「太田、レーダーを確認しろ」島の声が第一艦橋に響く。
「今の所異常無しです。」「目標バーナード星。位置確認。」「針路そのまま。」「ようそろ。」島が復唱した。
「バーナード星までは、あとどのぐらいだ」
「後2日でつく。古代」
「真田さん。バーナード星はどんな所ですか?」
「一度植民が行われたんだが、遺棄されたらしい。太陽圏の最果ての星と言った所だ。」
「何で放棄されたんですか?」島が尋ねた。
「よくわからんのだが、α星より5.6光年先、ヤマトのようにワープ航法の使えない船では、遠すぎるのだろうな。」
「未確認飛行物体。超大型ミサイルです。10発。」
のんびりした艦橋の雰囲気が一変した。
「太田、針路は」「α星です。」「よし、南部、全て撃ち落とせ。」「了解、第一・第二砲塔発射準備。」「準備完了」「発射。」
「あの大型ミサイルの発射点は」進が尋ねた。
「今確認しています。バーナード星です。」
「よし、バーナード星まで全速前進。」
「待て古代。罠かもしれないぞ。」島が質問した。
「罠。我々をおびき寄せるために?」
「確かに島の言う通りかも知れん。」真田も言った。
「しかし、遺棄されたとはいえもともと地球の入植地、これを見逃すと、α星だけじゃなく、地球にまで被害が及びます。真田さん、ここは、叩かせて下さい。」
「よし、行こう。古代。」
「わかった。だがくれぐれも気を付けろよ。敵の基地がある以上、どんな罠が仕掛けられているかわからないからな」
進は頷いた。
「太田、軌道からミサイルの発射地点を探せ。全速前進。」
「古代。」相原が叫んだ。「救難信号。位置、バーナード星の赤道付近。音声信号です。」相原がスイッチを入れると
「こちら、バーナード星、病人がいます。誰か助けて」かなり混乱した声だった。
「まず救助が先だ。」
「これこそ罠かもしれない。」島が首を振った。
「いや、位置はミサイル発射点の反対側だ。ちょうど死角になっている。」進は言った。
「しかし、古代。病気というと風土病かもしれない。未知のウィルスがヤマトに入り込んだら厄介だぞ。」
「救助と分析を兼ねてロボット衛生兵を使えば?古代君。」
「よし、ユキ。ロボット衛生兵を準備してくれ。」
バーナード星は、ドライアイスで覆われていた。
「酸素も殆ど無く、さらに風土病。それで遺棄されたのかしら。」ユキがデータを真田に渡した。
「太田、レーダーから眼を離すな。ここは敵の勢力圏だ。」島が指示した。
「相原、通信信号は?」進は尋ねた。
「音声信号を解析します。切れ切れですが、不規則なパターンです。人間の肉声と思われます。位置はここから南東に40キロ。」
メインパネルに建物らしき物体が写った。
「あの建物のようです。音声信号もあの中です。」
「よし、コスモハウンド発進準備」
「強力なエネルギー、ヤマトの、右30°。」「ようそろ。」島が急反転させる。
コスモハウンドに乗っていた竜介は、ロボット衛生兵と共に外へ放り出された。
「いてて」ロボットたちはばらばらになっている。組み立てようにもこう左右に揺られては、しがみ付くだけで精一杯だ。「酷いな。島副長。何やってるんだろう。」
「エネルギーが曲がってきました。」
「何?」
「エネルギーヤマトの後方」島が舵を切る。
「曲がっただと?」
「はい、あ、反射版です。」
「何、では反射衛星砲か」真田が叫んだ。
反射衛星砲はガミラスの冥王星前線基地のもの、やはりデスラーが、いや、彼はそんな男ではない。そんな男ではないはずだ。しかし、心の動揺とは裏腹に言葉が出た。
「加藤。コスモタイガー発進。」
「間合いが分かりますか?戦闘班長。」
「衛星砲は、連続発射はできない。今がチャンスだ。」
「了解。」コスモタイガーが飛び出した。「各機、反射衛星を撃ち落とせ。散開」
