ヤマト三度、宇宙へ   作:ryoko22

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第13話 未来のために

ヤマトの出港も間近に迫ったある日、竜介は揚羽とガルマン要塞の大浴場を訪れた。

「本当だ。まるでローマ風呂だなあ。」揚羽は感心している。「見ろよ、天井もドーム状になって、水滴が流れやすくしてある。考えることはみんな、おんなじなんだなあ。」

「早く入ろうぜ、自由時間が終わっちまう。」竜介は揚羽を促した。

ゆったりと湯船につかる。

「揚羽、どうだい。宇宙の風呂は?」

「ずるいよな、お前。脱走、俺も連れてってくれたらよかったのに」揚羽の言葉に仰天する。

「ばかいえ。俺は殺されるところだったんだぞ。」

「え、訓練学校の射撃でもトップ3だったじゃないか」

「全く歯が立たなかったよ。生きてるのも偶然さ。シャルバート信者と向こうは思ってたんだし」揚羽の顔から笑みが消えた。きっと、バース星の警備兵のことを思い出しているに違いない。

「そうか。でも、俺、嫌だな。」「何が?」

「ガルマン本星に行くことさ、お前平気なのか。」

「平気なもんか、ガルマン帝国は、ガミラスの星なんだぞ。あのガミラスの」竜介の瞳に暗い影が宿る。父さん母さんが死んだのも、自分が施設をたらい回しにされたのも、平田先輩が死んだのも、全部ガミラスのせいだ。許さない。

「おい、お前、あのちびじゃないか。」不意に上から声がかけられた。

竜介も揚羽も顔を上げる。食堂で竜介の真向かいに座った、あのバースの兵士だった。今日は連れがいる。

「仲間か」バースの兵士は揚羽に声をかけた。「はい。」

「お前、」兵士は竜介に話しかけた。「あの傭兵たちと」拳で殴る真似をした。「やったそうじゃないか。噂になってるぞ、血の気の多い若い奴がいるって」

バースの兵士は豪快に笑った。

「お二人ともバースの方ですか?」揚羽がおっとりと尋ねた。

「いや、私はザルツ人だ。同盟国のね。」

「お前がうらやましいよ。前線に出られるんだからな。」バースの兵士はため息をついた。

「ばかいえ。命の危険はぐっとへるじゃないか。」

「それが俺には辛い。俺はバースの兵士だ、敵に後ろを見せることはしたくない。」

「だが、その敵が同じバース人だったらどうするんだ。ボラーは、最前線にバースの艦隊を送っていると、聞いているぞ。」ザルツ兵の言葉に竜介と揚羽は顔を見あわせた。

「なぜ、バース人が敵味方になってるんですか」揚羽がまた尋ねた。

「お前何も知らんのか。まあ、その若さでは、知らないかもしれんなあ。ザルツ星は、4年前のガルマン独立とシャルバートの反乱の時に、上手くボラー連邦から抜けることができたんだ。でも、バース星は」ザルツ兵は話し始めた。「10年前まで、バースは中立国だった。クレマン大統領という指導者の元、ラム艦長など優れた将軍がいて、ボラー連邦に屈服せず、独立を保ってたんだ。ボラーとバースは和平協定をする予定だったんだ。その調印場所にシャルバートどもが自爆特攻を行った。」竜介も揚羽も息を呑んだ。「大統領も、ボラーの外務大臣ボロゾフ将軍も死んだ。その後はお決まりの内乱さ。ベムラーゼはバースを直轄領として、住民を強制移住させ、戦える者は全て徴兵して、最前線に送り込んだと聞いた。我々ザルツ星が無事だったのは、偶然でしかない。」

「俺の親父は、その内乱で死んだ。」バースの兵士はぽつんと言った。「おふくろと妹は強制移住させられた。居場所もわからない。15だった俺は、警備兵として、ガルマン星に送られたんだ。他の仲間と一緒に。もう、おふくろの顔も妹の顔も忘れてしまった。バースの春もおぼろげにしか覚えていない。」

