「α星の者共に、通信を行ったのは、君か?ゴルサコフ。」ベムラーゼは執務室でゴルサコフに尋ねた。
「はい、ガルマン帝国が、副官のタラン将軍を代表に立てたと聞きましたので。」
「α星の者共の慌てふためく顔が見えるようだね。」ベムラーゼは冷笑を浮かべた。
「ヤマトは大人しく信者を引き渡すでしょうか?」
「もし、断れば、条約違反としてα星に、ボラーだけでなくガルマンの惑星破壊ミサイルも飛んでいくだけの事。我々は待てばいい。それも、ヴィシンスキーの通達した期限は30日。どう動くかが楽しみじゃて。」
タランとゴルサコフから通信が入り、地球連邦政府はパニックに陥った。どうすればいいのか?ヤマトも飛んだ厄介事を持ち込んだものだ。高官たちは右往左往した。
「憶測で物を言っても始まりません。」藤堂が一喝した。「とにかく、古代艦長に確認することが先です。」
「古代さん、地球防衛軍司令部から、緊急通信です。」相原が緊張した面持ちで進に告げた。
ついに来たか。進は覚悟を決めた。
「古代。幻覚の惑星で、遭難者を拾ったそうだが、シャルバートなのか?デスラーのガルマン帝国も、ボラー連邦も引き渡しを要求してきたが。」藤堂長官が尋ねた。
「はい。シャルバート人ですが、信者ではありません。」進は言った。
「詭弁を言うな。」大統領が叫んだ。「君たちはいつも厄介事を持ち込んでくる。」
「詭弁ではありません。」進は腹を立てた。「シャルバート人でもシャルバート教団に反旗を翻している人物がいます。その人物まで、ボラー連邦に引き渡せと言うのですか?大統領、地球は、ボラー連邦ともガルマン帝国とも違う、民主主義国家なんじゃないんですか?例え、異星人でも人権があるはずです。」
「黙れ!締結した条約には、シャルバートと書いてある。さっさとボラー連邦に引き渡せ!!」
「大統領、落ち着いてください。」藤堂が一喝した。「古代。なぜ信者ではないシャルバート人が惑星セイレーンにいたのだ。そして、その信者ではないシャルバート人とは、何者だ。」
「ルダ・シャルバート。シャルバートの王位継承者です。」
叫び声を上げそうになる大統領たちを、藤堂は制した。
「10年前、シャルバート教団から信者を解放するために、ルダ王女は、バース星に亡命しようとしました。しかし、彼女の宇宙船が、惑星セイレーン近くでボラー連邦のパトロール艇に撃墜され、惑星セイレーンに不時着したようです。その直後、シャルバート教団によるクレマン大統領の暗殺が起こりました。大統領、ルダ王女は、銀河系の平和のために、シャルバート教団の欺瞞と腐敗を信者たちに説明し、シャルバート教団からの解放を望んでいます。」
「そ、そのような危険人物、だ、断じて、地球に連れて帰ることは許さんぞ!!」大統領はまた叫んだ。
「しばらく待て、古代。」藤堂は通信を切った。
「畜生。」第一艦橋で進はパネルをたたいた。
「落ち着けよ、古代。」島が慰めた。「この状況だと、藤堂長官以外、ボラー連邦に送還させることしか考えないだろうな。」
「もうこれ以上、地球連邦に聞いても時間の無駄だ。」真田が憮然としていった。
「古代君、彼女を黙って引き渡すつもりなの?」
「そんな事、させてたまるか・・・・よし、デスラーとベムラーゼに直接話してみる。」
「古代、むちゃを言うてはいかん。」佐渡がなだめた。
「いや、やらせて下さい。」
「しかし、デスラーは話を聞いてくれるかもしれないが、問題はベムラーゼだ。どうやって頼むつもりだ。」島が聞いた。
「バース星のヴィシンスキー総督に掛け合ってみる。ダメもとだ。正攻法で行く。」
「ヴィシンスキー総督。ヤマトの艦長より、通信が入っています。」
副官の報告に、ヴィシンスキーは、訝しんだ。収容したシャルバートの事なら、α星の指導者が、直接ベムラーゼ首相に報告するはずだ。それなのに、なぜ、一戦艦の艦長が、それも、一直轄領の総督に連絡するのか。
「どういたしますか?」
「よし、出よう。」
「ヴィシンスキー総督。」進は呼びかけた。
「古代艦長、何用か?」
「我々が収容した遭難者について、ぜひお願いがあるのです。」
