2222年の2月の終わりの頃だった。
ヨコスカの住宅街に、竜介が「リストランテ・ヒラタ」を開業してから、すでに12年の月日が流れていた。今では常連さんもでき、まあまあ繁盛している部類に入るようだった。
「マスター、どうして、リストランテ・リュウスケじゃないの?」
一見さんたちは、よくそういう。
「ほら、あの写真の人、あの人が、マスターの師匠なのよ。お師匠さんの名前が、平田さん。その名前を貰って・・・」常連さんが、説明する。今では、竜介が口をはさむ必要もない。
「あら、マスターのお兄さんかと思ったわ。この方、あのヤマトの。」
事情を察したかのように、皆、頷くのだった。
「よう、土門。いい天気じゃのぉ。」佐渡先生とアナライザーがやってきた。
「先生、お久しぶりです。」
「マスター、こちらは?」
「佐渡動物病院の院長先生です。大分お年ですけど。腕は一級です。」竜介は言った。
「なあにがお年じゃあ。男のおしゃべりは嫌われるぞ。」佐渡が竜介の出した冷酒を一気に飲み干した。
「佐渡動物病院ノ腕ガ一級ナノハ、私ガイルカラデス。ヒック。」アナライザーが酒を浴びながら言った。みんなくすくす笑う。
「ほれ、お前も飲め。」佐渡は連れてきた猫にも酒を注いだ。
「ミー君でしたっけ。」
「二代目ミー君じゃ。おい、土門、お前、今日が何の日か知っとるか?」
「2222年2月22日、ネコの日でしょ。ニャーニャーニャーが7回。」
「おお、お前も物知りになったのお。」
佐渡の言葉に、一同は笑った。
客が引けた後、佐渡は竜介に言った。
「今年も、ヤマトの同期会。ここで開くのかのぉ。」
「ええ、今年は、夜桜見物も兼ねようかと思ってます。」
「そりゃあ、良い趣向じゃあ。ユキの話じゃと、今年は、古代も参加できるようじゃよ。」
「それは嬉しいな。艦長が来てくれると。」
「全く、お前も古代も、あの揚羽会長のせいで、酷い目に遭ったのお。」
「いいえ、僕は、あの航海で、平田先輩に出会って、砲術長じゃなく、コックになろうと決めてましたから、でも、古代艦長は。」
「いや、あいつこそ、組織の中で治まる奴ではなかったんじゃ。乱世の男じゃった、そんな所は、沖田艦長ゆずりかも知れんのぉ。」
「いま、古代艦長は。」
「お前も知っとる通り、あいも変わらず、民間の貨物船の船長じゃ。『ゆき』っちゅう船名の。そんだけ、ユキに惚れとるなら、ちっとは帰ってやればいいのにのぉ・・・」
竜介は思い出を辿った。
あの時、揚羽とルダ王女の事で、激怒した父親の揚羽会長は、古代艦長と元々嫌っていた俺の追放を要求した。俺は、任期が明けるとすぐに、栄養学校に入り直し、コックの免許を取り、この店を開いたのだった。あの戦闘で、俺は、戦いの辛さ虚しさを、知ってしまった。そして、2度も、命がけで地球を守った古代艦長を切り捨てる上層部の連中に、嫌気がさしたのも事実だった。もう、軍隊などこりごりだ、俺は心底、そう思った。だが、ヤマトで培ったものの上に、今の俺がいるのも事実だ。竜介の頬に苦い笑いが浮かぶ。
「土門。お前、好きな人はおらんのか?」佐渡が聞いた。
「いませんよ。考えたこともない。」
「友達に義理立てしとるんなら、友達が悲しむだけじゃぞ」佐渡は、平田の写真の隣の写真を見つめた。武史と竜介が談笑する姿が写っている。どれも、17年前の写真だった。
「臨時ニュースを申し上げます。臨時ニュースを申し上げます。」竜介はパネルを操作した。アナウンサーが映し出される。
「超長波通信にて、ボラー連邦のニュース通信をキャッチしました。最高指導者、ベムラーゼ首相が亡くなったようです。ご覧ください。ベムラーゼ首相の葬儀の映像です。」
映像は、長蛇の葬列を延々と映している。
あのベムラーゼが死んだ。2人は顔を見あわせた。
「まさに、『独裁者は畳の上で死ぬ』じゃな。」佐渡が呟いた。
「また、戦乱が起こるのでしょうか?」竜介は眉をひそめた。
「そうならんように、真田や島に頑張ってもらわんとな。」
「真田副長や島副長は、どうなったんですか?」
「真田は総参謀長。島は防衛軍第1艦隊司令。加藤が宇宙戦士訓練学校飛行科主任教授。相原も通信科主任教授。太田が技術副大臣。みな、餅は餅屋じゃな。」
「南部砲術長は、退役されて、南部重工業の専務でしたね。同期の大森や中西は、護衛艦の艦長になりましたよ。みんな、あの反乱が出世に響いてなくて本当に良かった。」
「お前、後悔しとらんのか?」
竜介は頷いた。
「出世だの、栄達だの、うんざりです。仲間の足を引っ張り合い、妬み、嫉み、そんなものを随分見聞きしました。あの時の、第一艦橋の人たちだけが違っていました。そして今も・・・」
「あいつらだけが違うとしたら、」佐渡はしんみりと言った。「あの沖田艦長のもと、14万8千光年の未知の大海へ漕ぎだした、イスカンダルへの旅があったからだろうよ。」
アナライザーに頼んで、佐渡を送りだしてから、竜介は、写真を見上げた。
”土門、飯炊きはいいぞ。俺は、退艦したら洋食屋を開くんだ。みんなにほっこりしてもらうような。なあ、土門、お前コックで俺の店に来てくれないか?”
