バース星の上空に大艦隊が現れた。
あれがボラー中央政府の艦隊なのか、進たちは息を呑んでメインパネルの映像を見つめた。
「土門、コスモハウンド発進。」進は竜介に命じた。
加藤がコスモタイガーで護衛する。
収容所の上空を通るとき、竜介は信じられない光景を見た。レバルスが囚人たちを銃殺している。裁判も無しに、竜介は愕然とした。
「艦長。」
「土門、降下させろ。」
「まて、古代。バース星の内政に首を突っ込まないほうがいいのではないか」進の返答に真田が異議を伝える。
「いえ、寛大な処置をとお願いした我々の頼みを拒否されたんです。見過ごすこともできません。」
降下したコスモハウンドに、レバルスは銃殺を中止し、進が来るのを待った。
「レバルス隊長、寛大な処置をとお願いしたはずですが。」
「古代艦長。我々の囚人だ。我々が裁く、第3国の人間の口出しすべきことではないと思うが」レバルスは冷たく言った。副官が銃殺命令を出す。バース兵たちは銃を構えた。
進も竜介も見た。兵士たちの眼に写った言い知れぬ憎悪を、そして、レバルス達上官の無感動な眼を。
「大変な迷惑をおかけして、謝罪の言葉もない」謁見室で待っていたボローズ提督の第一声がこれだった。「囚人たちには厳罰を持って臨む。」
「待って下さい。我々は寛大な処置をお願いしたはずですが」進の言葉をさえぎってボローズはさらに続けた。
「彼らは、我がボラー連邦の法律を破った狂信者どもだ。生かしておいただけでも温情だったのだ。」
また、狂信者と言う言葉が投げかけられた。あの大人しそうな囚人たちに浴びせる言葉とも思えない。
「古代艦長。真田副長。こちらへ」ボローズが促した。「ボラー中央政府の閣僚、ゴルサコフ総司令がお待ちだ。囚人の反乱が起こったため、予定を変更して立ち寄って下さったのだ。お二人に会いたいと、総司令も希望しておられる。」
豪華な部屋に通された。おそらく中央政府の要人のための謁見室なのだろう。窓の外を見ている背の高い男のシルエットが進の目に飛び込んできた。いきなり要人との会見なのか。進の額にうっすら汗が浮かぶ。
ボローズの説明に男は振り返った。壮年の男だが陰鬱な表情だ。レバルスと言いボローズと言い、どうしてこのような陰鬱な表情なのだろう。デスラーとも、ズォーダーとも、また、ラム艦長とも違う。進は戸惑った。
「古代艦長。α星で、ラジェンドラ号に加勢していただき、感謝の言葉もない。ボラー中央政府は、α星の同盟を喜んで受け入れよう。対ガルマン戦線に心強い味方、ベムラーゼ首相も大変お喜びだ。」ゴルサコフ総司令は慇懃に話し始めた。
「待って下さい。」進は慌てた。「ボローズ提督にも申しあげましたが、我々の目的は新人の研修航海。私には外交特権は全くありません。ガルマン帝国という国の戦艦とは、α星の領空侵犯でやむなく戦闘になったまでです。宣戦布告もされてはおりません。」
「ゴルサコフ総司令。」真田が付け加えた。「ラム艦長の最期の通信で、ラム艦長は我々の星を、無関係の中立国と伝えたはずですが。」
「そうか。」ゴルサコフは沈黙した。「君たちは、なかなか聡いな、その若さに似合わず。その聡さを見につけるには、さぞや苦労があったのだろうな。」彼は薄く笑った。「α星とボラー連邦が長きの友好を結べることを、私は期待する。」
進たちは会釈をすると、謁見室に戻った。
「シャルバート信者のことも、ボラー連邦のことも何一つわかりませんでしたね。」進はため息をついた。
「ボラー中央政府も地球を属国に臨んでいることがはっきりしただけでも収穫だぞ、古代。」
進たちは早々に帰路についた。
「土門、一刻も早くヤマトに戻れ。」進の厳しい表情に竜介は戸惑った。
「加藤。」進の言葉に加藤は黙ってうなずくだけだった。
ヤマトに着艦すると、竜介は体から一辺に力が抜けていくようだった。
「大丈夫か、土門。顔色が悪いぜ。」揚羽が尋ねた。
「大丈夫だよ。でも、艦長も副長もピリピリしてて、なんだか嫌な予感がする。」
第一艦橋に戻るとすぐに進は、発進命令を出した。
