「なに?ボラー中央政府の総司令官から、同盟を要請されただと?」ヤマトの定時交信で進と真田から報告を受けた藤堂長官は、息を呑んだ。
「私は外交特権を持っていない事実と真田副長はラム艦長の最期の言葉を伝えて、その場は拒否しました。」
「ボラー連邦は、ガルマン帝国との最前線に、衛星国の艦隊を送っているようです。ラジェンドラ号のラム艦長もそうした艦隊司令官の一人だったのでしょう。」真田が説明した。
「ガルマン帝国が海賊ならボラー連邦は」藤堂は唸った。「前門の虎後門の狼か、どちらと同盟を組んでも、地球が植民地になるだけだな。」
「双方とも、ヤマトの母星が、α星だと思っています。地球のことは我々も言いませんでした、それでよろしかったでしょうか」真田が尋ねた。
「正式の外交使節ではない、一演習艦の航海だ。余計なことは伝えなくともいいだろう。シャルバートの信仰については何も解っていないのだな。」
「バース人たちは、理由はわかりませんが、彼らを憎んでいました。バース星の総督も狂信者と言っていました。」真田が付け加えた。
「いずれにせよ、碌なものではなさそうだ。大統領に君たちの報告は必ず伝える。地球は鎖国でもした方がよさそうだな。」藤堂はため息をついた。
「以上で交信を終わります。」メインパネルは藤堂長官から、清楚な若い女性に切り替わった。
「お役目ご苦労様です。」相原はすかさず言い、胸ポケットにしまってあった押し花のカードを彼女に見せた。
「まったく、地球との交信のたびに、おのろけを見せられたんじゃ堪らないなあ」南部がからかった。
「ま、大目に見ましょうよ。カタブツの相原君のたった一つの楽しみなんだから。『遠恋』は辛いねえ」太田も口をはさむ。
「まあね」人差し指を振りながら相原が答えた。
「まあ、恋バナでもなければ、内容が内容だ。第一艦橋も暗くなってかなわないからな」島も冗談交じりに言う。
「さあ、皆さん、コーヒーをどうぞ。」ユキがアナライザーとワゴンを運んできた。
「ユキ君のコーヒーか、久しぶりだなあ。また、不味いんじゃないかい」島がからかった。
「失礼ね。」みんな手を伸ばす。
「う~~ん。前よりは格段においしいけど、やっぱり不味いな。」と太田。
「私ハ、トテモ、オイシイデス。」アナライザーがそう言った。
「まあ、こういうコーヒーが飲めるのも、ヤマトの味ということだな。」真田も言った。
「いや、俺も美味しいと思うよ。」進は無理していった。
「じゃあ、古代君。もう一杯どうぞ。」
進は結局3杯も飲まされた。島たちは吹きだしそうになっている。
「ふうう、目が回りそうだ。」進は首を振った。「冗談はさておき、真田さん今後は」
「これがボローズが示した宇宙図だ。」メインパネルに銀河系の宇宙図が浮かび上がった。「地球の位置はここ、最辺境だ。そして、ここがバース星。そこから、北東部に広がっているのがボラー連邦。南西部の一角を占めるのがガルマン帝国。ヤマトの針路は銀河系の中心。おそらく、ボラー・ガルマン両勢力の最前線だ。」
「ヤマトが双方から攻撃される可能性が大という訳ですね」島が尋ね、真田は頷いた。
「古代。戻るという選択もあるんじゃないか。」島が口を開いた。
「俺もそれは考えた。しかし、今までの調査では、ボラー連邦のことが少しわかっただけだ。ガルマン帝国は勿論、シャルバート信者のことも何も解っていない。」
「しかし、このままだと我々は、ボラーだけじゃない、また、ガミラス人と戦うことになるんだぞ。ガミラス戦役で家族を失った若い隊員の憎悪を煽ることになりはしないか?」島はさらに続けた。
「地球が鎖国するにも、ボラー・ガルマンに納得させる名分が必要だろう。」真田が口を開いた。「そのためには情報が必要だ。何としても。」
進の心は決まった。
「島、ヤマト発進。針路、銀河中心部。」「ようそろ」
ヤマトは発進した。銀河中心部に向かって、そこには、ガルマン帝国東部方面軍要塞が待っている。
「なに、あのα星の戦艦が、バース星に立ち寄っただと?」ガイデルの顔色が変わった。
「はい、さらにα星の戦艦は、まっすぐこちらに向かってきます。」偵察艦の指揮官がパネル越しに伝える。
「ガルマンウルフを呼べ。」ガイデルは副官に命じた。
フラーケン艇長が指令室に入ってきた。
「ガイデル提督」彼はすぐさま敬礼した。
「あのα星の戦艦、ヤマトがバース星に寄港した。」
フラーケンの眉が吊りあがった。
「では、やはりボラーの同盟国。」
