ルダ王女の引き渡し期限も間近に迫ったある日、ガルマン帝国東部方面軍機動要塞に第5艦隊が寄港した。
「これは、グスタフ中将。」ガイデル提督は敬礼した。「北部方面軍の貴下の艦隊が、なぜ、ここまで?」
「ルダ王女の拘留にガルマン帝国も立ち会えと、ベムラーゼから要請があった。それで、z35星系で、バース艦隊と共同作戦をとった、我々が指名されたというわけだ。バースのヴィシンスキーも駆り出されるらしい。ボラーの親衛艦隊だけで十分だろうに。」グスタフ中将は憮然としている。
「そうですか。補給までの間、暫時休息を。」
ガイデルの言葉にグスタフ中将は頷いた。
私室に戻ると、ガイデルは暗号通信で、ガルマンウルフを呼び出した。
「ガイデル提督。」「オヤッさん、お久しぶりっす。」
「フラーケン、ルダ王女の話は知っておるな。」
「ええ、第5艦隊まで引っ張り出されたことも、ヤマトから引き渡されることも、」
「それで、お前たち、引き渡し場所の監視をしてほしい。」
「なんでっすか?オヤッさん。」ハイニが口を尖らせた。「俺たちの仕事じゃないっしょ。」
「何となく引っかかるのでな、本来の仕事が忙しければ、やらなくても構わないが」
「いや、私も『何となく引っかかり』ますので、行ってまいります。」フラーケンが言った。
「キャプテン。」「何だ。」「納得がいかねえ。あんな女の子をとっ捕まえるのが、銀河系の平和のためなんすか?」「お前の言う通りだ、俺も納得がいかない、だから行くんだ。」フラーケンは静かに言った。
その日、ヤマトとヴィシンスキー総督との定時交信の時、武史が第一艦橋に飛び込んできた。
「何をしている、揚羽。」相原の叱責も聞かず、武史はモニターに叫んだ。
「私も、ルダ王女と一緒に拘留して下さい。」皆唖然とした。
「君もシャルバートなのかね。」ヴィシンスキーに言われ、武史は黙り込んだ。「信者でも無い者を拘留できるわけがない。例え信者だったとしても、ルダ王女とは別の収容所に送られるだけだ。頭を冷やせ。」
南部と太田が、武史を外に出した。
「申し訳ありません。」進の謝罪に
「何と無鉄砲な若者か。まあ、それが若さなのかもしれんが。」ヴィシンスキーは、苦笑した。
今となっては、ルダ王女が親衛艦隊に引き渡される時を狙って、王女を奪還するしかない。武史は考えていた。閃光弾を使って、親衛艦隊の目暗ましをやり、そして、
「よう、揚羽。何考えてるんだ。王女の所に行かなくていいのか。」竜介が話しかけた。後ろに、大森たちの姿も見える。
「ああ、うん。」武史が立ち去ろうとした。
「ちょっと、」竜介は武史を物陰に引っ張り込んだ。
「水臭いぞ、俺たちにも手伝わせろよ。」大森が言った。
「いったい何のことだ。」
「とぼけたって駄目さ。王女と逃げるつもりだろ。」鈴木が言った。
武史は言葉に詰まった。
「お前がいなかったら、俺たちゃみんな、惑星セイレーンで死んでたんだぜ。その借りを返えさせてくれよ。」と中西。
「ボラーの戦艦を乗っ取るにも一人じゃ無理だ。俺たちに援護させてくれ。」竜介が言った。
「すまない。みんな」武史はうなだれた。
「それより、閃光弾と催眠ガス弾は用意したぜ、プラスチック爆弾も」中西が笑った。
「えっ?」
「俺たちも考えたのさ、奪還方法を」大森も言った。
その無人惑星で、ルダ王女の引き渡しが決まった後は、バース星の兵士たちにより、急ピッチでドームの改修が進んでいた。当日は、ヤマトもバース艦隊も全員、艦内服でルダ王女の見送りに出られるようになっていた。親衛艦隊の乗員たちに、宇宙服を着させる煩いをさせぬことというボラー連邦法によるものだそうだ。そこに、俺たちの勝機もある。竜介はそう考えた。
その日がやってきた。バース星の兵士たちが整列して、親衛艦隊の到着を待っている。ヤマトは半舷上陸になった。竜介達4人は、他の乗員と一緒に、バース星の兵士の後ろでルダ王女に別れを告げることになった。揚羽がルダ王女の後ろについている。親衛艦隊の旗艦がルダ王女の護送される艦である。その司令官のハーキンス中将が副官と共に降りてきた。
