次の日、ヤマトの見える防衛軍広場で結団式が行われた。
竜介や揚羽を含む新兵たちも、古参兵に交じって、ヤマトの制服を着て、整列した。
竜介は、黄色を基調にした生活班の制服、揚羽はコスモタイガーの黒の制服だった。
揚羽の奴、カッコいいなあ。それに比べて俺は・・・いじけた考えが浮かび、竜介は慌てて打ち消した。
「艦長の式辞」司会の声と共に、進は壇上に上がった。6年前、俺はあの隊員たちの先頭に居た。そして、沖田艦長の訓示を聞いたのだ。
「諸君。君たちは、これからヤマトに乗船し、初の遠洋航海にでる。ここまでは去年と同じだ。しかし、今年は我々に、新しい任務が加わった。」
どよめきが、隊員たちに広がった。そのどよめきの治まるのを待って、進は口を開いた。
「国籍不明の大型ミサイルが太陽系に侵入したことは、君たちも聞いていると思う。強力なミサイルではあるが、ガミラスのものでもガトランティスのものでもない、全く未知の勢力のものである。ヤマトは、ここに、地球の勢力圏の周辺の戦闘の調査が主力任務となった。今までの、演習航海とは異なる。君たちの身に危険が及ぶことも十分考えられる。今から3日の猶予を与える。辞退したいものはその間に、抜けてほしい、以上。」
隊員たちの敬礼の中、進は壇上から降りた。
「戦いだって?」竜介は揚羽に話しかけた。「ミサイルが飛んできたってのは聞いてたけど、それの調査だなんて。」
「なんだい、揚羽、お前怖いのかよ。」「とんでもない。腕がなるぜ。」
「いいよな、戦闘機乗りは。俺は飯炊き係だから大根でも振り回すか。」二人は無邪気に笑い合った。
「なあ、土門」「何だよ?」
「あの砲術長のことだけど」「南部砲術長か。俺、どうせなら、あの人の下で働きたかったなあ」
「あの人に、会ったことがあるような気がする。」「何言ってんだい、みんな会ってるだろ。古代艦長も真田副長も島副長も、戦勝パレードで」
「そんな所じゃない」「じゃあ、お前がコンビニに買い出しに行ったときかい」
「そうかもしれないけど、なんか引っかかるんだ。」「へえ、お前あっちの気があったのかよ?」
「ふざけるなよ。真面目に言ってるのに」揚羽は顔を赤くした。
「どうしたの?古代君。」艦橋でユキが話しかけた。
「いや、あんな演説、俺はどうも苦手だよ。」
「結構、さまになっていたぞ、古代。」
「真田さん、冗談言わないでくれ。心臓に悪いよ。」
ドアが開いて、島大介が、機関部の隊員を連れてきた。
「機関長の山崎です。」いかにもベテランらしい壮年の隊員が敬礼した。「ヤマトに乗艦して3年になります。そしてこちらは」
「徳川太助です。ヤマトは二年目になります。」
「君は、戦死した徳川機関長の」進は感激した。「はい、末の息子です。」
「二人ともワープは何度も経験済みだから、外宇宙航海には心強いベテランだ。」島が説明した。
「よろしくお願いします。山崎機関長。徳川君。」
「太助で結構です。」一同に笑みがこぼれる。
「相原がまだ来てないようだけど」進が尋ねると
「相原君はプライベートが問題なのよね」と太田がニヤッと笑った。
「プライベートって?」進の問に
「奥手の相原君にもようやく春が来たのよね」南部も冗談っぽく返す。
「相原は出港までには、間に合わせると連絡があったが、相原になあ」島も意外だという顔をした。
「相手は誰なんですか」太助が興味津々と言った口ぶりになる。
「それが、藤堂長官のお孫さんなんだ」南部の答に
「ひょーっ。逆玉。」太助が慌てて口を押える。
「おいおい、そんな調子でエンジンの整備は大丈夫なんだろうな。」
「私がちゃんと監視いたします。」山崎の言葉に一同はまた笑った。
3日後、竜介たちはヤマトに乗艦した。発進は1週間後だが、航海の準備のためである。
ユキの説明を聞きながらも、竜介はどこか上の空だった。
「オマエ、真面目ニ聞ケ。」アナライザーに注意されて、ついカッとなった。
「うるさい。ロボットのくせに偉そうなこと言うな。」
「ろぼっとトハナンダ、ろぼっとトハ。失礼ダゾ、コノヤロー。」
「よしなさい。アナライザー。土門隊員。あなたは戦闘班希望だったそうだけど、パイロットも砲術士も、栄養が足りてなければ何もできないのよ。そのために我々生活班が必要なの。」
ユキに諭されて竜介は唇をかんだ。
「コスモタイガー、全機発進せよ。」加藤が新人パイロットたちに呼びかける。