「わざわざ私に言うこともあるまい。シャルバートならば引き渡す、それは、α星の指導部が行えばよいことだ。我々、一艦長、一直轄領総督が口をはさむことではないと思うが。」ヴィシンスキーは、淡々と話した。
「いえ、その人物が、ボラー連邦、ガルマン帝国の安全に大いに関わると思うからです。」
「ほう?その人物とは?」
「ルダ・シャルバート。シャルバートの王位継承者です。」
「何っ?」思いのほかの大物が吊りあげられたものだ。ヴィシンスキーは、唸った。「ならば、なおの事ベムラーゼ首相に委ねるべきだと思うが、」
「信者ならばそういたします。しかし、ルダ王女は信者ではありません。」
「信者ではないシャルバート人など聞いたこともないが」
「ルダ王女は、信者をシャルバート教団から開放するために、10年前にバース星に亡命しようとしました。しかし、船はボラー連邦に撃墜され、バースの大統領も自爆特攻で暗殺されたと伺っています。彼女は今も、シャルバートの信者の信仰からの解放を望んでいます。そのような人物を収容所に送ることが、果たして銀河系の平和のためでしょうか?」進は訴えた。
そうか。ヴィシンスキーは、考えた。この若い艦長は、ガルマン帝国にも同じ事を頼むつもりなのだ。古代艦長はガルマンのデスラーとは個人的な友人、直接話すことだろう。しかし、ベムラーゼ首相に対してのパイプは持っていない。それで私に。全く、ヤマトという戦艦は厄介事を持ってくるものだ。
「その事を、直接、ベムラーゼ首相に話したいのだな。」
「そうです。ヴィシンスキー総督」
「わかった。ゴルサコフ総司令に相談しよう。少しの間待て。よろしいな。」
「何?ルダ王女。」ゴルサコフからヴィシンスキーの報告を聞いたベムラーゼはしばし瞑目した。
「いかがいたします?黙殺しますか?」
「いや、あの若者は、デスラーにも同じように頼むだろう。ガルマンとシャルバートが妙な連携を組まれても困る。あの若者の話を聞いてやろうではないか。」
ゴルサコフは茫然と聞いている。
「その前に、ガルマン帝国とのホットラインをつなぐのだ。」
「デスラー総統。」パネルに写ったガルマンの指導者にベムラーゼは呼びかけた。「先ごろ、ボラー連邦・ガルマン帝国両軍で破壊したz35星系でヤマトが収容したのは、シャルバートの王位継承者、ルダ王女だ。ヤマトの艦長がバース星のヴィシンスキーに連絡してきた。彼女の処遇について、私とあなたに直接話をしたいのだそうだ。」
「これは異なことを、」デスラーも応じた。「シャルバートの引き渡しは、ヤマトの母星の大統領が行うべきこと、解せませんな。」
「真(まこと)のルダ王女ならば、銀河系にとって由々しき問題、あの若者の話を聞く価値があると私は思っているが、一応、あなたの了解を取るべきと思ってね。」
「ご親切痛み入りますな。」
「では、デスラー君。」
「古代艦長、会うのはこれで2度目だな。」ヤマトのメインパネルにベムラーゼの姿が映し出された。進は切々と、ルダ王女の立場を説明した。
「つまり君は、ルダ王女はシャルバート信者ではないので、引き渡せないというのかね?」
「いいえ違います。王女と話し合い、シャルバート信者の改宗ができるのではないかということです。王女は信者の解放を望んでいます。」
「古代艦長。ルダ王女の存在そのものが銀河系の平和を危うくするのだ。」
進は絶句した。
「王女を、我々ボラー連邦に引き渡すことだ。それが三国会談の条約にも沿ったものだ。」ベムラーゼはにべもなく言った。
「ベムラーゼ首相。」
「これ以上話しても時間の無駄だ。デスラー君にも相談するがいい。しかし、彼も同じことしか言わないだろうがね。」ベムラーゼの通信は切れた。
「どうする?古代。」真田が尋ねた。
「デスラーに相談するしかない。」
「デスラー総統、なぜ、ルダ王女がダメなんだ。シャルバート教団に反旗を翻している王女が何故、収容所に入れられなければならないんだ。」
「それは、彼女が貴種だからだ。」デスラーは冷たく言った。
「貴種?」
「そうだ。シャルバートの直系となれば、必ず誰かが担ぎ上げる。旗頭になる。そして、戦乱が起こるのだ。」
「ルダ王女は、そんな事を望んではいない、決して。」
