「相原、通信回路を開け。バース星に通信を送る。」進は命令した。
「何の通信を送るつもり?」ユキが尋ねた。
「遭難者を収容したから、母星に帰したいので、ボラー連邦の領域を通過する許可が欲しいということさ、」
「セイレーンの気持ちを聞かなくていいの?」
「いや、領空侵犯になるから、早めに許可を取りつけたいんだ。」
パネルにボローズとほぼ同年配と思われる男が現れた。官僚的なボローズとは異なり、武人のような佇まいだった。
「ヤマトの艦長、古代進です。」
「バース星総督、ヴィシンスキーです。」
「ヤマトは惑星探査の途中、遭難者を収容しました。遭難者を母星に帰しますので、ボラー連邦の領域を通過する許可を頂きたいのです。」
「母星はどこですか?その遭難者の。」
「記憶が戻っていないので、戻り次第、送り届ける予定です。」
「では、30日の滞在を許可します。30日以内に記憶が戻らない場合は、退去していただく。よろしいな。」
「わかりました。」通信は切れた。
「30日じゃ、探しきれないかもしれないぞ。体のいい、退去勧告だな。」島が言った。
「セイレーンの記憶さえ戻れば、すぐ見つかるだろう。」進が答える。「ユキ、セイレーンの記憶は?」
「戻ったみたいなのだけど、ふさぎ込んでいるわ。もしかしたら、彼女は亡命者なのかも、」
意識の戻ったセイレーンの様子は一変した。前と同じように振舞ってはいるが、透き通るような微笑みは消え、深い悩みをヤマト乗組員に探知させた。そして、立ち居振る舞いの端々に、高貴さが醸し出されるようになった。それは、今まで気安く話しかけていた新人たちをためらわせるに十分だった。
「セイレーンさん。」武史だけが、いつもと変わらず打ち解けた様子で話しかけた。
本当に揚羽は凄いと、竜介は思う。あんなオーラをまとった女性に、気後れせずに、良く話しかけられるものだ。2人だけにしてやろう。竜介はそっとその場を離れた。
「セイレーンさん。何を悩んでいるんですか。一人で苦しんでいるあなたを見ていられません。」武史は今日も、セイレーンに尋ねた。
セイレーンは首を横に振るばかりだった。武史は続けた。
「僕は一目見た時から、あなたを好きになりました。たとえあなたが何者だったとしても、僕の気持ちは変わりません。」
「何者だったとしても?」セイレーンが繰り返した。
「例えあなたが、シャルバートの信者だったとしても」武史は思わず言った。セイレーンは眉をひそめた。
「すみません。あなたを傷つけるつもりはなかったのです。僕には何の力もありません。でも、艦長なら、第一艦橋のスタッフなら、きっとあなたを助けてくれるはずです。艦長たちを信じて下さい。」
セイレーンは、武史の瞳を見つめた。若者の眼差しは、澄み切っていた。
「わかりました。信じましょう。第一艦橋へ連れて行ってください。全てお話いたします。」セイレーンは、きっぱりと言った。
「セイレーンさん、あなたの身の上と、母星、もしくは、目的地を教えてください。」
「皆さんを驚かすことになると思いまして、今まで黙っておりました。無礼をお許しください。」セイレーンは静かに話し始めた。しかし、侵しがたい気品があふれてくる。
「わたくしの名は、ルダ・シャルバート。シャルバートの王位継承者です。」
どよめきがメインスタッフを包む。武史も呆然としていた。シャルバートだったとしても、と俺は言った。その気持ちに嘘偽りはない。しかし、この乙女が、シャルバートの王女だったとは。
「わたくし達の船は、バース星への亡命の途中、z35星系でボラー連邦のパトロール艇に追われ、墜落したのです。」
「なぜ、バース星に亡命するのですか?」ボラー連邦の植民地に、なぜ亡命するのだろう。進は思わず聞いた。
「バースの盾が、わたくし達の亡命を受け入れてくれました。」
「バースの盾?クレマン大統領という方のことですか?」真田が尋ねた。
「はい、私の亡命を受け入れてくれたのは、彼だけです。」
「しかし、クレマン大統領は、10年も前に亡くなったと聞きました。それも、あなた方の自爆攻撃で。」真田の言葉に、セイレーンは蒼白になった。
駆け寄ったユキと武史を制し、セイレーンは気丈にも居住いを正した。
「バースの剣は、健在でしょうか?」
「我々は、ラム艦長の最期に立ち会ったのです。」進が沈痛な面持ちで言った。「お辛いでしょうが、教えてください。亡命の理由を。」
「その前に、シャルバート星の状況を教えてください。」
「4年前の反乱の時に、ボラー連邦の惑星破壊ミサイルで消滅したと聞いています。」
「おお、シャルバートの教団も壊滅したのですね。」
「はい、お悔やみを申し上げます。」進は言った。
「いいえ、ベムラーゼは冷酷な独裁者ですが、こと、シャルバート星への彼の判断は正しかったと信じます。」ルダ王女は、きっぱりと言った。