先輩、先輩のやりたかった店とは違うかもしれないけど、俺は、お客さんたちに満足してもらえるよう頑張ってるよ。
”バース星が春の時に、あいつらに会いに行きたいな。”
揚羽、ベムラーゼ首相が死んだよ。あの独裁者が。もしかしたら、バースに本当の春がやってくるかもしれない。揚羽、今、お前、どこにいるんだ。俺は信じてる。お前がこの宇宙のどこかに、きっと生きてるって。
その年の4月上旬、満開の桜の下で、ヤマトの同窓会が開かれた。
「悪いな、土門。花見弁当まで作ってもらって。」島が笑った。
「いえ、ヤマトでは和洋中全て、叩きこまれましたから。」竜介は酒を注いだ。
「ユキさん、古代艦長は、まだ来ないんですか。」相原が尋ねた。
「少し遅れるって連絡があったわ。同窓会も3年ぶりだからみんな驚くかも」
「しかし、ユキ君は子供2人でシングルマザーだから大変だな。」島の問に
「それなら、真田さんの方が大変かもしれないわ。」
「いや、シングルファーザーといっても、俺のところは、守とスターシャさんがきっちり躾をしてくれた後だったから、サーシャも進も。」
「何で守さんもスターシャさんも、子供を地球に?」南部が尋ねた。
「スターシャさんの希望だったそうだ。自分はイスカンダル王家の人間だから、王家の人間として生きるが、子供たちは自分の意思で生き方を選んでほしいって、」真田は言った。
「みんな、遅れてすまない。」進の声がした。
みな、一斉に振り返った。桜の木の元に、黒い髭を長く伸ばした長髪の男が立っている。
「お、お前、本当に古代か?」島は仰天した。竜介も絶句している。
「酷いな。まるで雪男だ。」「沖田艦長の真似かもしれないけど、まだ髪の毛も黒いからダメですよ。」「ユキさん、よく旦那さんだと分かりましたね。」皆口々に、進をからかった。
「土門、」進は口を開いた。「お前に謝らなければならない。ユキにもみんなにもだ。俺は長い間、みんなを欺いてきた。」
「どういうことですか、艦長?」竜介は呆然と言った。みんな静まり返っている。
「ベムラーゼが死んだって?」皆頷いた。「航行中で、俺は知らなかった。帰港して初めて知った。みんなこれを聞いてほしい。」
進は、通信テープを取りだした。兄の守からの通信だった。
「進、約束してくれ。今から、お前に伝えることは、どんなに辛くとも、お前の胸一つに納めておくと・・・1カ月前、イスカンダルに一隻の宇宙戦艦がたどり着いた。乗員は若い男女1組だけだった。男は地球人のパイロット、女性については何も言うまい。二人とも銀河系では、寄る辺の無い身の上だとの話だった。私はスターシャと相談し、イスカンダルの波動エンジンを与えた。無限に航海できるように。今日、2人は旅立って行った。別の銀河に向かって。」
16年前の通信はそこで終わっていた。
「揚羽・・・」竜介の眼から涙があふれ出した。
「じゃあ、あの時、古代が送ったのは、イスカンダルへの航路図だったのか」島が頷いた。
「俺も、イスカンダルへたどり着ける可能性は殆ど無いと思ってたんだ。途中で補給でもしない限り」進は続けた。「兄さんからこの通信が来たときの驚きと喜びは忘れられない。だが、ベムラーゼが生きている限り、今度はスターシャさんに迷惑がかかってしまう。」
「そのベムラーゼは死んだ。少なくともガルマン人なら、イスカンダルを攻めるはずがない、古代、辛かったろう」真田が呟いた。
「ユキ、すまない。」
「いいのよ。進さん、あなたが、貨物船の船長になったのは、嫌がらせのせいだけじゃなかったのね。」
「土門、本当にすまない。」
「いえ、良いんです。俺は、あいつがどこかで、きっと、生きてるって、ずっと信じてました。」竜介は涙をぬぐった。
「やあ、めでたい。めでたいのお。」佐渡が泣きながら酒を煽った。
「さあ、景気良く行きましょう。シャンペンです。」竜介が栓を抜いた。
「乾杯。」進の声に合わせ、皆祝杯を挙げた。
”臨時ニュースを申し上げます。臨時ニュースを申し上げます。”
