その日、セイレーン、ヤマト乗組員はこの異星人をそうよんでいた、は、食堂でプレゼントされた花を飾っていた。
「セイレーンさん、花なら僕が飾りますよ。」「いや、俺が。」新人たちが、セイレーンを取り巻いている。
「いえ」彼女がはにかんだ。
初々しい表情、新人たちの目が釘付けになる。
「みんなどいてくれ。掃除の邪魔だ。」竜介がぶっきらぼうに言った。
「ちぇっ。なんだよ。」「お堅いなお前は。」みんな口々に帰っていく。
どうも、凄い美人ってのは苦手だ。竜介はそう思う。折角のチャンスなのになあ。
「セイレーンさん。」武史の声がした。
セイレーンが武史には打ち解けているのが、竜介には感じ取れた。全く、揚羽は、訓練学校の時代から、女の子にもててたからなあ、二人が花を生けるのを、竜介は横目で見やった。イケメンと美女かあ、悔しいけどお似合いの二人だ。俺は・・・引き立て役だな、いや、おじゃま虫か、竜介は手早く片付けると、食堂を後にした。
「z35星系、第一惑星に告ぐ。」
同じ頃、惑星セイレーンから離れること100宇宙キロの宙域に、ガルマン・ボラー両艦隊の指揮官がそれぞれ、惑星セイレーンに呼びかけた。
「第一惑星に告ぐ。シャルバート信者を直ちに我々に引き渡せ。15分後待つ。引き渡さない場合は、惑星破壊ミサイルで攻撃する。」ガルマン第5艦隊司令官、グスタフ中将が呼びかけた。
「よし、一端通信を切れ。」グスタフ中将は副官に命令した。
「引き渡しますかね?」
「引き渡さなければ、攻撃するだけのことだ。シャルバートの抹殺は、デスラー総統も認めたことだからな。」
「ボラー艦隊から通信が入っています。」「繋げ。」
画面にボラー連邦の軍人の姿が現れた。
「私はバース星総督ヴィシンスキー。z35星、第一惑星から何か通信はありましたか?」
「いえ、ありません。」
「我々の方が先に警告を発した。すでに時間は過ぎている。今から第一惑星を破壊する。よろしいな。」
「わかりました。」グスタフは了承した。
「グスタフ中将」不審そうな副官に、グスタフは答えた。
「ここはボラーの領域だ。彼らに優先権がある。シャルバートの抹殺で無ければ、共同戦線すらありえん。惑星の破壊を見届けるだけで良い。」
こんな星に何故信者が。グスタフの頭に疑念が浮かぶ。しかし、狂信者どもに呼びかけている以上、抹殺せざるを得まい。自分の手を汚さないだけでもありがたいというものだ。ガミラス人であるグスタフには、ガルマン人やボラー連邦のシャルバートへの恐怖心は理解できなかった。しかし、厄介な反政府主義者共なのだ。始末するに越したことは無いだろう。
「ボラーの惑星破壊ミサイル、第一惑星の上空、30宇宙キロ、あと3分で到達します。」
不意に薄紫の閃光が、惑星破壊ミサイルを包んだ。
「あれは?」
「ふん。惑星の幻覚電波だろう。あれを使って、多くの船を撃墜したんだろうが、惑星破壊ミサイルには通じるかな。」
「ボラー惑星破壊ミサイル進路変化せず。」
「慣性航行だからな、電波でも変わるまい。」
「着弾しました。爆発します。」
その時、グスタフの耳に、女の悲鳴のような耳障りな音が聞こえた。
「い、今のは、司令?」「うろたえるな。時間は。」
「15分経ちました。」「よし、惑星破壊ミサイル発射。」
第5艦隊から、惑星破壊ミサイルが発射される。
「着弾を確認しました。第一惑星が消滅します。」その報告に、グスタフ中将は頷いた。
「任務完了だ。帰還する。」
「ボラー艦隊、ヴィシンスキー総督から、通信が入っています。」
「お互い任務完了ですな。」ヴィシンスキーが労った。
「ありがとうございます。」
「ところで、グスタフ中将、あなた方には聞こえましたか、あの悲鳴が。」
「はい、我々にも聞こえました。何なのでしょう。」
「我々にもわかりません。上層部に報告します。」
「我々も、報告いたします。」通信を切ってから「やはり空耳ではなかったのだな」
グスタフは部下を見回した。みな、血の気の失せた顔色をしている。
「一体何だったんでしょう、気味が悪い。」
「とにかく、データを本星に送るしかない。フラウスキー技術少将たちが解析してくれるだろう。全艦、我に続け。帰投する。」
こんな薄気味悪い宙域からは、早く脱出するに限る。グスタフはそう考えた。
竜介は激しい頭痛に床に転げまわった。頭の中に何かが入り込んでくる。
「大丈夫か?土門!土門!」仲間の声が遠のいていく。
「何?探索隊員が全員気絶した?セイレーンもか」進は報告を聞き、呆然となった。「で、今の状態は。」
「気を失っているだけで、脳波の異常はありません。」衛生兵が答えた。
「やっぱり、惑星セイレーンから離れたせいだろうか」真田が呟いた。
「艦長。どうも、惑星セイレーンの方向で、大規模な爆発があったようです。」レーダーを見ていた太田が報告した。
「惑星セイレーンが戦場になったのかな」島が言った。
「いや、グスタフ中将には、惑星セイレーンが危険なことは伝えてある。わざわざ戦場にするとは思えない。」
