「なんかがっかりだよな。」「ああ、やっぱりガミラスはガミラスなんだ。」その夜のパーティで新人たちが不満を漏らした。「土門、お前よく呑気に飯なんか食ってられるな。」
「飯には罪はないだろ。」竜介は肉を頬張りながら言った。ちょっと味が薄いかな、民間人もいるからだろう。
「みんな食べようよ。」武史が同じコスモタイガー隊に話しかけた。
みんな席につく。席につけば、皆、胃袋の要求に素直に従った。
「なあ、土門。」武史が声をかけた。「見ろよ。古代艦長や島副長の渋い顔。やっぱりガミラスはガミラスなんだろうか。」
「俺もそう思う。だけど、ボラー連邦も同じ穴の狢だろ。どっちも信用なんかできるもんか。」
「デスラーはやはり、ガミラスのデスラーなんだろうか。地球に遊星爆弾の無差別攻撃をした時の」進の苦しげな声に、ユキは思わず言った。
「古代君。いっそ思い切って、聞いてみたら。」「何を。」
「何で戦いをやめないのかって」ユキは真っすぐ進を見つめた。
ユキに見つめられ、進は心の靄が晴れるような気がした。何を、迷っていたのだろう。友人ならば、腹を割って話せばいいだけのことだ。何を迷っていたのだろう。
次の日、デスラーに謁見するまでの暇つぶしに、進はユキと、首都を散策した。活気に満ちた都市、人々の笑顔、間近で見れば見るほど、平和で繁栄しているとしか思えない。
「デスラー、なぜ君は戦いをやめないんだ。ガミラスの再興はなった。かつて以上の栄光と繁栄を手に入れたのに、どうして、銀河系で戦いをするんだ。」総統の私室で進は切々と訴えた。
「古代、ユキ、ガルマンの自由と独立のために、平和のために戦っているのだよ。」
進もユキも絶句した。
「君たちは、バース星がどうなったか知っているのか。」
「末端の兵士からの話しか知らない、地球のためにも教えてくれないか、デスラー。」
「私より、クロッペンやキーリングの方が知っている、タラン。」
クロッペンとキーリングが私室に入ってきた。
「私からお話しましょう。補足は君が。」クロッペンはキーリングを見た。「バースは、10年前は独立国でした。我々ガルマン人のように植民地の人間には、希望でした。」
クロッペンはゆっくりと話し始めた。
「クレマン大統領と名将ラム将軍。2人がボラーの侵略を食い止めていたのです。我々は、バースの剣と盾と、2人を讃えました。ラム将軍の武功により、ボラー連邦とバース星の中立条約が結ばれるはずでした。しかし、その調印場所に、シャルバート共が自爆特攻を行ったのです。クレマン大統領もボラーの外務大臣ボロゾフ将軍も死にました。盾を失ったバースは内乱を抑えることができず、ボラー連邦の介入を招きました。抵抗した衛星国の軍隊を最前線に送るのがボラー連邦の常とう手段。ラム将軍も旧式の艦隊でガルマンとの最前線に送りこまれたのでしょう。」
「シャルバートの自爆特攻は、強力な爆薬を積んだ小型機で、調印場所の建物に突入したと聞いています。調印場所にいたバース人だけでなく、ボラー連邦の人間も殆ど亡くなりました。ベムラーゼはバース人の独立を削ぐために、民間人を強制移住させ、バース星を直轄地にした後、シャルバート信者の流刑地に変えました。バース人の憎悪を全てシャルバートに向けるためです。」キーリングが付け加えた。
「ボラー連邦と同盟すれば、遅かれ早かれ、バース星と同じ運命が待っています。」クロッペンも付け加えた。
「なぜ、シャルバート信者は、自爆特攻をするのですか?」進が尋ねた。
「シャルバートの信仰を持っていない者は、彼らにとって悪そのものなのです。その悪を殺すことで、自分たちが清められて、死後シャルバートの楽園に行けるのだそうです。」キーリングが答えた。
「そんな、恐ろしい事」ユキが思わず言った。
「でも、彼らだって死ぬのは怖いでしょう?」進が聞いた。
「その恐怖心は、薬でコントロールしています。」クロッペンが吐き捨てるように言った。
「古代、ユキ、わかったかね。これが現実だ。」二人を下がらせた後、デスラーは静かに言った。
「私には、ガルマン・ガミラスの国民を守る義務がある。この星を、第二のバース星にしてはならないのだ。いや、ベムラーゼのことだ、ガルマン・ガミラスを絶滅させるだろう。だからこその戦いなのだよ。」