「了解」揚羽は同期生たちと戦闘態勢を取った。
その夜、艦橋で進は、メインスタッフの報告を聞いた。
「今年の新人たちは優秀ですね。実戦ですぐ使えそうです。とくに、揚羽隊員、彼は、コスモタイガーの副隊長になっても良いぐらいだ。」加藤の目が輝いている。
ガトランティス戦役で加藤以外のコスモタイガーは全滅したのだった。補充を加藤は焦っているに違いない。進は思う。
「航海班は、可もなく不可もなし、かな」「通信班も同じです。」相原が答えた。「砲術班は2年目の方が期待が持てます。」
「生活班は」ユキが言いよどんだ。
「どうしたんだユキ?」
「土門竜介という新人が気になります。砲術班希望だったせいか、不満があるようなの、古代君。」
「不安材料は、なるべく減らしておいたほうがいいだろう。土門の履歴を見てみよう。」真田がデータをパネルに写しだした。「砲術科の成績はトップ。特別奨学生だな。何で希望が通らなかったんだろう」
「砲術班の欠員がいなかっただけですよ。」南部が事も無げに言う。
「家族は、」ユキが固まった。
「2193年6月 ガミラスの遊星爆弾により両親死亡。戦災孤児か」島が呟いた。
進の脳裏に、あの光景が甦った。
「まあ、静観するしかないじゃろうなあ。人事に左遷無しちゅうことばもある。航海が始まれば、そのうち落ち着くじゃろ。」佐渡が酒を注ぎながらのんびりと言った。「ユキ、誰か話し相手になりそうな先輩はおらんのか?」
「え~~と、平田という22歳の隊員がいます。面倒見の良い穏やかな隊員で下の者にも好かれているので、土門も話しやすいでしょう。」名簿を見ながらユキが答えた。
次の日、竜介は炊事係Aに配属された。
「よろしく、土門隊員、僕は平田だ。」
平田の穏やかな笑顔に、生活班長のユキと副長のアナライザーに反抗的な態度を取った事で、てっきり営倉行きだと思ってた竜介はほっとした。
「君は、砲術科だったそうでね。土門。」
「はい。先輩は?先輩は栄養科だったんですか、どうして?」
「お前、どうせ飯炊き係だと拗ねてるな。」
「はい、あ、いえ・・・」
「いいさ、そう思う奴は多い、だけどなあ、飯が不味かったら、戦闘意欲だって落ちるんだ。腹が減っては戦はできぬさ、お前、これを読んでおけ。」
「何の本ですか?」
「栄養学基礎さ。あと、これも。」
「ええっ?」目の前に本を積まれて、竜介は目を白黒させた。
「お前は、砲術は専門だろうが、飯の方は素人だからな。飯炊きはいいぞ。戦闘班は退役したら、教官ぐらいしか就職先がないが、俺たちは、コックとしても、栄養士としても引っ張りだこだからな」
平田の笑顔に、竜介の心に巣食っていた苛立ちが薄まっていく。
そうだ。俺は、好きで訓練学校に入ったわけではない。訓練生になれば3度の食事が保証されたからだ。たとえあのガミラス戦役末期の物資不足の中にあっても。揚羽は違う。あいつは最初からパイロット希望だった。でも、俺の夢は一体何だったんだろう。
「土門?」平田の声に我に返る。
「はいっ。勉強して一人前のコックになります。」
配属先が決まって初めて、竜介は心から笑った。
艦長からの命令があると聞かされた揚羽は、首をかしげた。特に失敗をしたわけではないし、戦闘機乗りとしては新人一だとしても、そんな事を艦長が話すはずがない。加藤も同じ気持ちだった。揚羽と共に加藤も第一艦橋に入った。
「揚羽武史隊員。」揚羽は敬礼した。「本日をもって、コスモタイガー隊員を解任する。」
「そんなばかな、僕が何をやったというんですか。」
「艦長、困ります。揚羽はコスモタイガーの隊員として絶対に必要な人間です。」
二人は同時に叫んだ。
「防衛軍司令官よりの辞令だ。拒否は許されない。即刻退官するように。」
「いやです。僕は辞めたくありません。」
「理由を聞かせてください」加藤三郎が食い下がった。
「親父だ。あの野郎。ふざけやがって。」揚羽には珍しく荒々しい言葉遣いになった。
「親父?君の父上は」古代が尋ねた。
「揚羽コンツェルンの会長です。僕に会社を継がせたいんだ。会社には、僕よりずっと優れた社員もいます。だけど、僕をお飾りにして、親父は院政を引きたいだけなんだ。」揚羽は敬礼した。「親父に取り下げさせます。必ず戻ってまいります。艦長。」
進たちが止める間もなく、揚羽は第一艦橋を飛び出した。
