ヤマトは、ガイデル提督の案内で、デスラーの待つガルマン星への旅路にあった。
「このワープで、ガルマン恒星系に入る。」島の声が響く。
ワープアウトすると、眼前に星々の海が広がっていた。その奥に、緑色の惑星が見える。大きなクレーターがいくつかあり、その中に都市があった。そして、緑色の惑星には、青く輝く衛星が一つある。地球の月よりも大きいだろう。皆、イスカンダルを思い出した。
「青い月だ。」「まるで、イスカンダルみたいね。」
「あの星がガルマン星です。あの青い衛星を、我々はレ・リスカと呼んでいます。ガミラスの古語で遥かなるイスカンダルと言う意味だそうです。」ガイデルが説明した。
「2000年以上前の移民たちが故郷をしのんで付けた名前なのか」真田は感心した。
一方、ガルマン星のデスラー総統府の執務室の窓から、デスラーとタランはヤマトの姿を見つめていた。
「タラン、再びヤマトがやってきた。今度は友人として。」
その言葉にタランは、複雑な気持ちになる。あの本土決戦の日、ヤマトの波動砲によって、マグマの海と化したガミラスの大地を。阿鼻叫喚の地獄の中、脱出用ロケットで逃げ出せたガミラス人は、ほんの一握りだった。総統が生きていると知って、残存艦隊を結成し、彗星帝国に向かったあの日。彗星帝国での屈辱。そして、流浪の旅。全てはヤマトが地球を飛び立った事から帰しているのだ。とても、友人などと言えるはずがない、今でも憎い。でき得るならば、この手でヤマトを破壊し、同朋の恨みを晴らしたい。ガミラス人ならば、誰もがそう思っているはずだ。だが、我々は、その想いを塗り込めなければならないのだ、胸の奥底に。ガルマンの同朋たちに、気づかれてはならない、ガルマン・ガミラスの未来のために。ガルマンの独立のために全精力を傾けている、キーリング、ガイデル、クロッペン達に、過去の因縁まで引き継がせてはならない。それが、我々にできる最良のことなのだ。
進たちは、ガルマン帝国の空港に降り立った。ガミラスのような得も言われぬ荒涼とした雰囲気とは違い、行きかう人々の表情も生き生きとしている。デスラーの統治がうまくいっている証拠なのだろう。進は安堵した。
「こちらにどうぞ。」
警備兵に促され、進、ユキ、島と真田は、ガイデルと同じ車に乗った。進が乗った車を先頭に、南部や相原たちは、新人たちと一緒の大型バスに乗り込んだ。
「これが高速道路網です。」ガイデルが説明し、進とユキは外を見つめた。
クレーターか外輪山かはわからないが、その中に都市があり、その都市同士をつなぐインフラが発達している。
「素晴らしい都市ですね。」感心したように真田が言った。
「ガミラスの地下都市に似ているな。」島の言葉に、ガイデルは少し驚いたようだった。
「やはりあなた方は、ガミラスに行かれたことがあるのですね。この都市整備は、総統と一緒に参られたガミラスの技術将校の立案によるものなのです。ボラーに支配されていた頃は、我々は収容所のような暮らしをさせられていました。」
その言葉に、進はバース星の収容所を思い出した。やはり、デスラーは変わったのだ。
デスラー総統府に、車がついた。車を降りた進たちの前に、デスラーとタランが待っていた。
「4年ぶりだね、古代。ユキ。」「わざわざ出迎えてくれたのか。ありがとう。」進は答えた。
「ご苦労だったね。ガイデル。」「はっ。」ガイデルは敬礼した。
「ヤマトの諸君、今夜は、我がガルマン帝国建国式典の前夜祭のパーティがある。ぜひ出席してもらいたい。」
この言葉に、新人たちから歓声が漏れる。今度こそ飲めるぞ。やったぜ。
「お前たち、」真田が付け加えた。「羽目を外してはならんぞ。一人一人が地球の代表だという事を忘れるな。」