「ヤマト発進。準備はいいか、島。」
「ようそろ。機関室、準備はどうか」
「何時でも発進できます。」太助の声が響く。
「ヤマト発進。」
「加藤達コスモタイガー発進準備。敵襲に備えろ」進は艦内放送を通じて命令した。これで緊張が艦内に伝わる。
「太田、レーダーを監視しろ」島が付け加える。「はい。」
「何があったんですか、真田さん。」相原が尋ねた。
「ボラー連邦との同盟を断った。つまり、彼らにとって、ヤマトは味方ではないということだ。」
「攻撃を受ける前に脱出ですか。」南部が尋ねた。「各砲塔、および、パルスレーザー戦闘準備」進が答える前に、南部は命令を伝達した。
ゴルサコフの艦隊が、バース星の空から離れていく。彼らと同時刻で離脱すれば、戦闘は少なくて済むだろう。
「レーダー10時の方向から、ミサイル。」「ようそろ」
「相原、通信回路を開け。」進は叫んだ。
「ボローズ提督。我々はあなた方と敵対してはいません。攻撃を中止してください。ボローズ提督」もちろん答えは無い。
「全砲門開け。応戦だ。」
ヤマトの弾幕にミサイルは全て撃ち落とされた。しかし、大気圏から離脱したヤマトを、バース星の艦隊が襲い掛かった。
「各砲塔、パルスレーザー基部、空間磁力メッキ作動。」南部の声が響く。
「コスモタイガー出撃。」
「出撃します。」加藤が答えた。
ビームを掻い潜って戦闘機が襲来する。揚羽はそれらを全て撃ち落とした。α星との戦いとは比較にならないほど激しかった。敵の機銃をよけそこなった僚機が四散するのを横目に見ながら、敵機のエンジンに機銃を打ち込んだ。恐怖は感じなかった。いや、感じる暇もなかったのだ。
「コスモタイガー帰還せよ。」進は加藤に伝えた。「帰還後、直ちにワープ。」
「ようそろ」島が答えた。
「土門、落ち着け。」「でも、先輩。」
「俺たちは俺たちの仕事を粛々とやるほかないんだ。戦闘が終われば、腹が減る、のども乾く。そんな彼らに、上手い飯を作ってやるのが俺たちの仕事だぞ。」
衝撃が伝わる中、平田は鍋をかき回した。
戦闘のわずかの合間を縫って、ヤマトはワープした。
「太田、レーダーから眼を離すな。」「了解、今の所異常はありません。」
「被害は?」
「第一砲塔、敵ミサイルで被弾、砲手2名死亡。けが人10名いずれも軽微。」「コスモタイガー、2機撃墜。」南部と加藤が答えた。
「やはり空間磁力メッキでも十分ではないか。」真田が呟いた。
「しかし、なんて奴らだ、味方にならないからって攻撃してくるなんて」相原の問に
「味方で無ければ敵、ボラー連邦とはそう言う考え方をする連中なんだろうな」島が答えた。
揚羽は展望室で宇宙をぼんやりと眺めていた。
「大丈夫か?揚羽」土門が肩を叩いた。「二人戦死したんだって?」
「ああ、俺のチームの奴さ。」
「仇を取ろうな、揚羽。」その言葉に揚羽は答えなかった。
「揚羽、おい、しっかりしてくれよ。今回も撃墜王(エース)じゃないか。戦艦も2つ、撃沈させたんだろう?」
「土門・・・」「うん?」
「俺が、俺たちが撃墜した機や艦に、あいつらが載ってたんじゃないかって、俺、俺」
「あいつらって?」「バースの・・」
その言葉に竜介も思いだした。バースの春は素晴らしいと言ったあの暖かな声、あの森の冷気、談笑・・・
「そんな、そんな事あるもんか。あいつら、警備兵だろ。戦艦なんかに乗るはずないよ」しかし、竜介にも別の考えが浮かんだ。揚羽たちが倒したのは、彼らの兄弟だったかもしれない。
「何を騒いでいるの?二人とも」ユキが立っていた。
「何でもありません。」揚羽は展望室を飛び出した。
就寝前の自由時間に揚羽と竜介は、艦長室に呼び出された。進だけでなく加藤の姿もあった。
「土門から聞いた。揚羽。彼を責めないでやってくれ。」進が、揚羽に話しかけた。
「はい。私は自分が情けないです。こんなことで動揺して」揚羽はうなだれた。
「ヤマトが、異星人との接触を可能な限り断つのが何故かわかるか?2人とも」加藤の問に、竜介も揚羽も戸惑った。