「ルダ王女。ボラー連邦中央政府まで、私の艦がお送りいたします。」ハーキンス中将が慇懃に話しかけた。
「ルダ・シャルバートです。よろしくお願いいたします。」副官がルダ王女を誘導しようとしたその時だった。
「お願いです。ハーキンス中将、私も連れて行ってください。」武史は、ハーキンス中将に土下座した。
「それはできぬ。お前は信者ではない。」ハーキンスは冷たく言った。「お願いします。」
なおも懇願する武史を振り払おうと、副官が無防備に近づいた。今だ。竜介が思った瞬間、武史は副官を投げ飛ばし、ハーキンスを羽交い絞めにした。
「反乱だ。取り押さえろ。」副官が叫ぶ。
今だ。竜介は隠し持っていた、閃光弾を打ち上げた。閃光がドームを包み、大音響がこだまする。竜介・大森・中西・鈴木は、階段を駆け上がった。竜介と大森は、目がくらんで棒立ちになっているバース星の兵士と親衛隊員に催眠ガス弾を投げ込んだ。俺たちは解毒剤を飲んでいるが、連中は当分動けまい。5人はルダ王女と、人質のハーキンス中将とともに、親衛艦隊旗艦に飛び込んだ。
「みんな外へ出ろ。」武史はハーキンスの首筋にナイフを突きつけたまま、旗艦の乗員たちに叫んだ。
「とっと、出やがれ。」鈴木が腹にまいたプラスチック爆弾を見せながら言った。「もたもたしてると吹っ飛ばすぞ。」
「シャルバートだ。」ボラーの兵士達は慌てて飛び降りた。
「鈴木、発信させろ。」大森が銃を構えながら叫ぶ。「命の惜しい奴はとっとと飛び降りろ。」
「ハーキンス中将、部下の退艦命令を出してください。無駄な犠牲を出したくない。」武史は言った。
「お前たち、こんなことをやって、解っているのか。」ハーキンスは呆然と呟いた。
「シャルバートの棄教を進める王女を捕まえるのが正義なんですか?俺たちにはそうは思えません。」竜介が言った。
ハーキンスは渋々部下に退艦命令を出した。親衛隊員たちは救命艇を使って次々脱出していく。
「救命艇は何人乗りですか、ハーキンス中将。」武史が尋ねた。
「6人乗りだ。」
「では、2艦だけ残すように言って下さい。1艦は中将、あなたの脱出用です。」
「よし、あと3分で惑星の引力圏離脱だ。」鈴木が叫んだ。
「ヤマト、ヤマト、古代艦長、応答せよ。」ヴィシンスキー総督から通信が入る。
「君たちの乗員が、ルダ王女を奪還した。ハーキンス中将が人質に取られている。我々バース星の兵士と上陸したヤマト乗組員は、催眠ガス弾を食らってしばらく動けない。君たちで、何とかしてくれ。上空で待機している、ガルマン第5艦隊にも連絡する。」
「土門と揚羽たちだな、あいつら」真田が呆然と呟いた。
「古代さん。惑星上空には、ボラー親衛艦隊が待機しています。着陸したのは旗艦だけですからね。」レーダーを見ながら、太田は言った。
「あいつらに手を出させるな。何とか、俺たちで説得するんだ。」進は言った。
ヴィシンスキーの報告はグスタフ中将にも届いた。
「反乱か。なんという大それたことを。」グスタフ中将は呆れていた。「バース艦隊の尻拭いを我々がやらねばならんのか、実に不愉快だ。」
「グスタフ司令。ヤマトが発進しました。」
「よし、ヤマトの後ろにつけ。第5艦隊、発進。」
異次元に潜んでいた、ガルマンウルフ艦隊も、ヴィシンスキーの通信を傍受した。
「ひょーー。カワイコちゃんを助けて、駆け落ちかあ。」
「やるな、ヤマトの小僧。」
海賊たちは歓声を上げる。
「よし、ガルマンウルフ艦隊は、潜航したまま、ボラー親衛艦隊旗艦を追尾。」フラーケンの言葉に
「なんでえ、キャプテン、助けてやらねえんですかい。」ハイニが口を尖らせた。
「我々の任務は監視だったはずだぞ。」
その言葉にハイニはふくれっ面になった。
催眠ガスを吸って半ば気絶しているルダ王女を、武史は、操縦室の座席に座らせた。
「揚羽、宇宙戦艦は、離陸と着陸が難しいんだ。後はどうにかなる。」鈴木が操縦かんを握りながら説明した。
「ありがとう、みんな。でも、ここまででいい。」武史は言った。