「望もうと望むまいと、」デスラーは、ゆっくりと話した。「貴種には貴種の宿命(さだめ)がある。彼女の宿命は、シャルバート教団の再興の旗頭となる事だ。」
「そんなバカな。」進はうめいた。「なぜ、そんな事が言いきれるんだ、デスラー。」
デスラーの頬に苦い笑いが浮かぶ。
「なぜ、ガルマン帝国が短時間で建設できたか、君はどう思う、古代。」
「それは君の実力・・・」いきなり尋ねられ、戸惑いながら進は答えた。
「確かにそれもあるだろう。しかし、幾つもの独立義勇軍が全て、すんなりと私の傘下に入ったのは、私がガミラス本星の人間。生粋のガミラス人だからだ。」
呆然とする進にさらに言葉が続いた。
「つまり、ガルマン人にとって私は貴種という訳だ。ガルマン独立の旗頭としての、勿論、私は、望んでそうなったがね。」
進は黙っていた、言葉が見つからない。
「ルダ王女を引き渡したまえ。ベムラーゼに。ノーマン大統領はシャルバートがガルマン帝国の人間ならばガルマン帝国に、ボラー連邦の人間ならばボラー連邦に引き渡すと確約した。シャルバート星はもともとボラーの衛星国、ベムラーゼに引き渡したとしても、誰も君たちを責めはしない。」
デスラーとの会談の後、第一艦橋は静まり返っていた。
もう、どうしようもないのか。銀河系の中でルダ王女を助けてくれる星は、どこにもないのか。進たちは無力感にさいなまれた。
不意に第一艦橋のドアが開いた。
「ルダ王女。揚羽。」ルダ王女は、少し蒼ざめていたが、凛とした態度であった。
「此処までわたくしのために、何とお礼を申し上げてよいか。」
「いえ、我々にはなにもできませんでした。」進はうなだれた。
「いいえ、本来なら、10年前に亡くしていたはずの命、皆さまとの日々は決して忘れることなないでしょう。私も最後の王女の務めを果たしたいと思います。ベムラーゼ首相と話させて下さい。」
「これは、シャルバートの王位継承者、ルダ・シャルバート王女。私がボラー連邦中央政府首相、ベムラーゼです。お目にかかることができて光栄の至りです。」
「わたくしの身はボラー連邦中央政府に委ねます。」
「結構ですとも、ハーキンス親衛艦隊がお出迎えに参ります。」
武史は叫びだしたくなるのを必死にこらえた。
「その前にお願いがございます。」
「でき得る限り、いたしましょう。」
「信者を、シャルバート信仰から解放させたいのです。私が説得いたします。信者に直接話させて下さい。」
「ありがたいお言葉ですが、信者は全銀河系に散らばっております。」
「バース星に居る信者たちだけでもお願いします。バースの盾、クレマン大統領とボラー連邦のボロゾフ外相が、自爆特攻で暗殺されたのも、私が、バース星に亡命を希望したからです。その罪の償いをしたいのです。」
「いいでしょう。ヴィシンスキーに連絡し、早急に場所を決めさせましょう。」
通信は終わった。ルダ王女は一礼すると、第一艦橋を後にした。
「艦長。」
「揚羽。できる限り、彼女の側に居てやれ、それが一番彼女のためになるだろう。」
「艦長・・・」武史はまだ続けようとした、それを制して進は続けた。
「最後まで希望を捨てるなよ。もしかしたら、これで局面が変わるかもしれない。信者たちが信仰を捨てれば、銀河系は安全になる。ベムラーゼだって考えが変わるかもしれない。」
「本当ですか。」武史の顔が明るくなる。
「楽観は禁物だ。それに、王女はもう、自分の命を捨てる覚悟をしている。余計なことは言わず、ただ側に居てやれ。」
ルダ王女がバース星の信者たちに棄教を呼びかける。そのことは、すぐにホットラインを通じて、ガルマン帝国のデスラーの元にも伝わった。
「これで銀河系も平和になるでしょう。」タランの言葉に
「そうとは思えんよ。」デスラーは冷たく答えた。不審がる副官に、デスラーはさらに続けた。「君同様に考えているのは、フラウスキーやグスタフのようなガミラス人たちだけのようだ。クロッペンやキーリングの顔を見てみるがいい。」
その日、バース星から100光年ほど離れた無人惑星に、ヴィシンスキー総督率いるバース艦隊が現れた、囚人たちを伴って。
「なんで、バース星じゃなくて、水も大気も無い、こんな星で会見するんだろう。ドームまで作って?」竜介は思わず中西に聞いた。