「太田、反射衛星砲の発射点はわかったか。」
「はい、地点N55、W137です。ミサイルの発射地点も同じです。」
「レーダーで目標を注視しつつ、前進。」
「太田、反射衛星は見えるか?」「もう、無いようです。」
「油断するなよ。太田」真田も声をかけた。
基地があるはずの地点は山脈がそびえ、レーダーの反応がない。これでは、敵が攻撃してこない限り、位置はわからない。進は焦っていた。
「エネルギー真下から。」「くそっ。よけられん。」
「南部、空間磁力メッキだ。」真田が叫んだ。
「ヤマト艦底部。空間磁力メッキ作動。」
磁力メッキが艦底を覆うのと反射衛星砲のエネルギーが到達するのと同時だった。次の瞬間、放ったエネルギーが全て跳ね返され、基地は吹き飛んだ。
「これを使うのは2度目だが、冷や冷やしたぜ。」南部がため息をついた。
「よし、コスモハウンド発進。大気圏外でロボット衛生兵を放出。」
竜介は待ってましたとばかりに飛び出した。
「土門、いいか。」進は話しかけた。「お前は大気圏外でそのまま待機しろ。」
ロボットのアイカメラから、映像が送られてくる。半ば朽ち果てた建物に人の気配はない。
「こんな所に本当に人が住んでいるのかなあ。」太田が言った。
「でも、間違いなく音声信号はここからだぜ。」相原が返す。
ロボットたちは一部屋一部屋、戸を開けていった。最後の扉を開け中の様子が映し出される。
「う・・・」竜介の口から胃液がこぼれだしそうになる。彼は必死にこらえた。
「これは」第一艦橋のメインスタッフたちも言葉がない。半ばミイラ化した3体の遺体があった。一人はベットに横たわり、もう一人は床に倒れていた。そして、女性と思しき遺体が通信パネルの前でこと切れている。
「女性は死後1カ月らしい。他の遺体は男だな。多分親子なんだろう。」真田が呟いた。死因が感染によるものらしいが、原因は不明と聞き、進は竜介に帰投を命じた、ロボット衛生兵を残して。
「ロボット衛生兵たちはデータをα星に送ってくれるだろう。」竜介の報告を第一艦橋で聞きながら、進は言った。
「古代艦長。質問してよろしいでしょうか?」
「どうした土門?」
「その人が、亡くなっているのに、どうして音声信号が来たんでしょうか?」
「それは、簡単なトリックさ。」相原が口を開いた。「おそらく、ダゴンたちは、救難信号を録音したんだろう。その録音を通信衛星を使って、本物の救難信号のようにして、ヤマトを吊りだそうとした。そんな所だろうな。」
「なんて奴らだ。」竜介は怒りに震えた。「ガルマン帝国というのは何て卑劣な連中だ。」
「土門、怒りはわかる、だが、怒りで自分を見失うなよ。」進は忠告した。
「古代君。」展望室から、ぼんやり星空を眺めている進に声がかけられた。「どうしたの?」
「やっぱり、デスラーは俺たちの敵なんだろうか。」
「わからないわ。だけど、古代君はどう思いたいの?」
「敵だとは思いたくない。あの男が約束を破るはずがないって思いたい。」
「じゃあ、今はそう思ったほうがいいわ。」
「うん。そうだね。」
調理場を掃除している竜介に、ユキは声をかけた。
「土門隊員。」「はい。」「もうすぐ、バーナード星を離れます。その前に、」
竜介はユキと共に甲板に出た。ユキは花束を抱えている。
「バーナード星に入植した勇者たちに敬礼」
ユキの言葉に竜介は敬礼した。黙とうの後、花束をバーナード星に向かって投じる。おそらく、花束はゆっくりと大気圏の中に落ちていくに違いない。それが名も知らぬ3人の墓標になるのだろうか。竜介の心に痛みが走った。それは、遺体すら見つからなかった両親に対する痛みと同じものなのかもしれなかった。
ガルマン東部方面軍総司令部のある宇宙要塞に情報が入ったのは、ユキと竜介が弔意を表していたまさにその時だった。