パーティは華やかなものだった。民間人も軍人たちもグラスを傾け、談笑している。バース星の雰囲気とは全く違う。これなら、新人たちもくつろげることだろう。真田が背の高いガルマン将校と談笑していた。きっと、技術将校の一人なのだろう。
「古代、ユキ。」デスラーが声をかける。「二人とも私の部屋へ。」
進たちは、タランに付き添われて、広間を後にした。
「大丈夫でしょうか?」竜介と武史は島に尋ねた。
「大丈夫さ。デスラーは卑怯なことはしない」
総統が、なぜヤマトの若い艦長に特別な感情をいだくのか、解らない。この若者の恋人がスターシア女王に似ているからだろうか。それとも、若者の兄がスターシア女王の心を射止めたからだろうか。タランは二人の地球人を案内しながらそう思った。
デスラーの私室には大きな窓があり、そこからは、ガルマンの夜空が見渡せた。中天にあの青い月レ・リスカが登っているのが見える。
「まるでイスカンダルのようだね。」進は思わず言った。
「私はあの月にスターシア・イスカンダルと名付けたのだ。あの高貴な女王の。」
デスラーはレ・リスカを見つめた。二人の地球人もまた、青い月を見つめている。
「古代、覚えているか、最後に交わした言葉を」
「覚えているとも、君はこう言ったんだ、いつの日必ずガミラスを復興させるって」
「長年の宿願がようやく実った。」
「うん。おめでとう。デスラー。」
「ありがとう。古代。」2人は乾杯した。
窓の外から、群衆の声が聞こえる。デスラーはバルコニーに出た。総統府の前に何万と言う群衆が集まっている。歓呼の叫びが、進とユキの耳にも聞こえてきた。
デスラー総統万歳!!デスラー総統万歳!!ガルマン・ガミラスに栄光あれ!!
群衆の叫びに、デスラーは右手を上げて応えた。さらに割れんばかりの歓声がこだまする。
「もう、戻らないと。」進は言った。
「そうか。ゆっくりしていてくれ。明日の式典には、必ず出てくれたまえ。」
「うん、わかった、必ず出席する。」
「タラン、2人を広間に。」デスラーはタランを見つめた。
進たちを送った後、タランはガイデルを探すと、総統の私室に戻った。
「ガイデル」私室でデスラーは呼びかけた。側にタランも控えている。
「全て私の監督不行き届き、今後は部下の監視を強めます。」ガイデルは恐縮した。
「いや、部下を鎖でつなぎたがるのは、凡将のすることだ、ガイデル、君はそのままでいい。ガルマンウルフを鎖でつないだら、それはガルマンウルフではない。」デスラーは穏やかに言った。
「申し訳ございません。」
「いや、いい。それより、どうやってヤマトを捉えたか教えてくれないか、ガイデル。」
「はい、バース艦隊との交戦中、逃げたラジェンドラ号を追ったダゴン艦隊は、ケンタウルス・リギルで領空侵犯をし、ヤマトと交戦しました。その時、ダゴンの旗艦を除き、全滅しました。一隻で一機甲師団を殲滅する威力のある主砲は、デスラー砲だろうと我々は考えました。バーナード星のガルマン基地がヤマトと交戦した時の最後の映像から、時限式の空間磁力メッキも備えているだろうと推測しました。そこで、私は、ガルマンウルフを召喚したのです。まともに戦って勝てる相手とは思えず、亜空間魚雷を艦首の発射孔と、艦尾の噴射口に打ち込み、内部から破壊させる方法しかないと思いました。」
デスラーはドメルの戦いを思い出した。
「しかし、それほどの科学力をなぜ最辺境で備えているのかが知りたくなり、捕獲しようと、フラーケンと共同作戦を取りました。フラーケンは亜空間魚雷の威力を半減させ、ヤマトの発射孔と噴射口にダメージを与え、デスラー砲とワープを封じました。魚雷で混乱させ、次元ソナーになれていないことを利用し、わざと要塞方向へヤマトを吊りだしました。しかし、ガルマンウルフ艦隊も、2艦も犠牲になりました。指令室(第一艦橋)を、魚雷攻撃で混乱させなければ、ガルマンウルフとて無事では済まなかったかもしれません。」ガイデルは口を閉じた。
