太田がレーダーのスイッチを調節しながら、しきりに首をかしげていた。
「太田、どうしたんだ?レーダーの調子がおかしいのか?」島が尋ねた。
「ここから、300光年先に可住惑星があるようなんですが、レーダーにはっきり写らないんです。」
「妨害電波か?」「いえ、金属反応はありません。」「よし、艦長に報告しよう。」
第一艦橋にメインスタッフが集合した。
「アナライザー、何かわかるか?」真田が聞いた。
「私ニハ、何カガ流レ込ンデ来ルヨウニ感ジマス。誘導電波ノヨウデス。」
「しかし、金属反応はない。」真田が呟いた。
「よし、島、パネルに映像が出るくらいまで近づいてくれ。後はその時の状況による。」進は言った。
ワープアウトすると、パネルにその惑星の映像が映し出された。
「限界まで拡大しろ、太田。」真田が言った。「了解。」
薄紫の靄と、濃い紫の海を持つ惑星だった。
「不思議な色合いだなあ。」相原が思わず言った。
「分析結果は、大気が地球型?地球とはずいぶん違うけど、本当に住めるのかしら?」ユキは首をかしげた。
「同ジ誘導電波ヲ感ジマス。」
「何を誘導するんだろう。」進が言った。
「とにかく調査してみよう。」
「まて、危険だ。」島が異議を唱えた。「洗脳されるかもしれないぞ」
「じゃあ、ロボットに探査させよう。」進は言った。
「ロボット探査船、発信します。」ユキがパネルを操作した。
ロボットアイによって、惑星の地形が映しだされる。薄紫の霧、のっぺりとした紫の海。
「殆ど波が無い、なぜなんだ。」真田が呟いた。
「ロボット探査では、何の異常も見られないわ、古代君。」
「よし、有志を募って探査させよう。」進が決断した。
新人たちは争って志願した。進は12名を選び、最後にくじで6人を探査隊に決定した。
「隊員を発表する。戦闘班・大森、生活班・土門、コスモタイガー・揚羽、技術班・中西、吉田。航海班・鈴木。ロボット探査兵とともに、コスモハウンドで調査に迎え。誘導電波が出ている。くれぐれも取り込まれないよう。ロボット探査兵と行動し、個人行動は厳禁、二人一組で調査せよ。コスモハウンドの操縦は、揚羽が行え。」
新人たちは敬礼した。
「やったぜ。」「揚羽、コスモタイガーじゃなくて大丈夫か?」「何言ってるんだ、まかせろよ。」「リーダーは大森かな?」「それもくじで決めようぜ」
6人ははしゃいでいる。ロボット探査兵も3体乗り込んだ。
「大丈夫なのか?新人ばかり、謎の惑星なんて」島は懐疑的だった。
「アナライザー、誘導電波の様子はどうだ。」真田が聞いた。
「最初ニ感ジタ時ヨリハ強イデスガ、今ノ所異常ハアリマセン。」
「ヤマトのコンピュータにも異常なしです。」ユキが言った。
「俺たちも、みんな初めてだった。あいつらと同じ年だったんだ。多分大丈夫さ。」進は言った。
「太っ腹ですね。艦長。」相原が言い、南部が噴き出した。
「揚羽、あと何分で惑星の大気圏に入るか?」リーダーに選ばれた大森が尋ねた。
「あと5分です。大森隊長。このまま突入するかい?」
「ロボット探査兵に確認させたら?」吉田が尋ねた。
「よおし、吉田の意見通り、ロボット探査兵、誘導電波確認せよ。」
電波はあるが軽微、との分析を受けて、大森は言った。
「よし、平地に着陸。二人一組、さらにロボット探査兵を連れて、調査開始だ。」
降り立った惑星は、一面、薄紫の霧に包まれている。柔らかな大地で、宙に浮いているような心もとなさが感じられる。
「ヘルメットはとるなよ。この霧、毒かもしれない。」大森が言う。
竜介は吉田と同じ組になった。
「ロボット探査兵、データを分析せよ。」吉田が続けた。「土門、本当は揚羽と一緒の方が良かったんじゃないか?」
「ばかいえ、仕事じゃないか」竜介は笑った。「でも、ここは本当に変な星だなあ。霧が深くて、殆ど見えない。」
「赤外線センサーを使おう。」
のっぺりとした大地がヘルメットの赤外線センサーに映し出された。
「吉田、霧を取っ払うと、ホント殺風景だな」竜介の問に答えは無い。「おい、吉田。ロボット探査兵、応答せよ。」竜介は辺りを見回した。
すぐそばを歩いていたはずの、二人の姿はどこにもなく、薄紫の霧が広がっているだけだった。
「吉田、ロボット兵。どこだ。どこにいる。」竜介は叫んだ。すぐに大森や、他の隊員に連絡を取る。「大森、揚羽、聞こえるか。返事をしてくれ。誰か!」
それに答える声は無かった。
落ち着け、落ち着くんだ。竜介は地面に腰を下ろした。彼らがどこかに行ってしまうわけがない。今動くのは危険だ。竜介は訓練学校の登山を思い出した。道迷いの時、迂闊に動かず、霧の腫れるのを待つ、しかし、この惑星は常に霧が覆っているのではないか。赤外線センサーを使おう。コスモハウンドまで戻るんだ。しかし、センサーを使っても、コスモハウンドの位置すらわからない。竜介は混乱した。何故なんだ。
