NEWGAME P.S!!   作:しゅみタロス

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CHAPTER12 ミスタードリラータイムチャレンジ。

PM10:00

 

カタカタカタカタカタカタカタカタ

 

無機質なキーボードの音が響くオフィス、だが今回はその音も長く速い。

 

そう、3日後にはフェアリーズストーリー3の発売を控え、マスターアップは既に明日に迫っていたのだ。

 

青葉「うう……眠い……」

 

眠気を堪える青葉のデスクに青い缶ドリンクが置かれる。

 

名倉「どうする?嫌ならやめても良いんだぜ?」

青葉「やめる訳ないじゃないですか?!この傍若無人!!」

 

殴るように掴んだ缶ドリンクのタブを開け、それを飲み干すと再び作業に取り掛かる青葉、名倉はやれやれと思いながらも自分の席へ戻った。

 

名倉「あいつらの仕事が回って来る間、時間潰しにはうってつけだな」

 

名倉はPS1のミスタードリラーのディスクを起動し、ゲームを始めた。

 

PM00:00

 

あれから2時間、ようやく大部分の作業が終わる。

 

はじめ「ようやく終わった……」

ゆん「地獄やわ……この作業」

青葉「ようやく一息つける……」

 

机に倒れる3人を見て、ひふみはスマホを見せる。

 

ひふみ「みんな、ちょっと汗を流さない?」

青葉・ゆん・はじめ「え?」

 

 

と言う訳で近くの銭湯へ

 

ザバァ!!

 

はじめ「ああ~仕事後の湯が身体に染みる~」

ゆん「天国やわ……この場所……」

 

湯に浸かる中、ひふみが青葉に話を振る。

 

ひふみ「ねえ、青葉ちゃん名倉君の異動の事、聞いたんだって?」

青葉「はい、仕事中は考えないようにしてたんですけど……ひふみ先輩は……」

 

ひふみは何やら申し訳なさそうに告げる。

 

ひふみ「実は私、名倉君の異動の事は今年の春から知っていたんだ」

青葉「ええ!!」

はじめ「そんな前から知ってたの?!」

ゆん「嘘やろ……」

 

ひふみ「別に黙ってた訳じゃないの、名倉君が皆に話すなって言ってたから……」

青葉「そんな……一体、どこに異動になるの?」

 

ひふみはバスタオルを握り締めて話した。

 

ひふみ「大手電機企業出資のゲームメーカーってだけで、肝心な事は何も……」

 

静まり返る中でメンバーは湯から上がるとまたイーグルジャンプに戻った。

 

 

 

オフィスに戻るとそこには……

 

青葉「き、木箱……」

ひふみ「ICレコーダー?」

 

青葉はICレコーダーを起動すると音声を再生する。

 

名倉『よう、モデリング班諸君、徹夜作業ご苦労だったな、俺はさっきミスタードリラーが世界記録タイムを更新したので帰る事にした。』

 

4人「ええええ!!」

 

名倉『まだお前らは作業が残ってるだろうから俺から差し入れをくれてやる。ただしそれを食ったらお前らは俺が帰った事を黙認する事になるから食べるかどうかはお前ら次第だ。要は口止め料の意味を含んでいる。

 

てなわけで後はよろしく頼むぜ、バイビー』

 

青葉「名倉さん……また悪趣味な……」

はじめ「うわあああ!!」

ゆん「ど、どうしたん!!」

はじめ「皆、この木箱開けて!!」

 

はじめに言われ、開けた木箱の中身は……

 

青葉「こ、これは……」

 

箱の中には照りの効いた上質な肉とご飯、贅沢な煮物に漬物、ほうれん草と温泉玉子。

 

燦然と輝く弁当に同封されたお品書きを見る。

 

青葉「創業25年、牛鍋割烹 丸楽(がんらく)自慢の上松坂牛鍋ロース弁当……4500円!!」

ゆん「なんちゅう贅沢品!!」

はじめ「名倉さんありがたいなぁ、早速頂き……」

ひふみ「ダメだよ!!これは名倉君の罠だよ!!」

はじめ「ハッ!!」

 

そう、この弁当を食べれば皆共犯、名倉の思惑通りになってしまう。

 

だが……

 

青葉「でも……勿体ないですよ……こんな高級な松坂牛を前にして食べちゃいけないなんて……」

ゆん「鬼や……悪魔や……神すら目を背ける拷問や……こんなの……」

ひふみ「これこそ、いとも容易く行われるえげつない行為……」

はじめ「椎茸……椎茸だけなら……」

青葉「はじめ先輩、耐えてください!!」

ゆん「悪魔に魂を売ったらあかん!!」

 