「何?」知らせを聞いたガイデルは暫時、瞑目した。「フラーケンとハイニを呼べ」
「どうされたのですか?ガイデル提督?」ガイデルのただならぬ様子に、ハイニも沈黙している。
「第7機甲師団が、全滅した。」
「まさか?で、ダゴン将軍は?」
「生死不明だが、まず生きてはおるまい。」
「どこでやられたのです?」「バーナード星だ。」
「では基地ごと?」「うむ。・・・問題はやられ方だ。」
ガイデルはバーナード星基地からの残存映像を見せた。
「変わった形の戦艦ですな」フラーケンはヤマトを見つめた。「これは、反射衛星砲。フラウスキー少将が改良する必要性があると言っていた?」
「ダゴンの奴、勝手に流用したらしい。だが、このヤマトの戦い方を見てみろ。フラーケン。」二人は画面を見つめる。
「反射衛星を戦闘機で破壊?では、このヤマトは反射衛星砲とかつて戦ったことのある艦。」
「それだけではない。問題は次だ。」
映像はヤマトが磁力メッキに覆われる姿を映し出した。
「これは空間磁力メッキ。」フラーケンの額にうっすら汗が浮かんだ。
「映像はここまでだが、どうもこの艦は、必要に応じて磁力メッキを作動させるらしい。」
「まさか、フラウスキー少将ですら、反射版として開発することで精いっぱいなのに、しかし、これでは、この艦にはビーム砲は一切使えないことになりますな。どこの艦なのです?」
「ケンタウルス・リギル・α星だ。バーナード星よりさらに辺境にある。」
「なぜ、そのような辺境まで?兵站を考えても、侵略する意味はないのでは?」
「出世したかったからじゃねえの?目立とう、目立とうでさ。」
「うむ。儂の考えが甘かったのか?野心家でも構わないと思ったのが」
「そんな事はありません。」
「しかし、より悪いことがある。」フラーケンもハイニもガイデルの顔を見つめた。
「どうも、α星のヤマトはラジェンドラ号に加勢したらしい。第7機甲師団は、α星の戦いでほとんど壊滅したようだ。それもヤマト一隻で」
「では、α星はボラーの衛星国?」「それもわからん。キーリングの情報網にもかからなかった。バース星の同盟国ならば情報網が探知するはずだが」
「一隻だけで一師団を全滅させるなんてありえねえっすよ。デスラー砲でも使わなきゃ。」
その言葉に、二人は蒼白になった。
「いま、ヤマトはどこに居るのです?」「銀河中心部に向かってきている。」
「侵略のために?」「だが、一隻というのが解せん」
「よう。土門、」揚羽が食堂で計算をしている竜介の肩を叩いた。「なんだ。揚羽か。」
「何やってるんだい。」「食料の計算さ」
「ふうん。忙しそうだな。」「そっちはどうなんだい。コスモタイガー隊はパトロールはしないのかい?」
「ヤマトのレーダー手が頑張ってるから、俺たちは骨休めさ。」「いいなあ。俺の仕事は、毎日だからな。」
「土門、ちょっと。」平田が竜介に声をかけた。
「じゃあ、俺。」立ち去った竜介の姿を見ながら揚羽は思わず言葉が出た。「本当に忙しいんだなあ、あいつ。」
「平田先輩、何か。」「森生活班長からの呼び出しだ。」「はい。」
乗艦当初は、反抗的だった竜介は見違えるほど穏やかになった、佐渡先生からアドバイスを頂いて本当に良かった、ユキはそう思った。
「平田隊員、土門隊員。食料がつきかけています。」「そんなバカな。α星で補給を十分行ったはずです。」平田が説明する前に、竜介が口を出した。
「バーナード星での戦いで、冷凍室の空調が壊れたのよ。」
「じゃあ、日干しですよ。困ったな。」平田も頭を抱えた。
「ここから、150光年ほど銀河中心部よりに植物のある惑星がレーダーに反応しています。食糧調達を艦長に頼んでみるわ。」気が進まないことだけど、ユキは思いだした。