「解った。」竜介も頷いた。「頑張れよ。ここさえ抜けてしまえば。」
「世話になったな。」「楽しかったぜ。」「エンジンの治し方のマニュアル、置いとくよ。ボラーのもそんなに差はないさ。」大森たちも言った。
「ルダ王女と幸せに。」竜介は言った。
「ありがとう。」
竜介たちはハーキンス中将とともに、救命艇で脱出した。
「我々は中将を連れて無人惑星に降下したのち、惑星に待機している、バース艦隊に降伏する。それ以前に、我々の救命艇、および前方の戦艦が攻撃されれば、人質のハーキンス中将とともに自爆する。」竜介は全ての艦隊に呼びかけた。
「土門の奴。」島が呟いた。「揚羽の艦はワープするつもりだろう。その直前を狙って、親衛艦隊は攻撃をするはずだ。古代。」
「相原、通信回路を開け、旗艦に呼びかける。」進は言った。
「揚羽。」進は呼びかけた。
「申し訳ありません。艦長。」
「もう、何も言うな。覚悟の上の行動だ。俺も何も聞くまい。相原、このデータを送れ。」
「はい。」相原はデータを旗艦に送った。
「こ、これは、艦長、」武史はデータを見た。
「武運長久を祈る。」進は敬礼した。
「ありがとうございます。」武史も敬礼を返した。
「加藤、コスモタイガー発進。目標ボラー親衛艦隊。」
「古代!!」真田が叫んだ。
「南部、主砲発射準備。」
「主砲発射準備。目標ボラー親衛艦隊。ただし、敵が揚羽の艦を攻撃するまでは射程に入っても先に仕掛けるな。」南部が復唱した。
「コスモタイガー発進。目標ボラー親衛艦隊。ただし、敵が揚羽の艦に攻撃を加える瞬間を狙え。」加藤も同じ事を復唱する。
「グスタフ司令。」第5艦隊のレーダー手がグスタフ中将に叫んだ。「ヤマトは、ボラー親衛艦隊を攻撃するようです。」
「なんと。」
「いかがいたします?司令?」
「やむを得ん。全艦戦闘準備。目標・・・ヤマト。ヤマトがボラー親衛艦隊への砲撃を確認した後、主砲発射。ただし、くれぐれも先に仕掛けるな。」
こんな形で、ヤマトと戦わねばならんのか。自分は、同朋の恨みを、ガミラスの恨みを晴らしたいと思っていたが、後からなどという、卑怯な方法で。グスタフは歯を食いしばった。
「後方のガルマン艦隊。接近してきます。」太田が叫んだ。
「第三主砲、照準、後方ガルマン艦隊。」南部が命令した。
「よし、ワープ30秒前。」武史は大きく息を吐いた。進から送られた、航路データを読み込む。
「コスモタイガー、ボラー親衛艦隊に接近。前方の乗っ取られた旗艦はあと25秒でワープ。」ガルマンウルフ号のレーダー手が叫ぶ。「ボラー親衛艦隊主砲、発射準備に入ったもよう。発射推定時刻、20秒後。」
「キャプテン!」「静かにしろ、ハイニ。」「後、15秒。」
「コスモタイガー、射程距離まであと15秒。」「第一・第二主砲、誤差修正完了。」
「ボラー親衛艦隊主砲発射5秒前。親衛艦隊、我が艦隊の真上です。」
「亜空間魚雷発射、目標、直上のボラー親衛艦隊。」
「キャプテン」ハイニが歓喜の叫びを上げる。「復唱はどうした。」
虚空から無数の魚雷がボラー親衛艦隊に襲い掛かる。閃光が宇宙を包んだ。
「ワープ」武史はスイッチを押す。
「フラーケン艇長、旗艦がワープしました。」
「よし、全艦、ワープトレース!」
コスモタイガー隊も閃光に包まれた。
「全機散開。離脱せよ。」加藤の叫びより早く、戦闘機隊は離脱した。
「ボラー親衛艦隊が全滅しました。」太田が叫ぶ。
「何?波動砲か?」進は叫んだ。
「いや、違うな。どこにもエネルギーの航跡が無い。おそらく、亜空間魚雷だ。」真田が分析した。
「じゃあ、あの潜航艇艦隊。」進の言葉に
「なんで俺たちを助けてくれたんだろう?」島が首をかしげた。
「グスタフ司令。ボラー親衛艦隊が消滅しました。」
「何?ヤマトの波動砲か?」
「いえ、ヤマトは何もしていません。」
「どうします?攻撃を行いますか?司令?」
「護衛すべきボラー親衛艦隊は消滅。ヤマトは何もせず、では、攻撃する理由が無い。ヴィシンスキーに連絡し、東部方面軍機動要塞に一時帰投する。」グスタフ中将は命令を伝えた。