「土門・吉田、応答せよ。中西・鈴木、どうしたんだ。」揚羽は仲間に呼びかけた。これで何回目だろう。「ダメだ。大森隊長。誰も応えない。」
「コスモハウンドも見つからない。くそっ、これじゃ、ヤマトに通信できない。」大森も叫んだ。「ロボット兵何かわからないのか?」
大森の問にロボット兵は沈黙したままだった。
竜介は、考えていた。なぜ、コスモハウンドが見つからないのか、なぜ赤外線センサーに何も反応しないのか。きっと誘導電波のせいだ。電波によって、赤外線センサーが狂わされて、見えるはずのコスモハウンドが見えなくなっているんだ。赤外線ではなく、火だったらどうだろう。訓練学校じゃ、電子機器が全て使えなかった場合、火を使えと言われたが、火なら、誘導電波の影響を受けないのでは、しかし、燃やすものが無い。銃を熱線に変えて、何か火がつきそうなものは無いだろうか。竜介は辺りを見回した。しかし、そこは、薄紫の闇が広がっているばかりである。
「土門、」彼方から声が聞こえる。聞きなれた声であった。しかし、それは、聞こえるはずの無い声だ。
「土門、どうした。」平田の姿が現れた。
「先輩。」思わず一歩踏み出す。「先輩のはずがない。幻だ。」
竜介はぞっとした。誘導電波が狂わせるのは、電子機器だけじゃない、人間の脳波もなんだ。
「消えろ。幻!」
竜介は平田の幻に叫んだ。平田の姿が消えていく。完全に消え去るまで竜介は微動だにしなかった。いつの間にか涙が頬を伝っていた。畜生。竜介は絶叫した。
「どうやら俺たちは、この星に住んでる何者かに、捕まったみたいだぞ。」大森が武史に話しかけた。
「どういうことだ。大森。」
「誰とも連絡つかないなんて、おかしいと思わないか?揚羽。電子機器が誘導電波で狂ったに違いない。」
「そうか、俺たちが来るまで、正体を隠してたんだ。くそっ。どうする?電子機器が使えないなら、火でも使うか。」
「火か・・・いい考えかも知れない。ロボット探査兵。燃料棒を燃やせ。」
その時聞きなれない音がした。耳障りな音が、武史と大森を押し包む。
「何者か?」大森の問に答えがあろうはずがなく、紫色の闇が広がっているばかりだった。
「探査隊応答せよ。探査隊。ダメです。全く応答がない。」呼びかけていた相原が振り返った。
「アナライザー、誘導電波はどうなってる?」進が尋ねた。
「変化ナシデス。」
「おかしいな。もしかしたら、惑星の大気圏内では、ずっと強いのかもしれないぞ。」真田が言った。
「じゃあ、探査隊は?」島の問に
「一刻も早く助けないと、危ない。」真田が答えた。
「よし、コスモタイガー発進せよ。加藤。誘導電波に惑わされないようにしろ。あの惑星、俺たちを取り込むつもりかも知れん。」
「了解。」
コスモタイガーが編隊を組んで、惑星に近づいた。
「後5分で大気圏内に入る。まず散開して、コスモハウンド及び乗員の救助を急げ。」加藤は命令した。
「了解。散開行動に入ります。」
しかし、次の瞬間、紫がかった閃光が、コスモタイガー隊を包む。
「各機上昇。惑星から離れろ。」
加藤の叫びに、コスモタイガーは惑星上空から退避した。
「被害状況は」加藤の問に
「一機撃墜されました。」「レーダーが効きません。」
「何っ?各機目視でヤマトまで帰還せよ。」
惑星の大地に煙が上がっているのが見える。
「戦闘隊長。一機撃墜された。星の電波で、機器が全部狂っている。各機目視でヤマトまで帰還します。」
加藤の報告を第一艦橋の面々は呆然と聞いた。
「あ、揚羽。あれを見ろ。」銃を構えたまま大森が叫んだ。
目を凝らすと、闇の中から奇妙なアメーバ状の物体がうごめいている。濃い紫のそれは、じりじりと二人に迫ってきた。
「怪物だ。」大森がひきつったような声を出した。
ここで殺されてたまるか。武史も銃を構える。しかし、その耳に、聞き慣れた声がした。
「武史、お前はヤマトを降りろ。」父親の声だった。
振り向くと、父親の姿が武史の目に写った。
「父さん、僕は勝手にやらせてもらうと言ったはずだ。」武史は思わず叫んだ。
しかし、父親がいるはずがない。幻だ。
「助けてくれ。揚羽。助けてくれ。」大森が叫んでいる。
「さあ、武史、ロケットを用意した。さっさと帰るんだ。」
もっともらしい事を言う幻だ。きっと星の誘導電波のせいだ。どうしたらこれから逃れられる。落ち着け、落ち着くんだ。そうだ。電子機器全てが狂っている。人間の脳波も操るとしたら、それは、電子機器、ヘルメットの通信装置を通してではないか、これを壊してしまえば、一時的に電波から逃れられるかもしれない。会話ができなくなっても、訓練学校で習った手信号を使えばいいんだ。武史は、ヘルメットの通信装置を引きちぎった。