「わかった。太田。その惑星の位置を割り出せ。」「距離150光年。位置x14y11z+3」
「ワープ1回で行けるが、大丈夫か。」島が尋ねた。
「ガルマン艦隊の機影は見えません。孤立した星系です。」太田が答えた。
「よし、ワープだ。」進は決断した。
メインパネルに拡大された惑星は、針葉樹に似た木に覆われた惑星だった。荒涼としたバーナード星を見た進たちには、あたかも砂漠のオアシスのようにみえる。
「これなら、食料になりそうなものは手に入りそうだな。」という進に
「いや、まず、病原体の調査をすべきだ。」真田が答えた。
「よし、無人探査機発射。」
「ヤマト右舷に戦艦出現。距離0.5宇宙キロ!」太田の声と同時に、ビーム砲が撃ち込まれた。
「また敵か?」島の言葉に
「よし、南部、主砲発射準備」
「まて、古代。あれは威力偵察だぞ。」
「古代さん。敵艦より音声通信。メインパネルに切り替えます。」
青白い顔をした男が映し出される。肌の色のせいか陰鬱な感じだ、進はそう思った。
「貴艦は、我がバース星の領域侵犯をしている。艦名を名乗られよ。何のための侵攻か?」
「私は宇宙戦艦ヤマト艦長、古代進です。侵攻の意図はありません。」進の名乗りに男の態度が変わった。
「大恩あるα星の宇宙戦艦ヤマトとは知らず、失礼仕る。α星で無念の戦死を遂げたラム艦長は我がバースの軍人である。私は警備隊長レバルス。宇宙戦艦ヤマトの勇士諸君。諸君の寄港を我々は心から歓迎する。」
「我々が望んでいるのは、水と食料の調達です。」進は答えた。
「3日間の滞在を許可する。ボローズ提督が歓迎の晩餐会を開く。ぜひ参加されたし。」
「この星が、バース星だったのか。」「あのラム艦長の」ざわめきが第一艦橋に広がる。
「平均気温5℃、大気成分地球型。有害ナ病原体ナシ。」アナライザーが分析した。
うっそうとした森林が広がる。人が少ないせいか豊かな自然が残されている。
ユキは平田とアナライザーとコスモハウンドに乗った。竜介が操縦かんを握る。
「地球ヨリ空気ガ、オイシイデス。」食料を集めながらアナライザーが言った。
「何だろう。平田先輩。あれは」竜介が指さした方向に電気柵で囲われた建物が見えた。痩せ細り、顔色も悪い人間たちが働かされている。
「何をしている。」銃を持った警備兵が現れた。
「我々は、警備隊長の許可を貰って、植物を採集しています。」平田が答えたが
「ここは立ち入り禁止だ。すぐ出て行け。」警備兵は4人を追い立てた。
「無礼ナ警備兵ダナ。」「あれは何だったんでしょう」竜介の問に
「多分、収容所よ。あれは囚人たちなんだわ。」
「班長。」アナライザーが口を開いた。「らじぇんどら号ノ乗組員ト同ジ遺伝子ナノハ、アノ警備兵タチダケデス。今ノ所、ばーす星人ハ、彼ラシカイマセン。」
「何ですって?」「バース星なのにバース星人がいない?そんな馬鹿な。」
「何でなんですか?生活班長?」竜介の問にユキは顔を曇らせた。
「私たちは見てはいけないものを見たのかもしれない。食料を集めたらすぐ戻りましょう。」
「バース星に自国民がいない。どういうことなんだユキ?」ユキの報告に進は考え込んだ。
「住民たちを強制的に他の星に連れて行ったのかな?何のために?」相原の問に
「人質じゃないか?ボラー連邦の」島の言葉に全員顔を見あわせた。
「そんな連中のパーティなんか出たくないな」「俺もそう思う。何だか薄気味悪い星だ。」南部たちも呟く。
「憶測で不安がっていても仕方がない。招待を受けた以上出るのが礼儀だ。」真田がたしなめた。
「とにかく、島は残り、万一の事態に備えてくれ。」「わかった古代。」
「加藤、コスモタイガー隊は待機。島の指示に従え。」「了解」
「ただしくれぐれも先に攻撃するな。」真田が付け加えた。