「そうですか。全艦消滅。」ヴィシンスキーが頷いた。
「そちらの方は大丈夫でしたか?」進は尋ねた。
「ええ、死傷者は無し。あの反乱者たちも、投降しましたので、ハーキンス中将も無事でした。中将はバース艦隊が送り届けます。ヤマトの反乱者はすぐに引き渡しますので、処分はそちらでお願いします。」
「ありがとうございます。ヴィシンスキー総督。なぜ親衛艦隊が爆発してしまったのでしょう?」
「これは私の憶測ですが、シャルバートが親衛艦隊の兵士に紛れ込んでいたのではないでしょうか。連中なら自爆特攻は日常茶飯事ですので。」
「すぐに引き取りに参ります。」進は敬礼した。
武史は3回目のワープを済ませた。もう、銀河系の外である。星もなく、見渡す限り漆黒の闇が広がっている。
「武史、」ルダ王女が話しかけた。「あなたまで巻き込んでしまった。」
「気にしないで、セイレーン。いや、ルダ王女。何とかなります。それに、僕は、今、幸せです。あなたと居られて。」
エネルギーも残り少ない。補給惑星がどこにあるかもわからない。絶望的な状況であったが、武史の心は満たされていた。
「私も、あなたと居られて、幸せです。」ルダ王女も言った。
レーダーが反応している。ボラー連邦だろうか。2人はパネルを見つめた。
パネルに一隻の戦艦が浮かび上がった。武史には見覚えがあった。ヤマトを捕虜にしたあの潜航艇だった。俺たちを捕まえるつもりか、海賊め。その間にも、次々と潜航艇が浮かび上がる。これまでなのか。王女だけでも助けてほしい。武史はそう思った。
「武史、あれを、」
潜航艇艦隊は、物資を放出し始めた。し終わると次々と宇宙の闇の中に消えていった。最後に旗艦らしい艦が残り、発光信号を送り始めた。モールス信号だ。だがなぜ、ガルマンの戦艦が?
「補給・・物資を・・送る・・1年は・・航行可能・・・貴下の・・航海の・・安全を・・祈る」
信号を送ると、その旗艦も闇に消えた。
「行きましょう。」「手伝いますわ。」二人は見つめ合った。
「フラーケン!!ハイニ!!」ボラー親衛艦隊全滅、とグスタフ中将から聞いて、ガイデルは激怒した。「何をやってるのか!」
「だってよう、オヤッさん。女の子を寄ってたかって、いじめてっからよう。」
「お、お、お、お前たちは・・・」ガイデルは頭から湯気を出している。
「そんなに腹立てると、よけい禿げるっすよ。」
「貴様~」
「ガイデル提督、いや、親父・・・」フラーケンが口を開いた。
「久しぶりだな。お前が私をそう呼ぶのは。」
「親父、親父だって本当は思ってるはずだ。あの女の子を収容所で死なすのが、銀河系の平和のためなのかって、いや、親父だけじゃない。グスタフ中将だって、ヴィシンスキーだって、いや、デスラー総統もタラン将軍も、心の中じゃ、そう思ってるんじゃないですか。だから、ヤマトの連中が、」
「しかし、条約では、」ガイデルは呟いた。
「条約なんかくそくらえだ。でも、みんな、その条約とやらに縛られてる。親父、あの女の子は、シャルバートからまで見捨てられた。誰も味方がいないんだ。誰一人ね。その子の味方になろうとしたヒヨコに手を差し伸べたって、罰は当たらねえと俺は思いますがね。」
フラーケンの言葉にハイニは大きく頷いた。
「フラーケン、」ガイデルは静かに尋ねた。「ルダ王女とヤマトの若者は、どこへ行ってしまったんだ。」
「外宇宙です。1年分の補給物資を供給しましたが、生き延びるのは難しいでしょう。」
「銀河系の外か、ずいぶん遠くまで・・・」ガイデルは遠い目をした。
「ねえ、キャプテン。」通信の後、ハイニが尋ねた。「あいつら、死んじまったのかな。」
「わからんが、多分大丈夫だろう。」「なんで?」
「2000年以上前、俺たちの祖先は、14万8千光年の彼方から、ここに移民したんだ。あいつらだって、きっと大丈夫さ。」
ハイニはにっこりと笑った。
「キャプテン。レーダーに反応。ボラー補給部隊です。」
「よし、亜空間魚雷発射準備」