「そうだったのか。」デスラーは腕を組んだ。「ご苦労だったね、ガイデル。建国記念祝典にはぜひ出席してくれたまえ。」
ガイデルは敬礼すると退出した。
「タラン。」
「はっ。」
「我々が何故、ヤマトに負けたかわかったような気がする。」
「総統?」
「遊星爆弾攻撃に、殆ど抵抗らしい抵抗もしなかった地球。我々は地球人を侮っていた。スターシアからイスカンダルの技術を提供されたとて、あの野蛮人に、使いこなせるはずがないと」デスラーは苦い笑いを浮かべた。「一人、ドメルだけがヤマトの恐ろしさに気づいていたのかもしれぬ。いや、彼ですら、決戦と言う方法を取った。それが、正規軍の将校というものかもしれぬ。ガイデルやフラーケンのようにゲリラ戦を戦った者たちとは違うのだ。彼らのように、なりふり構わぬ勝ち方は、ガミラス軍人にはできぬのかもしれない。」
苦い思いを、タランはかみしめた。おそらく、総統も同じであろう。
退出したガイデルを、キーリングが待っていた。
「キーリング内務大臣。」
「ご無事で、ガイデル提督。」緊張した面持ちだった。
「あなたも心配症だな。タラン将軍がとりなしてくれた、前の時に。今は、ヤマトの捕獲についての作戦を聞かれただけだ。」
「そうでしたか。」
「全てはタラン将軍のおかげだ。4年前のあの日から、全て。」
「忠臣とは、どうあるべきか、という事を体現されている方です。タラン将軍は」
「キーリング内務大臣?」
「我々のような外様ではなく、側近中の側近、そして生え抜きのガミラス人、権勢も思いのままのはずなのに、決して奢らず、常に陰に徹し、名誉も栄光も欲せず、場合によっては命をかけても諫言を行う。ガルマン・ガミラス帝国の未来のために、無私に徹していて、しかもそれが自然体だ。私には到底できる振る舞いではありません。でも、私は、少しでもタラン将軍に近づきたいと思います。明日のガルマン帝国のために」
「そうだ。ようやく独立を勝ち取ったガルマンのために。しかし、ボラーは我々を決して許しはしないだろう。」
「だから、我々は一丸とならねばならないのです。」
ガイデルは頷いた。広間では歓声が上がっている。
「古代、ユキ、デスラーは何か言ってたかい?」島が尋ねた。
竜介も武史も不安な顔をしている。
「長年の宿願がやっと実ったって乾杯したんだ。明日の式典にはみんなで出席してくれって言ってたよ。」
「式典って、何をやるんでしょうか」竜介が聞いた。
「きっとお洒落なアトラクションなんかがあるんじゃないか」武史が答えた。
しかし、次の日、ガルマン帝国や同盟国の将官に混じって式典に参加した進たちの期待は裏切られた。
デスラーの前に繰り広げられたのは、一大軍事パレードであった。戦車、戦艦、大型ミサイルなど新兵器の数々、一糸乱れぬ行進を行うガルマン軍の兵士達。
呆然と見ていた進の心に不安が染みのように広がっていく。
ガルマン帝国というのは、やはり軍事独裁国家なのだ。ボラー連邦と同様に。ガルマン帝国を作り、ガミラスを復興させたにもかかわらず、軍備拡張をするのはなぜなんだ。領土を広げようとする、それは支配欲ではないのか。この銀河系を支配したい、ボラー連邦に変わって、それが、デスラーの考えなのではないのか。本当は、デスラーは何も変わっていないのかもしれない。遊星爆弾で地球を滅ぼそうとしたあの時と。
このままでは地球はどうなるのだろう。二大勢力の覇権争いが続けば、いずれ巻き込まれていくのではないか。いや、デスラー自身、地球制服の野心を持つのではないか。ヤマトは、また、ガミラスと戦わねばならなくなるのだろうか。