総統府内に警報が響き渡る。
「何事か」タランがモニターに尋ねている。
「ガルマン恒星系に、ボラーのミサイルです。」「迎撃システムはどうした。」
「突破されました。新型のワープミサイルです。」「第5惑星領域で撃破せよ。」タランが命じた。
「古代、安心してくれ。我々の防衛システムは完璧だ。」
しかし、その言葉を裏切るように、ミサイルが郊外に着弾した。
「何事か?」タランの問に「D3地区のコンピュータシステムが破壊されました。技師がシャルバートだったのです。」
「ヤマトに戻ろう、ユキ。」
進たちは外に飛び出した。警備兵の車に乗っているとき、秘密警察が男を射殺する現場にでくわした。射殺される直前に、男は大きく両手を上げた。やはりシャルバートなのだろう。
「島、発進準備と砲術班に帰還命令を出してくれ。」「了解。」
「総統。ここは危険です。ご避難ください。」
「タラン。総統の私がここを離れられると思うのか。」二人の眼前に飛び立つヤマトの姿が見える。
「総統、ヤマトが」「ヤマトが、行く」
「砲術のできるものは?」進は尋ねた。
「どうしたんだ古代。」島の問に
「多分波動砲が必要になるだろう。」
「乗員を調べろ。」島がパネル越しに命令した。
ガミラスのパトロール艇があらかたのミサイルは撃ち落とした。しかし、地上にも被害は出ている。真田さんや、相原、南部は大丈夫だろうか。進は半舷上陸にしなかったことを後悔した。
「大型ミサイル、ワープで現れました。惑星破壊ミサイルです。」太田が叫んだ。
「おそらく何機も現れるだろう。全て出現したころを見計らって波動砲を撃つ。」
パトロール艇が集中砲火して、1/3は破壊したが、残りはガルマン星に向かっている。
「土門竜介入ります。」竜介が呼び出された。「艦長?」
「お前、俺の代わりに波動砲を撃て。南部の代わりだ。」「は、はい。」
竜介の心に一瞬、ガミラスへの憎悪が甦った。だが、俺が撃たねば、揚羽や通信班長はどうなる?南部砲術長は?
「落ち着いてやれ。俺もお前と同じ年で波動砲の引き金を引いたんだ。木星の重力場の中」
進の言葉に、竜介は頷いた。
閃光がガルマン星の空を走った。
「よくやったな。土門。」呆然としている竜介に進は言葉をかけた。
「艦長、お、俺。」いつの間にか涙があふれていた。
「ありがとう、古代。」
「デスラー、誤解してもらっては困る。ヤマトの仲間の命を助けるためだ。」デスラーの眉が吊りあがったが、進は構わず続けた。「君たちの防衛システムは人によって壊された。機械に頼ることが、武力に頼ることがどんなに危険か、わかってほしい。デスラー。」
タランは、二人のやり取りをハラハラしながら見つめていた。総統にあれだけずけずけといえるのは、あの若者を置いて他にはいないだろう。友人と信じているからこその諫言だろうが、若さというのは、これほど無鉄砲なものなのか。
「タラン。」向き直ったデスラーが言った。「キーリングに繋いでくれ。」
「申し訳ありません、総統閣下。」キーリングは恐縮している。
「いや、それより、シャルバートの始末はつけられるか。」
「はい、ガルマン全域、さらに、同盟国ザルツでも信者の摘発は、50%完了しました。」
「期間は一週間、いや、三日だ。できるか?キーリング。」
「はい。すでに、収容所での処刑は始まっています。緊急を要しますので、密告と自白剤による尋問を行います。」
「やむを得まい。」キーリングの姿が消えた後、デスラーはタランに呼びかけた。「タラン。古代を呼び出してくれ。」
「は、しかし、」
「ベムラーゼは、五日以内に、ホットラインを入れてくるはずだ。シャルバートを片付け、ヤマトを守らねばならない。」
タランから通信が入り、進たちは顔を見あわせた。諫言にデスラーは怒っているのだろうか。
「古代艦長。」正式な呼び方に、進は緊張した。「ヤマトの出港を、あと一週間、伸ばしては貰えないか。」
「構わないけど、なぜ。」デスラーの穏やかな口調に、進は安堵した。
「ベムラーゼのホットラインが来る。」「えっ?」
