッフは全員、ガイデルの執務室に集められた。

「ヤマトの諸君、久しぶりだね。」パネルにデスラーの姿が写っている。

「デスラー」「本当にデスラーだ」

「デスラー、元気そうで何よりだ。ガルマン帝国は君たちの星だったんだね。本当にガミラスを復興させたんだね。おめでとうを言わせてもらうよ。」進は感極まった声を出した。

「ケガをしているようだが大丈夫か。」

「ケガはしょっちゅうさ。白色彗星の時もやられたけど、今回が一番やられたかもしれない。」進は笑った。

「古代、艦長就任、おめでとう。」

「ありがとう。デスラー。」

「ところで古代、なぜヤマトはここまで来たのかね」

「新人の演習航海だった。だけど、α星で、ラジェンドラ号と第7機甲師団の戦いに巻き込まれて、こうなってしまった。」

「新人?」

「白色彗星との戦いで、我々第一艦橋以外の乗組員は殆ど戦死した。」

「そうだったのか。ボラー連邦と同盟した訳ではないのだね。」

「僕たちには何の権限もない」

「そうか、お詫びを兼ねて、ガルマン本星に招待したい。受けてくれるね古代。」「デスラー、喜んで。」

「ガイデル、案内してほしい。ヤマトを。」「はっ。承知いたしました。」

「しかし、」デスラーは乗組員たちを見回した。「4年ぶりだな。皆変わりなく何よりだ。積もる話が山とある。古代、怪我が治ったら早く来てくれ。ユキと一緒に。」

「ありがとう、デスラー」「復興おめでとう。」ユキも真田達も口々に言った。

 

「では、罪は許されたのですか」「よかったぜ、おやっさん。」会見の後、ガイデルの私室でフラーケンとハイニがそう言った。

「いや、驚いたな。あの若い艦長と指揮官たち、本当に総統の友人のようだ。あの総統に敬語も使わず、考えられん。」

「いつ出発するんです?」「ヤマトの修理は殆ど終わったから、後は、古代艦長が回復し次第だろうな。」

「死んだ奴の事、悪く言いたかねえけどさ。」ハイニは竜介に殴られた頬をさすりながら言った。「全部ダゴンのせいじゃねえすか。」

「そういうな。儂の参謀として働いていた時は、有能な人間だった。人間、鎖につないでいたほうが良い者もいるようだな。」

「おやっさん、頭のマッサージしましょうか?」ハイニが言った。

「やってもらおうか。きっとガチガチに凝っているだろうな。」ガイデルはようやく笑みを見せた。

「それより、風呂はいかがです?」フラーケンが勧める。

「おやっさんのお背中、流しますよ。」

3人は、ゆっくりと湯に浸かった。ガイデルもすっかりくつろいだ表情になっている。提督の一番長い日が終わろうとしていた。

「しかし、フラーケン、よくあの小僧を射殺しなかったな。もし、射殺していたら、いかにタラン将軍のとりなしがあったとしても、みんな罪を免れ得なかったことだろう。」

「ハイニのおかげですよ。シャルバートか?と問いただしてくれなければ、私はあの小僧の頭をぶち抜いていたでしょうから。ハイニには2度助けてもらった。」

「えっ?2度?俺が??」

「ヤマトがデスラー砲を装備してあることを、お前が看破したではないか。そうでなければ、皆、第7機甲師団の二の舞になっていただろう。」

「へへへ、なんか俺、照れちゃうっすよ。」

「お前が優れているのは直感だけだ。」フラーケンの言葉に3人は笑った。

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