「うむ、正式ではないのかもしれないが、何らかの関係があると考えていいだろう。ガルマンウルフ、君の腕が借りたい。」
「このガルマンウルフ、いつの時も、提督の忠実な右腕でございます。」
「次元潜航艇、ガルマンウルフ艦隊の整備はどうか」
「何時でも出撃可能です。」
「じゃあ、キャプテン、今度はそのヤマトって戦艦を撃沈するんで?」出撃したガルマンウルフ号の艦長室でハイニは尋ねた。
「撃沈するのなら簡単だが、生きたまま捕えろということだ。これは難しいぞ。」フラーケンはハイニ達に作戦を説明した。
「空間磁力メッキを備えた艦をどうやって」レーダー手が尋ねた。
「バーナード星でヤマトはダゴン艦隊の反射衛星を撃墜している。空間磁力メッキは魚雷やミサイルには弱いはずだ。」
「じゃ、亜空間魚雷ですかい?キャプテン。」
「そうだ、亜空間魚雷を、艦尾の噴射口と、この」フラーケンは、ヤマトの波動砲の発射孔を指示した。「艦首の発射孔にぶち込めば」
「一撃必殺っすね。ヤマト轟沈だ」ハイニがはしゃいだ。
「そうできればな」フラーケンは腕を組んだままため息をついた。「だが、ガイデル提督が手に入れられるのは、ヤマトの残骸だけになるぞ。勿論、乗組員も全員戦死だ。」
「ふ~~ん。ガイデルのおやっさんは、何で生きたままって、そんな七面倒臭いことを言うんすかね?」
「α星の科学力を調べたいんだろう。」
「この発射孔らしきものは何なんでしょう?」レーダー手がまた尋ねた。
「おそらく、デスラー砲だ。」フラーケンの言葉にみんな固まった。
「マジっすか?」「考えられねえ。」
乗組員たちの動揺が収まるまでフラーケンは待った。
「ハイニ、お前が自分で言ったことだぞ。一隻で一機甲師団を全滅できるのはデスラー砲だと。」
「磁力メッキにデスラー砲か」「まさに無敵の戦艦だ。」「それを生きたままか」
任務の大変さに、皆息を呑む。
「おそらくそのデスラー砲も」フラーケンは静かに言った。「ガミラスのものよりも強力だろう。エンジンの出力から考えても。」
「そんな科学力が、何で最辺境の星に?」
「解らん。だからこそ、ガイデル提督は、俺たちにヤマトを鹵獲させたいんだ。お前たち、これは大変な任務だ。今まで俺は、海賊として、お前たちに命令してきた。仲間の命が何よりも大切な海賊の首領ガルマンウルフとして。しかし、今回ばかりは違う。俺は、艦隊司令官、フラーケン大佐として命令する。ガルマンウルフ艦隊は、僚艦が犠牲になっても、ヤマトを生きたままガイデル提督に引き渡す。命の惜しいものは、今、抜けてほしい。」
沈黙がガルマンウルフ艦隊を押し包んだ。
「キャプテン。キャプテンは、今まで俺たちの命を守ってくれた。いざという時のためにと、それが今だ。俺たちはキャプテンに命を預ける。」長い沈黙の後、3号艦の艦長が静かに言った。
「すまない。みんな。」フラーケンは眼を閉じた。
「作戦を説明する。」再び目を開くと、フラーケンは言葉をつづけた。「亜空間魚雷を連続発射し、ヤマトのエンジンにダメージを与え、ワープ機能を封じる。8号艦から10号艦までは、ヤマトの前方に出現、囮となってヤマトを東部方面軍機動要塞まで引きずり込む。ヤマト本体が次元ソナーを用意していると想定。その場合はガルマンウルフ号が次元潜航艇で無かった時の戦法を使うしかない。」
「白兵戦すか?キャプテン」
「そうだ、ヤマトの艦橋を占拠し、俺たちで動かすしかない。なるべく使いたくない戦法だがな。まずは、亜空間魚雷だ。」
「野郎ども。ガルマン海賊の意地を見せてやろうぜ」
「応!」久しぶりのハイニの檄に僚艦の乗組員たちは鬨の声を上げた。
その頃、ガイデル提督は、ガルマン本星に定時交信を行っていた。
「ガイデル。」デスラー総統の姿がメインパネルに映し出される。ガイデルは敬礼した。
「第7機甲師団が全滅したそうだね。」デスラーは穏やかに言った。
「申し訳ありません。バース星攻略も頓挫しました。」
「焦らずとも良い。バース星の領域はボラーにとっても、戦略上の要衝。抵抗があるのはわかっている。だからこそ君を総司令官に指名したのだ。」
「はっ。」ガイデルは恐縮した。
「私は君に期待しているのだよ。ガイデル。吉報を待っている。」交信は終わった。
「提督」副官が話しかけた。「なぜヤマト捕獲のために、ガルマンウルフ艦隊を出撃させたことを伝えないのですか?」
「結果が出てからの報告の方が良いからだ。お前だってそうだろう。フラウスキー少将ですら開発できていない時限式空間磁力メッキとデスラー砲を備えた戦艦だ。きっとお喜びになる。」ガイデルの言葉に副官も笑顔で頷いた。