「ヤマトが惑星破壊ミサイルを撃墜したことに対する抗議だ。」
「そんなバカな。」竜介は思わず叫んだ。
「君たちをガルマンの同盟国とみなし、返答によっては、君たちの星に攻撃を加える可能性が大だ。」
「そんな、あれは正当防衛。」竜介は怒りが収まらない。
「それを、ベムラーゼの前で直接説明してほしい、古代。古代。上官に打電して指示を仰げ。事は急を要する。」
「わかった。ありがとうデスラー。」
「巻き込んでしまってすまない。ヤマトの諸君。」
進はすぐさま、藤堂に連絡を取った。当然α星を経由してである。
「いかがいたしましょうか、長官。」
「我々もデスラーと同じ考えだ。上陸した乗組員を守るための正当防衛。国賓ではなく、あくまでも個人的友人と説明せよ。それが事実なのだから、正攻法で行くしかない。」
五日後、予想した通りベムラーゼからのホットラインが入った。進は真田と共に、ベムラーゼの通信を待った。
「建国式典の我々のプレゼントは、無事送り届けられたようで何よりだ。」
モニターに一人の人物が浮かび上がった。かなり年配の、灰色の髪を全て後ろに流し、太い口髭を蓄えた、ゴルサコフと同じ青白い肌の男だった。これが、ベムラーゼなのか、進は画面を見つめた。いや、その男の眼光に吸い寄せられるように、見ざるを得なかったのだ。銀灰色の瞳は、見るもの全てを凍りつかせるような、異様な冷たさを持っていた。
「もう少し早く、連絡しようかとも思ったのだが、蛆虫の駆除で忙しいのではないかと思ってね。」
「いつでも通信頂ければ、よろしいのに。わざわざのお気遣い、痛み入りますな。」デスラーも平然と言った。
「そちらも、我が方と同じ駆除をして頂けて、少しは、銀河系の空気が良くなろうというものだ。私のプレゼントがお役に立てて、こんな嬉しいことは無いよ。デスラー君。」ベムラーゼはニヤリと笑った。
冷笑というものがこれほど似合う男もいないだろう。進はつばを飲んだ。初めて会った時のデスラー、そしてあのズォーダー、尊大な人物は見慣れていた進だったが、ベムラーゼの冷気に飲まれていた。
「プレゼントと駆除の話のために、わざわざお越しいただいたとも思えませんな。ベムラーゼ首相」
「では、本題に入ろう。君の後ろに居る二人のどちらが、ヤマトの艦長なのかね。」
「私が、艦長の古代進です。」進は立ちあがった。
「ほう、随分とお若い。君たちの行動に我々ボラー連邦は、大変疑念を持っている。」
「と、言われますと。」着席した進は尋ねた。
「ガルマンの同盟国でありながら、ラジェンドラ号に味方し、ガルマンの艦隊を撃滅した。さらに、国賓待遇でガルマン本星に滞在し、ガルマン軍と共同作戦を取った。信義にもとる行為だと我々は考えるが。」
「待って下さい。」進は、一連の戦いについてすべて説明した。
「すると君は、ガルマン軍との共同作戦ではなく、あくまでも、正当防衛だというのだね。」
「疑われるのならば、司令部に問い合わせてください。」
そう言ってしまってから、デスラーのほうを思わず見た、デスラーは顔色一つ変えてはいなかったが、タランが微かに眉をひそめている。しまったと進は思った。
「では、α星に問い合わせよう。ボラー連邦と同盟を結ぶようにね」ベムラーゼがまた冷笑を浮かべた。「構わんな、デスラー君。君たちはあくまでも個人的な関係。国と国との同盟は別だ。」
「おっしゃる通りですな。ベムラーゼ首相。私たちも、ヤマトの母星とは友好関係を結びたいと願っていたので、この機会に、我々も同盟の要請をしたいと思います。」デスラーも平然と応じた。
「では、いっそ三国首脳会談にしては如何かね。」ベムラーゼが答えた。
「結構ですよ。ただ、決めるのはあくまでもヤマトの母星。」
「では、古代艦長。」ベムラーゼが進を見つめた。「α星に打電して、交渉日時を教えてくれたまえ。ボラーだけでなく、ガルマンにもな。」
通信は終わった。進はぐったりと椅子に座り込んだ。
「無理をさせてしまったな、病み上がりの体に。」デスラーが言った。
「大丈夫だよ。俺は余計なことを言ったんだろうか、真田さん。」
「遅かれ早かれ交渉する相手だったんだ、心配するな古代。」真田が慰めた。