「真田副長の話だと、脱走防止だと。この前の、ヤマト乗っ取りで、前の総督たち全員処刑されたんだろ。懲りたんじゃないのか。もし、反乱起こしても、ドームの壁面ガラスを打ち抜けば、この星の空気と入れ替わって、」
「全員死亡か。」竜介は背筋が寒くなった。
「うん、だから、バース艦隊の兵士も俺たちも、全員宇宙服着用。」
「生身なのは、ルダ王女と囚人たちだけか。大丈夫なのかな?」
「土門、お前がそんなに心配症だったとは知らなかったぞ。」
バース星の兵士たちが、囚人たちを降ろした。みな、中央に集められる。ヤマトからは、ルダ王女が降りてきた。後ろに武史が宇宙服を着て立っている。
「揚羽の奴、すっかりナイト気取りだな。」中西が言った。
「ああ、本当の物語だったら、ハッピーエンドなのに。」竜介は思わず答えた。
「おお、ルダ王女だ。」「お救い下さい。」「お助け下さい。」囚人たちはルダ王女を伏し拝んだ。
「皆さん、あなた方にお願いするために参りました。シャルバートの信仰を直ちに捨てて下さい。あれは偽りの神です。我々、シャルバート人が、あなた方に行ってきた奇跡は全て、薬による幻覚か、トリックによる欺瞞だったのです。本当の神は、あなた方の心の中の良心に住んでいるのです。」
信者たちは静まり返った。
「シャルバート教団は、あなた方のわずかの日々の蓄えからも寄進と称して奪い取り、さらに、信者でもない普通の市民から奪い取ることさえも承認してきました。皆さん、自分たちの良心の声を聞いて下さい。隣人の涙の上に、隣人の憎しみの上に、楽園があろうはずがありません。救いは教団に求めるものではなく、自分の心に求める物なのです。今こそ、偽りの教えを捨て、良心の声を聞いて下さい。心の眼で真実を見てください。もし、シャルバート教団が正義なのなら、なぜ、ボラー連邦の惑星破壊ミサイルで消滅したのですか?神が守っているなら、無事だったはずです。これだけでも偽りの神なのは明らかです。皆さん、目を覚ましてください。」
信者たちは沈黙している。
説得が成功した。武史はそう思った。
「だまされるな!」誰かが叫んだ。
「王女は10年前に死んだはずだ。」「こいつは偽物だ。」「ボラーのスパイだぞ!」
信者たちは、ルダ王女に石や砂を投げつけ始めた。
「危ない。」武史はルダ王女の前に立ちふさがり、王女を庇った。
「揚羽!」竜介は思わず、飛び出そうとした。
その竜介を、バース星の兵士達が抑えた。
「お前たちが出てっても、邪魔になるだけだ。俺たちがやる。手を出すな。ヤマト乗組員。」
武史はルダ王女を抱きかかえると、暴徒たちから逃げ出した。バースの装甲車が二人の針路を塞ぐ。中から兵士が飛び出し、二人を格納した。
「よし、王女を確保したぞ。バズーカ砲用意。目標ドーム壁面。」
バズーカ砲が反乱を一瞬にして鎮圧した。空気を失い、囚人たちはバタバタと倒れていった。
「ケガが無くて何よりでした、ルダ王女。」ベムラーゼは慇懃に言った。
「このようなことになり、申し訳ありません。」ルダ王女は毅然と言った。「ですが、もう一度だけ呼びかけさせてください。音声だけで構いません。」
「あなたも懲りない方ですな。」ベムラーゼも呆れているようだった。「直接説得しても失敗したのですから、音声で上手くいくとも思いませんが、これで最後ですぞ。」
「感謝いたしております。」
全銀河系に王女のシャルバート信仰の棄教の呼びかけが放送された。
しかし、それに答える者はいなかった。
「なんとも気の毒ですな。」その日の、総統の私的晩餐会でタランが言った。
「まさに、聞く耳を持たずだな。例え、王女の真実の言葉であっても、自分達に都合が悪ければ、黙殺か。」デスラーも憮然としている。
「ただ、これで信者の摘発はやりやすくなると思います。」
「なぜですか?キーリング内務大臣。」タランが尋ねた。
「信者で無い者は、皆同情したはずです。そして、王女を見捨てた信者に対して嫌悪感が増したことでしょう。」
「諸君、せっかくの酒が不味くなってしまったな。」デスラーは続けた。「信者どもがあの王女に望んだのは、シャルバートの再興だけだったのだ。古代にも、そのことが、はっきりわかったことだろう。」