バースの春は素晴らしいぞといった、警備兵の言葉が甦ってくる。

「湿っぽくなっちまったな。何の希望もなかった俺たちに、希望をくれたのがあの方だった。」

「あの方って」揚羽が呆然と聞いた。

「お前寝ぼけてるのか?偉大なるガミラスのデスラー総統閣下だよ。」

竜介の血が逆流しそうになる。湯煙で良く見えないのが幸いだ。

「あの日の事は忘れられない。」バースの兵士は、ゆっくりと話しだした、思い出をたどるかのように「ガルマン星の空にガミラス艦隊が現れた。エールを送っているガルマン人たちの側で、俺たちは生きた心地がしなかったよ。良くて奴隷か、普通銃殺だからな、でも、そうじゃなかった。ガルマン人と同じように、俺たちの名誉も財産も保障してくれた。還る奴もいた。でも、バース人や直轄領の兵士達は残ったよ。故郷はもうないのだから。ちび、お前にはわかるまい、」

「解ります。」竜介は思わず言った。「俺の父さんも母さんも遊星爆弾で死にました。先輩も」

「よせよ。」揚羽が止めた。

「敵が憎いか?」バースの兵士の問に竜介は頷いた。「だが俺は、ボラーよりもシャルバートが憎い。あのウジ虫どもが自爆特攻さえしなければ、俺たちはバースに居られたはずなんだ。」

「ますます辛気臭くなってしまったな。」ザルツ兵が慰めるように言った。「お前たちの星にはこんな風呂など無いだろう」

「ありますよ。」揚羽が笑った。「こんな立派な風呂はあるかどうかわからないけど、露天風呂なら。」

「露天風呂?どんな風呂だい?」バースの兵士が尋ねた。

「森の中とか、海の側とかにあるんです、温泉が湧いてて、外の空気に触れてるから、長い間入っても、のぼせないんですよ。」

揚羽の説明に2人の顔がほころんだ。

「温泉を使った露天風呂か」感心したようにザルツ兵は言った。

「もう、出ようか。」竜介は揚羽に声をかけた。

「頑張れよ、ちび」バースの兵士も声をかけた。

 

「俺、」大浴場から出て、街を歩きながら揚羽が言う。「どっちが敵だかわからなくなってきた。」

竜介も頷いた。いつの間にか、食堂の前についていた。また、良い匂いがしてくる。

「入ろうよ。」揚羽が言う「味は今一だぜ。」竜介は答えた。

兵士達に混じって、2人は並んだ。

「何を食えばいいんだい?」

「ハンバーガーみたいなのがある、飲み物はチョコレート見たいさ。」順番がやってきたので「あれ、2つ下さい。飲み物も」と竜介は頼んだ。

「味が濃いな、ヤマトの食堂の方がずっと美味いや。」揚羽は食べながら言った。

「兵士の消耗を考えて、糖分とミネラルを工夫してるんだろうけど、これで良くのどが乾かないな。」竜介は炊事係らしい分析をした。

「おい、お前ら」2人は顔を上げた。ガルマンの炊事係なのだろう。「俺の料理にケチをつけるつもりか。」体格の良い男だ。殴られたら一たまりもあるまい。

「俺たちの口には合わない。そう言っただけだ。」竜介は思わず言った。

「なんだと?そんならお前、作ってみろ。」

「よせよ。土門、謝った方がいいぞ。」「解った。作ってみる。」竜介は立ちあがった。

厨房の前は人だかりになった。揚羽もハラハラしながら二人を見守った。

「いいのか、もし、シャルバートだったら。」「徹底的に調べてからやるから、任せとけ。」炊事係の兵士とさっきの兵士が言い争っている。

また、シャルバートか、竜介は不快になった。爪の間、髪の毛、口の中まで徹底的に調べられてから、竜介は調理場に立った。

肉を刻みながら、竜介は平田の言った言葉を思い出していた。竜介が味見した調味料は、全てコンピュータにかけられている。

毒が入ってないか分析しているに違いない。揚羽武史は、ガルマン要塞内に巣食っている、シャルバートへの恐怖心を思い知らされた。

ほどなく、ハンバーガーが出来上がった。竜介はココアを注いでいる。

「俺と炊事係さんと、揚羽と、あと誰か味見してくれますか?」

止めていた炊事係の兵士が手を挙げた。揚羽は、ごく自然に、残った二人は恐る恐る口に入れている。

「うまい、ヤマトの味だ。ヤマトの味と言うより平田さんの味だな」武史の言葉に竜介ははっとした。

「ああ、上手い。小僧、良い腕だな、俺の負けだ。」

「お前も炊事係なのか?」仲裁に入っていた兵士が尋ねた。「そうです。」

「レシピを教えてくれんかね」その兵士の言葉に竜介は頷いた。

 