「戦いはいつ起こるかわからない。我々が望まなくても今回のように巻き込まれる場合もある。その時、敵を人間と認識してしまえば、躊躇する。揚羽、お前はパイロットだ、その躊躇が命取りになるぞ。」
「はい。隊長、どうすればできるのでしょう。」
進も加藤も、揚羽の眼を見つめた。まだ若く素直な眼差しだった。それは、すでに二人が失ってしまったものなのかもしれなかった。
「俺も、戦闘班長、いや、古代艦長も、ガミラスへの憎しみしかなかったよ。」加藤はぽつんと言った。
「ある日俺たちは、ガミラスの戦闘機を鹵獲した。」進は話し始めた。「俺たちは敵が人間の姿をしているとは、全く思っていなかった。自分たちとそっくりなんだと分かった時の驚きと憎悪は忘れられない。」
進の苦しそうな声に竜介も揚羽も息を呑んだ。
「俺はそのガミラス兵を殺そうとした。島と加藤が止めてくれなかったら、俺は今ここにはいないだろう。敵が同じ人間なんだと分かっても戦えたのは、何としても、地球に生きて戻るという、沖田艦長の言葉があったからだ。」
「揚羽、俺は、お前の優しさを羨ましいと思う。」加藤が口を開いた。「最初は憎しみで機銃を握り、そのうち慣れてしまったのだ。例え地球人が乗っていたとしても、敵方ならば撃墜できるだろう。それが慣れだ。だが、お前には、その優しさを失ってほしくないと思う。」
揚羽は涙ぐんだ。
「戦闘機乗りはクールであれという。だが、それはあくまでも戦闘中だ。機を下りてまでクールである必要はないんだ。お前たちはまだ新人だ。感情をあらわにするのは恥ではないと俺は思う。」進の言葉は竜介の心にしみた。
展望室で、竜介と揚羽は、バース星の方角を見晴るかした。バース星の太陽も星々の中に混ざり、はっきりとはわからなくなっていた。
「よう、お二人さん」平田がワゴンを運んできた。「期待の新人2人がしょんぼりしてると聞いて、スペシャルドリンクだ。」
「えっ、お酒ですか。さすが先輩。」竜介の言葉に揚羽が噴き出した。
「ば~~か、ココアだよ。」「なんだ。」
「現金な奴だなあ。神経がくたびれた時に暖かいミルクココアは定番だぞ、隠し味にダークラムが入っている。」
「やった。」竜介の声に揚羽がくすくすと笑った。
ココアの甘みが、心に沁み込んでくるようだ。竜介は今日1日の緊張がほぐれる気がした。おそらく揚羽は俺の何倍もそう思っていることだろう。
「なあ、揚羽」「うん?」
「いつか、またバース星に、あいつらに会いに行きたいな。」
「うん、その時は、バース星が春の時に行きたい。」
バースの春は素晴らしいぞと言った兵士の声が甦ってくる。
「その時に、バース星がバース人のものに戻っているといいな。」竜介は思わず言った。その言葉に揚羽は頷いた。
「それでは、α星との同盟も、ヤマトと言う戦艦の鹵獲も失敗したというのだな。」
ゴルサコフ艦隊旗艦のメインパネルにベムラーゼの姿が浮かんでいた。
「はい、申し訳ございません。」ゴルサコフは頭を下げた。「全てボローズの独断ということになりますので、α星から抗議が来たとしても、それで済ませられるかと、今までの経緯から、α星が、ガルマン帝国と同盟を結ぶとも考えられません。」
「バース星艦隊の全滅。狂信者どもの脱走。ボローズの失態は明らかだ。親衛艦隊を送り、ボローズと部下を即刻処刑せよ。そして、各収容所に送っている狂信者どもも始末せよ。」
「はっ。首相閣下。無関係の中立国の艦を襲ったのですから、それを理由にできましょう。」
「うむ、寄生虫どもはさっさと駆除するに限る。」ベムラーゼは眼を閉じた。
「首相閣下?」
「α星の戦艦は、どの宙域に向かっているか?」
「航路データから、オリオン腕の中心に向かっていると思われます。そこは、」
「ガルマン帝国の東部戦線の要塞があったな」
「はい、α星の戦闘で、ガルマン帝国の機甲師団が全滅しております。ガルマン艦隊とヤマトの戦いは総力戦となりましょう。」
「共倒れを高みの見物といこうではないか、ゴルサコフ。」ベムラーゼの頬に酷薄な笑みが浮かんだ。