通信パネルの音が入ってきた。
「なんじゃい?誰のパネルじゃい。」
「ぼ、僕のです。すみません。」相原が慌ててスイッチを入れた。
「お前には、デリカシーちゅうもんがないのか。」佐渡が酒瓶を振りあげて怒鳴った。
「ま、カタブツの相原君だからね。」と太田。
「なんたって、通信班長様だから、どんな通信でもキャッチしちゃうのよね」と南部がからかった。
「勘弁してくれよ。」相原はそう言いつつも、パネルを操作する。
「超長波通信を傍受。ボラー連邦及び、ガルマン帝国双方の共同通信です。”ベムラーゼ首相の死去に伴い、ボラー連邦の新首相にヴィシンスキー外相が就任した。ここに、ボラー連邦とガルマン帝国は正式に和平条約を締結。両国の緩衝地帯として、バース星を永世中立国として、独立を承認、両国在住のバース人のバース星への帰還を決定した。”」
皆がどよめく。
「すごいぞ。雪解けだ。」相原が叫んだ。
「これで、地球の防衛戦略も大きく変わることになるでしょう。あ、今、ガルマン帝国の映像が入りました。デスラーの演説です。」
パネルに、デスラーの姿が映し出される。
”ガルマン・ボラーの戦士、および長きにわたる戦闘で、犠牲となった全ての勇士に贈る。諸君らの勇気と忠誠心を、我々は生涯忘れはしない。しかし、戦いは終わった。最前線の兵士達よ。武装を解き、故郷に帰りたまえ。手に銃ではなく、鎌と槌を取ろう。諸君らの勇気は、今後は祖国の復興のために、家族のために使ってほしい。ここに、我々ガルマン帝国は、宿敵ボラー連邦との和平条約を締結した。両国の恒久平和の証として、バース星の独立を承認する。両国のバースの兵士、およびその家族の諸君のバースへの帰還を、我々は心から祝福する。ガルマン帝国及びボラー連邦、そして、独立を勝ち取ったバースの未来に幸多からんことを”
「デスラー、老けたな。」進は思わず言った。周りはどっと笑った。
「どの口が言うかだ。」島が呆れたように言い
「艦長代理、まずひげをそってからにしましょうよ」太田が言い
「戦闘班長、一番老けてますよ。」加藤も笑い転げた。
「17年ぶりなんだ。変わったように見えるだけだぞ。俺たちも、まず、鏡を見るべきかもしれんな」真田が笑いながら言った。「しかし、義勇軍を率いて独立を勝ち取り、20年も、大国ボラー連邦と、互角に戦い続けたんだ。並みの人間ではない。」
「そうだ。彼のおかげで、危うく人類は滅びかけたんだからな。」進は付け加えた。「今となっては、それも懐かしい・・・」
皆の心に、沖田艦長の姿が甦る。
竜介の心に、声が響いた。
”バースの春は素晴らしいぞ。””頑張れよ、ちび。”
「皆さん、また乾杯しましょう。」竜介は言った。「銀河系の平和を祝って」
乾杯の声が、桜堤に響く。
その夜、談笑するヤマトの元乗組員たちを、花吹雪が包んでいった。
1月からちまちま書き始めた、ヤマトⅢの二次創作。
エピローグをどうしようか迷っていた時
2022.2.22 ネコ好きの同僚がこう言いました。
「今年はニャーが6回なんだけど、2222.2.22は、ニャーが7回のスペシャル猫の日なの」
私「200年も先じゃ、誰も生きてませんよ。宇宙戦艦ヤマトの世界ですよ。」
それで、頭の中に、2222年のネコの日に、佐渡先生とミー君とアナライザーと竜介が酒を飲むというイメージがわき、このエピローグを書き、このエピローグに向かって物語を進めました。
ボラー連邦のモデルは原作と同じソヴィエト連邦
ベムラーゼ首相はスターリンがモデル
バース星は、エストニアでもポーランドでも、とにかくスターリンに酷い目に遭わされた衛星国
しかし、まさか、ウクライナで本当に戦争が始まるとは思ってもいませんでした。
設定
時 2205.10月~
年齢
古代・ユキ・島・南部・相原・加藤は24才
真田さんは34才
土門・揚羽達は18才
土門と揚羽、若い二人の成長物語としました。
なるべく人が死なない話にしました。