自由時間が終わろうとしている。ヤマトへ急ぐ竜介に武史は声をかけた。

「土門、平田さんは生きてるよ。」「えっ?」

「お前が作る料理の中に、いつまでも」「うん。」竜介の眼から涙があふれ出した。

泣いている友人の肩に、武史は手をかけた。2人はヤマトのドックへの帰路を急いていた。

 

出港の前日、進はヤマト乗員全員を集め、今後の説明をした。

「今からヤマトは、ガルマン帝国の本星、惑星ガルマンに向かう。皆も聞いての通り、ガルマン帝国はあのガミラスのデスラーが建国した国である。」乗員からどよめきが広がっていく。「ガミラスとの戦闘で家族を失ったものも多い中、忸怩たる思いを持つ諸君も多いだろう。しかし、ガミラス戦役は地球もガミラスも互いの星の命運をかけた戦いであった。双方に守るべき大義のある戦いであったのだ。ここに、私は、長年の恨みをすて、デスラーの好意を受けたいと思っている。恨みを捨てることは難しいと思う。しかし、互いの星の未来のために、前に進みたいと私は思う。そのために、ガルマン星に行くのだ。諸君、わかってほしい。」

 

「納得いかないな」散開した後、新人たちは、口々にそういった。

「土門、お前だってそう思うだろ」食堂で配膳している竜介に、戦闘班の新人たちが相談した。

「そうは思うさ。」

「なんだよ、歯切れが悪いな、かたき討ちの脱走までやったくせに。」

「そうさ、でも、死んだのはヤマトの仲間だけじゃない。ガルマンの連中も同じだ。それに、」

「なんだよ。」

「ガルマン人も俺たちと同じ人間なんだ。仲間が死んで、泣き、復讐を誓う。俺たちと同じ姿だけじゃない。心も俺たちと同じなんだ。ガルマン人もバース人も」

不満の声が漏れた。

「俺もそう思う。」武史が立っていた。

「なんだよ、揚羽、お前まで」

「俺は、要塞のなかで、バースの兵士やザルツと言う同盟国の兵士と話して、ガルマン帝国は、少なくとも兵士を出身惑星で差別しないということはわかった。昔のガミラスだったらおそらく、奴隷にしたんじゃないのか、俺たちの地球に宣告したように、少しは変わったんじゃないのか」

「お前、甘いな。」「信用できないぜ」「うわべだけかも」

「だから行くんだ。」断固たる声がした。みんな振り返った。

進が立っている。島も真田もいた。

「行かなければ、今のように憶測が広がる。そんなことで地球の未来が守れるか?」進は言った。

「我々は、ガミラス本星をじかに見た。」真田が静かに付け加えた。「見たものでなければわからないだろう。あの星は酷い状態だった。とても人の住める環境ではなかった。だからこそ移住先を探した。それが地球だったのだ。許せとは言わない。だが、生き延びたいからこそお前たちも、ヤマトの帰りを待ったのではなかったのか」

新人たちはうなだれた。

「とにかく、出発しよう、ガルマン星へ、行けば何かの答が見つかるはずだ。」島が励ますような口調になった。

新人たちは敬礼した。

「明朝8時、ヤマトは出発する。」進の言葉に新人たちは、再び敬礼し、散開した。

 

「土門、揚羽、皆をよく落ち着かせてくれたな。」島が二人を労った。

「二人とも随分成長したな。」真田が笑った。

「成長したのはいいが、」進は咳払いをした。

「二人とも、加藤の命令を無視し、異星人と接触したな。」

2人は大いに慌てた。

「二人とも営倉入りとする。特に土門、お前は3度目だからな。一週間の謹慎とする。揚羽は三日。いいな二人とも。」

2人は慌てて敬礼をした。

 

「そんなわけがあったのか」バースの兵士の話を聞いたメインスタッフたちは口々に言った。

「しかし、末端の兵士の言葉だけじゃ、まだ不十分だ。」島が言った。

「島の言う通りだ。不確かな情報に振り回されたのは、ヤマトもガイデル提督も同じだったからな。」真田が眉をひそめた。「ガイデル提督に聞く耳があったから助かったようなものだ。」

「はっきりしたことは、デスラーが知っているだろう。」進は言った。

「デスラーは教えてくれるかしら、本当のことを。」「そう、信じたい。」進は祈るように言った。

 

次の日、ヤマトは出発した。ガルマン星に向かって。

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