それでも香しい匂いを醸す弁当を見つめていた、欲望に耐えながら……

 

 

それから1時間……

 

ギュルルル……

 

4人(お腹すいた……)

 

腹は減れど目の前の弁当を食べるのを躊躇う、そして我慢は頂点に達し……

 

ゆん「あれぇ……なんかうち我慢してたら罪悪感が無くなって来たんやけど……」

はじめ「そういう私も我慢するのがバカらしくなってきた……」

青葉「私もどうでもよくなってきちゃいました……」

ひふみ「目の前にご馳走があるんだから……食べないと……名倉君は神様なんだから……」

ゆん「そうや、名倉さんは神様や……こんな素晴らしい恵みを与えてくれた聖人や……」

はじめ「名倉さん、是非ともこの恵みを食べさせてもらいます……」

青葉「ああ……我が神……名倉様……」

 

最早どっかの危ない宗教に入ったかのような言動をする4人はとうとう箸を割り、弁当に手を伸ばした。

 

青葉「ああ……タレで焼かれた上質のお肉に卵が絡んでいく……」

ゆん「眼福やわぁ……」

 

箸ですんなりと切れるロース肉を白米と合わせ、一度口にすれば……

 

青葉「ご飯に染み込んだタレ、そして上質な牛肉の甘さが広がり、濃厚な卵がそれを包み込んでいく……普段の昼食の牛丼と比べ物にならな~い♡」

ゆん「甘すぎず、しょっぱすぎない絶妙な出汁加減に煮物。椎茸、人参、レンコンもしっかり味が染みて、ゴマが良いアクセントをつけとる、正に職人技……」

はじめ「ほうれん草の白和えのシャキシャキ感とゴマとお豆腐の洗練された飾らない味、豆腐はまるでバターの様に口当たりが良く、ご飯と一緒に食べれば尚美味しい、これだけでも1000円の価値がある」

ひふみ「良く漬け込まれた沢庵とキュウリの味噌漬け、強くない塩味と味噌の香り、仄かに感じる塩麹がご飯をより進ませる。実に美味……」

 

そうして弁当を嗜む時間はすぐに終わってしまった。

 

青葉「結局食べちゃったね……」

ゆん「これでうちら皆共犯や……」

はじめ「でもどうする?なんて言い訳しようか?」

 

ひふみが青い缶ドリンクのタブを開けて告げる。

 

ひふみ「一番の最善策は見なかった事にするのが一番、私達は関係ない。そう口裏を合わせるのよ」

青葉「成程……」

ひふみ「結局名倉君の思惑通りになっちゃったけどね」

青葉「逆に今この場に居たら本人大笑いなんだろうなぁ……」

 

名倉のイヤな笑い声が頭に響くメンバー、完全に乗せられたと思っている。

 

ゆん「まあ、この事はいったん忘れて仕事戻ろ?」

青葉「そうだね」

はじめ「でも名倉さんの仕事どうする?」

ひふみ「そこは私がやっておくわ」

 

 

 

 

翌日

 

ピッ!!

 

名倉「さて、あいつらはどうなったかな?」

 

モデリング班の部屋を見ると、そこにはすっかり空になった上松坂牛鍋ロース弁当の箱が残っていた。

 

名倉「俺の勝ち……みたいだな……」

 

そして奥から……

 

コウ「名倉の逃亡については何も知らないんだな?」

4人「はい」

 

そしてその様子を見た名倉は……

 

名倉「よう、モデリング班、口止め料の牛鍋弁当をうまかったか?」

4人「ヒイイイイイィ!!」

コウ「あん、口止め料?」

名倉「こいつらに言ったんだ、丸楽の牛鍋弁当奢る代わりに俺の逃亡は黙ってくれってな」

4人「裏切者!!」

 

コウはその頭に怒りを滾らせた。

 

コウ「名倉もといその他4名、今日の仕事は昼食無しだ!!覚悟しろ!!」

青葉「そんな~」

ゆん「うち等被害者やのに……」

はじめ「理不尽だ……」

ひふみ「こればっかりは自業自得だから……」

 

名倉は青葉の肩を叩く。

 

名倉「世の中は良い事だけじゃない、気にすんな」

 

青葉「!!!!」

 

そして青葉は……

 

青葉「お、お前が言うなああああ!!」

 

バチーーーーーーン!!

 

名倉「何すんだああああ!!」


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