「どうする?古代。」
「島、隊員たちの容態が安定したら、惑星セイレーンまで戻る。ただし幻覚波の届かない、100光年先にワープだ。」
竜介たちの意識はすぐ戻った。さらに、失われていた惑星セイレーンでの記憶も戻っていた。
「脳波に異常無し。鈴木隊員の銃創。吉田隊員の死因とも一致した記憶です。洗脳されたとは思えないわ。」ユキがデータを真田に渡しながら言った。
「セイレーンは?」進の問に
「彼女は昏睡状態です。2・3日は目を覚まさないと思います。」ユキは答えた。
「何で今頃記憶が戻ったんだ?」南部が尋ねた。
「その答は多分、惑星セイレーンにある。島、ワープしてくれ。」進は答えた。
「なあ、土門。」休憩時間の展望室で、武史は竜介に話しかけた。「うん?」
「記憶が戻ったのはいいけど、大森大丈夫かな。」
「そら、ショックは受けてるだろうけど、鈴木も助かったんだし。それに鈴木も、怪物に襲われたって思っていたそうだから、何とか大丈夫なんじゃないか?でも、吉田は。」竜介は唇をかんだ。
「どんな幻覚を見たんだろう。可哀想に。」武史も呟いた。
「でも、俺たちは、惑星セイレーンに居た時の記憶だけ消えてるのに、なんで、セイレーンだけ、言葉も話せないほどの記憶喪失になったんだ?」
「もしかしたら、」武史が言った。「惑星セイレーンにいる時間に比例するんじゃないか、記憶を失うのは。俺たちは1日もいなかったけど、セイレーンは」
「じゃあ、俺たちも赤ん坊みたいになるところだったのかもな。」
「怖い星だな、土門。」
「全くだ。」
「でも、セイレーンを連れてきたの、やっぱりお前だったんだな。」竜介はニヤリと笑った。
「やっぱりって何だよ。」
「訓練学校の時から、カワイコちゃんに弱かったんじゃないか。」武史は赤面した。
「ばかいえ、俺はフェミニストなんだ。」
「ああ、そうですか。どうせ俺は、野暮天だよ。」2人は笑い声を立てた。
「ワープ5分前」艦内放送が入る。
「いけね。ベルト着用だ。部署に戻らなきゃ」二人は立ちあがった。
「土門、上手い晩飯頼むぞ。」「おう、まかしとけ。」
パネルに広がった光景に、進たちは言葉を失った。惑星セイレーンは、その影も形もない。
「ガルマンもボラーも、惑星セイレーンの破壊が目的だったんだ。」真田が呟いた。
「畜生、酷い事を」進は声を絞り出した。
「しかし、惑星セイレーンの破壊と、土門達の記憶が戻ったことと、何の関係があるんですか?」島が尋ねた。
「これは俺の推測だが、」真田が説明した。「惑星セイレーンは遭難者の記憶を手に入れることで、より効果的な幻覚を、作るように進化したんじゃないか。同じ星からの侵入者には、同じような幻覚で対応していたのかもしれない。惑星が死んでしまったので、記憶だけが残り、元の持ち主の所に帰ってきた。」
「じゃあ、他人の記憶が混ざっているかもしれない。」相原が言った。
「それは無いみたい。探索隊員たちの記憶は、混乱してはいなかったわ。」
「じゃあ、セイレーンの記憶も戻ったかも」相原はさらに言った。
「そうすれば、彼女も故郷の星に帰れるかも、そうでしょ、古代君。」しかし、進はむっつりと黙ったままだった。「古代君?」
「相原、デスラーに繋いでくれ」
「ええっ?」
「どうしたね?古代。」パネル越しにデスラーがいぶかしげな顔をしている。
「どうして、惑星セイレーンを破壊したんだ。」
「惑星セイレーン?」
「グスタフ中将に伝えた幻覚の星だ。ボラーの同盟国でもなんでもない星をなぜ」
「古代。あの星は、シャルバートだったのだ。シャルバートの抹殺は三国会談で君たちも確認済みだと思ったがね。」デスラーは冷たく言った。
「でも、あの星には、人間型の生命体は発見できなかった。あの星は」
「古代。人間がいようといまいと、あの星は、シャルバートだと呼びかけていたのだ。それだけで十分ではないかね。」
「デスラー。」進はうめいた。本質的にデスラーは何も変わっていないのだ。
「失礼するよ、古代。」通信が切れた。
「おい、古代。」島が慰めた。「デスラーの言い分も、もっともだぞ。あの通信は確かにシャルバートと言っていた。信者だと公言していると、ガルマンやボラーに勘ぐられても、やむを得ないんじゃないか。」
「ああ、でも」
「これからどうする?古代。」真田が話題を変えた。
「セイレーンを故郷に帰す。このことで、セイレーンも記憶を取り戻したろう。この航海の最後の任務になる。」進はきっぱりと言った。
「じゃあ、ヤマトも寂しくなるな。」太田が冗談を言った。
「でも、セイレーンの故郷はどこなんでしょう。惑星セイレーンの領域から考えると、ボラー連邦ということになるから、ベムラーゼ首相かゴルサコフ総司令の許可をもらうんですか?」相原が尋ねた。
「いや、そこまで大げさに考えなくてもいいんじゃないか。バース星の新総督に頼むのでいいと思うんだけど、真田さん。」
「俺もそう思う。」
「それは、彼女が目を覚ましてからでしょう。セイレーンの気持ちを聞かないと」ユキがそう言った。