自室で寛ぐデスラーに、タランが飲み物を持ってきた。
「副官と言うより、まるで秘書ではないか、タラン。」デスラーは苦笑した。「君ならば副総統に相応しいのに」
「いいえ、副総統など私には過ぎた役割。私はこのままで十分です。」タランは答えた。「ガイデル提督旗下の第7機甲師団が壊滅したそうですが、提督らしくありませんな。」
「ガイデルの部下はガルマンウルフを始め、一筋縄ではいかぬ強者ぞろい、誰か勇み足をやったのかもしれぬ」デスラーが呟いた。
「提督に問いただしますか?」
「いや。彼のことだ、必ず何倍もの成果を上げるに違いない。ガルマンはまだ人材が少ない。僅かの過失で、優れた部下を切り捨てる余裕は我々には無い。ベムラーゼがうらやましくなる。」
「ご冗談を、総統閣下。ボラー連邦といえば、また、シャルバート信者の粛清が始まったそうですが」
「キーリングの情報だと、収容所に送っていた穏健派も抹殺対象にしたそうだ。味方で無ければ敵か。ベムラーゼらしいな。我々にはまだその力が無い。ヤドリバチに食い荒らされる前に、卵も含め燻蒸したいのだよ、ガルマンも。」
「何か、あったのでしょうか?」
「何かが、あったからこその抹殺だろう。キーリングはバース星が関係したらしいと言っていた。」
「ガイデル提督の機甲師団が戦っていた星。そうするとまた、ゴルサコフ辺りが、何か言ってくる可能性がありますな。」
「うむ、その時はクロッペンと君とで、ゴルサコフの相手をして貰わなければならんな。ガルマンの泣き所だ、外務大臣がいない。キーリングを使うわけにはいかんのだ。」
「申し訳ありません。総統。」
「何を言う。君は、私にとって、無二の忠臣だ。余人をもって代えがたい。このガルマン本星で、狂信者どもを除き、市民から一切の不平不満が出ていないのは、内政への君の手腕があればこそだ。」
「総統閣下」タランは感激した。
もう夕暮れ時だった。東の地平線から青い月(レ・リスカ)が登ってくる。
「スターシア・イスカンダルがまた昇ってきたな。」デスラーも月を見つめた。
タランは思い出す。レ・リスカがガミラスの古語で「遥かなるイスカンダル」と言う意味だと、説明した時のクロッペンやガイデルの顔を。2500年前の祖先の言葉の意味は忘れ去られたとはいえ、青く輝くイスカンダルへの思いはガルマン人も我々と同じだったのだ。
「スターシア女王はどうされておいででしょう?」思わず口に出した。
「スターシアか。ガミラスにとってはイスカンダルそのものだったが」デスラーは苦笑した。「今は一人の男のものだ。私も彼のように振舞えばよかったのだ。だが、私はガミラスを捨てられぬ。全ては過ぎ去ったのだ。」心情を吐露するかのように言葉が出た。
タランは総統府の中庭で月(レ・リスカ)を見上げた。
過ぎ去ったと言いつつ月にその名を付けるほどに、スターシア女王への想いは深いのか。総統がこの先、別の女人に心を寄せることは果たしてあるのだろうか。
ガミラスとイスカンダル、双子の星として生を受けながら、全てにおいて、真逆をむいていたのだ。コインの裏と表のように。ガミラスは生を望み、イスカンダルは死を望んだ。
「タラン将軍。」物思いにふけるタランに若い男の声が聞こえてきた。キーリング内務大臣だった。「ガミラスの移民船がまた寄港しました。シャルバート信者が紛れていないかどうか確認中です。」
「ガルマン人とガミラス人たちに軋轢が生じてはいませんか?キーリング内務大臣。」
「大丈夫です。ボラーの圧政で、人口は半減しているので、同朋の入植はありがたいはずです。総統閣下に面会したいのですが。」
「休憩中ですが、内務大臣なら、」タランはキーリングと共にデスラーの私室に戻った。
キーリングがもたらしたのはバース星のシャルバート信者の動向だった。
「第三国の船の乗っ取り?同盟国ではないのか?」デスラーは眉をひそめた。
「同盟国ならば、3日で退去するとは思えません。どうも、水や食料の補給に立ち寄ったようです。」
「商船でしょうか?」タランも尋ねた。
「それもわかりません。バース星はボラー連邦の直轄領になっているので内偵が難しいのです。」
「しかし、これで、ベムラーゼが狂信者の抹殺を命じた理由が分かった、キーリング。」デスラーは、内務大臣を見つめた。
「はっ。狂信者の監視と逮捕を強化します。ただし内密に。」
デスラーは満足げに頷いた。