「まるで鉄砲玉だ。」島が口をあんぐりと開けた。
「あんな血の気の多い奴とは思わなかった。」古代の言葉にみんなどっと笑った。
「どの口が言うかだぞ古代」と真田が言い
「オクトパス星団で殴り合いになったよな」
「レーダーが壊れてるのに、ミサイルの破片、取りに行かされましたよね。死んでも拾って来いって」みんなまた笑ったが
「でも、揚羽隊員どうなるのかしら?」ユキの言葉に真顔になった。
「揚羽の言葉からしても説得は難しいかもしれませんね、真田さん。」古代が口を開いた。
「でも、あれだけのパイロットは、補充要員にいるもんか」加藤が頭を抱えた。
「父親の説得は・・・」真田の見つめた先に南部がいる。
「わかった、わかりましたよ。気が進まないけど」南部は立ちあがった。
ヤマトから駆け下りるとタクシーを拾い、揚羽邸に向かう。
あいつはいつもそうだ。揚羽は思う。僕のやりたこと、僕の望み、全て押しつぶしてきた。あいつにとって、僕は体の良い人形に過ぎない。自分の欲望を叶える隠れ蓑なんだ。
「父さん!!」書斎に飛び込んだ揚羽武史に
「もう帰ったのか、明日から、お披露目パーティをしなければな」父の揚羽会長は穏やかに言った。
「僕は、父さんの事業は引き継がないと言ったはずです。僕は、パイロットになります!」
「武史。お前ももう大人だ。お前の望みは全て聞いてやったではないか、それ以上何が不足だ。」
「僕は父さんの人形じゃない!!ヤマトに乗艦します!!」
「武史、したければすればいい。だが、軍艦が個人を勝手に乗せると思うのか?防衛軍とわが揚羽コンツェルンは取引があるのだよ。」父親は平然と言った。
武史は唇を血がにじむほどにかみしめた。
「わかったようだな。少し頭でも冷やせ。」父親は立ちあがった。
自分の部屋に閉じこもり、武史の心は無力さで一杯だった。一生、あの父親の操り人形で終わるのか。嫌だ、ならばいっそ・・・
次の日、一睡もできなかった武史に、通信が入った。防衛軍司令部からである。
ヤマト、コスモタイガー隊への復帰を許す。
というものだった。余りのことに呆然としている武史であったが、お手伝いの問いかけに我に返る。
「大丈夫ですか?坊ちゃん。」「夢じゃないよな。」
「ええ。」「でも、どうして?あの父さんが、許すはずがない。」
「あの、坊ちゃん」声が低くなる。「取引先の方からお電話があってから、旦那様が慌てて・・・」
「取引先って?」「南部重工業の取締役の方から」
南部重工業。武史は部屋に戻り2年前の新年祝賀パーティの写真を撮りだした。覚えがあったはずだ。この人だったんだ。写真の隅に談笑しているタキシード姿の南部康夫が映っていた。
「本当に何とお礼を言って良いか。」第一艦橋で、揚羽は何度も頭を下げた。
「加藤に泣きつかれたからね。代わりのパイロットがいないって」南部はこそばゆそうな顔をしている。
「砲術長の父上と、私の父とでは雲泥の差です。本当に恥ずかしい。」
「それは違うぞ、揚羽。なぜ、お前がコスモタイガーで、土門が炊事係か、わかるか?」
「私の父が揚羽コンツェルンの会長だからですか?」
「違う。砲術班は今年は欠員がなかった、それだけだ。」呆然としている揚羽に南部はさらに続けた。「ガトランティス戦役でコスモタイガー隊が全滅したのを知っているか」揚羽は首を横に振った。「戦闘機乗りは消耗が激しい。今までの演習航海だったら、君の父上は許したんじゃないのか?今回は違う。古代艦長が言った通りで、命の保証はないんだ。」
「それならば、砲術長も・・・」
「俺には姉さんがいる。今、取締役もやっている。俺に万が一のことがあっても、会社としては困らない。勿論、俺は生きて帰るつもりだ。親父たちにとって、俺も姉貴も大切な子供であることは違いない。だが、揚羽会長の子供は、お前一人しかいないはずだ。」
「そんなことがあったのか。」甲板でその話を聞いた竜介はため息をついた。
「親父が、僕のことを思ってるとは到底思えないよ。」
「お前の母さんは?」「親父の言いなり。今回も泣いてばかりさ。何か情けなくて」
「でも、羨ましいな。」「どこが?」
「怒鳴ったり、怒ったり、泣いたりしてくれるんだろう。俺は父さんたちと喧嘩もできなかった」揚羽ははっとした。
「喧嘩できる前に、二人とも逝っちゃった。」
竜介は星空を見上げた。