「自分の星にと、皆さま、驚かれたと思いますが、シャルバート教団は腐敗しきっていました。信者の獲得と寄進のためには、欺瞞や殺人まで厭わず、」ルダ王女は唇をかんだ。「死後の楽園という世迷い事を広め、反対者を抹殺していったのです。私は、そのような教えに疑問を持ち、侍従たちと、亡命先を探しました。教団の欺瞞を白日の下にさらし、信者たちを開放しようとしたのです。でも、それは間違っていたようです。」
「ルダ王女?」進が尋ねた。
「私が逃げたために、バースの盾が暗殺されました。バース星はどうなったのですか?」
「ボラー連邦の直轄領になっています。今の総督はヴィシンスキー。バースの非戦闘員は強制移住。兵士たちは全て、ガルマン帝国との最前線に送られたと、ガルマンの武官から聞きました。」
進の説明に、ルダは顔を覆った。
「私が亡命を要請したために・・・全て私のせいで、」
「そんなことはありません。」武史は思わず叫んだ。「あなたは、最善を尽くそうとされました。御自分を責めないで下さい。」
重苦しい沈黙が第一艦橋を支配した。
「これからどうなさいますか?」真田が尋ねた。
「バース星に参ります。ベムラーゼにすべてを委ねようと思います。」
「ダメです。そんな事をしたら、無駄死にになります。やめて下さい。」武史が叫んだ。
「ヴィシンスキーからは、30日の許可をもらっています。焦って答を出さなくてもよいでしょう?」進は言った。
「一つお伺いしてよろしいですか?」島が尋ねた。「あなたは、シャルバートの信者なのですか?」
「いいえ、信じてはいません。あれは偽りの神です。」ルダは言った、嫌悪を込めて。
「ガルマン・ボラーとの三国会談では、シャルバートの信者の引き渡しを決定しているが、信者じゃないシャルバート人まで、引き渡せとは言ってないぞ。古代。そこに突破口があるんじゃないか?」島が言った。
竜介たちは、第一艦橋から戻ってきた武史を質問攻めにした。
「セイレーンが、シャルバート星の王女様?」竜介は唸った。「なんか、オーラが輝いていると思ったら王女様だったんだ?それより信者なのかい?」
「いや、違う。むしろ毛嫌いしているみたいだった。」
「よかった。まともな王女様で。」ほっとしたような竜介に
「失礼な奴だなあ。お前。」武史は呆れていた。
「その王女様が、何で惑星セイレーンにいたんだい?」コスモタイガー隊員が尋ねた。
「10年前、セイレーンはバース星に亡命するつもりだったらしい。でも、ボラーのパトロール艇に撃墜されて、惑星セイレーンに墜落した。そこでずっと眠ってたみたいだ。」武史は説明した。
「10年だって?」「冷凍冬眠かな?」「揚羽に起こされたんだろ、」「まるで眠り姫じゃね?」
「バースの大統領が、亡命を認めたから、それで怒って、自爆特攻?滅茶苦茶だな。」
「これからセイレーン、どうするんだろ?」「いっそ、ヤマトにずっと乗っててもらえば、ヤマトのアイドルとしてさ・・・」
「こら、お前たち。」「持ち場に戻れ。」加藤と南部が怒鳴った。
みんな、クモの子を散らすように逃げていく。
「全く能天気な連中だ。」南部が呆れている。「セイレーンの正体が、ベムラーゼたちにばれれば、地球はただでは済まないんだぞ。」
「揚羽、」加藤が渋い顔をした。「ペラペラしゃべるんじゃない。男のおしゃべりは、女の子に嫌われるぞ。」
武史は慌てて敬礼した。
「なあ、南部。」加藤が口を開いた。「セイレーンの正体はばれてるんだろうか?デスラーにもベムラーゼにも、」
「ばれてるんじゃないか?」南部は武史の顔を見ながら言った。「ばれてないと思いたいけど・・・」
ボラー連邦・中央政府の通信室に、バース星からの通信が入った。
「ゴルサコフ総司令。」
「何事か、ヴィシンスキー。」
「ヤマトから遭難者を収容し、その母星を探すとの連絡が入り、滞在期間を30日としました。」
「そのようなこと一々連絡する必要はない。」
「いえ、どうもその遭難者は、先ごろ破壊したz35星系に居た者のようです。」
「あの幻覚の星か。遭難が多発するので、ここ10年ほどは、殆ど近寄る船はなかったはずだが。」
「10年ほど前に、確か、シャルバートの王女の船が、追跡していた我々のパトロール艇と共に行方不明になったのでは?」
「そうだ。確かに、行方不明になっている。」
「ヤマトが収容したのは、シャルバートの生き残りではないでしょうか?」
「そうだとしたら由々しき問題だ。三国会談の条約にも違反する。至急ベムラーゼ首相に報告しよう。」
「どうしたね?キーリング。」執務室にやってきた内務大臣にデスラーは怪訝な顔をした。
「z35星系、ヤマトが探査した惑星ですが、あの惑星、10年前にシャルバートの王女の船が遭難したところなのです。ヤマトはシャルバート人を収容している可能性があります。」
デスラーの顔が険しくなる。
「王女ではなくとも、それなりの身分のシャルバート人となれば、また信者どもが決起しかねません。」
「タラン。ヤマト、いや、α星に通信せよ。ヤマト内に収容した者がシャルバートならば引き渡せと。」